「勝つにはどうしたらいいですか?」麻雀で20年無敗の勝負師の"意外すぎる回答"
プレジデントオンライン / 2022年10月22日 9時15分
※本稿は、桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■誰もが「勝つ技術」を知りたがる…
私のところには、本を読んだ人たちなどからの相談が多くくる。
相談の中で多いのが、「勝つためにはどうすればいいのですか? 勝つ技術を教えてください」というものだ。けっして、「負けない技術を教えてください」とはいわない。
勝つ方法をただ尋ねるだけでなく、「格好よく勝つにはどうすればいいんですか?」などと聞いてくる人もいる。
そんなとき、私はこう答える。「格好よく勝とうなんて100年早いよ」と。
■「格好よく勝つ」より「格好よく負ける」を目指せ
格好よく勝つと口でいうのは簡単だが、そう簡単にできるものではない。格好よく勝とうと思っている人は、勝つことに囚(とら)われているので、その発想自体がそもそも格好よくない。
そんな人が格好よく勝つなどということは、端から無理な話なのだ。
私は雀鬼会(じゃんきかい)(私が主宰する麻雀道場)の道場生たちに、「格好よく勝とうと思わないで、格好よく負けることを考えたら」ということをよくいっている。
「格好よく負ける」には、心構えから体の構えまで、心身両面がきちんと備わっていなければならない。
勝ちたいと思えば、心にも体にも力みが必ず入る。力みがあれば、勝ってもどこか歪(いびつ)なものが現れるので、格好のよい勝ち方はとうていできない。
■負けは人生の敗北なのか
かつて勝つことにひどくこだわっていた道場生がいた。
小学校の頃から学校の成績は常にトップ。世間ではエリートといわれる学校の受験もトップの成績で入り、学業において人に勝ち続けることを親から強いられてきた若者だった。
そんな生き方をしてきた彼にしてみれば、「負け」は人生そのものの敗北につながるような響きを持っていた。だから、麻雀を打つときにも、沁(し)みついた勝つことへの常軌(じょうき)を逸(いっ)した執着がにじみ出てしまう。
勝ちたいという欲からくる焦りや不安、そして身心の硬さが、彼の勝負をひどく醜(みにく)いものにしていた。
■「負けない」こそ本当の強さ
その道場生が雀鬼会の主催する大きな大会に出場したときのことだ。最初は「勝ってやる」という意気込みだけが空回りして、「ああ、またいつもと同じだなあ」という雰囲気だった。
そこで私は、「格好よく負けることだけを考えて打ってみるといいよ」とアドバイスした。
すると、それまでの打ち方に変化が起こり始めたのである。強張(こわば)っていた体と心から力みが消え、その後の対局で、彼はみんなの予想を裏切って大勝を収めることができたのだ。
試合が終わったあとで感想を聞いてみたら、「桜井会長の言葉が、心の深いところに自然にスッと入ってきたんです。今まで自分を押さえつけていた勝つことへの強迫観念のようなものが、気がついたら消えてしまったんですよ」という。
「格好よく負ける」ことを目指すと、結果として「負けない」ことにつながる。「格好よく勝つ」なんてことは考えず、まずは「格好よく負ける」ことを意識する。本当の強さはきっとそこから生まれてくるのだ。
■「いい勝負」は相手と力を合わせてつくるもの
「格好よく勝とう」と「格好よく負ける」とでは、その立ち位置が百八十度違う。
根本的に異なるのは、「格好よく勝とう」と思うときは自分のことだけが頭にあるが、「格好よく負ける」には自分だけでなく、勝負をしている相手も含めて全体を考える気持ちの余裕と視野の広さがある点だ。
自分の喜びだけのためにする勝負は、大した勝負とはいえない。「格好よく負ける」ことができれば、相手から見ても「いい勝負だった」と感じさせるものがどこかにあるはず。
つまり、「格好よく負ける」ことは、相手と力を合わせて、いい勝負をつくることへとつながるのだ。
■その勝負に「学び」はあるか
同じ勝負でも、人はいい勝負をしたときにもっとも多くのことを学ぶ。それは結果が勝ちであろうと、負けであろうと同じだ。たとえ勝っても、いい勝ち方でなければ、そこから学び得るものは少ない。
いい勝負から多くを学べるのは、勝ち負けを超えたところで互いに切磋琢磨(せっさたくま)しているからである。
勝つことへの偏ったこだわりもなく、純粋に自分と相手の力を交じわらせることの喜び。上っ面のただ勝ちたいという欲望ではけっして到達できない勝負の深みを、勝ち負けを超越した勝負は確実に体験させてくれる。
■人を大きく成長させる勝負とは
勝負は、負けても相手を恨むのではなく、「いい勝負をさせてもらった」という感謝の気持ちを持つことが大切だ。
なぜなら、負けることで自分の弱点を教えてもらい、そこからもっと強くなるための工夫ができるのだから。相手を認めれば、相手が勝った喜びも自分の喜びのように感じるようになる。
