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だからハンバーグは1種類しかない…コスパ最強のサイゼリヤが顧客満足のために徹底しているルール

プレジデントオンライン / 2022年10月19日 11時15分

サイゼリヤ 名古屋市中区役所前店(写真=HQA02330/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

イタリアンファミレスチェーンの「サイゼリヤ」は、価格に対して顧客満足度が高く、「コスパが良い」と評されることが多い。いったいどんな経営をしているのか。日本フードサービス協会顧問の加藤一隆さんの著書『「おいしい」を経済に変えた男たち』(TAC出版)より紹介する――。

■なぜサイゼリヤは圧倒的コスパを実現できているのか

私はサイゼリヤが外食産業の現時点での完成形だと思っています。つまり、安さとおいしさの両立です。「お客さんが満足してくれれば利益はあとからついてくる」と正垣泰彦会長本人は言いますが、そこには垂直統合による計算しつくされた科学的な合理化と、血のにじむような努力がある。単なる値下げ競争ではありません。だからこそ、若い人にも「サイゼはコスパがいい」と人気なのです。

サイゼリヤの強さの理由は、なんといってもその価格と顧客満足度の高さです。2021年度に日本生産性本部が行った顧客満足度調査の飲食部門で「餃子の王将」と並んで1位に輝きました。つまり、消費者の多くがサイゼリヤの料理に価格以上の価値があると考えているということです。

もちろん、サイゼリヤがワインから前菜、メイン料理までをリーズナブルな価格で提供できるのには理由があります。一言で言えば「徹底的なコストの削減」ということですが、しかし、そこには一言ではとても言い表せない、血のにじむような努力があります。

それを創業者の正垣泰彦会長は理科系の出身者らしく「エネルギー不滅の法則」だと言います。もちろん、物理の法則そのものを示しているのではありません。お客さまに1円でも安く提供するために、素材の仕入れから、輸送、加工、店舗オペレーションまで、あらゆる段階でエネルギーを注げば、そのエネルギーは必ず価格や価値に無駄なく反映されるという意味です。

■サイゼの歴史=内製化

近年のサイゼリヤは自身の業態を「製造直販業」と規定しています。

ユニクロが取り入れて有名になった業態で、原材料の仕入れから製造、販売までを商社や加工・製造業者などを使わずに、ほぼすべてを自社で行います。サイゼリヤは、すべてではありませんが、それに挑戦しています。流通のしくみの改革に挑んでいるのです。

レストランチェーンの一般的な物流は、生産者を起点として、生産者→食品商社→卸・問屋→食品メーカー(加工業者)→物流・配送センター→小売り・レストラン、といった形態をとるのが一般的です。

各工程を別々の会社が担うため、それぞれに利益が発生しその分コストがかかります。サイゼリヤは生産の段階から調理まで、工程のすべてをできる限り内製化しようとしています。内製化の努力こそがサイゼリヤの歴史だったとも言えます。

■なぜハンバーグは1種類しかないのか

端的に言えば、食材の調達にしても食品加工にしても、自前でできることは極力自前で行い、企業と組む場合でも徹底的にコストを下げる工夫をするというのがサイゼリヤです。

コストの削減は、闇雲に提携企業に値下げを求めるのではなく、無駄を省く努力をして実現させます。どこにどんなコストが生じているのかを提携企業に聞き、自前でできることは自前でやることで提携企業の労力を減らしてコストを削減しているのです。

サイゼリヤのメニューの品数は、ほかのレストランチェーンと比べて非常に少ないのが特徴です。ステーキやハンバーグにかぎってみても、ステーキはリブロースステーキだけ、ハンバーグは5種類ありますが、ソースや副菜が違うだけでハンバーグ自体は1種類です。

ハンバーグステーキ
写真=iStock.com/KPS
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KPS

このように、サイゼリヤのメニューの数が少ないのはイタリア料理に特化しているからという理由もありますが、コスト削減によるものです。

ステーキはリブロースだけですが、そうすることによってスケールメリットが生まれ、仕入れ価格を抑えることができます。さらに、カットするときに生じる大量のロスも、それをハンバーグに使用することで、ハンバーグの品質を一定に保ちつつロスを減らすことができます。

製造直販のビジネスモデルを築き上げるきっかけとなったのは、いまではサイゼリヤの看板商品となっている「ミラノ風ドリア」の値下げでした。ミラノ風ドリアはミートソースのドリアですが、当初480円だった価格を1999年に290円に大幅値下げしたところ売り上げが3倍になりました。

しかし、品質を維持するため生乳を使いつつコストを削減することが課題として浮上しました。その課題解決のために取り組んだのが、製造直販というビジネスモデルを構築して流通のしくみを変革することだったのです。

■実はイタリア料理を食べたことがなかった

正垣さんが「サイゼリヤ」を開業したのは、大学在学中の1967年のことです。最初はフルーツパーラーでした。最近は高野や千疋屋などの高級店しかありませんが、当時は、街角にフルーツパフェやフルーツサンドイッチなどを出す喫茶店は多く、人気がありました。

