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「私は焼身自殺した男性と同じ境遇」旧統一教会への献金額が"藪の中"な母親に無心され続けた40代娘の苦悩

プレジデントオンライン / 2022年10月19日 14時15分

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の日本本部=2022年9月27日、東京都渋谷区

旧統一教会に入信した母親は、印鑑・高麗人参茶・宝飾品・サウナなどを購入するだけでなく、カードローンなどで繰り返し借金。献金総額は“藪の中”で、借金限度額に達すると娘にも無心した。そんな母親に翻弄され続け、宗教2世として生きてきた女性の苦悩とは。かつて旧統一教会信者だったルポライターの多田文明さんがインタビューした――。

■「焼身自殺で亡くなった男性と私は同じだと感じた」

柴田さん(仮名・40代女性)の母親が旧統一教会に入信したのは1980年代のこと。父親は入信に反対しており、そのはざまで宗教2世として大きな苦労をしてきました。

「先日、高知県在住の男性が、野党合同ヒアリングに出席しました。その場で、信者として約1億円もの献金をした元妻(離婚)とともに暮らしていた息子さん(36歳)が焼身自殺し、『旧統一教会をなくしてほしい』と涙ながらに訴えました。それを聞きながら、亡くなった息子さんの立場が自分と同じように感じられて、とてもつらい気持ちになりました」(柴田さん)

柴田さんの家では、母親の旧統一教会への入信を知った父親が激高したといいます。

「もともと私の家は父がワンマンで、母はとても苦労していました。その悩みをうまくつかれて、教団に誘われ入信したのではないかと思います。父から反対されて以来、母は教団の信者であることを隠して、教会に通っていました。その陰で、私は幼い頃から、教会の関連施設に連れて行かれました。父の性格をわかっていたので、母のことは言ってはいけないと子供心に思っていました。

家には白い壺がありました。後でわかったことですが、母は父には内緒で、印鑑、高麗人参茶、宝飾品など、ありとあらゆるものを、教団の関連会社から買って隠していました。その中にはサウナもあります」

家庭用サウナには、かつて旧統一教会信者だった筆者自身も記憶があります。1980年後半、有名ゴルファーも使っているサウナだと宣伝して、それを販売するようにと教団から指示がありました。とても高額だったはずです。

「40万円以上だと思います」(柴田さん)

筆者から見て、母親は、当時教団が販売した商品をほぼコンプリートしており、かなりのお金を使ったと思われます。それだけマインドコントロールされていたことが分かります。

「母親から教団の関連施設であるビデオセンターにも行くようにいわれました。そこで私は勉強することになりました。そしてセミナーにも参加しました」

しかし柴田さんはセミナーに参加したものの深入りせず、次のトレーニングには進みませんでした。なぜ、次のステップに進むことを拒むことができたのだろうか。その理由について、柴田さんはこう話す。

■「自分のためにお金を使うのはサタン的な堕落した考え」

「当時、私は自立するためにお金を貯めていました。ところが、ビデオセンターの担当者が、『そのお金は神のために使うべきだ』と言うのです。私は反発しました。その後、その上の立場の女性信者との面談もありましたが、彼女からも『自分のためにお金を使うことは、サタン的な堕落した考えだ』とこっぴどく叱責されました」

これは教団がよく使う手口で、個人的面談を通じて、相手の資産を吐き出させようとします。彼女は女性信者の言葉を頑なに拒み続けたため、幸い親元を離れて一人暮らしすることができました。

お金を数える手
写真=iStock.com/high-number
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/high-number

しかし、母親が旧統一教会という恐ろしい沼にはまっている柴田さんの本当の苦労はここから始まります。

「母は、献金するために多額のお金を借り続けました。当時は、統一教会の聖地である、韓国の清平(ちょんぴょん)で行われた、先祖解怨(先祖の罪を清め、呪いを解く)のための修練会があり、母もたびたび訪れて献金をしていたようです。

借りては返すという生活を何度も続けていくうちに、借金できる限度額がきてしまったようです。それでも母親は献金などのノルマを果たそうとしたのでしょう。ある時、私に信者からお金を借りたので、『そのお金を返さなければいけない、生活費が足りないので、お金を貸してほしい』と言うのです。そこで、私はカードローンでお金を借りて数万円を貸しました」

その後も、母親の無心は続き、気づけば彼女は100万円ほどの借金を背負うことになっていました。

これは2009年以降の出来事で、教団のいうところの「コンプライアンスの徹底がなされた」後のことです。教団はこの9月の会見で「信者への献金奨励や勧誘行為はあくまでも信者本人の信仰に基づく自主性及び自由意思を尊重し、信者の経済状態に比して過度な献金とならないよう、十分に配慮しなければならない」として再度、これを徹底するといっていましたが、これが当時、機能しておらず、いかに絵にかいた餅であったかがわかります。

