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視聴者が求めても応じないのに…自民党の一声で「受信料の1割値下げ」をあっさり決めたNHKの非常識

プレジデントオンライン / 2022年10月20日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

■政府・自民党の顔色をうかがうNHKの体質

NHKは、やはり政治に弱かった。

先ごろ、かねて検討していた受信料の値下げを2023年10月に過去最大の1割程度の幅で実施すると発表した。

当初は地上放送と衛星放送を視聴できる世帯が対象の「衛星契約」(以下、「衛星」)の値下げだけを実施する方向で検討していたのに、直前になって政府や自民党から“圧力”がかかり、地上放送だけを視聴できる世帯の「地上契約」(以下、「地上」)まで値下げせざるを得なくなってしまった。

政府が関わる特殊法人とはいえ、経営の根幹に関わる受信料の水準を自ら決められない姿は、ふがいないというか、情けないというか、独立した事業体の体をなしていないと言わざるを得ない。

受信料の値下げは、国民にとっては恩恵といえるが、コトはそう単純ではなく、手放しで喜ぶわけにはいかない。

NHKは、予算が国会の承認を必要とし、最高意思決定機関である経営委員会メンバーの選任も国会の同意を得なければならないなど、さまざまな制約を受けている。これは、NHKの運営基盤である受信料が、国民全体で公平に負担する公金のため、国民の代表である国会が関与するのは当然とされているからだ。

だが、国会は長く自民党が第一党の座を占め、政府も自民党中心の政権が続いてきた(もちろん、一時期の例外はあるが)。このため、NHKは、いやが応でも、自民党の顔色をうかがい、政権の腹の内を忖度(そんたく)してきた経緯がある。それは、NHKにしみ込んだ構造的な体質といってもいいかもしれない。

■1割値下げを決めた理由

もともとNHKのために制定されたといわれる放送法は、「不偏不党」を高らかにうたい、「政治的公平」を明確に求めている。

ところが、「公共メディア」を自認するNHKの報道ぶりは、政権の意向を斟酌するかのような偏りが、事あるごとに指摘されてきた。放送法の精神に背くような内容は「国営放送」と揶揄(やゆ)されることもしばしばだ。

だから、今回の値下げについても、来春の統一地方選挙を控えて「NHKに受信料を大幅に値下げさせた」と喧伝したい自民党の人気取りの思惑を許してしまったともいえる。

また、NHKのネット業務を放送と同様の「本来業務」に格上げし「ネット受信料」を導入する議論が本格化するタイミングにも重なった。「ネットの本来業務化」というNHKの野望を「人質」にとられ、値下げを迫られたようにも映る。

結果として、NHKは、「地上」も「衛星」並みの値下げに踏み切れたのだから、その気があれば、当初から自らの意思で断行することができたはず。身を切る主体的な値下げだったら、「NHKの英断」との声も上がっただろう。

同じ結果でも、政府・自民党に押し切られて、いやいや値下げしたというのでは、国民に与える印象は大違いだ。

大幅値下げを決断したのに歓迎されないNHKには忸怩たる思いが残るだろうが、失態と言うほかはない。

■4回目にして過去最大の値下げ

今回の値下げは、20年10月以来3年ぶりで4回目(19年の消費増税分の据え置きを含む)。

現行の月額受信料は、「衛星」が2170円、「地上」が1225円(いずれも口座振替・クレジット払いの場合)。値下げ後は、「衛星」が220円安くなって1950円(10.1%減)。「地上」は、125円引き下げて1100円(10.2%減)になる。下げ幅は、いずれも過去最大だ。

22年3月末の契約数は4155万件。このうち、「衛星」は2203万件で52.9%、「地上」は1952万件で47%になる。

原資には、企業の内部留保にあたる繰越剰余金2231億円(21年3月末)のうち約1500億円を充てる。値下げを実施する23年度は450億円程度の減収を見込み、しばらく赤字が続いた後、27年度には収支均衡を目指すという。

値下げ案を盛り込んだ21~23年度の中期経営計画の修正案は10月11日、経営委員会で大筋了承された。パブリックコメントを実施したうえで、経営委員会の正式な議決を経て、年明けの通常国会で23年度予算案とともに承認されれば正式に決定する。

■元手は2000億円超にのぼる「受信料の剰余金」

受信料の値下げをめぐっては、最終的に決着するまで二転三転した。

NHKが20年8月に公表した21~23年度の中期経営計画案では、値下げ直前だったこともあり、3カ年は据え置く方針を示していた。テレビ離れの進行や世帯数の減少で、受信料収入が先細りになるとの見立てもあった。

ところが21年1月、当時の菅義偉首相が施政方針演説で「月額で1割を超える思い切った受信料の引き下げ」を宣言、武田良太総務相に受信料見直しに取り組むよう指示し、NHKに強く働きかけた。

NHKは利益を上げる必要がない特殊法人であるにもかかわらず、受信契約数の増大に伴い繰越剰余金が膨らみ続けていた。18年度末の1161億円が、21年度末には2231億円に急増し、視聴者への還元を求める声が高まっていた。

