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なぜテレビは「つまらない」と言われるのか…テレビ東京が「攻めている」と高評価を受けているワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月16日 15時15分

「テレビ東京」HPより

なぜテレビは「つまらない」と言われるようになったのか。元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道さんは「各局は人気芸能人を集めたトーク番組で視聴率を稼ごうとしているが、それではどこも同じになってしまう。テレビ東京のバラエティ番組のもつ『志は高く、カメラは低く』という理念に立ち返るべきだ」という――。

■テレビ東京が独自路線を行くワケ

「異色のテレビ局」と言えば、テレビ東京と答える人は多いのではないだろうか。

最近では、他チャンネルがこぞって安倍晋三元首相の国葬を中継にする中、テレ東だけは5分間の特番を編成。通常通りの枠で、アメリカ映画「ベートーベン」を放送した。もはや見慣れた光景かもしれないが、テレ東の対応はネットでも話題になった。

こうした報道姿勢だけではなく、テレ東の異色ぶりはバラエティ番組によく表れている。『家、ついて行ってイイですか?』『YOUは何しに日本へ?』『開運!なんでも鑑定団』『出没!アド街ック天国』。こうした人気長寿番組はどれもテレ東だ。

「テレ東は攻めていて面白い」とか、「オンリーワンだから好き」という声はよく聞かれる。他のキー局に比べて小さいながらも好感度が高いのがテレ東だと思う。テレビ離れが進むと言われる中で、なぜテレビ東京は注目を集め、人々の支持を集めているのか。

テレ東が「オンリーワン」で「攻めている」のは確かで、それには明確な背景と理由がある。今回、テレビ東京でバラエティを制作するテレビマンたちに改めて話を聞いてみた。その結果、他局には真似できない、言ってみれば「テレ東バラエティの必勝法」がみえてきた。

■豪華ゲストには頼れない

テレ東バラエティの根本は、「制作費をいかに安くすませるか」というところからスタートする。テレ東には残念ながら、他のキー局ほどお金がない。どこかでお金を切り詰めなければ、番組は制作できない。では、どこを切り詰めるか?

そもそもバラエティ番組は大きく分けると「ロケVTR」と「スタジオ」で構成される場合が多い。そして、現在の主流は、「いかにたくさんの人気者を、スタジオに揃えて面白いトークをさせるか」となっている。

スタジオに集められた人気芸能人が、面白トークを展開して、視聴率を稼ぐ。スタジオトークを面白く展開するための「材料」として必要なのが「ロケVTR」である。言ってみれば「ロケVTR」は「スタジオトークに火をつけて、燃え上がらせるためのガソリン」のようなものだ。

たとえば「アメトーーク」(テレビ朝日)や「しゃべくり007」(日本テレビ)などのように、ひな壇に豪華ゲストを揃えてトークを繰り広げる「トークバラエティ」が多いのは、こうした流れによるものだ。

結果的に、こうした番組作りはテレビ離れを加速させた。面白いトークだと思っていたコンテンツは、視聴者から広く共感を得られず、他の動画コンテンツに敗れる結果となっている。詳しくは前回寄稿でも触れた。

■ロケVTRへのこだわり

一方、テレ東は予算が少ない。スタジオのゲストは他局より見劣りする。このため、「ロケVTRに命をかける」ことになった。ロケはスタッフだけでいくこともできるから、そんなにお金はかからない。だったらロケを頑張ればいい、という発想だ。

住友不動産六本木グランドタワー(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
テレビ東京が入る住友不動産六本木グランドタワー(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

その結果、テレ東には「ロケ地獄」という伝統が生まれた。新入社員たちは配属先の番組のベテランディレクターから、まずは徹底的にロケの基本を叩き込まれるのだ。

どんなものを撮影して帰ってきても、「面白くない」とやり直しを命じられる。何度も何度も追加撮影(「追撮」という)をさせられて、ようやく「何か光るもの」を現場で見つけてきてはじめて、やっと先輩たちのOKが出る。そして今度は、その光る素材の調理、つまり編集を徹底的に叩き込まれることになる。

こうして、ベテランディレクター(制作会社に所属していることが多い)からノウハウを吸収した若手の局員たちはいずれプロデューサーになる。そのときにはロケと現場の厳しさを人一倍知り抜き、面白いものを見抜くプロとなっている。

■「金は出さないが、口はものすごく出す」

そんなプロデューサーたちはスタッフに「鬼のダメ出し」をする。通り一遍の内容を撮影して帰ってきても、まったく許してはくれない。容赦なく追撮とやり直しを求める。他局なら「成立している」と許容してしまいそうなものも、「もっと頑張れるはず」と突き返す。

制作会社の間ではじつはテレ東は「金は出さないが、口はものすごく出す」と恐れられ、嫌がられている。インチキや過剰演出も、「ロケの鬼」であるテレ東のプロデューサーたちには容易に見抜かれてしまう。

たとえば『家、ついて行ってイイですか?』には、演出家としても著名な初代・高橋弘樹プロデューサーの「イズム」が浸透している。びっくりするほど多くの「お蔵入り」が出ても一切気にしない。面白いものが撮れるまでどこまでも粘る。

そして『YOUは何しに日本へ?』は、「いつ成田空港に行ってもいる」ことで業界内をザワつかせた。私も、自分の番組で海外から呼んだはずのゲストに、知らない間に『YOUは何しに日本へ?』が密着していて驚いたことがある。

無駄打ちがどれだけ出ても気にせず、ロケで大量に集めた面白い情報や映像素材を、視聴者を引き込むVTRにさりげなく編集していく。テレ東にはそうした技術の伝統がある。ナレーションで説明するのではなく、ロケで収集したディテールを積み重ねることで、人となりを自然に描き、ストーリーを盛り上げていく。そこにはスタジオトークでは太刀打ちできない事実の面白さがあるのだ。

