資産価値ゼロの「限界不動産」をつかむだけ…不動産コンサルが「地方移住は考え直して」と訴える理由
プレジデントオンライン / 2022年10月25日 10時15分
■移住で人気の熱海市の人口は、むしろ減っている
「アフターコロナ」が叫ばれていますが、日本経済は危機から脱するどころか、いよいよ困難な局面に差し掛かっています。
日本の課題は枚挙にいとまがありませんが、中でも今後一挙に深刻化しそうなのが「地方衰退」問題です。
コロナ禍では「3密」を避けるためのリモートワークが叫ばれ、企業での導入が進みました。
そのため、業種によってはほとんどの仕事を自宅でできるようになり、首都圏から郊外、地方へ移住する動きが加速するだろう、と言われていました。
2020年に菅政権が、リゾート地などで仕事をする「ワーケーション」の推進を打ち出したことも記憶に新しいですが、そうした政府の旗振りもむなしく、地方への人口流入はほとんど起きていません。
昭和期に新婚旅行先として人気だった熱海市は、需要の減少で衰退に直面していましたが、コロナ禍によって首都圏からの人口流入が起き、衰退に歯止めがかかると期待されていました。
しかし、図表1に示したように、熱海市の人口は増えていないどころか、むしろ減っています。ワーケーションや地方移住で熱海市に流入する人口より、流出する人口や、死亡等での減少が上まわっているのです。
■地方経済の衰退が「空き家問題」を加速させる
コロナ禍による観光ニーズの減少は地方経済にダメージを与えています。ゼロゼロ融資の打ち切りにより、経営が悪化する中小企業も地方にはたくさんあります。
地方衰退を止められない以上、いずれ破綻が待ち受けているのは自明の理です。
地方経済の危機は不動産業界にも表れています。
日本では全国的に空き家が急増しており、2018年に行われた総務省の「住宅・土地統計調査」では、全国の空き家数は約849万戸、空き家率13.6%と、約7戸に1戸が空き家という状況です。
![地方の「限界不動産」が問題になっている](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/6/1200wm/img_265c89e4ab3c5a0af4ea233d15477c37499277.jpg)
空き家問題はもちろん首都圏においても問題ですが、衰退に直面している地方都市や、山間部のほうがより深刻です。
前述の熱海市の空き家率は、同じ2018年の調査で52.7%と、非常に高い水準となっています。
熱海の場合、不動産の所有者があまり貸したがらない等、地域固有の事情もあるのですが、地方の衰退と空き家問題がリンクしているのは間違いありません。
熱海では商店街の活性化など、まちづくりの成果も表れてきていますが、同じ温泉地である栃木県鬼怒川の問題はより深刻です。
修学旅行など団体旅行ニーズによって発展してきた鬼怒川温泉は、ニーズの減少によって衰退に直面し、旅館が廃虚化して問題になっています。
■2050年には全国の2割が無居住地に
国交省は、2050年には少子高齢化がより深刻化し、全国の居住地域の約半数で人口が50%以上減少するという予測を公表しています。
この予測が正しければ、2050年には全国の約2割が無居住地、すなわち誰も住まない土地になってしまうのです。
![【図表】将来の人口増減状況(1kmメッシュベース、全国図)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/5/1200wm/img_9510cb8e6c865acf17b9e2a5d23d510c494999.jpg)
こうした人口が半減する自治体や、無居住化する地域では、不動産がことごとく空き家化し、もはや解体もままならない状態で放置される、といったケースが続出するでしょう。
そうした「限界不動産」は、資産価値が限りなくゼロ、あるいは、撤去費用や火災などのリスクを考えると、マイナスになってしまうでしょう。
東京など大都市圏に住んでいる人にとっても、実家が「限界不動産」化するリスクは、ひとごとではないと思われます。
■日本の不動産は「3極化」
現在、日本の不動産は「3極化」と呼べる状況にあります。
地方が衰退あるいは消滅に直面している一方、東京をはじめとする大都市圏では、新築マンションが1億円近い価格で飛ぶように売れています。
2023年3月に竣工する「アマンレジデンス東京」は、一般販売しないのですが、300億円近い部屋もあると噂されています。
すなわち、「不動産の価格が維持・上昇する」大都市圏と、「不動産が限りなく無価値・あるいはマイナス」の地方の差がどんどん開いていっているのです。