母親が献金ノルマに追い込まれて、個人的に借りたことも考えられますが、筆者は、教団の上の指示もあって借金した面もあるはずだと見ています。

なぜなら、昔から教団では献金ノルマのために、カードローンでお金を借りては返すことが日常茶飯だったからです。

■旧統一教会経理担当「私のATMの後ろには行列ができる」

ある時、教団の会計担当者に、たくさんの信者らのカードを見せてもらったことがあります。担当者は「こんなにうち(教団の支部)には信者のカードがあるのよね」と、どこか得意げに言っていました。それは神様から与えられた責任(教団内では「み旨」と呼ぶ)を全うしているという喜びもあったからでしょう。

「返済の支払い期限が近づくと、大変なのよね。これだけの人の返済の入金をしなければならないから。私のATMの後ろには、いつも行列ができるわ。そして全員の返済をしたら、また借りられる枠ができるから、そこからお金を借りて回す。もう忙しいのよね」

このようにカードローンで借金をさせて、献金ノルマを達成する行為は組織ぐるみで日常的に行われていたことです。

クレジットカードのスタック、ホワイト
写真=iStock.com/studiocasper
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/studiocasper

そんな柴田さん母娘に2012年、転機が訪れます。この年に文鮮明教祖が他界したのです。

「(これを機に)母は教団から離れました。教団からの執拗な献金要求に耐えられなくなったためです」

現在は、母に貸した100万円は完済しています。

こうやって柴田さん母娘は旧統一教会との関係を断ち切ることができました。ただし、「母は教団から離れているとはいえ、旧統一教会の批判的なニュースをあまり見ないようにしています」と柴田さん。

こうした心理を持つのは1世信者に多いのですが、教団を批判する側の言葉は、「サタンの言葉」として長年、教え込まれており、サタンと心を通じてはいけないという思いから、批判的なニュースを無意識に目にしなようにしてしまうのです。

母親にはそうした思考がまだ残っており、ふとしたことで教団に心が戻ってしまう可能性もあり、今後も注意が必要なため、柴田さんは今も心配しているのです。

■旧統一教会を信じる母と反対する父との板挟みの人生

筆者との会話の中で、柴田さんは宗教2世として育った苦しい胸の内を明かします。

「教団に批判的な父親と、嘘をついて隠れて教団へ通う母との板挟みのなかで、私は育ちました。子供のころから、ずっと本当のことが誰にも言えない日々を送りました」

難を逃れた形だが、柴田さんは冒頭で述べた、1億円を献金した信者の母親を持つ息子が焼身自殺したことに、自身の体験を重ね合わせます。

多田文明『信じる者は、ダマされる』(清談社)
多田文明『信じる者は、ダマされる』(清談社)

「私は社会人になり一人暮らしをすることで、教団からの献金の要請からも逃れることができ、完全に離れることができました。しかし、亡くなれた息子さんはずっと家にいることで、教団や信者である母親の影響を受けて、誰にどのように相談すればよいのか、わからなかったのかもしれません。私も、反対される母のことを思うと、父には真実を話せませんでした。息子さんも本当のことを口にできない苦しい葛藤があって悩み続けたのかもしれません。そう思うと、とても心が痛くなります」

親の言いつけに従うような優しい子ほど、相手の気持ちを慮(おもんぱか)りすぎて、身動きがとれなくなってしまうのかもしれません。

「母はいまだに実際に教団に献金した総額がどの位になるのか、教えてくれません。というより、過去を見つめたくない思いがあるようです。それを知られると、父に隠れて教会に通っていたことがバレてしまうという、怖い気持ちもあるのでしょうね」

さらに柴田さんは話を続けます。

「もちろん、教団への献金や物品購入したお金はすべて返してほしい思いです。ですが、母親が正直にすべてを話す日まで待ちます」

家族は信者の心が元に戻るまで、慌てずに待つしかありません。それは何年かかるかわかりません。家族は、こうした「待つ」というつらい時間を長く過ごしています。教団によって家庭崩壊しただけでなく、それを修復するまで長い長い時間を過ごす。それは筆舌に尽くしがたい精神的苦痛です。旧統一教会はこうした責任もとるべきです。

柴田さんの母親が完全に教団を離れる日は、すべてを家族に正直に話し、本当に自分の心に折り合いをつけることができたときです。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。

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(ルポライター 多田 文明)

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