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アイス市場の絶対王者「明治 エッセルスーパーカップ」で、なぜか「ミニサイズ」が売れている納得の理由

プレジデントオンライン / 2022年10月21日 11時15分

写真提供=明治

家庭用アイスクリーム市場が過去最高を更新している。そんな成長市場で最も売れているのが「エッセルスーパーカップ」(明治)だ。人気の秘密はどこにあるのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。

■家庭用アイスクリーム市場は過去最高の売り上げに

全国各地の小売店で気軽に買える「家庭用アイスクリーム」は、コロナ禍でも堅調な伸びを示す。まずは数字から紹介しよう。

業界団体の日本アイスクリーム協会の調査では、家庭用アイスを中心にした2021年度のアイス市場は「5258億円」(メーカー出荷ベース)。同調査における過去最高を更新した。2017年度から4年連続で5100億円台だったが、さらに伸長したことになる。

2021年度は、最盛期の8月が記録的大雨で数字を落としたが10月以降の下期で取り返した。近年は「冬アイス」(定番商品+秋冬用限定商品)で上半期の不振を補うケースも多い。

そうした好調市場の中で、今回はブランド別首位の「エッセルスーパーカップ」(明治)に焦点を当ててみた。1994年に発売されて今年で28年になるロングセラーでもある。

現在どんな状況なのか。ブランドの取り組みを紹介しながら消費者心理も考えたい。

■「エッセルスーパーカップ」の購買層は中高年

まず、現在の状況をメーカーに聞いてみた。

「『エッセルスーパーカップ』は、ブランドとして年々拡大を続けています。発売時からレギュラーサイズは200mlという大容量。「でかい・うまい・やすい」の3拍子を掲げ、主に中学生・高校生向けに訴求しました。現在は購買層も広がり、200mlは2022年9月中旬で累計販売個数60億個を突破しました」

同ブランドを担当する明治の吉岡征史さん(マーケティング本部 フローズン・食品マーケティング部 フローズンデザートグループ)はこう説明する。

吉岡征史さん
「エッセルスーパーカップ」を担当する明治の吉岡征史さん(写真提供=明治)

コアターゲットが中学・高校生なのは現在も変わらない。ちなみに筆者の知人の男性カメラマンは、「発売時は中学生で、野球部の部活後にみんなで食べていた」と話していた。

だが、アイスは「子供のおやつ」から「大人のデザート」に変わった。

いくつかの理由があるが、まずはメーカーや流通の仕掛けた販売戦略が当たったこと。

たとえば、秋冬向けに濃厚なアイスを開発して需要を取り込み、暖房の効いた部屋で楽しむ「冬アイス」という言葉も生まれた。

また、その昔は各地の小学校近くにあった駄菓子屋も減り、子供とアイスの出合いの場所も変わった。エッセルの場合、現在はスーパーなど量販店の売り上げが6~7割、残りの3~4割がコンビニだという。主要購買層は中高年が中心だ。

■2021年度も首位を堅守

業界の専門メディア「アイスクリームプレス」の調査では、エッセルスーパーカップは2021年度のブランド全体(「超バニラ」「抹茶」「チョコクッキー」の定番3品+シリーズ品)の売上金額は約275億円。今回は2位との差をさらに広げた。ちなみに(かつての取材時)2013年度の同調査でのエッセルは約190億円、8年で85億円も上乗せしたことになる。

図表1が売れ筋トップ3だ。これ以外に「ハーゲンダッツ」(ハーゲンダッツジャパン)があり、2021年度は528億円(前年比110%)だったが、別枠扱いとなっている。

【図表1】2021年度の売れ筋アイス トップ3
出所=「アイスクリームプレス」推計

2021年度の取り組みについて、吉岡さんに聞いてみた。

「定番の中で最も人気が高い『超バニラ』は、商品への手堅い支持に加えて、2021年度下期に、人気ゲームアプリ『モンスターストライク』とのタイアップを実施したことで、新たなユーザーを多く獲得しました。また、2022年度上期も『トミカ・リカちゃん』とのタイアップなど、ファミリー層へのコミュニケーションを強化しています」

さらに、「以前から取り組むアレンジ提案も功を奏しています」と話す。「アレンジ提案」とは、コロナ禍の巣ごもりで、消費者がアイスを食事やお菓子づくりの素材で使うシーンが拡大し、メーカーも注力する取り組みだ。

