どんなに忙しくても「空腹を満たすだけの食事」はしない…松浦弥太郎がていねいな暮らしを続けるワケ
プレジデントオンライン / 2022年10月22日 10時15分
※本稿は、松浦弥太郎『僕が考える投資について』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■最大リターンを得られる「自己投資」
「先の未来について考え、行動すること」が投資だと言いました。投資の対象は、企業の株式といった「自分以外」ではなく、「自分自身」。自分をよく知り、よく考え、未来の自分のために行動するということです。
つまり自分への投資、いわゆる「自己投資」こそが初めにすべき投資であり、最大リターンの投資なのです。資産ではなく自分を大きく成長させていくために、「お金」や「時間」、そして「心遣い」や「労力」をどのように投資していくかを考えていきましょう。
まず、自己管理は最大の投資と言えます。健康で元気で過ごせることが、あらゆる投資の基本です。
巨万の富を得たとしても、病気で寝込んでいたら、それを満足に使うことも叶いません。内から湧き出るエネルギーがなければ、旅に出たいとも思わないでしょう。たとえ仕事で大きなチャンスを与えられても、心身ともに充実していなければいい結果も残せないのです。
僕は健康状態や体力、体型などを含めて、未来の自分がなるべく理想の状態に近づけるよう、毎日自分で生活をコントロールしています。これは「長生きしたい」「若々しくいたい」といった表面的なことに関する願望ではなく、ずっと自分で自分をケアできる状態でいたいということです。
10年後も20年後も現役で働くだけの体力を持っていたいし、毎朝気持ちよく起きて、満足して寝たい。さらに歳を重ねたときにも、自分の足で歩きたいし、自立した生活を送れる自分でいたい。
そんな「望む未来」を描いているのです。
■投資対象である「自分」に詳しくなる
あらゆる自己投資は、「現在の自分の状態を把握すること」から始まります。
たとえば仕事における自己投資も、自分には今どんなスキルが足りていないか、理想の自分になるためには何が必要かを自己分析するところから始まるわけです。ゴール(理想の自分)から逆算して、今日すべきことに落とし込んでいく。国際会議に参加できるようになりたいけれど、今はまだ英語力が日常会話レベルだから、1年間は毎朝1時間オンライン英会話を続けよう、といった話ですね。
食事や運動、睡眠などの健康管理も同じです。
まずは自分の体質、体型を知り、現状を知り、暮らしに関することを学んで、自分の身体で試していく。知る、学ぶ、考える、試す、選ぶ――その繰り返ししかありません。自分という対象に詳しくならなければいけません。
株式だって、専門家の話を聴いて、たくさんの本を読んで、刻一刻と変化する市場の流れを注視して、ようやくリターンが得られます。投資対象に詳しくならず、勉強せずにリターンを得られる投資はないのです。
■どうすれば一番元気な状態でいられるか
さて、自己管理の中でもまず考えたいのが、食事です。食事は身体という資本をつくるもので、生活の基礎ともなりますから、いい習慣をつくることがとても大切。何を、いつ、どんなふうに、どれくらい食べるかを自分で決め、それを淡々と守る。そのルーティンは、メンタルも安定させてくれます。
まず、食生活に関する、信頼できる情報を手に入れることが大切です。
専門のお医者さんに相談してもいいでしょうし、図書館に行ってアレルギーや栄養学の本を読んでみるのもいいでしょう。また、食べたものとその日の体調を記録したり、栄養計算をしてくれるアプリなどを活用するのもひとつの手。闇雲に試すのではなく、何らかの科学的・医学的根拠のあるやり方を試すことが大切です。
そして自問自答の中では、「これを食べるとこんな体調になる」とか「夜は何時までに食べ終えると翌朝しんどくない」とか「お米はこんなにいらないなあ」というような、身体の声にしっかりと耳を傾けてみてください。
朝晩、体重を量ることも大切です。どんな食生活を送れば身体に負担が少なく、一番元気な状態でいられるか、「とりあえずの答え」を見つけていくのです。今日の一食が何年か後の自分の体調をつくるのですから。
■失敗したら「次はこうしてみよう」でいい
自己管理への投資にも、オンリーワンの正解はありません。人によって体質も生活スタイルも目指す状態も違いますから、ひとつずつ試し、一番心地いい方法を探っていくことでしか答えに辿り着くことはできないのです。
投資ですから失敗することもあるでしょう。「このやり方ではパフォーマンスが上がらないな」といった反省もあるかもしれません。
でも、「じゃあ、次はこうしてみよう」と失敗を学びへと、すぐに切り替えられるのが自分への投資のいいところです。それに金融投資と違い、ある程度勉強してから始めれば、何かを大きく失うこともないでしょう。
僕はこうした生活にまつわる投資を、30代のころからずっとつづけてきました。ですから食事にしても、睡眠、運動にしても、自分なりに決めている習慣がたくさんあります。旬のものをおいしく食べること、夕食後にウォーキングをすれば調子がいいとか、ひとつずつ見つけてきました。
そのおかげでしょう、年齢と共に多少は集中力や瞬発力が落ちたなあと感じることはありますが、体調の面ではあまり昔と変わらず元気に暮らせていますし、太ったり、疲れて動けなくなったりということもありません。
■「あるべき姿」が日々の指針になる
そして、今日が未来につながっていることを忘れずに、きちんと「未来」を考えていくことで、暮らしがていねいになっていきます。
たとえば『暮しの手帖』の編集長時代、どれだけ忙しい時期でも、仕事に集中している日でも、食べることを疎かにすることだけはありませんでした。一食抜いたり、空腹を満たすだけの食事をすることはなかったのです。
それは、僕の優先順位として、食事よりも仕事が上回ることはなかったから。先の未来の自分のために、そう決めていたからです。健康を損なったら仕事なんてできなくなるのですから、僕にとっては当たり前のことでした。
とはいえ、「絶対にこうしなければならない」とストイックに生きているわけではありません。暮らしの中で「まあ、今日は仕方ないか」とあきらめてしまうこともあります。それでも、日常の「あるべき姿」が定まっていることは、日々の指針になるものです。
ストレスのないやり方で、「食事、睡眠、運動」の自己管理をきちんと考えていきましょう。決して侮ってはいけません。数年後、数十年後の、自分の姿を想像して。
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エッセイスト、クリエーティブディレクター
2002年セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2006年から9年間『暮しの手帖』編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。Dean & Delucaマガジン編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。著書に『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』『僕が考える投資について』(共に祥伝社)など多数。
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(エッセイスト、クリエーティブディレクター 松浦 弥太郎)
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