「社会や誰かの役に立つこと」エッセイスト松浦弥太郎が働くうえで最も重要だと考えること
プレジデントオンライン / 2022年10月31日 9時15分
※本稿は、松浦弥太郎『僕が考える投資について』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■社会に信用されるような働き方とは
「お金に好かれるためには、何より仕事にまっすぐ向き合うべきである」
「仕事をないがしろにしたり軽んじたりする人からは、お金が逃げてしまう」
第2回で紹介したように、お金と仕事は切っても切れない関係にあります。「信用スタンプ付きチケット」を誰よりも多くもらうためには、その信用に足るだけの仕事をしないといけませんし、そこでの働きぶりや、手渡されたチケットをどのように使うか(投資するか)によって、先々にもらえるチケットの枚数(収入)が変わってきます。
仕事とお金、また仕事と「どれだけ投資できるか」は、密接にかかわっているのです。
それでは、どうすれば社会に信用されるような働き方ができるのか。働く自分を高めるためには、どんな投資をすればいいのか。本稿では、そんなお話をしていきたいと思います。
■10代後半から変わっていない仕事の基本
仕事の基本は、社会や誰かの「お役に立つこと」です。僕はこの先、できる限り長く働きつづけたいと考えていますが、それは、「できる限り長い間、世の中に貢献して生きていたいから」にほかなりません。
これは、社会に出た10代後半からずっと変わっていない、純粋な気持ちです。
僕は本当に、何も持っていない若者でした。お金はもちろんのこと、コネも実績も夢も資格も、これといって光る才能もありませんでした。
なかでも一番足りなかったのは、「学歴」という、社会を渡るうえで大きな威力を発揮するパスです。中学校もろくに通わず、高校には進学したものの挫折してしまい、「自分はここにいても意味がない」と、あっさり中退してしまいました。
17歳。周りに「最終学歴・中学校卒業」の知り合いなんて、ひとりもいません。まさに身ひとつで、その後どう生きていくかはあまり考えないまま、ある意味守られた「学生」という身分を捨てて社会に飛び出したのです。
■「おい、おまえ」と呼ばれる厳しい世界
両親は、もし高校を辞めるならその後は自己責任でやりなさい、というスタンスでした。ですから、生きていくためには仕事を得て、自分で収入を得る必要があったのです。
とはいえ、何のスキルもない中卒の少年には、当然、職業をえり好みする余地などありません。日雇い労働者の募集を見ては現場に足を運び、「きみ、今日から働く?」と言われたらそのまま働かせてもらう。それしか選択肢がなかったのです。
僕が若いころの日本、とくに東京は、もしかしたら今よりもさらに激しい学歴社会だったかもしれません。大学を出ているかどうか、どのレベルの学校を出ているかによって社会のヒエラルキー(階層)がつくられていることは、10代の僕でもすぐに理解できました。中卒の自分は「松浦弥太郎」という名前ではなく、「おい、おまえ」と呼ばれる世界。
でも、僕は「ここで働くか?」と言ってくれたすべての現場で、一生懸命に働きました。ただ仕事があることがありがたくて仕方なかったのです。なぜなら、お金をいただけることはもちろん、自分を必要としてもらえているということですから。
これで人のお役に立てる、社会に参加できるということが、純粋にうれしかった。今の自分にはこれしかないんだと藁にもすがる思いで、手を抜かず、全力で仕事に打ち込みました。
■プラスアルファの働き方で重宝されるように
それだけではありません。僕は、与えられた仕事をこなすだけでは満足できず、どうやったらもっとここでお役に立てるだろうかと必死で考えました。
どうすれば目の前にいる人たちによろこんでいただけるだろうかと、プラスアルファの働き方を意識したのです。
たとえば、工事現場で働いていたときは、課せられた作業員としての仕事を完璧にこなすのは当たり前として、僕は現場をきれいに保つことも自分の仕事だと考え、実行していました。ゴミが落ちていたらすかさず拾う。道具の整理整頓に努める。ほこりやおがくずが目に入れば、すぐにホウキで掃く。
そんなふうに周りをよく見て手を動かしつづけた結果、「あいつがいる現場はきれいで仕事がしやすい」と評判が立ち、重宝されるようになりました。それでいろいろな現場に呼んでいただけましたし、どこへ行ってもとてもかわいがってもらえました。
■「誰よりも優秀な使いっぱしりになる」
また、僕は多くの現場で最年少だったため「コーヒー買ってこい」とお使いを言い渡されることが多かったのですが、ほかの若手がいやいや歩いて買いに行くところを「はい!」とよろこんで走っていきました。すると「あいつに頼むと戻りも早いし、態度が気持ちいい」と評価されるようになり、また、たくさんの現場に声をかけられたわけです。
学歴がないことにコンプレックスを抱えていた僕は、認めてほしい、必要とされたいという気持ちや「これからの人生、どうやって生きていけばいいんだろう」という漠然とした不安を抱えていました。
だからこそ、「誰よりも優秀な使いっぱしりになる」と決めたのです。今は何者でもない自分だけれど、使いっぱしりの世界だったら──つまり何かを頼まれて、その仕事のために誰よりも手足を動かすことで、期待以上のアウトプットを出せる仕事なら──もしかしたら一番になれるかもしれないぞと考えて。
今もそのスタンスは変わっていません。ありがたいことにこれまでたくさんの企業と仕事をしてきましたが、当時と変わらず、「使いっぱしりとしてお役に立とう」という気持ちです。最近では「取締役」といった立派な肩書きがつくこともありますが、正直、それ自体にあまり価値を感じていません。
あくまで自分は使いっぱしりなんだ、えらくもなんともないんだ、お仕事をいただいているんだという意識がずっとあります。
■どんどん仕事がつながっていく働き方
僕は、何かのプロだと自称しているわけではありませんし、ある仕事が飛び抜けて得意というわけでもありません。
でも、使いっぱしりとしては割と優秀なんじゃないか、と自負しています。ですからどんな仕事でも、「どうぞ松浦弥太郎を使ってやってください」というふうに考えています。
そしてお願いされたことや頼まれたこと、期待されたことには120パーセントでお返ししようと決めているのです。それでよろこんでいただけたらとてもしあわせです。工事現場をきれいにしていたときのように。
仕事とは、だれかのお役に立つこと。困っている人を助けること。そう心がけてきたからこそ、どんどん仕事がつながっていったのです(ですから、お金のために働いてるようなニュアンスの「稼ぐ」は嫌いな言葉のひとつです)。
まずは、目の前の人の期待を、いい方向に裏切ってみてください。驚かせてみる。よろこばせてみる。
すべての仕事は、そこから始まるのです。
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エッセイスト、クリエーティブディレクター
2002年セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2006年から9年間『暮しの手帖』編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。Dean & Delucaマガジン編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。著書に『人生を豊かにしてくれる「お金」と「仕事」の育て方』『僕が考える投資について』(共に祥伝社)など多数。
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(エッセイスト、クリエーティブディレクター 松浦 弥太郎)
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