■番組ディレクターが「鑑定士」並みに…

さらにテレ東には「スタッフを専門家にしてしまう」という必殺技がある。たとえば『開運!なんでも鑑定団』には、「うちの解説VTRは絶対に間違ってはならない」という鉄のオキテがあるのだという。

お金がないから、専門家の監修を頻繁に頼めない。放送作家も雇っていない。だから、担当ディレクターは半泣きになりながら、資料の山に埋もれて自力で解説VTRの原稿を書く。「お宝の詳しいストーリーでドキドキさせてくれないと、鑑定結果で驚けない」ということで、通り一遍の解説ではまったく許されない。

そのうち、番組スタッフは「お宝のことなら、そのへんの下手な鑑定士より詳しい」専門家になってしまう。

もちろんそれぞれの専門分野では鑑定士たちにかなわないまでも、掛け軸から特撮のソフビ人形まで分かる「お宝のゼネラリスト」に育っていく。そうして、少ない番組予算を「優秀なスタッフ陣」でカバーするのがテレ東流だ。

『鑑定団』だけではない。たとえば1995年から続く情報バラエティ番組『出没!アド街ック天国』。毎回ひとつの街に焦点を当てて、そのエリアの情報を伝えているが、お金がかかるためタレントが食レポをすることはほとんどない。

関東を中心に、あらゆる街を歩き倒して、「街情報の専門家」と化したスタッフたちが、自分の足で稼いできた情報の鮮度だけでVTRを制作し、勝負している。ちなみに、この番組の「料理のブツ撮り」は、業界内でも有名な厳しさで、あまりのつらさにADたちがどんどん辞めていく……という伝説があるくらいだ。

■「志は高く、カメラは低く」

こうした「徹底的なロケ主義」と「専門家化したスタッフ」の他に、テレ東には「決して偉ぶらない局員たち」という3本目の柱がある。

自戒の念も込めて言うと、テレビ局員には「態度の悪い人間」が多い。どこか偉そうだったり、口のきき方が横柄だったり。制作会社の人間を見下すような者も、残念だが珍しくない。しかし、そんな中でテレ東の局員は「いい人が多い」と言われ、業界でも評判がいい。

これは「徹底的なロケ主義」の産物だと私は思う。カメラを持ってロケに行き、そこで取材先から「自然な面白さ」を引き出すためには、気に入られて、信頼されなければならない。「いい人」でなければ、面白いロケはできないのだ。

テレ東の局員なら誰もが胸に刻んでいる言葉があるという。

「志は高く、カメラは低く」

4kビデオカメラで撮影男
写真=iStock.com/okugawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okugawa

伝説的な深夜番組『ギルガメッシュないと』の初代プロデューサー・工藤忠義の言葉である。元来は「カメラをローアングルで撮影する」というややお色気目線の意味だった。しかしいまやテレ東の社内では、「どんな取材先にもフラットに、目線を低くして臨まねばならない」という意味合いで、この言葉が語り継がれているという。

「志は高く、カメラは低く」という理念は素晴らしいものだと私は思う。そしてこうした目線をテレビ東京が持ち続ける限り、世間からの支持を失うことはないのではないかと思える。

■他局に広がる「テレ東的バラエティ」の手法

テレ東には「他局のほうが上手にできることは他局に任せる」という文化があると思う。ずいぶん前だが「ワイドショーは任せた。バラエティは任せろ」というテレ東の広告があった。「トークバラエティは、得意な日テレさんに任せて、うちはロケを頑張ります」という姿勢なのだろう。

外観テレビ東京
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

しかし、思えばこれまで紹介してきた「テレ東的なバラエティ」を、今度は各局が真似をするようになってきた。かれこれ10年くらい経つであろうか。各局がテレ東に寄ってきている気がするのだ。

テレ東勤務の私の友人は「本当はテレ東がやるべきだった企画を他局さんがやっていると、悔しくてならない」という。「うちならもっと上手くできたのに」という悔しさと、「うちのバラエティ制作力が次第に低下しているのではないか」という自戒が胸によぎるからだそうだ。

最近では、そんな友人も「あまりの見事さに悔しくもならない。尊敬する」という見事な「テレ東的バラエティ」がいくつも出てくるようになった。たとえば中京テレビの『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』には、他局ながら拍手を送りたいのだという。

この『オモウマい店』は、サービスが過剰でおいしい飲食店の「おもしろ店主」に、若手テレビマンたちが密着・突撃取材し、その人となりを面白おかしく、かつ少しホロリとさせるような人情バラエティ番組の傑作である。その巧みな編集技法も、テレビマンたちの注目を集めている話題の番組だ。

■人気番組の根底にあるイズム

この番組にも当てはまるのが、「志は高く、カメラは低く」という姿勢だろう。

これが無ければ取材相手は心を開いてくれないし、通り一遍な素材にしかならない。視聴者の心を動かすこともできないだろう。長時間密着するような身体を張ることだけが重要なのではなく、人気番組の根底にはこうしたイズムがあると言える。

なぜテレビは「つまらない」といわれてしまうのか。テレ東に限らず、テレビマンたちは誰しも「志は高く、カメラは低く」の精神に立ち返ったほうがいいのではないか。そして、各局が各局の色を出し、「得意分野を伸ばす」のが良いと思う。

どのチャンネルを見ても同じではつまらない。「○○は任せた。××は任せろ」という何かを各局が見つけて、色とりどりなテレビを目指していってほしいと思う。そうすればテレビはもっと面白くなる。

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鎮目 博道(しずめ・ひろみち)
テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、さまざまなメディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師を経て、江戸川大学非常勤講師、MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro

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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)

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