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日本人は「みんなで貧乏」になるしかない…金融のプロが「1ドル=500円の大暴落が起きる」と断言する理由

プレジデントオンライン / 2022年10月22日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

日本円の価値がどんどん下がっている。今月20日には、一時1ドル=150円を突破し、32年ぶりの円安水準が続く。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「お金のバラマキを続けてきたツケだ。政府や日銀に止める方法はなく、日本人は貧乏になるしかない」という――。

■円安はどこまで続くのか

G20直後の15日、バイデン米大統領はドル高を容認するとともに「問題は他国の経済成長や健全な政策の欠如だ」と述べた。ことドル/円に関しては、そのままズバリの分析だ。

巨大累積赤字を異次元緩和という名でカモフラージュした財政ファイナンスにより先送りしてきた危機が表面化しようとしている。

これこそ今後とも円安が進行し、そして最後に円大暴落となる原因なのだ。

私が昨今、1ドル400円から500円を経て天文学的数字になるだろうと朝日新聞、週刊エコノミスト、文藝春秋等で主張してきた理由である。

この結論を過激だという人が多いのは承知している。しかし、私はオーソドックスな金融論を学び、それに基づきマーケットで勝負をして実績をあげ、一橋大学経済学部や早稲田大学商学研究科等でオーソドックスな金融論を教えてきた人間だ。

その人間から見ると、日銀が極めて過激な行動を取っている。

世界中で「禁じ手中の禁じ手」といわれていた財政ファイナンス(政府の借金を日銀が新しく紙幣を刷って賄う)然り。価格が変動の大きい株や長期債などを大量保有している現状も然りなのだ。

■国の借金を日銀が肩代わりする禁じ手

発行国債残高の半分以上を日銀が保有しているのは、政府・日銀がいかに詭弁を用いようとも財政ファイナンスそのものだ。

「価格が変動の大きい株や長期債などを大量保有している」のは「通貨の信用棄損を避けるため、中央銀行は価格の上下動の激しい資産を保有してはいけない」という中央銀行の鉄則を破るものだ。

私が銀行員の時は、中央銀行は価格の動きが少ない約束手形や3カ月程度の短期債しか保有しなかった。それらの鉄則や常識をことごとく破っているのが黒田日銀だ。

オーソドックスな金融論からすると、あまりに過激なことをする日銀の将来に対して、私の考える結論が過激になるのは致し方ない。

日本語で「円急落」と書かれたニュース見出し
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■円安が止まらない二大要因

今現在、ドル高/円安が進行しているが、マーケットは日米金利差をその理由としている。もちろん、これはドル高/円安進行の強力な理由だ。

私が「こんなに簡単なマーケットは、長いディーラー人生でも初めてだ。ドル高/円安が進む」と春先から声を大にして申し上げてきたのは、これが理由だ。

ディーラーとしての経験から、ドル/円の方向を決める二大要因は「日米金利差と日本の経常収支動向」だと思っていた。この二大要因が、同時に円安方向を向いているのは私の長いディーラー生活でも初めてだからなのだ。

「経常収支が赤字化すると長期金利高、通貨安又はその両方が起きる」というのはオーソドックスな金融論が教えてくれるところ。

日米金利差拡大はいろいろなチャネルを通じてドル高/円安を推し進める。

まず、投機筋によるドル高進行だ。低い金利の円を借りて高金利のドルに換えドル投資するキャリートレードがその1例だ。ただしマスコミや識者がしばしばキャリートレードに触れるが、実際にそれをやっているのはミセス・ワタナベがやっている(注:日本人の個人FXトレーダーのことを海外ではなぜかミセス・ワタナベと呼ぶ)FXくらいだ。

■円売り・ドル買いでぼろ儲けの「投機筋」

ヘッジファンド等の日米金利差利用の勝負は、為替先物で行われる。一般の方は為替の直物と言って、今日、ドルと円を交換する(銀行の窓口で円と当日交換できるが、プロ同士は2日後)のが通常だ。

一方、輸出入やヘッジファンドが多用する先物とは、先々の日(例えば1年後)に決済(円とドルの交換)をするのだが、その時のレートを今日決めておく取引だ。理論的に日米金利差が開くとその先物のドル価は下がる。

例えば今直物が150円、1年の先物が140円だとする。それが日米金利差がさらに開くと110円へと下落する。

あなたは買いたくならないか? もっと日米金利差が開き、1年後の先物レートが80円になるなら、あなたのドル先物購入意欲は更に増すだろう。1年たって、その時点での直物レートが150円と本日と変わらなければ、1年前に約束した80円でドルを引き取り、直物市場で150円で売れば、ぼろ儲けだからだ。

このように日米金利差が開くと投機家が先物のドル買いに殺到する。(少し専門的になるのだが)ドルの先物レートは「直物の買い」と「直先の幅」の取引の合算。したがって魅力的になった先物のドル買いによって直物のドル買い圧力が生じるのだ。だからドル高。

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写真=iStock.com/sommart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sommart

■「マーケットが既に織り込み済み」という解説はウソである

よく「金利差が開くことはマーケットが既に織り込み済み」などとトンチンカンな解説をする人がいるが、そのような人は素人だと思った方がいい。

「上記の取引が増えるだろうからドルが上がるだろう」との先読み(=織り込む)は存在するが、上記の取引自体は、実際に日米金利差が開いた後でないと出来ないからだ。なにせそれまでは魅力的なレートが出現しないからだ。

以上のような投機家の動きだけでも充分大きな圧力だが、日米金利差が開くと実需のドル買いもドルを押し上げる。

ドルで運用する資金を円で調達しようという行為が、その一例だ。

■投資の神様・バフェット氏も日本円で資金調達

以前、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが円の社債を発行した際、日本の株関係者は、「バフェット氏が今後日本株を買う証拠だ」と大喜びをしたが、私はSNSに「そんなことは無い。バフェット氏はさすが頭がいい。円で資金調達し、米国でのドル投資に使うだろう」と書いた。

日米金利差が開けば、このようなオペレーションが山ほど出てくるだろう。それが経済的に合理的だからだ。

世界で最も低い金利の円で資金を調達し、ドルに換えそのドルで投資(設備投資などを含む)をする。為替ヘッジはしない。満期になり借金を返す時に円安が進んでいれば、借りた時よりはるかに少ないドルで借金を返済できる。マイナス金利での資金調達、すなわち借金をして金利が儲かることが可能になるのだ。

1ドル100円の時、1億円をドルに換えて、100万ドルを手にする。そのドルで設備投資をする。超低金利だから支払う円金利は少ない。満期の時にドルが1ドル=1000円と円安が進んでいれば、10万ドルを円に変えて1億円の借金の返済が完了する。100万ドルの融資金額を得ても、満期の時には10万ドルの返済で済むわけだから、こんなにおいしい話は無い。

円は世界の調達通貨になるということ。彼らが借りた円をドルに換えることでドル高が進行する。

このように日米金利差拡大の為替に対する影響は非常に大きい。

■円安の原因は「政府・日銀の失敗」

そうは言いながらも、この日米金利差要因だけでは1ドル180円から200円くらいまでの円安進行がせいぜいだろう。

さらに強力な円安/ドル高要因は、日本のマーケットでは全く語られていないが、お金の量の日米の差によって起こると思っている。金利ではなく量の話。この要因で、私は1ドル400円から500円までの円安/ドル高が進むと考えている。

現在の世界的インフレがなぜ起こっているのか? コロナ後の回復需要増、中国のゼロコロナ政策、ウクライナ紛争などによる供給制約が原因だと思うとマーケットを読み間違える。

世界の中央銀行や政府は、そのように分析で自分たちの政策ミスの責任を回避したいだろう。しかしインフレの主たる理由は政府、中央銀行の政策ミスだ。

衆院予算委員会で立憲民主党の階猛氏の質問に答弁する日本銀行の黒田東彦総裁(左手前)。右端は岸田文雄首相=2022年10月18日、国会内
写真=時事通信フォト
衆院予算委員会で立憲民主党の階猛氏の質問に答弁する日本銀行の黒田東彦総裁(左手前)。右端は岸田文雄首相=2022年10月18日、国会内 - 写真=時事通信フォト

コロナ対策のための財政ファイナンスでお金を供給し過ぎた。少なくともコロナ禍のような緊急時に財政出動、財政ファイナンスをしたいのなら平時には均衡財政を守らねばならない。

原因が金余りのインフレならば、余っているお金を吸収しなければインフレは収まらない。悪い経済ニュースが出るとすぐNY株価が反発するのは、お金が余っている証左だ。

■インフレの原因は「バラマキによる金余り」

余っているから「もう底値だろう」とお金が再度株式市場に戻ってくる。金が余っていなければ、購入する金が無いから株価は急落を続け、インフレは鎮静化する。特に資産インフレによるインフレは、だ。

「米国不動産価格がピークを打ったからもうすぐインフレが収まる」の論考も散見されるがとんでもない。

不動産価格高騰と住宅ローン金利高騰のせいで購入をあきらめた人が賃貸市場になだれ込み、賃貸市場は非常にタイトで家賃の値上がりが激しい。借家借地法が無く、賃借人の立場が賃貸人の立場と同等な米国では賃貸料の高騰は、新規賃貸人だけでなく賃借人全員に影響する大きな社会問題だ。

金が余っている状態では、少し不動産価格が下がると、貸家生活の人が持ち家に切り替えようと不動産価格は再度上昇に向かうと思われる。

金が余っている限り、株や不動産の下落は限定的で、いつまでも資産効果(お金を持っている人がお金持ちになったつもりでお金を使う。それを見て株価がさらに上がるという好循環)が継続する。したがってインフレなど収まらない(注意:資産インフレが起きてもインフレが起きているとはいわれない)。

■日本のバブルと同じことが、アメリカで起きている

これは資産効果で経済が狂乱した1985年から90年までの日本のバブル経済と同じだ。

違いは、バブル期の日本は、1年に30円、40円の円高が毎年進行し、円高というデフレ要因が狂乱経済というインフレ要因を相殺していたのに対し、現在の米国は(日本のバブル時に比し)微々たるドル高しか進んでおらず、デフレ要因が無いので、CPI(消費者物価指数)も上昇しているに過ぎない。

アメリカのタイムスクエアのショット。
写真=iStock.com/NeonJellyfish
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以上のように「お金がじゃぶじゃぶの状態が問題だ」と分かってきた他国の中央銀行は、遅まきながらもQT(量的引き締め)を始めたか近々開始する予定だ。

一方の日本は、QTを始められないどころかQE(量的緩和)をやめることさえできない。新発国国債と借換債計百数十兆円を超低金利で購入してくれる機関など日銀以外には存在しないからだ。

日銀が購入せざるを得ない。入札には民間金融機関が参加しているが、それは即、日銀に転売する日銀トレードが目的だ。日銀が撤退すれば、国債市場は総崩れ(=長期金利暴騰)だ。

長期金利が急騰すれば、日銀はとんでもない債務超過に陥り、政府は支払い金利急増で予算など組めなくなる。したがって日銀は未来永劫、QEを継続しなければならない。

回収され奪い合いになるドルと毎日天から降ってきて価値が希薄化していく円、どちらが強くなるかは明白だ。これが、1ドルは400円から500円とまでドル高が進行すると私が予想する理由だ。

■日本のまねをして信用を失ったイギリス

ちなみにQTかQEかの問題ばかりではなく、今まで日銀がばらまいたお金の絶対量は他国中央銀行に比べて圧倒的に大きい。インフレの時限爆弾を抱えているということ。日銀のバランスシートは対GDPで260%を超えG20で最悪(経済規模に比し、お金を最もばらまいている=お金の希薄化の可能性が高い)だ。

また30年間で、GDPが3.5倍に拡大した米国では、マネタリーベースが9倍にしか増加していない。一方、日本は、ほとんどGDPが伸びていないのにマネタリーベースは、約14倍だ。経済が拡大にしていないのにお金をバラマキ続けたということだ。

お金の価値の希薄化が今後大きく進んでもおかしくない。このお金の大量発行は日銀が平時から財政ファイナンスを行っていたせいだ。基本、コロナ対策で財政ファイナンスに手を出してしまった他国政府とはお金のバラマキの規模が格段に違う。

他国は、日銀を「炭鉱のカナリア」として見ていたのだと私は思う。「あれほど財政ファイナンスを行っている日銀がまだこけていないのだから、多少財政ファイナンスをやっても大丈夫だろう」とのつもりだったのが、市場に足を掬われてしまったのが今回の英国だと思っている。

■ドル/円は天文学的な数字になる

日本ではほとんど話題にならないが、米国では1980年のサタデーナイトスペシャルに言及する人がローレンス・サマーズ元財務長官をはじめ少なからずいる。

サタデーナイトスペシャルとは「悪性インフレは、過剰なお金の存在のせい」と看破した当時のボルカーFRB議長が、政策の目標を金利からお金の流通量に変えた事件。金利上昇懸念や景気悪化懸念を一顧だにせず、強烈なQT(量的引き締め)を行ったのだ。それで長期金利(10年国債金利)は20%、1日の金利は24%に跳ね上がった。

デジタル表示で金融チャート
写真=iStock.com/sankai
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今は、(日本に比べればはるかに小規模とはいえ)財政ファイナンスでバラまかれたお金の量は当時より格段に多い。したがって私はサタデーナイトスペシャルの再来を否定できないでいる。

1ドル400円から500円になれば日本のインフレもすさまじいものとなるだろう。日銀への世間の「利上げ、QT要請」は非常に強くなる。それでも日銀は前述の理由で、何もできない。

なす術を失った日銀の信用失墜はすさまじく、ドル/円は天文学的数字に上昇していくと思うのだ。文字数の関係で、その後の進展は私の他の論考を参考にしていただきたい。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中受賞受章。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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