さらに、その中間には、「なだらかに下落を続ける」地域が存在します。
![【図表】ますます3極化が進行する](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/8/1200wm/img_c8d6ee135569ff6fdc39be033ba9f550289682.jpg)
個人のライフスタイルや働き方によっても、地方移住のメリットデメリットは変わってきますし、なにも一概に地方移住が悪だと言うつもりはありません。
ごみごみした都会を離れて、地方へ移住するほうが生活の質が高まることもあるでしょう。
ただ、日本全体が3極化する中、「限界不動産」をつかんでしまうと、資産形成の面では非常に不利になってしまいます。
■「コンパクトシティ」に取り残される地域が危ない
人口減少が続き、経済が低迷から抜け出せない中、地方自治体は財政や人手の面で、これまでの行政サービスを維持できなくなりつつあります。
そうした地方では、昨今取り沙汰されている「コンパクトシティ」化によって、上下水道や道路、橋、医療や介護などのコストを抑える必要に迫られています。
介護が必要な高齢者を狭いエリアに集住させて、少ないお金・人手でもサービスをなんとか維持する方向を模索しているところです。
そうした「コンパクトシティ」化に含まれる不動産であれば、なんとか「なだらかな下落」で踏みとどまり、「無価値あるいはマイナス」化することを避けられるかもしれません。
逆に、現時点では問題なさそうな地域であっても、今後コンパクトシティ化に取り残される自治体・地域も出てくるでしょう。
そうした地域への移住は、慎重に検討する必要があります。
■「エネルギー活用」で注目される北海道下川町
もちろん、長年の町おこし・地方創生の努力が実り、成長している自治体も数多くあります。
そうした自治体への移住なら、「限界不動産」をつかむリスクは低くなるでしょう。
伸びしろのある地域で、さまざまな活動に身を投じるのは、社会的にも有意義であり、個人としても生活の質の向上を実感できると思います。
北海道の下川町は、近年まちづくりの取り組みが注目されている自治体の一つです。
下川町は札幌から北に240キロ、人口わずか3700人という小さな町ですが、周辺自治体の地価が大幅に下落する中、下川町の地価は上昇の兆しすらあります。
約90%が森林に覆われ、65歳以上の人口が約40%ですが、森林資源を最大限に活用した町おこしによって、活気を取り戻しつつあります。
下川町は2004年に北海道で初めて「木質バイオマスボイラー」を導入しました。
残材や流木、端材などを燃やし、エネルギーとして活用できるようになり、公共温泉や幼児センター、育苗施設、役場周辺施設、高齢者複合施設等などの熱エネルギーの約40%をまかなっています。
下川町は寒暖差が60℃以上という厳しい気候ですが、これによって、年間1600万円もの燃料費の削減に成功。その分を幼児センターの保育料減額や、学校給食の補助、中学生までの医療費無料化、不妊治療費補助など、子育て支援事業に充てています。
その結果、UターンやIターンで移り住む若者が後を絶たず、2012年度には転入者が転出者を上まわり、人口減少に歯止めがかかったのです。
■「写真の町」「半農半X」個性的な町づくりで伸びる地域
同じ北海道では、東川町の取り組みも注目が集まっています。
東川町の人口は1950年の1万754人をピークに減少が続き、1994年には7000人を割り込んでいました。
しかし、何もないことを逆手に取り、写真映えする風景をアピールして、「写真の町」として町おこしに成功します。
徐々に移住者が増え、2014年には42年ぶりに8000人を回復。2016年には人口増加率で北海道内2位となり、旭川市のベッドタウンとしての地位を確立しつつあります。
また、島根県の海士町は、一時は夕張市に続いて財政破綻が懸念されていましたが、農業と他の仕事を掛け持ちして自由に働く「半農半X」の推進などによって、移住する若者が増え、少子化に歯止めがかかっています。
地方移住を考えている方には、こうした「これから伸びていく地域」を優先的に検討されることをおすすめしたいと思います。
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不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。
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(不動産コンサルタント 長嶋 修)
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