信用をいかに増やすか…松浦弥太郎が社会に出て気づいた「お金の本当の価値」
プレジデントオンライン / 2022年10月27日 9時15分
※本稿は、松浦弥太郎『僕が考える投資について』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■苦労せずに得たお金ではしあわせにならない
第1回では、「金融商品よりも自分に投資をしよう」というお話をしてきました。お金を増やすのではなく、自分の楽しみ、生きがい、そのベースとなる心身の健康を生み出していく。そんなお話です。
投資の本質は、先の未来を考えること。そのためにはまず自己管理のための習慣をつくる必要があること。自分を成長させる学びに投資する大切さ。自分の興味にも、仕事にも学びが生きてくること。人や旅に教えてもらい、素直に影響を受けること。
これらが自分の望む未来の自分をかたちづくっていくのだということが、わかっていただけたのではないかと思います。
本書では、金融商品への投資について具体的な方法を書くつもりはありません。基本的に、日々、一喜一憂するようなマネーゲームに乗ることには反対なのです。そこにお金や時間を使うのはもったいないことだと感じています。
一攫千金を狙ったり手や足を動かさずに儲けることができたとしても、苦労せずに得たお金は人をしあわせにはしてくれませんし、何より自分自身の成長にはつながらないのです。もちろん、プロの投資家にはそれなりの努力と苦労があるのは知っています。しかも、それはほんのわずかな成功者の例だと思います。
■投資の「元本」、お金の本質とは
では、お金は大事にしなくていいのか。
もちろん、そんなことはありません。生きていくためには最低限のお金は必要ですし、何より「お金」、そして「時間」は、自分への投資の元本──価値を生み出すための元手となる財産──なのです。
まず、お金について考えてみましょう。
そもそも、僕たちにとってお金とはどういう存在なのでしょうか。
これまでお金についてあまり真剣に考えてこなかった方は、「お金とは、ほしいものを手に入れるために必要な道具」としか捉えていないかもしれません。自分の欲求を満たすために必要なものだから、お金が多ければ多いほど自由になれるし、しあわせになれるのだろうと。
■1万円札は1万円分の「信用のチケット」
しかし、お金とはそんな単純なものではありません。
僕は、お金とは自分の欲望を満たす道具ではなく、「チケット」のようなものだと考えています。何かを手にするときに提示を求められるチケットで、しかもそこには「信用」というスタンプが押されているのです。自分に対する信用に基づいて付与され、その範囲内では自由に使うことができる。それがお金というものです。1000円札には1000円分の信用が、1万円札には1万円分の信用が、紐付けられています。
では、誰から信用スタンプを押してもらっているかと言えば、社会からです。そして誰に対してスタンプが押されているかというと、あなたです。「私たちはあなたのことを信用しましたよ。だから自由に使っていいですよ」と世の中から手渡されたものが、このチケットだと考えてください。
「お金の本質は信用」だとはよく言われることですが、これは「使い方を信用されている」ということ。名優たちに出演オファーが殺到するように、いいお金の使い方をする人には、おのずとお金が集まってきます。
■社会からの信用がなければ、何もできない
本書の第3章「仕事で自分の価値を高めるには」では、働くことと投資についてお伝えしてきました。その中で、仕事を受けるときに対価は気にしない、「もっとほしい」と交渉することはないと言いました。
この「何を対価と考えるか」は働き方の話であり、同時に本稿のテーマである「しあわせに生きるために必要な自己投資の話」にもつながってきますので、まずはここから入りたいと思います。
お金がほしくないと言うと、格好つけているように思われることもあります。でも、僕が心の底から増やしたいと考えているのは、お金ではありません。世の中からの信用です。「これからの10年で、何を頑張ろうか」と考えたとき、僕はいつも「信用を貯める10年にしよう」という答えに行き着くのです。
なぜ、そこまで信用を重視するのか。
他人から、そして社会からの信用がなければ、人は何もできないからです。人間はひとりでは生きていけません。そして、社会に交わらずに生きることもできません。社会の中で、人と共に生きていく以上、「この人なら大丈夫」と信用されなければ何もできないのです。「信用スタンプ付きチケット」も渡されず、力を貸してもらえず、応援もしてもらえない。機会も与えてもらえないでしょう。
逆に、信用があれば、そのときの実力以上にさまざまな挑戦もできます。投資の観点から言っても、信用を増やすことが、もっともレバレッジが効くわけです。
■どうやって信用ポイントを増やしていくか
僕は「世の中からの信用度がゼロ」、もっと言えばマイナスの状態をよく知っています。人並みの学歴もなく、満足な教養もない状態で社会に出ましたから、そこは強く自覚して生きてきました。
現実として、いい大学を出ていたり国家資格を持っていたりすると、それだけで幾ばくかの信用ポイントは得られるものです。僕は、このままでは世の中から信用されずに一生が終わってしまうという焦りを抱えながら、一生懸命に働いてきました。
ただし、信用される人間を目指すと言っても、正規のルートや「こうすればいい」というわかりやすいノウハウがあるわけではありません。「信用学」なんていう学問は存在しないのです。日々の営みを通して、地道に、コツコツと積み上げていくしかない。
お金の使い方は信用を左右するものです。つまらないことや自分のためだけに浪費している人は、なかなか信用されないでしょう。
また、発言や行動のひとつひとつ──たとえばあいさつの仕方から言葉遣い、ものの食べ方や生活習慣など──は、信用できる人かどうかを判断する要素になります。法やみんなで決めたルールを犯さないなど、社会規範を遵守することもそのひとつでしょう。人に優しく、思いやりを持って接するといったコミュニケーションも大事です。
■信用の「貯金」がしあわせにつながる
もちろん、人からの信用を得るためには誰かの役に立つ仕事をすることが欠かせません。まじめに、誰かのために働くこと。期待値を上回る結果を出すこと。仕事で感動を与えること。社会をよくするために働くこと。周りの人を助けること。
![松浦弥太郎『僕が考える投資について』(祥伝社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/1/1200wm/img_81dfc8d95125ffafcddc27c39e75a321225051.jpg)
信用を積み重ねるためのこうした生き方は、淡々としながらも豊かで、しあわせな日々をもたらします。
僕はこれらを、「いつか自分もこんなふうになりたいなあ」と憧れていた先輩方から学びました。直接何かを教わることはなかったけれど、見て覚えて、自分なりにやってみたという感じです。彼らもまた、「どうしたら自分が世の中や周りから信用されるのか」を一生懸命考えていましたから。
どうすれば信用に足る人間になれるかをよく考えて、日々を過ごしましょう。一朝一夕にはできませんが、毎日少しずつ信用を貯める。そんな日々を送る中で、しあわせを感じることができるはずです。
やるべきことを、今日も淡々と。
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エッセイスト、クリエーティブディレクター
2002年セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2006年から9年間『暮しの手帖』編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。Dean & Delucaマガジン編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。著書に『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』『僕が考える投資について』(共に祥伝社)など多数。
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(エッセイスト、クリエーティブディレクター 松浦 弥太郎)
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