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「1日3回20分の座り込み」に意味ある?…ひろゆきの辺野古ツイートに基地反対派が「完敗」した根本原因

プレジデントオンライン / 2022年10月21日 13時15分

米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設で、埋め立て用の土砂が搬入される米軍キャンプ・シュワブのゲート前に座り込んで抗議する人たち=2022年8月25日、沖縄県名護市 - 写真=時事通信フォト

■ひろゆき氏vs沖縄基地反対運動

理路整然としたもの言いで相手をギャフンと言わせる「論破王」として、今や小中学生の憧れの存在になっているひろゆき氏が、ついに「米軍基地反対運動」まで論破してしまった。

きっかけは10月3日、沖縄のキャンプ・シュワブのゲートの「新基地断念まで座り込み抗議不屈3011日」と書かれた看板の前で、ピースをした写真とともにひろゆき氏がこんな投稿をしたことだった。

「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」

これが大炎上し、「座り込み」の定義や基地反対運動をめぐる激論が交わされたのはご存知の通りだが、結果から言うと、いつも通り、ひろゆき氏の「圧勝」で終わっている。

さまざまなメディアや有識者は「本土の犠牲になった沖縄を侮辱している」「沖縄の歴史を知らなすぎる」「あの人の代わりに本土の人間として謝ります」などとひろゆき氏を批判しているものの、ご本人は涼しい顔をして、今日にいたるまでスーツ姿で謝罪会見もしていなければ、釈明や訂正のコメントも出していない。

■「ひろゆき離れ」どころかフォロワー増加

むしろ、一部メディアが「ひろゆき離れ」が起きていると煽ったのを逆手に、「離れている実感はなくてツイッターのフォロワー数が増えて困ってます」なんて茶化す余裕まである。こういう状況を見れば「ああ、やっぱりひろゆき氏は正しかったんだ」と思う人もたくさんいる。

実際、件の投稿には28万以上の「いいね」がつき、ネットやSNSには「沖縄の基地反対運動に多くの人が感じている胡散臭さを浮き彫りにしてくれた」「左派メディアの反対運動をやたらと持ち上げる偏向報道ではない、客観的な情報でよかった」なんて感じで、ひろゆき氏を称賛する声も少なくない。メディアや専門家がどう負け惜しみを言ったところで、世間的には「勝負あった」なのだ。

さて、そこで気になるのは、なぜひろゆき氏はここまで鮮やかに「勝利」ができたのかということだろう。

■デモする人は「謎の人たち」と思われている

評論家のみなさんは、「日本社会の沖縄への敬意が薄れてきている」「沖縄メディアや本土の左派メディアの偏った印象操作がもう限界にきている」……なんて感じで天下国家の話に持っていっているが、これをシンプルに「口ゲンカ」と捉えると、以下の日本人の国民性が勝敗を分けたと考えている。

《大多数の日本人は「抗議活動」や「反対運動」に対してアレルギーがあって、あまりいい印象がない》

不快になる「市民」の方もたくさんいらっしゃると思うが、座り込み抗議などせず、最後まで話を聞いていただきたい。

今回の炎上でひろゆき氏が圧勝できたのは、「基地反対運動」というものが一体どういうものかを理解している人がそれほど多くないということが大きい。多くの日本人にとって、座り込み抗議やデモというのは、ニュースを通して見るだけなので、そこに関わる人たちのことを「何をしているのかよくわからない謎の人たち」と捉えている。理解されていないので、ひろゆき氏がコケにしても擁護する声が少ないのだ。

ただ、ここで誤解なきように言っておくと、「理解されていない」からと言って、それが「正しくない」というわけでもない。むしろ、基地反対運動をしている人や、シンパの人たちの立場にたてば、「間違っている」のは、ひろゆき氏なのだ。

■「座り込み」は「24時間そこにいること」ではない

今回の「0日にした方がよくない?」発言後、現地で基地反対派の女性がひろゆき氏に「24時間していないと座り込みと言わないという定義がどこにあるんですか」と詰め寄ったところ、ひろゆき氏はこう反論をした。

「辞書に書いてあります。座り込みで検索したら出てくるんで早く調べてくださいよ」

だが、これは厳密には誤りだ。辞書にはそんな座り込み期間の具体的な「定義」はない。さらに言ってしまうと、国内外の社会運動側の常識的には、「座り込み抗議」というのは「ずっとその場で座り続けること」とイコールではないのだ。

自宅から「通勤」するように抗議対象の場所へ向かって、その場で何時から何時と時間を決めて座り込む。それが終わったら帰宅して、食事をして、風呂に入って寝る。そしてまた次の日も同じことを繰り返すということが、はるか昔からコンセンサスが取れた「座り込み抗議を続けている」ということなのだ。しかも、必ずしも毎日続けなければ「アウト」というものでもない。