開業当初は経営者のつもりでしたが、お客が全然入らず従業員にまともな給料も払えない状況で、正垣さんも店に入ることになります。

開業して間もなく、火事で店が全焼するなどのご苦労を経て、再建された店舗でイタリアンレストランとして再出発します。1968年のことです。

イタリアンにしたのは、オリーブオイルやトマト、チーズなどイタリア料理で使う食材が健康によいという理由で流行していたからです。

日本の話ではありません。世界の話です。当時、イタリア料理は日本ではほとんど知られていませんでしたし、正垣さん自身も「きちんとしたイタリア料理を食べたことがなかった」そうです。

■「お客さんに喜んでもらえれば、放っておいても利益はついてくる」

健康的な食事を提供すれば繁盛店になるにちがいないと考えてイタリア料理で再出発したものの、客数は以前より減ってしまいます。

そこで発想を変え、お客さんの立場になって考えたら安いほうがいいに決まっているという結論に至り、価格を3割下げてみました。が、それでも反応はありません。5割下げると客足は増え始めましたが、繁盛するというほどではない。そこで、思い切って7割下げたところ、あっという間に1日700人が押し寄せる繁盛店となりました。

繁盛すると客が客を呼ぶため広告費も要りません。これが正垣さんのその後のビジネスの原点だったのではないかと思います。

もちろん、それからは順風満帆だったというほど簡単ではありません。繁盛しても7割引きでは利益は上がらないし、忙しすぎて休む間もない。そこで値段を上げると、客足は止まってしまう。商店街にやってくるアサリの行商からアサリを仕入れ、1階の八百屋から野菜を仕入れるようにしたら、行商や八百屋の人が店先で客引きをしてくれるようになり繁盛するといった経験もしています。そうした経験が、正垣さんの「お客さんに喜んでもらえれば、放っておいても利益はついてくる」というビジネスの理念を作っていきました。

■躍進したのはバブル経済崩壊後

1975年に同じ市川市に2号店を開店、77年にはセントラルキッチンを併設した3号店の市川北口店を開店し多店舗化に乗り出しました。が、そこからすぐに急成長したわけではありません。

50号店を出店したのが創業から25年後の1992年、しかしそれからわずか2年後の94年には100号店、98年には200号店を達成しています。このサイゼリヤの急成長はバブル経済崩壊後のことで、日本中が好景気に浮かれるなかを、低価格路線を堅持し一定の支持を受け続けていた80年代は雌伏の時代、あるいは、その後の飛躍のための助走期間だったように思います。

サイゼリヤのコンセプトは「ワインに合う、毎日食べても飽きない、安価なイタリア料理」です。多店舗展開に乗り出したころから、そこにぶれはありません。それがお客さんに伝わればお客さんは離れないと、正垣さんは確信していました。

80年代を雌伏の時代として過ごさなければならなかったのは、戦後史上空前の好景気が原因でした。その時代には低価格のイタリアンが爆発的に支持されることはありませんでした。しかし、バブル崩壊が追い風となって、サイゼリヤは急成長の時代を迎えます。

バブル崩壊後にチェーンレストラン業界は値下げ競争を繰り広げていきました。その構造は30年以上を経たいまも基本的には変わっていません。現在の外食チェーンは、競争に勝って競合店の売り上げを奪い、自社の売り上げにしなければ維持できない状況になっています。そのため、「お客さんへの還元」ではなく、「価格競争」になるのです。同じ低価格でも、サイゼリヤのそれとは意味が違います。

■ほかのレストランチェーンとの大きな違い

サイゼリヤは安価ですが、それは価格競争の結果ではなく、コスト削減の成果です。サイゼリヤには他店がハンバーグをいくらで出しているから、同じ価格にするという発想はありません。つまり、「1円でも安く」は追求していても、価格競争には与していないのです。そこが、ほかのレストランチェーンとの顕著な違いで、おもしろいところです。

加藤一隆『「おいしい」を経済に変えた男たち』(TAC出版)
加藤一隆『「おいしい」を経済に変えた男たち』(TAC出版)

メニューの数が少ないのも、安さを追求した結果だというのは、前述したとおりです。サイゼリヤは、他社が提供しているからとか、ブームだからといった理由でメニューを増やしたりしません。おいしくて安価で仕入れることができる原料や材料、あるいは自社栽培、製造の原料や材料で特徴を出せるメニューを開発し、人気商品に育てる努力をします。そこでも、他社と競争はしていないのです。ほかのチェーンも、以前はお客さんに喜んでもらえるファミリーレストランを志向していました。が、多店舗経営を拡大し、さらに日本経済が長期低迷に苦しむという時代背景にさらされるなかで、利益至上主義に陥り価格競争に走ってしまいました。

しかし、「お客さんが喜ぶこと、従業員が幸せになることをやっていれば利益はあとからついてくる」という信念を持っていた正垣さんは、ぶれることがありませんでした。「価格」にはこだわりましたが、利益は結果であり目的ではありませんでした。だから、ここまで続いたのだと思います。

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加藤 一隆(かとう・かずたか)
一般社団法人日本フードサービス協会顧問
1942年京都府生まれ。1974年の協会設立当初より事務局を務め、事務局長、常務理事、専務理事を歴任。30兆円産業となった外食産業を陰で支えた業界の生き字引。外食企業の組織化を推進しながら、コメや牛肉の輸入自由化、BSE(牛海綿状脳症)などの食の安全をめぐる問題、新型コロナウイルス感染症などの対応に取り組む。

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(一般社団法人日本フードサービス協会顧問 加藤 一隆)

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