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「起業したいって言ってなかった?」DeNA南場会長が入社4年目のエース社員に退社を勧めたワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月25日 9時15分

DeNA会長の南場智子さん、早稲田大学大学院教授の入山章栄さん、ローンディール社長の原田未来さん - 撮影=福島直樹

「優秀な人はどんどん外に出て行ってもらっている、4年もいればどこでも通用できる人材になっているので」。DeNA会長の南場智子さんはそう話す。外で活躍してもらうことで、より社員との深いつながりができているのだそう。遠心力を働かせながらも、人材を惹きつけられる企業の魅力とは。南場智子さんと、入山章栄教授にお話を伺った。
2022年9月14日(水)、日比谷ミッドタウンBASEQホールにて「ローンディールフォーラム2022」が開かれた。登壇者はDeNA 南場智子氏、早稲田大学 入山章栄氏、ローンディール社長の原田未来氏の3人。オンライン参加含む約400人の前で「企業の遠心力と求心力」をテーマにトークを繰り広げた。

■スタートアップ経験後に大企業を辞めない人は「問題」なのか

【入山】「今日のテーマで遠心力とありますけど、越境すると外に出っぱなしになる、あるいはそれがきっかけで辞めるちゃうんじゃないかって心配する大企業も多い。僕は常に辞めろ辞めろって言っているんだけど、レンタル移籍でスタートアップに行った人は実際はどうなんですか」

早稲田大学大学院教授の入山章栄さん
撮影=福島直樹
早稲田大学大学院教授の入山章栄さん - 撮影=福島直樹

【原田】「150人が大企業に戻ってきて、1年以内に辞めたのは5人ですね」

【入山】「それ問題だと思う。南場さん、どうですか。外に出たけど結局ほとんど辞めないで残ってると。これっていいことなんですかね」

DeNA会長の南場智子さん
撮影=福島直樹
DeNA会長の南場智子さん - 撮影=福島直樹

【南場】「残るのもいいとは思うんだけど、DeNAはどんどん外に出て行ってもらっています。最初の頃は囲い込みをしていたんですけど、途中から考え方を大きく変えました。入社して4年も経てばどこにでも通用するような人材に育っていますので、実績をあげた人で起業家精神を持っている人は、『そろそろいいタイミングなんじゃないの? 起業したいって言ってなかった?』って。デライト・ベンチャーズ(※)で出資したりして、独立をしてもらうわけです」

【入山】「当然ながら普通、会社ってできる人を残したいわけで。できる人をDeNAの幹部にしてサポートしてもらいたいと思うのが普通の経営者だと思うんですよね。できる人をむしろ出したいっていうその感覚は結構すごい」

【南場】「だって、絶対起業したいって人はいつか辞めるでしょう。良いタイミングで出てもらって成功したら、戦略的提携も考えられるし。とにかく中に閉じ込めるんじゃなくて開放するのが大事で、後押ししたりいろんなサポートをする中で強いつながりができる。

DeNAがたったひとつの星でいるより、外の星とつながって星座になったほうが世の中に提供できることが大きいよねっていう考えです。それでも離職率はIT業界の平均より低いし、出戻り率も高まっているんですよ。

とにかくずっとコミュニティーでつながっていて、出たり入ったりすればいいっていう考え方ですね。あと、就職しないで世界一周していましたとか、キャリアにブランクがある寄り道経験者も大歓迎ですし。で、そういう人たちもメインストリームに乗れますよってメッセージを出していくことも大事です」

【原田】「魅力的な取り組みがあるからこそ関係性が続いていくわけですね」

【南場】「そう。あとは創業当時からやっていることなんだけど、大黒柱を抜いちゃうんですよね、その組織から。大黒柱が決まってきちゃうっていうのは、すごくもったいない。配置転換ないと次の人が活躍できないから」

【入山】「抜いたらまた次の大黒柱が出てくるっていうのは面白いですね」

■外に出ていかない大企業人材

【入山】「でもこれ、DeNAだから良くて、大企業はやらないほうが良いと思うんですよね。会社っていろんな仕組みがかみ合っているから全体がうまく回っているわけで、つまみ食いしてやってもうまくいかない。そもそも『外に出てくれても構わない』って言われても、そんな人はほとんどいないのが実情」

「ローンディールフォーラム2022」の様子
撮影=福島直樹

【南場】「うちは将来起業したいとかっていう人はターゲットだし、大学生のときに起業したチームごと採用したりとか、起業家精神を重視しています」

【入山】「だから、そもそも採用の入り口が違うわけなんですよね。既存の大企業だと、いい大学出てちゃんと勉強ができる人を採ってるわけなので、無理なんですよ。だからローンディールのやっている大企業からベンチャーへのレンタル移籍は、“そうじゃない人”に火をつけていることになるので苦労も大きいんじゃないかな」

【原田】「これまで起業というとハードルが高くて超えられなかった人たちが、別の選択肢を用意することで外に出られるようになるということにも意味があると思うんですよね」

【南場】「いったん辞めて行けばいいのにって思うんだけど(笑)。でもDeNAでも、出向先で経営に触れたことでかなり育って、戻って大活躍した後に起業した例もあるので、そういうやり方でも成長はしますよね」

【原田】「レンタル移籍でいうと期間が決まっていて、背中を押されて出てくるわけなので、残してきた仲間や上司がいる状態で、なんとかしなければっていう計り知れないプレッシャーも大きいと思います」

【南場】「そうやって、人材が輝けるようなステージをまずは企業が用意しないといけないし、それが社外にあるなら行っておいでよって送り出す。優秀な人材を惹きつけるためには当然必要なことですよね」

■才能を持った人たちが夢中になれていない

【原田】「南場さんとは経団連のスタートアップエコシステム委員会でご一緒させていただきましたが、やはりその中でも人材の流動性を高める必要性はかなり議論されました」

【南場】「とはいえ、私は絶対に流動性が必要だとは思わなくて、いま目の前のことに夢中になってる人はそれをとことん極めたらいいと思っているんです。でも、やりたいことが見つからないとか夢中になってることがないっていう人は外を見たらいい。

会社の中で探してみるのもいいけれど、異動って簡単ではないので、それが聞き入れられなかったら諦めないで、外に出て行って夢中になれることはないかなって探したらいいんじゃないかな。

才能を持った人たちが夢中になれていないってすごく残念。日本ってエンゲージメントが世界の中で最も低い、つまり仕事に夢中になってないんですよ。

やっぱりそこが生産性が低い一つの大きな要因だと思うんですよね。夢中って幸せじゃないですか。やみくもに動けって言うつもりないんだけど、夢中じゃない人こそ夢中な場所を見つけたほうがいいって思います」

「ローンディールフォーラム2022」の様子
撮影=福島直樹

【入山】「外にもしかしたら夢中になれるものとか、素晴らしい機会とかあるかもしれないけど、結局出ない限り知らないままなんですよね。レンタル移籍とかで、ベンチャーに行ってすごい何か夢中になっている人たちに出会って、みたいなところから火がついていくといいのかもしれないですね」

【南場】「それ以外にも、手を挙げて『自分はこういうことやりたいんです』って言う人に、なるべくやってもらう機会をつくるとか。自分のWILLを発表した人が報われるんだっていう前例を作ることも大事かもしれない」

【入山】「ただ、元々大企業の人はWILLがない人が多い。日本の教育がそうなっているんですね。自分たちの頃は将来の夢って小学校しか書いた記憶がなくて。中高になるといきなり偏差値になって、よくわかんないけどとりあえず偏差値の高いところに行くのが偉いと。そういう時代だったんでWILLを考えてないんですよね。

それに、自分にどういう可能性があって、何ができるのかもわからない。転職サイトに登録すれば一発で市場価値がわかるんですが、大企業の人は知らないんですよね。

自分は、何ができて何をやっていきたいかが明確になれば、この企業にいたほうがいいのか、外に行ったほうが能力発揮できるのかわかるのに。自分の価値を知ると、次に移りやすいっていうのもある」

【南場】「その組織でしか通用できない人材にどんどんなっていっちゃうパターンってありますよね。それが日本の終身雇用の最大の課題」

【原田】「大企業の整った環境によって、最初の数年ぐらいはある程度までレベルが上がるという利点はあるような気がするんですよね。それが成長カーブがなだらかになってしまうことで、そのような課題を生むんじゃないかって。だからこそ、越境が新しい成長の機会となれば良いなと」

■「なぜ、自分は今この会社で働いているのか」

【入山】「僕はやっぱりスタートアップが盛り上がってほしいと思うんですが、一方で、ぜひ、大企業からもイノベーションを起こして逆襲してほしいなと。だってどう考えてもリソースは大企業のほうがあるので」

「ローンディールフォーラム2022」の様子
撮影=福島直樹

【南場】「大企業で、自分は仕事に夢中になっているっていう人たちも、スタートアップに行って、“本当の夢中”がどういうものかギャップを感じてきたらいいと思う。そうやって目線を上げることで、組織の中でどうやって火をつけたらいいのか、考えられるようになるんじゃないかなと思いますね」

【入山】「スタートアップはお金がないので、必死さがありますよね」

【南場】「机とか椅子も潰れた会社に行ってもらってきたりするわけですよ」

【原田】「レンタル移籍した人が、実際に預金残高がどんどん減っていくのを見て、本当に会社って潰れる可能性があるんだって初めて感じたと話してくれました」

【南場】「でもね、そのヒリヒリ感が夢中を生むんですよね」

【原田】「僕らとしては、外を見てきた個人が組織に働きかけられるようになるといいなと考えています。外に出ていくこともそうですが、それを社内に還元していくことを大事にしたい」

「ローンディールフォーラム2022」の様子
撮影=福島直樹

【南場】「やっぱり多様性っていうのが組織を強くする上で非常に重要なんですよね。いろんなバックグラウンドを持つ経験の多様性ですよ、ジェンダーとかじゃなくて。それが組織を強くしますし、新しい発想を生むことにもつながると思いますね。そういうバックグラウンドの多様な人材を生かす取り組みを企業がやっていくことで、夢中になれる人も増えていくんじゃないでしょうか」

【原田】「個人が夢中に働き、外に行くことが組織の力にもなる。そんな時代だからこそ、一人ひとりが自分が夢中になれることに向き合い、『なぜ自分は今この会社で働いているのか?』を語れるようになることが大事なのかもしれません」

※ DeNA発のベンチャーキャピタル

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南場 智子(なんば・ともこ)
DeNA会長
1962年、新潟県生まれ。県立新潟高校卒業後、津田塾大学へ入学。4年次に米ブリンマー大学へ留学。帰国後マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社。ハーバード大にてMBA取得。96年マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。99年、DeNAを創業。2017年3月に代表取締役会長に就任した。

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入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)他

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原田 未来(はらだ・みらい)
ローンディール 社長
2001年、創業期のラクーン(現・東証一部上場)に入社、営業部長や新規事業責任者を歴任。2014年、株式会社カカクコムに転職し事業開発担当。人材流動化の選択肢が「転職」しかないことに課題を感じる。サッカーなどスポーツの世界で行われている「レンタル移籍」に着想を得て、「会社を辞めずに外の世界を見る機会」「企業の新しい人材育成の仕組み」として企業間レンタル移籍プラットフォームを構想。2015年にローンディールを設立し現在に至る。

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(DeNA会長 南場 智子、早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山 章栄、ローンディール 社長 原田 未来 構成=小林こず恵)

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