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バブル崩壊の実態が徐々に明らかに…習近平の「異例の3期目」で世界中のマネーが中国から逃げ出すワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月17日 9時15分

中国の習近平国家主席(=2022年7月28日) - 写真=中国通信/時事通信フォト

■党主導の経済運営が限界にきている

ここへきて、中国の債券を売却する海外投資家の増加に歯止めがかからない。国際金融協会(IIF)によると、9月には中国の債券市場から14億ドル(約2000億円)が流出した。それに加えて、本土の株式市場からも資金が海外に流出している。今のところ、中国からの資金流出に歯止めがかかる兆しは見られない。10月16日から始まった第20回共産党大会で、異例の3期続投が確実視されている習近平主席にとって大きな痛手だ。

背景として最も大きいと考えられるのは、潜在成長率の低下懸念の高まりだ。中国共産党政権の経済運営モデルの限界と言い換えてもよい。“改革開放”以降の中国は、党主導で市場メカニズムを部分的に導入しつつ、国有・国営企業の事業運営体制を強化した。

それによって1990年代の後半から2000年代にかけて中国は“世界の工場”としての地位を確立した。一時は中国がデフレを輸出しているといわれるほど、中国企業の輸出競争力は高まった。リーマンショック後、共産党政権は投資によって高成長を維持しようとしてきた。

しかし、不動産バブル崩壊などによって投資主導の経済運営は限界にきている。米ドル/人民元の推移を見る限り、インフラ投資積み増しなどによる共産党政権の景気対策は主要投資家の懸念を緩和するには至っていない。中国からの資金流出はさらに増加する恐れが高まっている。

■リーマンショック後、輸出から投資にシフトしたが…

リーマンショック後、中国経済の成長の原動力は輸出から投資にシフトした。それに伴って、中国共産党政権は海外からの資金流入の促進に取り組んだ。その象徴的な施策が、2017年7月に開始された“ボンドコネクト”だ。

ボンドコネクトとは、海外の機関投資家が、香港の資金決済システムを利用して、中国本土の債券を売買する制度をいう。世界の主要投資家にとって、ボンドコネクトの開始は相対的に高い経済成長が期待される中国経済に、より効率的に資金を振り向けるために重要な役割を果たした。リーマンショック後の世界経済では、一時期、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを進めた局面はあった。それでも、過去に例をみない低金利環境が続いた。

その状況下、各国の機関投資家がより高い利得を手に入れるために、中国へのより自由なマネーフローが促進されたことはエポックメイキングな出来事だった。ボンドコネクトの開通後、中国の国債、社債、地方債などに投資する海外投資家は増加した。特に、わが国などで利用されている主要な国債などを対象とするインデックスに中国が組み入れられたことは、資金流入を勢いづかせる大きな要因になった。

■なぜ海外投資家の“中国離れ“が進んでいるのか

しかし、2022年2月以降、海外投資家は中国の債券を売却している。最大の原因は、景気後退の懸念が高まり、デフォルトリスクが急速に上昇していることだ。まず、2020年8月、“3つのレッドライン”と呼ばれる不動産デベロッパー向け融資規制が導入されたことは大きい。中国経済の高成長を支えた不動産市況の悪化は鮮明化している。

さらに、ゼロコロナ政策による動線寸断が経済活動を停滞させた。最悪期は脱したが、個人消費の回復ペースは緩慢だ。業種別にみると、非製造業の景況感悪化が鮮明になっている。2021年9月に開園したユニバーサル・スタジオ・北京では、8月末までの間に従業員数が25%程度削減されたと報じられている。生産活動、不動産や固定資産の回復ペースも鈍い。

■これまでの景気刺激策が通用しなくなっている

見方を変えて考えると、共産党政権主導で実現されてきた中国の高成長は限界を迎えた。過去、景気減速懸念が高まると共産党政権は、規制の緩和やインフラ投資など景気刺激策を強化した。それに支えられ、中国の景気は緩やかに回復した。年初来、共産党政権は、金融・財政政策を総動員して景気刺激策を強化している。しかし、足許の中国では景気が持ち直す兆しが見られない。

