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「28歳次男を"ひきこもり扱い"する元公務員の父」起業して倒産、再就職して解雇の息子を見守れぬ60歳の度量

プレジデントオンライン / 2022年10月21日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

公務員として定年まで勤めあげ、団体職員として再就職に成功した60歳男性。持ち家(ローンなし)があり、預貯金も4000万円近くあり、数年働けば、あとは悠々自適の老後生活だが、男性は「28歳次男がひきこもりになった」と悩んでいる。しかし聞けば、次男はこの5年間で新卒就職、起業、倒産、再就職、解雇……と激動だったため慎重に職探ししていただけ。焦る父親が追い詰める構図が見えてきた――。

■「ひきこもりを立ち直らせる業者にお願いすべきですか」

新型コロナの感染状況が完全に終息しないものの、社会活動を止めない“ウィズ・コロナ”の動きが広がっています。それとともに、ひきこもりの相談も増えてきました。

自粛期間中は目立たなかったひきこもりも、社会の動きが活発になるにつれて気になり、将来が心配になる人が増えてきたようです。ひと口にひきこもりといっても状況はさまざまで、家族の心配も千差万別です。

先日、相談に来られた60代の男性は、「次男がひきこもりになってしまい、将来が心配だ」と肩を落としています。

父親の依頼は、「次男を立ち直らせるにはどうすればよいか?」ということと、「今後、どのように生活していけばよいか、資金計画を作成してほしい」というものでした。

資金計画の作成は、ファイナンシャル・プランナーの得意分野です。家族の状況を踏まえて将来の家計状況をシミュレーションします。しかし、子供を立ち直らせるのは専門外です。そのことを伝えると、父親は言いました。

「ひきこもりを立ち直らせるという業者にお願いした方がよいのでしょうか?」

私は、こう提案しました。

「そのような業者は玉石混交で、良心的な業者を選ぶのはなかなか難しいです。まずは家族会などに参加して情報を収集されてみてはいかがでしょうか」

父親も納得しましたので、将来の家計状況をシミュレーションするために、家族の状況を伺いました。

■5年間で新卒就職、起業、倒産、再就職、解雇……と激動

家族構成や資産状況は以下の通りです。

◆ご相談者の家族構成
・相談者:父親:60歳(団体職員) 収入250万円
・母親:58歳(パート勤務) 収入100万円
・次男:28歳(無職) 親と同居
※長男(34歳)は会社員。すでに結婚して別居。
◆資産
・預貯金:約3800万円
・自宅:戸建て持ち家

子供は2人で、長男は会社員。すでに結婚して同じ県内に住んでいます。すでに孫もおり、長男については心配ありません。相談者が心配しているのが、次男の状況です。「ひきこもりになってしまった」というのです。

次男は、大学卒業後に外食関連の会社に就職しました。やれやれ、ようやく子育てが終わったと安心したのもつかの間、2年もしないうちに、会社を辞めて飲食店の経営を始めました。「せっかく安定した仕事に就いているのに」と親は反対したそうですが、言うことを聞かなかったそうです。

居酒屋で乾杯
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

それでも事業が軌道に乗ればよかったのですが、あいにく経営は行き詰まり、2年で店をたたむことになってしまいました。しばらくは無職でしたが、再び外食関連の会社に就職し、会社員として働くことになりました。心機一転、前向きに頑張っていたのですが、そこに襲ってきたのが新型コロナです。零細企業だったため、大幅な売り上げ減に耐えられる余力もなく、1年もしないうちに解雇されてしまいました。

現在も仕事を探していますが、なかなか決まらず、無職の状態が続いています。就職していた期間が短いため、失業手当の受給期間が短く、今では親に扶養される状況になっています。次男はずっと外食産業で働いてきたため、同業種での就職を探していますが、コロナ禍の中で、なかなか募集がないようです。本人としては、「コロナ禍が収まれば……」と楽観的であまり焦るそぶりが見えないそうです。

