「負けの99%は自滅である」伝説の雀鬼・桜井章一が"20年間無敗"を貫けた本当の理由
プレジデントオンライン / 2022年10月19日 18時15分
※本稿は、桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■強さには2種類ある
強さには2種類ある。“見せかけの強さ”と“ホンモノの強さ”だ。
見せかけの強さは前のめりになって勝ちを急ぎ、調子の波が激しいが、ホンモノの強さは悠然として負けることがない。見せかけの強さは、見渡せばそこらじゅうにあるが、ホンモノの強さはそうめったにお目にかかれない。
では、ホンモノの強さとは何なのか?
どうすればそこに近づけるのか?
本書『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』は、その本質について、実践的な立場から語ったものである。
■勝つためのテクニックを磨いても無駄
私はかつて麻雀の裏プロとして真剣勝負を重ねてきた。いわゆる代打ち稼業(政治家や財界人に代わって麻雀を打つ勝負師)だ。
そこで知り得た1つの法則がある。
負けの99%は自滅ということだ。
こちらが何もしていないのに、相手が勝手に墓穴を掘り、目の前で音もなく崩れていく。そんな光景を私は嫌というほど見てきた。
自滅するのは、簡単にいってしまえば“負けない本能”が欠けているからである。
逆にいえば、自滅などしないホンモノの強さを身につけるには、頭で計算したテクニックと負けない本能の違いがどこにあるのかを知ることから始めなくてはいけない。勝つためのテクニックをいくら磨いたところで、負けない強さはけっして生まれてこないのだ。
■「負けない」と「勝つ」はまったく違う
「負けない」と「勝つ」──。
勝負や人生に対するこの2つの姿勢は、結果的には同じことを意味していても、本質においてはまったく別物である。
たとえば、「強さ」という点に関しては、最終的に「負けない」のほうが「勝つ」よりも勝っている。「勝ちたい」という気持ちは、根底に「脆(もろ)さ」を抱えているからだ。
「勝ちたい」という気持ちは、欲望と同じで限度がない。
限度がないから、それを達成するために汚いこと、ずるいことなどにも目をつむってしてしまう。勝者の裏側には必ず敗者がいるものだが、そうした敗者の存在や状態には目もくれず、勝てそうとなれば際限なく相手を叩きのめすようなやり方をしてしまう。
■そこに「満足感」「納得感」はあるか
もう一方の「負けない」という気持ちは、人間の素(す)の部分、本能に近いところにある。
負けなければいいわけだから、限度をわきまえており、相手をとことん追い込む必要もない。相手がちょっと弱ればおしまいとか、自分に必要なものが得られればそれで十分、という終わらせ方ができる。
つまり、「負けない」という気持ちには、「もうこれでいい」という満足感、納得感がある。
ひるがえって「勝ちたい」という気持ちには、欲望と同じでどこまでいっても満足というものがない。
満足がないゆえに常に不安を抱え、心から幸せな気持ちになることはない。そこから綻(ほころ)びや脆さが生じてくるのである。
■自然界の生き物の本能に学べ
自然界の生き物はみな、熾烈(しれつ)な生存競争の中でどうやって生き残るかという本能のレベルで生きている。彼らには当然「勝ちたい」という欲望はない。あるのは、敵や環境に対して「負けない」という本能だけである。
![桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_87dd4510e873390a3060007daf314542268895.jpg)
もし、彼らに「勝ちたい」という欲望があったとすれば、どうなるか。
天敵の餌食(えじき)となる生き物は限りなく増え、最後は生態系の上位にある生き物だけが生き残ることになってしまう。いや、実際にはそれすらもない。
捕食する獲物がいなくなれば、当然、それを捕まえて生きている生物も死に絶えるだろうし、多様性によって成り立っている自然界の秩序が根底から崩され、地上から生命を持った生き物はいっさいいなくなってしまうだろう。
そんな光景はSF的な空想でしかないが、人間は実は自分たちの社会でこれをやってしまっている。自然界の生き物を例にするとよくわかるが、みながみな「勝ちたい」という欲望で生きていけば、環境問題をはじめ、そこにさまざまな問題が生じるのはきわめて当たり前の話なのである。
■勝つことには節度が必要だ
1ついっておかないといけないのは、私は、「勝ちたい」という気持ちを否定しているわけではないということだ。
「勝ちたい」と思うのは一種の人間の業(ごう)でもある。これはどんな人でも抱いてしまう感情だ。とくに若いときはそのようなエネルギーで溢(あふ)れているものだ。
ただ、「勝つ」ことにこだわりすぎたり、勝たなければ生きる意味がないかのように考えたりすると、マイナス面が大きくなってしまう。ゆえに「勝つ」ことには節度が必要だ。
そのためには「勝つ」より「負けない」という感覚を持つことが大切であり、また本当の強さに近づけるといいたいのである。
■「勝つ」ほどに多くを失う
「勝つ」というのは、何かを得ることだ。勝利とともにもたらされるのは、お金や出世、名誉や評価だったりする。しかし、自然の摂理からいえば、得たものは失う定めにある。寄せる波は必ず引くのだ。
もちろん死ぬまで得たものを持ち続けることもあるだろうが、それだって、死によって当人にとってはゼロになってしまう。
得たものの多くは、齢(よわい)を重ねていく中で徐々に色(いろ)褪(あ)せ、姿を消していく宿命にある。勝ちたいと思って勝ち、得たものが多いほど、失うものは多くなる。
たとえば、あり余るほどたくさんのお金を得ても、年を取ってくれば体も能力も衰えてくるから、自分の思うようには使えなくなる。たくさんあっても生きたお金にならないのだ。他人からの評価だって、その瞬間は多大なものを受けても、5年、10年と歳月が流れるうちに忘れられてしまう。
■本当に守るべきものは何か
失うものは、お金や評価など具体的に得たものだけではない。
仕事や人生において自分が「勝つ」ことばかりに囚(とら)われた人は、利己的な振る舞いがすぎて周りからの信頼を失うことだってあるだろう。
■「勝つ」ほどに失う
得たお金を目当てに人が寄ってきて、それに気づいたときに深い孤独を味わうこともあるだろう。勝つためにエネルギーを使いすぎて、家族や友人と一緒に過ごすべき大切な時間を失っていることもあるだろう。
こうして、「勝つ」こと以上に、人は大事な何かを気づかないうちに失っていたりするものなのだ。
「勝つ」ことに囚われすぎることで生じるマイナスは、おそらく本人が思っている以上に大きなものだ。
![男性、ジーンズの空のポケット](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/1200wm/img_1adcc6ff2399d15ec000cfaa1a2a8b6c383833.jpg)
■「負けない」は失うものが少ない
一方、「負けない」という姿勢には、「勝つ」こととセットとしてある「失う」という感覚が希薄である。
「負けない」姿勢には、満足感と納得感が最低限あればいいという思いがあるからだ。すなわち、不必要に得ようと思わないから、その裏で何かを失うという感覚をさほど持ちえないのである。
つまり、「勝ちたい」という欲に伴う「得たい」という執着が、「負けない」姿勢においてはあまりない。それゆえ、「負けない」姿勢には失われるものが少ないのである。
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雀鬼会会長
1943年東京・下北沢生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。以後、圧倒的な強さで勝ち続け、20年間無敗の「雀鬼」の異名をとる。現役引退後は、「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通して人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を始める。モデルになった映画や漫画も多く、講演会などでその雀鬼流哲学を語る機会も多い。著書に『負けない技術』『流れをつかむ技術』『運を支配する』『感情を整える』『群れない生き方』など多数。
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(雀鬼会会長 桜井 章一)
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