「たった半年で偏差値30台から70へ」駿台予備学校の名物現代文講師も驚いた"覚醒女子"のすごいノート術
プレジデントオンライン / 2022年10月19日 11時15分
※本稿は、『プレジデントFamily 2022年秋号』の一部を再編集したものです。
■「現代文の成績が上がると、全教科の成績が上がる」
英国の教育者マイケル・バーバーは教育の「40年ギャップ説」を唱えた。20年前の教育しか知らない親は、20年後を目指す今の教育を理解できない。そこには合計40年のギャップがあるという。
この説を引き合いに、大学入試現代文の第一人者、駿台予備学校の霜栄先生は、入試問題の変化を親が理解するのは困難だという。
「特に大きな変化は国語だけでなく、どの教科でも読解力が重視されるようになったことです。しかも出題される文章はどんどん複雑になり、私が学生の頃と比べて、はるかに難しい」
高い読解力を試す傾向は、国立の難関大学ほど強くなっている。
「一部の国立大学などは、自分の意見をデータや論拠をあげて論述式で答えさせ、ある医学部では、写真を見て状況を想像させる脱パターン化した記述を求めています」
過去の問題文にたくさん接して、解答のパターンを覚える「傾向と対策」式ではうまく解けない。そんな入試になってきている。
大学が求めているのは、小手先の受験技術ではなく、未知の課題文も即座に読み解く力と、書く力なのだ。
読書や作文そっちのけで、わが子には英語や算数ばかりやらせようとする親御さんがいる。しかし、読書や作文こそ読み書きの基礎的な力となる。それを軽視するのは、読解力、記述力重視の大学入試において時代遅れだ。それこそ40年ギャップである。
霜先生は「現代文の成績が上がると、全教科の成績が上がります」と言いきる。文章問題、記述式解答が国語以外の教科にも、幅広く導入された結果なのだろう。
■たった半年で偏差値30台から70へ急伸した女子の勉強法
先生が教えた生徒の中には、びっくりするほど急に成績を伸ばす子が、毎年何人かいる。その中の1人である女子生徒は、たった半年で偏差値30台から70まで実力を上げた。
彼女は現役時代はバンド活動に没頭して勉強しなかった。しかし予備校に入ると、黒板だけでなく授業を一字一句書き留めようと、熱心にノートをとっていた。ときに先生を睨みつけるようにしながらも、手を休めることがなかった。
どうしてそんなにノートをとるのかと聞くと、「家に帰って先生の話を再現する。自分で語って考えを理解し納得するためです」と答えた。こんな真剣な学習方法で、身につかないはずはない。
このエピソードで私が一番感心したのは、彼女のノートをとる力だ。私は若い頃から仕事で人に話を聞き、苦労しながら取材メモをとってきた。だから言えるのだが、あとで役立つノートをとるのは、たやすいことではない。それには言葉の理解力や記述力が必要だ。彼女には、そもそも言葉の基礎的な力が備わっていたのだろう。
では読解力、記述力はどこから生まれるのか?
以前、霜先生は大学に入ったばかりの学生たちに、語彙力のテストを行った。高偏差値の大学生ほどボキャブラリーが豊富だろう、と予測していた。結果は、その予測をはるかに上回る大きな差となってあらわれた。
「東大生が他の一流大学の学生より、驚くほど語彙力があったのです。これは文理同様の結果でした」
語彙力と成績とは、想像以上に強く結びついていたのだ。
霜先生が読書として推奨するのは小説だ。読むうえで想像力を必要として、それがゆえに、熱中できるのが小説である。小説が苦手という生徒には、こう話すという。
![『プレジデントFamily2022年秋号』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/b/1200wm/img_eb5fad19d1b70137b0ad5221263fb69c236609.jpg)
「人は人生という自分の小説を書きながら生きている」
いい言葉だ。確かに人は、心の中で自分だけの人生の小説を書き続けている。その意味で、小説はもっとも身近な文なのだ。
小学生が語彙力をつけるには、小説を読むのがいい、と私も思う。辞書をひいて言葉を暗記するだけでは、身につかず忘れてしまうことも多い。反対に、文章に心が動かされたとき、その中心にある言葉は記憶に残る。言葉は単独で生きているものではなく、物語の文脈の中で力を発揮するように仕組まれている。
だから、心を動かされる小説を読むことは、語彙力をつけるのに一番いいといえるのだ。
■小学生に「言葉の力」をつけさせる家庭環境の条件
小学生の場合、言葉の力をつけるためにもう一つ欠かせないのが家庭環境だ、と霜先生は強調する。
「家で親が本を読んでいて、子供を一人の他者として尊重し、大人どうしの会話が交わされるという家庭風景が理想かも」
言葉の吸収力が高い小学生なら、大人の使う難解な言葉もどんどん身につけていく。
「さらに、親子で楽しみながら同じ本を読めるといいですね」
読後に好きな場面をたずねて、親子の会話につなげられるといい。こうして読解力、記述力の基礎を身につけると、年々、高度に変化する大学入試問題にも、うまく対応できるような18歳に成長するはずだ。
![教科書に書き込みをする人の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/b/1200wm/img_fb8f2904ed6387692033998fdc555104424625.jpg)
そうした子は、「本番の入試でも、過去問との違いや変化を読みとり、それを楽しめるような余裕」(霜先生)をもつ生徒に育つに違いない。
今は入試問題だけでなく、社会の価値観も大きく変わりつつある。未来を見通すことが難しい。そんな中で「変化はウエルカム」という生徒たちが、たくさん出てきているという。変化こそチャンスだ、と生き生きと未来に立ち向かう子供たちだ。その話を聞いて、私も元気づけられた。
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駿台予備学校現代文科講師
対面・配信の授業、教材・模試の作成、セミナー・東大入試研究会・保護者会の講演を行う。東京大学文学部卒業。学園台学習塾を経て、現職。いけはな青山御流会員。著書『生と自己とスタイルと』『現代文読解力の開発講座』『生きる現代文キーワード』など。
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作家
芥川賞作家。1955年、福岡県生まれ。フリーランスのライターを経て、『王を撃て』でデビュー。『運転士』で第107回芥川賞受賞。『日本の隠れた優秀校』など教育に関するルポも多い。近刊に『スマホ断食 コロナ禍のネットの功罪』。
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(駿台予備学校現代文科講師 霜 栄、作家 藤原 智美)
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