■「ミニサイズ」を楽しむ人が拡大したワケ

実は近年、エッセルの食べられ方に変化が起きている。

「近年の売り上げ拡大は『エッセルスーパーカップミニ シリーズ』(90ml×6個)のニーズによるものが大きいです。2020年からのコロナ禍で在宅勤務も増え、今まで獲得できていなかった“ビジネスシーンでのおやつ”が増えたと感じています」

画像提供=明治
ミニサイズ(90ml)が6個入った「明治 エッセル スーパーカップミニ 超バニラ」 - 画像提供=明治

アイス業界では、1個売り商品を「ノベルティ」、複数の個数が紙箱や袋に入った商品を「マルチパック」と呼ぶ。コロナ禍では、競合メーカーも前者よりも後者の伸びが大きいのだ。

この現象は、コロナ禍でさらに進んだ。リモートワーク、とくに在宅勤務が一般的となり、他社からは「朝の時間帯のアイス購買が増えた」という話も聞いてきた。

職場で同僚と一緒に執務の場合、昼食時間以外には勇気がいるアイスの喫食も、在宅勤務では心理的ハードルが下がる。その際にもマルチパックが選ばれやすいのだろう。メーカーとしての本音も聞いてみた。

「エッセルはもともと200mlで市場定着をしたブランドであり、小容量タイプは200mlの容量を食べられない人=補足的な意味合いとして捉えていました。しかしながら年々成長を続け、今やブランドの成長に欠かせない役割を果たしています。

とはいえ、ブランドの代表格は200mlである点は変わらないので、200mlのカップとともに成長をしていく――というのが理想です」

■ロングセラーブランドに起きている「消費者の変化」

1994年に誕生した「エッセルスーパーカップ」は、当時、カップアイス容量150mlが主流だったのを打ち破ろうと200mlにし、量が多くても食べられる味わいを追求した。

その商品哲学は現在も受け継がれており、ブランドとして変えないものは次の3点だ。

(1)「コスパ最強」=(プロダクトに見合った)手軽な価格と満足感
(2)「コクとキレのバランスによる連食性」≒ついつい連続して食べたくなるおいしさ
(3)「レギュラーの容量」=たっぷり200ml

「エッセルは“エクセレント”や“エッセンシャル”から作られた造語ですが、常にみんなの真ん中にある身近なアイス、という意味があります。その点では『期待を裏切らないおいしさ』は欠かすことのできない最重要の要素となります」

画像提供=明治

だが、誕生28年のロングセラーとなると、発売当時35歳だった人も63歳。以前は大好きだった200mlは少しヘビーになったけど、味は好きなので90mlを喫食し続ける。そうした「ブランドから離れたくない」思いもあるのではないか。

「間違いなく、その傾向があると考えています。発売当時のティーン(メインターゲット)は現在45歳前後であり、ブランドの主購買層となっています。一方で発売当時、子供に買い与えていた親世代は現在、シニアとして、マルチパックの主購買層となっています」

一方、SNSでも「久しぶりに食べるとこんなにおいしかった」と気づき、リピート購買につながるシーンがあるという。「離反ユーザーへのアプローチも大切」と、吉岡さんは話す。

■「消費者とともに歳をとる」とならないために

マーケティングや商品開発の現場では、「ロングセラーブランドは、消費者とともに歳をとる」という暗黙知がある。エッセルはどうしているのだろうか。

「エッセルブランドの若返りとして『コンテンツとのタイアップ』にも注力しています。先ほどお伝えした“モンスターストライク”や、“トミカ・リカちゃん”とのタイアップを行ってきました。

特にトミカ・リカちゃんでは、ファミリーを中心としたコミュニケーションを実施し、未来のメインターゲット(子供)へのアプローチを図ることができました」

家庭の食卓シーンに登場する他の食品でも、人気アニメなどとのタイアップは盛んだ。「子供時代に親しんだ味は、実家を出て1人暮らしをしても支持される」とも聞いた。

最後に、同ブランドから離れ、「家庭用アイス」に対する消費マインドも聞いてみた。

「マルチアイスのニーズが拡大する一方で、ノベルティアイスはSNSの普及により、たとえばコンビニスイーツのような、アイスに代わるデザートが増えています。また、スマホを操作しながらの“ながら食べ”も一般的となりました。

そうした環境ですが、アイスクリームは“キング・オブ・デザート”といわれる人気があり、アイスが持っている基本価値(おいしさ、冷たさ、滑らかさ等)は不変だと考えています」

生ケーキに比べて手軽に買える価格もあるが、「アイスが苦手」という人はほとんどいないという支持層の厚さも、市場や人気ブランドの強さにつながっているようだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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