勝負というのは、単純に相手を打ち負かせばいいのではない。ともに協力し合っていい形につくりあげていくという意識がまずは大事なのだ。
相手を倒すのではなく力を合わせる。この感覚がいい勝負を導き、人を大きく成長させるのである。
■余計なものを捨てれば、負けない
「勝ちたい」という欲は「何かを得たい」という欲であり、過ぎたものになれば、必然的にどこかで「負け」を導くことになる。
「負けない」ための努力をしたいなら、得ようとするのではなく、その反対に「捨てる」という感覚がとても重要になる。
勝とうと思えば、ほとんどの人はテクニックや知識をたくさん身につけようとする。しかし、テクニックや知識に頼った勝負の仕方というのは脆い。たとえば、あるテクニックや知識でもって戦いに挑もうとしても、相手がそれを上回るテクニックや知識で向かってくれば負けてしまう。
本当に強くなりたいのなら、まずはテクニックや知識に頼っている自分をいったん捨てることから始めなければいけない。
■テクニックや知識の怖さ
ところが、この「捨てる」ということはなかなかに難しいものだ。たいていの人はテクニックや知識にあまりにも大きな価値を置きすぎているからだ。だからテクニックや知識に寄りかかっていないとたちどころに不安になってしまう。
もちろん、どのような土俵であれ何らかの勝負をする限り、ある程度、テクニックや知識は必要である。
問題なのは、余計なテクニックや知識まで身につけて、それに依存してしまうことだ。
テクニックや知識を戦うための武器としてとらえると、その武器をいかに強いものにするかということに神経が行き、武器を使う肝心の自分を強くすることがおろそかになってしまう。
![海の砂浜に一人で立っている人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/c/1200wm/img_9cbd01df5c98426c577145c5dfcfcb9a399349.jpg)
■「感じる力」を鍛えよ
負けない力を培うには、テクニックや知識を捨てた素の自分で勝負することを前提にしなくてはいけない。そのうえで必要なテクニックや知識があれば、それを取り入れたり、身につけたりしていく。
最初にテクニックや知識ありき、ではないのだ。
そしてテクニックや知識に対しては、不必要なものと必要なものを見分けていく姿勢が大事である。
相手を欺(あざむ)いたり、ひどく傷つけたりするようなテクニックやこけおどしのような知識はもちろん要らない。素の自分に照らし合わせてみて、本当に必要だと感じられるものだけをフラットな気持ちで選ぶ。
このとき素の自分を支えるものは、「感覚」である。考える前に、そしてテクニックを使おうとする前に感じるもの。思考やテクニックで射抜けないものが、この「感じる力」を使えば射抜くことができる。
■感覚を研ぎ澄ませ
私が麻雀の勝負で20年間負けることがなかったのは、何よりも感覚をベースにして勝負をしていたからにほかならない。
![桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_87dd4510e873390a3060007daf314542268895.jpg)
場が刻々と目まぐるしく変わっていく麻雀においては、考えていてはとても間に合わない。常に感覚を研ぎ澄ました状態におくことでしか変化には対応できない。
感覚が大事なのは、麻雀に限らず、思考が強く求められる仕事もそうだろう。違和感があるかないか、気持ちのよいものかどうか、人の気持ちを動かすかどうか……そんな感覚を土台にして、考えを方向づけ、行動を決めていく。そのほうがきっといい仕事になるはずだ。
不必要なテクニックや知識を捨て、感覚を大事にする。このことは、いかなる勝負をするうえにおいても必要不可欠な条件なのである。
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雀鬼会会長
1943年東京・下北沢生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。以後、圧倒的な強さで勝ち続け、20年間無敗の「雀鬼」の異名をとる。現役引退後は、「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通して人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を始める。モデルになった映画や漫画も多く、講演会などでその雀鬼流哲学を語る機会も多い。著書に『負けない技術』『流れをつかむ技術』『運を支配する』『感情を整える』『群れない生き方』など多数。
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(雀鬼会会長 桜井 章一)
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