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有給休暇はない、相談できる仲間もいない…フリーランスに憧れる人が知らない独立・起業のリアル

プレジデントオンライン / 2022年10月26日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

起業や独立を考えている人は、どんなことに気を付けるべきか。経営心理士で公認会計士の藤田耕司さんは「会社を辞めると、さまざまな経費が自己負担になり、収入は増えても手取りは大きく減ることもある。会社員であることのメリットを理解しない安易な独立はお勧めできない」という――。

■独立して初めてわかる前職の恩恵

私は経営心理士、公認会計士として、心理と数字の両面から年間100件超の経営相談に乗っています。その中で独立の支援をすることも少なくありません。コロナ禍によってリモートワークが普及したことで、場所を問わずビジネスができるようになったこともあり、独立のご相談が増えていると感じます。

私自身も独立し、その支援を行っていますが、独立はさまざまな能力が求められるため、数多くの成長の機会が得られるものです。多くの方は独立前と比べて、独立後はずいぶんたくましくなっていかれます。顔つきや雰囲気まで変わる方もいらっしゃいます。そのため、独立の支援はとてもやりがいを感じるものです。

その中で、大手企業から独立した方が、独立して分かった前職での恩恵について話されることがあります。この話は独立をするかどうかの判断の精度を上げるものですので、独立を考える方にはぜひ知っておいていただきたいと思います。

■会社が負担してくれていたさまざまな経費

まず、サラリーマン時代は次のような会社が負担してくれていた経費を、独立すると全て自分で負担する必要があります。

・オフィスの賃料
・部下の人件費
・電話代等の通信費
・PCや机、椅子、コピー機等の設備費
・電車代等の通勤費
・タクシー代や新幹線代、宿代などの旅費交通費
・名刺や文房具等の消耗品
・コピーのトナー代や用紙代
・営業のための接待交際費
・HPの制作、運用費
・集客のための広告費
・研修の受講費
・資格保持者は資格の年会費

独立すると当然のことながら収入は保証されず、収入が0になる可能性もあります。その状況で上記の費用を払うことを経験すると、前職での恩恵の大きさを実感します。

また、従業員を雇う場合は、毎月の給与に関して源泉所得税と社会保険料を計算し、額面額からこれらの額を控除した後の金額(いわゆる手取り額)を支払い、年末には年末調整を行います。そして、年に一度、税務申告書を税務署に提出する必要があります。

これらの作業を税理士に依頼する場合、税理士報酬を支払う必要があります。この報酬は年間数万円から数十万円、大手企業だと数百万円払っているところもあります。

■有給休暇なんてありえない

また、サラリーマン時代は上から降ってきた仕事をこなす状況だったとしたら、独立後は、前職の会社が仕事を取るためにいかに経費をかけていたのかが分かるでしょう。顧客開拓のための交流会等への参加費や飲み代などの営業費、ウェブサイトの制作や運用維持、Web広告やチラシなどにかかる広告費など、さまざまな経費がかかっています。

ただ、これらの費用をかけたところで仕事が来る保証はありません。それでも仕事が来ると信じて自分自身で営業費、広告費に資金を投じることを経験すると、何もしなくても上から仕事が降ってきていたことのありがたさを痛感するでしょう。

ましてや有給休暇として働かなくても収入が発生する日があるというのは、独立後は考えられないことです。

■サラリーマン時代の収入と比べてはいけない

「独立して収入が2倍に!」といった記事や広告等を見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。ただ、こういう言葉を見た時、それだけの収入を得るためにどれだけの経費がかかっているのかが気になるところです。

私がお話をうかがった方々のなかには、収入は2倍以上になったものの、収入とほぼ同額の経費が生じていて利益はほぼなく、手取りは激減したという方もいらっしゃいました。そのため、サラリーマン時代の収入と独立後の収入を単純比較するのは危険だといえます。

サラリーマン時代の収入と比較するのであれば、それは独立後の収入から経費を差し引いた後の金額と比較するべきです。

また、サラリーマン時代は未経験の仕事でも上司が指導してくれて、分からないことがあれば教えてくれます。必要な知識を得るための書籍やセミナー等に関わる費用は会社が負担してくれたりもします。それでいて給料までもらえる。つまり、「お金をもらいながら育ててもらえる」状況だったわけです。