■「新型iPhoneの順番待ち」とは根本的に違う

わかりやすいのが、1968年に起きたカネミ油症事件だ。ライスオイル(米ぬか油)の中に混入した有害物質が引き起こした国内最大の食品公害で、現在も症状が続いて苦しんでいる人もいる。その事件を起こした企業に「市民団体」が、1970年から2012年まで42年に及んで「座り込み抗議」を続けていた。最後の日はこんな風に報じられた。

《座り込み抗議、42年に幕 「問題終わりではない」カネミ油症事件》(朝日新聞西部版 2012年3月22日)

このように聞くと、新型iPhoneを買うために3日前から寝袋持参で並んでいるような人たちが、企業の正門前で42年暮らしているような様子をイメージするかもしれないが、そうではない。実際に座り込みをしていたのは月1回ペースで、毎月第4土曜日の朝7時から午後7時までの12時間だ。

つまり、社会運動の世界では、例え月1ペースの座り込みであっても、それが途切れることなく続いていれば「42年、座り込み抗議を続けた」と言えてしまうカルチャーがあるのだ。同じことを辺野古の抗議に置き換えれば、「20分程度の座り込みを1日3回」であったとしても、それが継続できていれば、「抗議不屈3011日」になるというわけだ。

■グレタさんの座り込み抗議は毎週金曜日

これは何も日本特有の抗議スタイルではない。例えば、世界の抗議界で今やスター的な存在となった、グレタ・トゥーンベリさんを一躍有名にしたのは、15歳の時にたった一人で始めた、ストックホルムの国会議事堂前での「座り込み抗議」だった。

「気候のための学校ストライキ」を行うグレタ・トゥーンベリ(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
「気候のための学校ストライキ」と書かれたプラカードを掲げたグレタ・トゥーンベリさん(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

「SKOLSTREJK FÖR KLIMATET」(気候のための学校ストライキ)と書かれたプラカードを掲げたグレタさんの「座り込み抗議」は1年で爆発的な広がりを見せて、同世代の子どもたちだけではなく大人まで多くの人が集うようになった。

……という話を聞くと、「へえ、あの女の子、1年間も学校を休んで国会前に座り込んでいたのか、なかなか根性あるじゃないか」と誤解する人も多いだろうが、キャンプ・シュワブのゲート前と同じく“パートタイム型の座り込み”なのだ。

グレタさんは毎週金曜日だけ学校を休んで、現地で座り込んでいた。時間がくれば家に帰るし、他の日は普通に学校に通っていた。

■「抗議やデモ」に悪印象をもつ日本人が多い

多くの日本人は「座り込み」は、こちらの要求が通るまで殴られようが、蹴られようが、そこをじっと動きません、というガンジー的なものをイメージしがちだが、世界では「抗議の意志」を示すアクションのひとつだと捉えられている。

「そんなもん知らねえよ!座り込み抗議っていったら抗議のためにずっと座り続けているって受け取るのが普通だろ」というツッコミがありそうだが、まさしくその「知らねえよ」こそが基地反対派の「敗因」だ。

これまで紹介したようなことを、ほとんどの日本人は知らないし、興味もない。だから、ひろゆき氏に言われるまま納得して拍手喝采となっている。日本人の「社会運動への無理解・無関心」が、ひろゆき氏にナイスアシストとなっているのだ。

しかし、海外の反対運動の現場で同じような指摘をしても、そんなムードにはならないだろう。ストライキや抗議が日本よりも身近なものなので、「大切なのは抗議の意思を示すことなので、時間じゃないでしょ」「行動を起こして、続けていることを評価すべきじゃない」という感じで、反対運動を擁護する人々も多くいるからだ。

■若い人ほど「デモ」を否定的にみている

そのような意味では、今回の炎上騒動が浮かび上がらせたのは、実は「沖縄基地反対運動のいかがわしさ」などではない。「われわれ日本人が他国の人々と比べて、抗議やデモという社会運動をする人々に悪い印象を持っている」という厳しい現実だ。

「おかしなデマを流すな! 安倍国葬への抗議の時もすごい人が集まったじゃないか」と激しい怒りを覚える「市民」の方もいらっしゃるだろうが、そういう個々の熱意のある人々はどんな社会にも一定数いらっしゃるものだ。

あくまで国民全体で見ると、他国と比べて明らかに社会運動そのものに「アレルギー」がある人が多いことが様々な調査で浮かび上がっているのだ。

例えば、2019年にシノドス国際社会動向研究所が「生活と意識に関する調査」を実施し、20歳から69歳を対象に、社会運動に対するイメージの分析を行ったところ、若年層になればなるほど、「デモ」を否定的に見て、60代だけが突出してポジティブな印象を受けていることがわかった。