1978年に中国共産党政権は“改革開放”を開始した。深圳などに経済特区を設け、海外から国有・国営企業などへの技術移転は加速した。アパレルや日用品などの軽工業が徐々に成長し、鉄鋼や石油化学などの重工業化も進んだ。共産党政権は株式市場の育成を進め、IT関連の分野では民間企業の設立が認められた。天安門事件の後は米国による経済制裁や社会心理の悪化によって一時的に経済成長率が停滞した。

■経済指標が示す以上に実態は厳しいようだ

しかし、1990年代以降、直接投資の誘致策が強化されるなどして中国経済の成長率は急速に高まった。その後、約30年にわたって中国経済は高成長を実現した。2015年には、産業強化策である“中国製造2025”が打ち出された。産業補助金政策に支えられて車載バッテリー最大手のCATL(寧徳時代新能源科技)などが急成長し、雇用が生み出された。

ポイントは、部分的に市場原理を導入したものの、共産党は一貫して実体経済と市場に対する統制を強めたことだ。あくまでも経済成長を牽引するのは党の指導力であるという考えが徹底された。

しかし、未来永劫、経済が高い成長を維持することはできない。2018年に入り前年秋の党大会のために実施された公共事業が縮小された。その後、想定以上のペースで中国経済は減速した。その背景には、需要を上回る投資が実行され、資本の効率性が急速に低下したことがある。3つのレッドラインによる不動産バブル崩壊は、状況をさらに悪化させた。

また、国連は中国の人口が減少に転じたと推計している。中国は、人口増加が経済成長を支える人口ボーナスの時代から、生産年齢人口の減少などが経済成長を阻害する人口オーナスへ足を踏み入れつつある。各種経済指標が示す以上に、中国経済の実態は厳しいと考えられる。

中国重慶市江北区のマンション群
写真=iStock.com/gionnixxx
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gionnixxx

■「格差拡大」の批判を恐れる習近平政権のジレンマ

経済の実力である潜在成長率は、労働の投入量と資本の投入量、およびそれ以外の要素(全要素生産性、イノベーションに相当)に規定される。中国では、労働力が減少している。資本も過剰だ。需要を上回る鉄道建設とゼロコロナ政策による利用者減によって、1~6月期の中国国家鉄路集団の最終損益は赤字だった。インフラ整備など投資による波及需要の創出は、一段と難しくなっている。

本来であれば、共産党政権は債務問題が深刻になった企業や金融機関に公的資金を注入し、不良債権の処理を進めなければならない。その上で、規制を緩和するなどして成長期待の高い先端分野に生産要素を再配分することが求められる。

しかし、貧富の格差拡大がそれを阻む。国民は、公的資金注入によって共産党政権が民間企業の創業経営者を助け、不良債権処理によって企業倒産と失業が急増するとの見方を強めるだろう。“共同富裕”を掲げる習政権にとって、そうした取り組みを進めることはかなり難しいのではないか。

■“中国離れ”の動きはいっそう強まる恐れ

そのため、共産党政権は不動産デベロッパーなどに資産売却による経営の立て直しを命じつつ、インフラ投資などで雇用所得環境を下支えせざるを得なくなっているように見える。成長期待の高いIT先端企業の締め付けも強化されている。さらに米国は、中国の弱みである最先端分野の半導体製造をくじくために半導体輸出規制を強化した。

中国経済の成長率低下は、より鮮明となる可能性が高い。債務問題も一段と深刻さを増すと予想される。それが現実のものとなれば、中国の債券や株式を売却する海外の投資家はこれまで以上に増えるだろう。米国で金融引き締めが強化されることも中国からの資金流出を勢いづかせる。

過去の共産党政権の取り組みをもとに考えると、資金流出を抑えるために本土株式の売買制限や債券取引に関する規制が強化されるリスクもある。中国からの資本逃避の動きは一段と強まる恐れが高まっている。それは世界経済にとって大きなマイナスだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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