こうした動きを受けて、NHKも、割高感があった「衛星」について1割程度の値下げを目指す方針を表明。21年1月に決定した中期経営計画で、一転して23年度中の値下げを明記、原資を受信料収入(21年度6800億円)の約1割に相当する700億円程度とし、「衛星」のみの値下げに向けて検討を進めることになった。

そして、前田晃伸会長が10月6日、「衛星」について「優先して下げさせていただきたい」と言明。経営委員会に、予定通り「衛星」の値下げを盛り込んだ中期経営計画の修正案を提出する段取りを整えた。

■NHKは「衛星」だけの予定だったが…

ところが、ここから事態が動いた。

「衛星」の値下げだけでは、契約者の半分しか恩恵を受けられない。しかも、繰越剰余金は、まだ余裕がある。

そこで、自民党サイドから、菅・前首相とともに、武田・元総務相や佐藤勉・元総務相ら歴代総務相が口をそろえて「国民に還元すべきだ」と大合唱。経済対策の面からも、大幅値下げは必須と詰め寄った。政府も、監督官庁である総務省が続いたという。

契約全体の半分近くを占める「地上」も、「衛星」と同じように1割程度値下げすれば、国民のほとんどが値下げを享受できるというのである。

土壇場での政府・自民党が一体となった大攻勢に、NHKも突っ張り続けることができず、ついに「地上」の大幅値下げを受け入れ、中期経営計画を再び修正して経営委員会に提出した。

原資は当初予定した700億円が1500億円規模に倍増し、当面の受信料収入が落ち込むのも確実な見通しだが、経営委員会の森下俊三委員長は「受信料収入の減少に伴う営業経費の削減など経営計画の議論を進めてもらうことを条件に大筋で了承した」と、政府・自民党の“横やり”を支持した。

中期経営計画の再修正案を提出後、前田会長は「一連の経営改革で値下げの原資を確保することができ、衛星だけでなく地上波まで下げることができるようになった。物価高が続く中、少しでも視聴者の負担軽減につながればと、さらに踏み込んだ還元策にした」と苦しい説明をするしかなかった。

2015年4月9日:大阪のNHK大阪ホールを通り過ぎる人々
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■値下げはまだまだできる

3年前の値下げは、「衛星」が月額60円、「地上」は同35円とスズメの涙で、「値下げの実感がほとんどない」と不評だったが、今回は、多少なりとも国民に好感をもって受け止められるかもしれない。

しかし、繰越剰余金は、まだ残っている。

寺田稔総務相はすかさず、「これで打ち止めと考えていない。効率的な運営ができれば値下げの財源も膨らむので、引き続き改革を進めてほしい」と注文。「業務のスリム化や経費削減、受信料引き下げ、そしてガバナンス強化の『三位一体改革』は、すべてやらないといけない」と力を込めた。

NHKは、23年度末に衛星放送のチャンネルを整理する予定で、ハイビジョン画質の「BS1」と「BSプレミアム」を統合した新チャンネル「新BS2K」をスタートさせ、高精細画質の「新BS4K」(いずれも仮称)と同じ番組を流す「サイマル放送」を実施する。これにより、番組制作費の大規模な抑制につながることが見込まれる。

NHKと民放が共存する「公民二元体制」をとる日本の放送事情を鑑みれば、受信料という安定財源をもつNHKは、景気に左右されやすいCM収入に頼る民放ではままならない報道やドキュメンタリーに注力すべきで、民放と似たようなエンターテインメント番組やスポーツ番組を放送する意義は小さい。

従来の番組を少し整理するだけでも、制作費や人件費が浮き、さらなる受信料の値下げ原資を確保できるのではないだろうか。

そもそも「公共放送」「公共メディア」とは何かという原点に立ち返れば、もっと劇的な経営改革やスリム化に行き着くに違いない。

■NHKは誰のための放送局なのか

NHKに対する最大の批判は、今も昔も「政権寄り」であるということ。

最近では、東京五輪ドキュメンタリー番組の字幕捏造(ねつぞう)事件や、安倍晋三元首相暗殺事件に絡んだ旧統一教会の消極的報道など、枚挙にいとまがない。

だが、岸田文雄内閣の支持率は3割を切り、自民党の政党支持率も4割程度で推移したまま。国民の過半が、政権も自民党も支持していないのである。

だからこそ「みなさまのNHK」は、「政権寄り」というレッテルを、自らはがそうと努めなければならない。そうでなければ、「ネット受信料」の創設など、国民に受け入れられるはずもない。「公共放送」から「公共メディア」への脱皮もままならないだろう。

さまざまな意見をもつ国民が等しく受信料を払っている以上、政治に翻弄されるNHKなど、だれも見たくはない。

NHKは、真に「公共財」であることを求める声が少なくないことを、肝に銘じ、実践してほしいものだ。

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水野 泰志(みずの・やすし)
メディア激動研究所 代表
1955年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で万博協会情報通信部門総編集長。現在、一般社団法人メディア激動研究所代表。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。

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(メディア激動研究所 代表 水野 泰志)

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