■外国人記者「高齢者が多いのはなぜ?」

具体的には、「デモの主張は社会的に偏ったものである」と20代の60%が感じているのに対して、60代は30%に留まっている。それよりもっと踏み込んで「デモは社会全体に迷惑をかけている」と感じているのは20~30代の50%だったが、50代は40%、60代は30%となっている。

実際、この調査を裏付けるような現象は現代日本のいたるところで見ることができる。例えば、2011年に起きた世界的な貧困へのデモでは、アメリカなど先進国で数千人単位のデモが起きたが、日本では呼びかけても100名程度だった。

つい最近も日本外国特派員協会(FCCJ)で国葬に反対する団体に対して外国人記者から、「高齢者が多く若者が少ないのはなぜか」という質問が飛んだほどだ。

※弁護士ドットコムニュース:「国葬反対デモは高齢者ばかり」外国人記者から厳しい質問、呼びかけ人はどう答えた?

■「座り込みで迷惑をかけるのはカッコ悪い」

では、なぜこんなにも若者はデモや抗議という社会運動にアレルギーがあるのか。ひとつには、「意味がない」「無駄なこと」と感じている人が多いことだ。日本財団が2022年に日中韓米英印の6カ国で実施した「18歳意識調査」では、日本は「自分で国や社会を変えられると思う」人が26.9%しかいなかった。他の5カ国では約78〜50%となっている。

今回、子どもたちのスターである、ひろゆき氏が基地反対運動や左派文化人たちを「論破」したことで、このような若者の「無力感」はもっと進んでいくのではないか。

マスコミは、基地反対運動は盛り上がっているように報じているけれど、“僕らのヒーロー”ひろゆき氏が現地で暴いたように、実際は、「誇張」や「嘘」によって、自分たちの活動の成果を過大にアピールしている。

やっぱり、国が決めたことに個人が歯向かったり、デモとか座り込みで社会を変えるなんてことは、できるわけがないのだ。国や社会が決めたルールには「ハイハイ」と黙って大人しく従っていた方が賢い生き方だ――。そんな「羊のように従順な若者」が増えていくのではないか。

■「長いものに巻かれる」という日本人の国民性

個人的には、それもしょうがないなあと思う一方で、「日本の貧困」に拍車がかかるのではと心配している。ご存知のように、日本は先進国の中でもダントツに低賃金で、韓国にも抜かれてしまった。この原因は色々あるが、「社畜」という言葉があるように、「強い者に命じられたことは羊のように大人しく従う」という国民性も無関係ではない。

忙しい歩行者用歩道、ビジネスマン、女性、歩いて通勤、動きがぼやけ、東京。水平構成。
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

それがわかるのが、リクルートワークス研究所が日本、アメリカ、フランス、デンマーク、中国の労働者に賃金の決定要因を質問した「5カ国リレーション調査」(2020)だ。日本以外の国では「個人と会社の個別交渉」と「労働組合による団体交渉」による影響が最も大きいが、日本だけが1割程度にとどまっている。

つまり、日本人の多くは、会社から言われたままの給料をもらって、安くても文句言わず「おしん」のようにじっと耐えて、賃上げも要望していないのだ。会社にカネのことで「楯突く」のはカッコ悪いと感じている人がかなりいるのだ。

 なぜこうなるかというと、日本人は「革命」を経験していないので、戦って自分たちの権利などを得たという成功体験がないからだ。明治維新は武士階級のクーデターだったので庶民は関係ない。このように「革命を知らない国民」は基本、長いものに巻かれる。

■「日本人の家畜化」が進んでしまうのではないか

わかりやすいのが、太平洋戦争の敗戦だ。あれほど「鬼畜米英」なんて大騒ぎしていたのに、いざ米軍がやって来ても誰もベトナムや中東の人々のように反米ゲリラになって戦わず、「民主主義万歳」の大合唱となった。

その従順さは80年近く経過してさらに磨きがかかり、今や米軍基地に反対すると、「反日左翼」と非国民扱いだ。権力者にとって、こんなに扱いやすい「羊」のような国民は世界を探してもそういない。

 こういう「日本人の家畜化」が今回の炎上で進行していくのではないか。大きなものに逆らう、反対する人たちはカッコ悪いということを、ひろゆき氏の鮮やかな論破によって、若者たちの頭により一層刷り込まれたからだ。

ま、筆者がそんなことをいくら心配したところで、ひろゆき氏にはこんな風に論破されて終わりだろう。

「それって、あくまであなたの感想ですよね」

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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)など。

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(ノンフィクションライター 窪田 順生)

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