1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

NHK大河ドラマはどう描くのか…真相がいまだわかっていない主人公・北条義時の死に際

プレジデントオンライン / 2022年10月23日 18時15分

松本零士さん原作のアニメ映画『キャプテンハーロック』の完成記念イベントに出席した俳優の小栗旬さん=2013年8月20日、東京都港区台場(写真=時事通信フォト)

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は10月16日(日)の放送から最終章に入った。歴史学者の濱田浩一郎さんは「最終回までの最大の見どころは、主人公の北条義時の最期だろう。死因は、病死、毒殺と諸説あり、ドラマではどう描かれるのだろうか」という――。

■『鎌倉殿の13人』はこれまでの大河と何が違うのか

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第39回「穏やかな一日」(2022年10月16日放送)では、主人公・北条義時(演・小栗旬)が、初代執権で父の北条時政を鎌倉から追放し、2代目執権に就任した後の出来事が描かれていました。若年の3代将軍・源実朝を巧みに操りつつ、実権を握っていく義時。

「穏やかな一日」とのタイトルですが、義時に対する有力御家人(和田義盛や三浦義村)の不満の高まり、後に波乱を巻き起こす公暁(2代将軍・源頼家の遺児)の登場など、不穏な空気満載でした。

同ドラマの視聴率は10%台をキープしており、好調と言えるでしょう。

ではなぜ『鎌倉殿の13人』(以下『鎌倉殿』と略す場合あり)は人気を博しているのか、私はこのドラマのどこを興味深いと思っているのか。『鎌倉殿』の楽しみ方に迫ってみたいと思います。

このドラマのすごいところは、主人公を善人で終わらせていないことです。大体、大河ドラマの主人公というのは(一部に例外はあるにせよ)、純情で真っすぐで、正義感溢れて……というキャラクターが多いもの。

例えば、昨年放送された大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一(演・吉沢亮)もそのような描かれ方でした(これは同ドラマを非難しているわけではありません。私は『青天を衝け』も面白く見ました)。

2018年に放送された『西郷どん』も、主人公・西郷隆盛(演・鈴木亮平)を勇気と実行力で時代を切り開いた「愛に溢れたリーダー」として描いていました。

しかし、『鎌倉殿』に登場する主人公・北条義時は違いました。伊豆の小豪族の子として生まれた義時は、当初は目に輝きを帯びた、思いやりがある真っすぐな青年でした。ところが、源頼朝(演・大泉洋)と出会い、数々の紛争や汚れ仕事を任されているうちに、義時の目から光が消え、陰鬱(いんうつ)な表情に変わっていったのです。これは、ネット上でも義時の「闇落ち」と称されました。

■義時の「闇落ち」を象徴する名回

それを象徴するのが第17話「助命と宿命」。この回において、源頼朝は娘・大姫の許嫁で、宿敵・木曽義仲の息子、木曽義高の殺害を義時に命じます。

義時は、義高を逃そうと奔走しますが、結果的に、義高は伊豆の武士・藤内光澄により討ち取られてしまうのです。

義高の死を知り、大姫は悲嘆に暮れる。その姿を見た母・北条政子は「決して許さぬ」と、義高を殺した者への怒りを露わにします。本来ならば、主命に従い恩賞に与かるはずの藤内光澄は、斬罪に処されるのです。光澄は「なぜだ。なぜだ!」と絶叫するも、義時立ち会いのもとで、処刑されます。

この回では、頼朝の命により、義時は一条忠頼(武田信義の子)の殺害にも加担しています。汚れ仕事を重ねる義時に表情はなく、目の光は消えていました。義時を演じる俳優・小栗旬の役者としての力量を感じることができました。

■変化する主人公の心情を浮き彫りにしていく

その後も、義時は「悪事」に手を染め続けていきますが、根っからの「悪人」になったわけではない。その事を感じさせてくれたのが、ドラマ第33回「修善寺」です。

同回の、義時と仏師・運慶が15年ぶりに再会した時の描写は印象的でした。運慶は久しぶりに再会した義時の顔を見て「お前、悪い顔になったな」と呟きます。それに対し、義時は「それなりにいろいろありましたから」と答える。

すると、運慶は「だが、まだ救いはある。おまえの顔は悩んでいる顔だ。己の生き方に迷いがある。その迷いが救いなのさ。悪い顔だが、いい顔だ。ああ、いつか、おまえのために仏を彫ってやりたいなぁ。うん。いい仏ができそうだ」と義時に語りかけるのです。

このシーンから、義時が苦悩しつつ、悪事に手を染めていることが窺えます。御家を守るため、生き残るため、悩みつつ、非情な決断をしていく「人間」義時(この回においては、2代将軍・源頼家を殺害)。人間の多面性というものをドラマは浮き彫りにしています。

■架空キャラ「善児」の不気味さがいい

『鎌倉殿』の魅力は、義時のみならず、個性的でユニークな登場人物が多く登場することです。

鎌倉幕府初代将軍の頼朝は、武家の棟梁としての威厳がありつつも、女好きであり、どこかひょうきんでした。その妻・政子は一般のイメージ通り、気性が激しいところもあるが、人情家。

義時と政子の父・時政は、狸親父的な側面もありつつ、憎めないキャラ。大衆的人気のある悲劇の武将・源義経は『鎌倉殿』においては、戦には強いが、空気が読めない素っ頓狂な人物(悪役的要素もある)として描かれていたことも、予想外に楽しめました。

