何度相撲を取っても押し倒してしまう…高齢者なのに筋肉バキバキの格闘技のプロに勝てる驚きの理由
プレジデントオンライン / 2022年10月23日 10時15分
※本稿は、桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■精神より肉体が先
勝負においては「一体感」を持つことが大切だ。心と体の一体感、相手との一体感、勝負という場との一体感。こうした一体感を持つには、そもそも“心構え”と“体構え”がしっかりしていなくてはならない。
心構えと体構えは最終的に一致する。人は精神を重く見がちだが、精神より先にくるのが肉体だ。人は肉体を持ってこの世に生まれ出て、それから精神が育まれていく。
つまり、人間は「肉体ありき」の存在なのだから、心構えをしっかりしようと思えば、体構えを整えるべきなのだ。体構えがしっかりすれば、心構えも整ってくる。
■考えれば硬くなる
では、しっかりした体構えとはどのようなものなのか。それは力みのない柔らかさに貫かれた体といっていい。ぐっと力の入った状態ではけっしてない。
自然界の生き物はみな、この柔らかい体構えをしている。魚には魚の、鳥には鳥の、柔らかで美しい体構えがある。彼らの動きは流れるようで硬さがどこにもない。
人間で、彼らほどの体構えができる者はめったにいない。人の体は、彼らと比べるとあまりにも硬い。
この硬さは、人が頭で考える習性を持つことに由来する。思考の動きがある限り、人は根本から力を抜いて体を柔らかくすることは難しいのだ。
■本当の「力を抜く」とは何か
私は、道場に取材に来た人たちに「力を抜くこと」が本当はどういうものなのかを体験してもらうことがある。たとえば、麻雀の牌(パイ)をできるだけ柔らかく打ってもらうのだ。
牌を柔らかく持ち、速くしなやかに打つ。そして牌を持ち上げすぎず、引きすぎず、牌と自身の体が一体になった感覚を大切にしながら、上半身を柔らかく使う。
だが、柔らかく打とうと意識すればするほど、肩や肘(ひじ)をはじめ体のあちこちが硬くなるものだ。
力がどこにも入っていない打ち方ができるようになると、吸いつくように指先にくっついた牌が何かの生き物かのように軽やかに、それでいて鋭く卓上に向かって放たれる。
■「柔らかさ」が重要
これまで数えきれないほど牌を打ってきた私でさえ、柔らかい完全な打ち方が毎回できるわけではない。少しでも雑念があれば、力がどこかに入っているのが自分でわかる。傍(はた)からはわからないかもしれないが。
ベテランの道場生でも、力みがどこにもない状態で打つことは何千回に1回あるかないかである。そのくらい力を抜いて柔らかく打つことは難しいのだ。
年のせいで今はさすがに硬くなってきているが、以前は「体が柔らかいですね」とよくいわれた。
といっても、ふだんストレッチ体操やヨガなんかをしているわけではない。気をつけているのは、せいぜい日々の生活の中で、何をするにしても体全体を使うよう心がけることくらいだ。
■現代人は体の一部分しか使っていない
頭を重点的に使う現代人は、常に体の一部分しか使っていない。
プロのスポーツ選手でさえ、体のすべてを使っている人はまずいない。スポーツは種目によって体の動かし方に一定のパターンがあって、そのパターンから外れる部分、すなわち使われない部分がかなりあるのだ。
![桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_87dd4510e873390a3060007daf314542268895.jpg)
私の道場には、プロレス、ボクシング、武術、相撲など、格闘技のプロといわれる人たちが遊びにくる。私は彼らとよく相撲を取るのだが、筋肉すらろくにない高齢者の私がいつも彼らを押し倒してしまう。
倒されたほうは「まったく理解できません」という顔をして何度もかかってくるが、結果は同じ。
私もなぜそうなるのかを正確には説明できない。
ただはっきりしていることは、私はどこにも力を入れておらず、彼らは鋼鉄のような筋肉をバリバリに緊張させた状態で組み合ってくるということだ。
■力を抜いて柔らかく動く
おそらく人間の体は、一部分だけを動かすのではなく、全部を動かすことでとてつもない力と強さを発揮できるのである。すべての部分と部分がつながって柔らかく動けば、単なる足し算を超え、掛け算のようなものすごい力が生まれるのだ。
つまり、「力を抜いて柔らかく動く」のは、体全体を使わなくてはできないことなのだ。
人の心と体は最終的に一致するので、体が柔らかければ、心も柔らかくなる。体構えができれば、おのずと心構えもしっかりしてくる。
心をどう整えるかということは大切だが、力を抜いて柔らかく動くという“体使い”をふだんから心がけることも忘れてはならない。
■ビギナーズラックには理由がある
賭け事の世界では、初心者が勝つという現象がしばしば起こる。いわゆる、ビギナーズラックというやつである。