「働く気がないからより好みをしているのではないか。なんでもいいから働け」

との父親の言葉に、けんかになることも多いとのこと。近頃では、親子の間で口論が絶えなくなり、自室に閉じこもることが多くなっているそうです。

「本人も悩んでいるのですから、追い詰めると心を閉ざしてしまいます」私は心配しました。父親は、

「どうも次男は自立して生活していくことができないようです」とあきらめ気味で、「将来どうなるのか、シミュレーションをお願いします」と私を促します。

「今、お話を伺った限りでは、息子さんは転職を繰り返して無職になってしまいましたが、それぞれ理由があってのことで、不運が続いただけなのかもしれません」
「コロナ禍でも、探せば仕事はいくらでもあるでしょう。30近い大人が親のすねかじりとは情けない」

父親の語気が荒くなりました。

■焦る父親はすごい剣幕「このままでいいと言うのですか」

聞けば、相談者は定年まで公務員として勤めあげ、今年4月に市の関連団体に再就職しました。転職などしたことがありませんし、それは長男も同じです。それだけに転職を繰り返す次男が歯がゆいのかもしれません。次男の今後について悲観しているようです。

「お気持ちはわかりますが、もう少し様子を見られてはいかがでしょうか」
「このままでいいと言うのですか」

「そういうわけではありませんが……」父親の剣幕に私もたじろぎます。

そこで、少し話題を変えてみます。

ビジネス交渉中の男性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

「最近は、息子さんは外出されますか?」

「ええ。毎日のように外出していますが、最近は就職活動だけではなく、友人と会ったりしているようです」父親は不満そうです。

「それなら安心ですね」
「えっ! どういうこと?」
「息子さんはまだ、ひきこもりとは言えないでしょう。このまま仕事が決まらない状況が長引き、働く気を失ってしまうことが心配ではありますが、今はまだその段階ではないと思います」

私は説明を始めました。厚生労働省によると、ひきこもりの定義は「社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6カ月以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」とされています。

つまり、コンビニなどの買い物以外では、家族以外とのつながりを閉ざしてしまう状況が続いているという状態です。私は父親にこう伝えました。

「社会との関わりを閉ざしてしまうと、“働く”という以前に、他者との関わりを持つことから始めなくてはなりません。その点、息子さんは就職したいという意欲はあるし、他者との関わりを閉ざしているわけではありません」

「なら、大丈夫だと言うのですか?」なおも父親は詰問調です。できる限り、やわらかい口調で私はゆっくりと話しました。

「仕事は、その人にとって生活の大部分を占めるものです。お金がもらえるのであればなんでも、とはなかなか割り切れません。希望の仕事にこだわる気持ちもわかります。それでも希望がかなわない場合には、条件を広げ、他の分野にも目を向けるような、気持ちの切り替えが必要です。その時こそ、お父さまのアドバイスが有効でしょう。その時まで、もう少し温かく見守ってみてはいかがでしょうか」

■半年後、父親から「次男の就職が決まった」との連絡が

次男が生涯働けないことを前提として、将来の家計状況のシミュレーションを作成することは可能です。しかし、今の段階ではあまり意味がないと私は感じました。まだまだいろいろな可能性があり、将来の状況を決めつけるのはまだ早いようです。

「家族会への参加も、まだ必要なさそうですね」私は先に言ったアドバイスを撤回しました。

ひきこもり家族の状況は、家族ごとにさまざまです。一般的には、状況を放置せずに、早めに対応をしていくことが大切です。しかし中には、やみくもに「ひきこもり」と決めつけずに、しばらく様子を見守ったほうがいい場合もあります。今回の相談は、そのようなケースだと考えられます。

半年ほどが過ぎ、父親から連絡がありました。次男の就職が決まったそうです。正社員ではなくアルバイトでしたが、正規雇用への道もあるということで、決めたそうです。おそらく次男なりに、条件を広げて選ぶように気持ちを切り替えたのでしょう。

父親の声からは、どこか安堵(あんど)した感じがありました。相変わらず、家で口を利かない状態は続いているそうですが、次男には踏ん張ってほしいものです。

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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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