ところが、独立すると指導してくれる人はおらず、必要な知識は自分でお金を払って手に入れなければいけません。そのため、「お金を払ってでも成長していかなければならない」状況になります。

お金の問題に苦しむ男の画像
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

さらに言えば、会社勤めには仕事仲間がいることも恩恵だと言えます。独立後、従業員を雇う余裕がなければ、一人で仕事をすることになります。その状況が長く続くと寂しさがつのり、一緒に働く仲間がいることがいかにありがたいかを感じる人もいます。

■会社のブランドという大きな威光

また、会社のブランドという形でも大きな恩恵を受けていたことに気づくでしょう。特に大手企業に勤めていた場合、社名を伝えるだけで一目置かれ、取引先からも丁寧に扱ってもらえたりします。

ところが、独立するとそのブランドは使えなくなり、ブランドゼロの社名で勝負しなければなりません。

私も大手企業に勤めていましたが、独立前は社名を伝える際に誇らしく感じていました。しかし、独立後は誰も知らない自分で考えた社名を名乗ることが、とても恥ずかしかったことを覚えています。

また、大手から独立すると顧客や取引先の反応が変わることもあります。

「自分は顧客や取引先から厚い信頼を得ている。だから独立してもきっとこれまでと同じ付き合いをしてくれるだろう」

そう信じて独立したものの、独立後、前職の顧客や取引先を回っても態度が変わり、相手にされなくなったという話は少なくありません。前職時代に得ていた信頼は会社に対する信頼なのか、自分個人に対する信頼なのかで、独立後の周囲の反応は分かれます。

■サラリーマンには味わえない経験がある

そのもののありがたさは失って初めて気づくと言われますが、独立すると、サラリーマン時代には当たり前のように享受していた恩恵の大きさに気づかされます。そして、それらの恩恵のない状況で営業し、事業を軌道に乗せ、人を育て、組織を作っていかなければなりません。それが独立です。

だからといって、独立をお勧めしないというわけでは決してありません。ここでお伝えしたいのは、サラリーマンであることのメリットをよく理解したうえで、独立するかどうかを判断する精度を上げていただきたいということです。

私は独立の支援をしているので、普段は独立の魅力やメリットについてお伝えしています。冒頭でもお伝えしたように、独立は多くの成長の機会が得られるものであり、独立してたくましくなっていかれる方が非常に多いです。

独立するとさまざまな未経験のことに直面します。そして、全てのリスクと責任を負いながら最終的な意思決定を自分で行い、未来の方針を決めて前に進み続ける。これはサラリーマンには味わえない経験です。この経験を通じて、多くの人はたくましくなっていきます。

■「独立に勝る自己啓発はない」

私は独立する前の20代の頃、自己啓発本を読みあさっていました。そこである経営者からこんなことを言われました。

「独立に勝る自己啓発はない」

その言葉が気になり、独立を考えるようになりました。そして、33歳で独立し、10年以上経営を続けてきました。今はその言葉の意味がよく分かります。

スタートラインに立っているビジネスマン
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

本を読んでも得られない経験、サラリーマンでは味わえない経験をたくさんしてきました。その経験を通じてずいぶんと成長し、可能性が大きく広がったと感じています。独立して本当に良かったと思っています。

安易な独立は勧めませんが、サラリーマンであることのメリットを理解したうえで、それでも挑戦したいという方は、ぜひ挑戦されるとよいと思います。そこにはさらなる成長の機会と大きな可能性が広がっていることでしょう。

そして、勤めていた会社を辞める際には、これまで大きな恩恵を得ていたことへの感謝の気持ちを忘れないようにしていただきたいと思います。

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藤田 耕司(ふじた・こうじ)
経営心理士、公認会計士
1978年徳島県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2004年、有限責任監査法人トーマツに入社。2011年に同社を退社。2012年、藤田公認会計士税理士事務所(現FSG税理士事務所)を創設。2013年、経営と心理と会計のコンサルティングを行うFSGマネジメント株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年、一般社団法人日本経営心理士協会を設立し、代表理事に就任。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『経営参謀としての士業戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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(経営心理士、公認会計士 藤田 耕司)

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