ビギナーズラックというと、「たまたまついていただけ」という見方をする人が多い。だが、ビギナーズラックはけっして偶然ではない。むしろ起こるべくして起こっているといってもいい。
初心者は賭けるゲームの事情に疎(うと)く、勝手がわからないから、あまり考えることをしない。要は難しく考えず、シンプルに直感を働かせて行う。実はそのことが勝ちを呼び込むのである。
■経験を積むほど「迷う」
人は、ものごとがわかってくるとだんだん難しく考えるようになる。知識と情報を増やし、それを細かく分析するほどうまくいく確率は上がる、そう思って、考えをどんどん広げていく。
ところが、思考は重ねるほど選択肢が増え、その分、迷いが生じる。迷いは正確な判断を遠ざけ、結果的に答えを外すということになりがちだ。それよりは最初から直感で「これ」と感じたもののほうが正解だったりする。
麻雀にも難しい手とやさしい手があるが、初心者はどれが難しくてどれがやさしいかもわからない。直感でシンプルな手を持ってくる。そのシンプルな手が勝ちへとつながっていく。
勝負は複雑にすればするほど「負け」に近づく。「シンプル・イズ・ベスト」なのだ。このことはどんなジャンルにおいてもいえるが、こと勝負の世界においては際立っている。
■無駄をなくすと理にかなった動きができる
私の麻雀の打ち方もそうだ。複雑な手を考えたり、複雑な勝負の流れを複雑に分析したりするようなことはしない。
いつもやっていたのは、「感性で打つ麻雀」である。感覚でシンプルにとらえ、シンプルに打つ。その繰り返しが、「負けない」ことへとつながったのだ。
勝負においてシンプルな攻撃は、余計なものがないからスピードが速い。だから相手に準備をする隙(すき)を与えない。
無駄がないということは理にかなった動きができることを意味する。持てる力を最大限に発揮できるのだ。
「負けない攻め」とは、小手先のテクニックのようなものではなく、シンプルに全身全霊で向かっていくときに生まれるのである。
■複雑にするクセを修正する
ものごとは複雑にせずに簡単にするとうまくいく。そういうと、「簡単なものほど難しかったりするんじゃないですか?」と聞いてくる人もいる。
![通勤するビジネスパーソン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/f/1200wm/img_6ff639189e3a834e0827c153137ce64d353276.jpg)
しかし、私からすれば、「簡単なものは簡単」。そのままだ。
それを複雑にしてしまうのは、複雑なものほど高等であり、賢いと思い込んでいる人が多いからだろう。簡単なまま考えて、簡単に動けばいいのに、わざわざ難しく考えて複雑にしてしまう。だからできなくなっているだけのことなのだ。
仕事もそうだし、人間関係もそうだ。複雑になるほど、問題は起こりやすくなり、厄介なことが増える。このことは今の社会を見ればよくわかる。経済も政治も科学技術も複雑極まりない。だから、一人ひとりの生き方も生活もどんどん複雑になってしまう。
■複雑になると問題が起こる
複雑になると問題が起こるのは、ヒモが複雑に絡(から)み合うとほどけなくなるのと同じだ。ヒモを結ぶときは、自分の手で簡単にほどける程度の「結び感覚」を養っておかなければいけない。
麻雀道場でも、私がやるとシンプルにできるのに、道場生に同じことをやらせると複雑にしてしまってできなくなる場合がよくある。
道場生たちは、複雑にすることで知的レベルが上がり、力も伸びるという教育を受けてきた。その思考のクセから逃れることができないのだ。
■「リセット」のすすめ
ものごとをシンプルに、そして簡単にするには、そう考えると同時に、難しいことを捨てるという感覚も必要だ。
思考と違って感性はシンプルだ。だがとても深い。
その感性と照らし合わせて、これは難しくなりすぎているからリセットしよう、複雑で余分なものがたくさんくっついているから捨てよう……そんな感覚でものごとに向かい合うといい。
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雀鬼会会長
1943年東京・下北沢生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。以後、圧倒的な強さで勝ち続け、20年間無敗の「雀鬼」の異名をとる。現役引退後は、「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀を通して人としての道を後進に指導する「雀鬼会」を始める。モデルになった映画や漫画も多く、講演会などでその雀鬼流哲学を語る機会も多い。著書に『負けない技術』『流れをつかむ技術』『運を支配する』『感情を整える』『群れない生き方』など多数。
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(雀鬼会会長 桜井 章一)
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