そして何より『鎌倉殿』では、架空キャラクターが良い味を出しています。その筆頭が暗殺者・善児と言えるでしょう。

善児は伊豆国の豪族・伊東祐親に仕える下人でしたが、初回から、千鶴丸(頼朝と八重姫の子)を川に沈めて殺すなど残虐行為に及んでいました。義時の兄・北条宗時を殺し、主人・祐親を殺し、頼朝の異母弟・源範頼を殺し、名もなき農夫も殺し……。命令を受ければ、顔色一つ変えず、感情のない機械のように、多くの者をあの世に送ってきた不気味な善児。

ドラマのオープニングで「善児」の名が出る度に「今日は誰が殺されるのか」と視聴者を戦慄(せんりつ)させるほどの架空キャラは、大河ドラマ史上でもそうそう登場しなかったのではないでしょうか。善児は架空キャラの成功例と言えるでしょう。架空キャラを無闇に出しすぎて、本題を描くことが疎かになってしまった大河ドラマも過去にありましたが『鎌倉殿』はそうしたこともなく、安定しています。

架空キャラのみならず、実在の人物(畠山重忠・和田義盛)のキャラが立っていることや、そうした人物たちのコミカルな掛け合いも『鎌倉殿』の楽しみの1つです。この辺りは、『古畑任三郎』(フジテレビ系。主演・田村正和)ほか数多くのユニークな作品を生み出してきた脚本家・三谷幸喜氏の真骨頂と言えるでしょう。

■3部構成だった『鎌倉殿の13人』

『鎌倉殿』は、源平合戦の時代をメインに描く大河ドラマのように、平清盛や義経・頼朝の死で終幕を迎えるのではありません。

戦闘の場面
写真=iStock.com/Zeferli
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zeferli

頼朝の死(第26回「悲しむ前に」)までの展開は「序章」(第1部)に過ぎないのです。鎌倉殿・頼朝の死によって起こる有力御家人(鎌倉殿の13人)同士の紛争が第2部で描かれていきます。権力闘争の過程で、梶原景時、比企能員、畠山重忠といった御家人が次々と落命し、北条氏が力を付けていく。そのような歴史は、一般の馴染みも薄く、マニアックと言えばマニアック。しかし『鎌倉殿』は、脚本力と俳優陣の演技力によって、視聴率を大きく落とすことなく、前進し続けています。

御家人との紛争そして父・時政との争いをくぐり抜け、ついに義時は2代執権という権力の座に(第38回)。そして第39回から最終回(48回)までが「第3部」となっています。

■最終回までの見どころ4つ

最終回までの見どころは、大きく言えば、4つあるでしょう。

1つは、和田義盛との和田合戦(1213年)。鎌倉を舞台にした激戦により、義盛が如何に散るか。

2つは、実朝暗殺(1219年)。3代将軍・源実朝暗殺については黒幕(例えば北条氏や三浦氏)がいるとされますが、その辺りをどのように描くのか。

3つは、義時打倒を掲げる後鳥羽上皇方との戦・承久の乱(1221年)。私としては、同ドラマにおける合戦の締めとして、迫力ある合戦シーンを熱望しています。

4つは、北条義時の死。義時は病死(1224年)した可能性が高いですが、死因には諸説あり、妻・伊賀の方(ドラマでは「のえ」。義時の子・政村を産む)に毒殺されたとの説もあります。主人公がどのように死んでいくかも、見どころになるはずです。ドラマでは伊賀の方を悪妻として描いていますので、義時が毒殺される可能性が高いと私は睨んでいます。

■義時の死の真相

義時の死については、鎌倉時代後期に編纂された歴史書『吾妻鏡』に詳しく記載されています。同書の同年6月12日の項目には、義時が病となったとの記載があるのです。前々から体調不良だったとのこと。しかし、今回はかなり危うい状態となったので、陰陽師(おんみょうじ)5人が招集されました。

陰陽師は義時の病について占いますが「大事ない。午後8時ごろになれば回復してくる」との結果でした。念のため、病気平癒の祈禱(きとう)は行われました。が、陰陽師の祈禱や占いの甲斐なく、義時の病状は悪化。翌日の午前中には亡くなってしまうのです。

同書によると脚気と急性胃腸炎が死因と記されています。一方、公家・藤原定家の日記『明月記』には、真偽は定かでないものの、義時の妻(伊賀の方)が義時を毒殺したかのような文章が記されているのです。病死か毒殺か、ドラマにおいて、義時はどちらで死ぬかが注目されます。

そして、ドラマは、義時の死で終幕になるかという問題もあります。義時の死の直後、伊賀氏が排斥された伊賀氏の変が起こりますが、そこまで描くのか。

それとも、義時の後継となる息子の北条泰時が御成敗式目を制定(1232年)するまでをざっくりとでも描くのか。さすがにそこまで描く余裕はないので、女優・長澤まさみさんのナレーションで語られるだけかもしれませんが。

とにかく、最終章が始まったばかりの『鎌倉殿』には見どころがたくさん。これからも話題をさらっていくことでしょう。

----------

濱田 浩一郎(はまだ・こういちろう)
作家
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。姫路日ノ本短期大学・姫路獨協大学講師を経て、現在は大阪観光大学観光学研究所客員研究員。著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『超口語訳 方丈記』(彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)など。近著は『北条義時 鎌倉幕府を乗っ取った武将の真実』(星海社新書)。

----------

(作家 濱田 浩一郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください