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介護のプロが見ればすぐにわかる…認知症の兆候を示す「財布の意外な変化」

プレジデントオンライン / 2022年10月28日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/boboling

認知症を早期発見するにはどうしたらいいか。介護士の原川大介さんは「認知症の兆候として同じものを何度も買ってくる、というのが有名だが、財布にも注目してほしい。財布の中身をうまく認識できないようになると、小銭がたまってパンパンに膨らんでしまう」という――。

※本稿は、原川大介『わたしが、認知症になったら』(BOW BOOKS)の一部を再編集したものです。

■服の着方がわからない、ティッシュを食べる…

日本神経学会によると、「認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態で、それが、意識障害のないときに見られる(一時的ではなく継続している)」と定義されています。

要は、「後天的な脳の障害によって、いままでできていたことの一部ができなくなったり、わかっていたことの一部がわからなくなり、著しい生活のしづらさが生じている状態」です。

具体的な症状としては記憶障害が有名ですが、「料理が作れない」「服の着方がわからない」といった遂行機能(実行機能)障害や、「人の顔を識別できない」とか場所や時間の感覚がわからなくなる見当識障害という症状も段階的に表れます。また、「お花やティッシュを食べる」とか「被害的な思い込み」などといった行動・心理症状が見られる場合もあります。

ひどい酔っ払いも「トイレ以外でおしっこをしてしまう」(場所の見当識障害)とか「記憶がなくなる」(記憶障害)ことがありますが、一時的であるため認知症とは言いません。

■昨日の夕食が思い出せないのは「もの忘れ」

認知症の多くで記憶障害が見られますが、認知症でなくても、人は加齢とともに「もの忘れ」が表れます。「何かを探しに2階に来たけど、何を探しに来たのかを忘れてしまった」などという経験は若い人でもあるでしょう。

この二つの違いは何でしょう? 加齢に伴う「もの忘れ」では体験の一部を忘れるのに対し、認知症による記憶障害は、体験のすべてを忘れてしまうと言われています。

たとえば、加齢に伴う「もの忘れ」では、昨日の食事のメニューを思い出せなかったりしますが、認知症による記憶障害は、食事をしたこと自体の記憶がポッカリと抜け落ちてしまうのです。

ただし、「加齢に伴うもの忘れは自覚があるが、認知症の人は自覚がない」は、事実ではありません。

「ボケ、タスケテ……」これは、認知症と診断された男性が書いたものです。一人で暮らすご自宅に、何枚も何枚も書かれていました。夜中に一人で書いたのだと思います。「認知症の方は、自分が認知症だという自覚がない」は事実ではありません。

■兆候は買い物と財布に表れる

認知症の兆しとして有名なのは、「同じものを何度も買ってくるようになる」です。

たとえば、十分にあるはずの髭剃りクリームをまた買ってくる。最初は本人も家族も笑って済ますが、それが何度も続く。本人も内心「やばいな」と思っているから押し入れに隠す。家族が押し入れを開けて、髭剃りクリームが10個もあることに驚き、「これは異常だ。もしかしたら」と事態を深刻に受け止めます。

あるいは、「お財布がパンパンに膨らむこと」があります。小銭がたまっているのです。買い物をして、たとえば「134円です」と言われても、「料金が134円であること」と「自身の財布の中身」を認識して、財布の中から「百円玉を1枚と十円玉を3枚と一円玉を4枚取り出せばよい」という理解や判断がスムーズにできない。だから十分な小銭があっても、千円札での支払いが増え、結果的に小銭がたまりお財布が膨らむというわけです。

■オールバックのお洒落な夫に起きた異変

Dさんは昔からお洒落な男性で、髪はオールバックに決めていたそうです。奥さまがDさんに一目惚れして結婚。それから50年が過ぎました。Dさんは高齢になったいまでも、出会った頃と同じオールバックです。

ある日、奥さまが洗面所の棚を開けたら、「以前から主人が愛用していた整髪剤が何個も入っていた」そうです。御主人に「どうしたの?」と聞くと、曖昧にごまかされた。また数日後、増えていた。「なんだかおかしいな」とは思ったけど、「うちの主人に限ってそんなことはない」と認められなかった。でも、「主人の髪が、普段よりも何倍もガッチガチに固まっていた」。

整髪料の購入を忘れて、何度も買っていただけではなく、整髪したことを忘れて、すでにガチガチに固まった頭に整髪料をつけて、さらにガッチガチにしていた。「ガッチガチに固まった髪を見て、ようやく『これはやばいな』と認められた」。

いまでこそ、奥さまが笑い話のように聞かせてくれますが、当時は本当にショックだったとおっしゃいます。

日常の中に、認知症の兆しはあるかもしれません。しかし本人も家族も、それを認めることは容易ではありません。

■85歳以上の2人に1人が認知症を発症する

日本には、2020年時点で、認知症を発症している人が約500万人いて、65歳以上では約7人に1人(約15%)の割合です。さらに2025年には、その数は730万人に増加し、65歳以上の方のうち、5人に1人(20%)の割合になると推計されています。

歩行補助器具を持つ高齢者
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

高齢者の増加に伴い、認知症の人の数が増えることは当然ですが、なぜその割合まで増えるのか? 不思議に思いませんか?

それは、認知症の有病率が、年齢が上がれば上がるほど高くなり、日本は平均寿命が延びている(75歳以上とか特にお年を召している方の割合が増えていく)からです。

すでに65歳以上の方の15%が認知症だと書きましたが、実は65~75歳未満に限れば有病率は3%にすぎません。75~80歳未満でも約10%、80~85歳未満で約22%、85歳以上で50%に達します。

■確実な予防法を実行できる人はなかなかいない

ときどき、「認知症になるくらいなら、死んだほうがマシだ」という方がいらっしゃいますが、それが本音で本気でそれをかなえたいのであれば、75歳までに死ぬべきです。そうすれば、97%の確率で「認知症になる前に死にたい」という希望が実現できます。

でもそう言っている方が60代で病を患うと、「病と闘って勝つこと」を目指したりします。それは客観的事実として、「せっかく訪れたチャンスを、自ら逃している状態」です。

どうやら、自分が言ったことを忘れて、あべこべな行動をとるのは、認知症の人に限らないようです。それを責める気も病と闘う人を否定する気もありません。しかし、自分の言葉に責任を持てないのであれば、現に認知症の人や、そのご家族の姿を見ながら、「こうなるくらいなら死んだほうがマシだ」などという、人の尊厳を踏みにじる発言は控えるべきです。

なによりも、家族の苦悩や頑張りのおかげで、認知症を持つ本人の生活に、しあわせの瞬間があることは、紛れもない事実なのですから。

先述した通り、認知症を予防するいちばんたしかな方法は「長生きしないこと」です。でもそれは多くの方にとって非現実的です。適度な運動などといった現実的な予防についても、「認知症になる確率を少し下げられる場合がある」程度の認識がよいと思います。「できる予防をすべてやったら認知症にならない」「やらなかったら認知症になる」ということはありません。

■家で脳トレよりも外へ出かけよう

認知症とは、「認知機能が著しく低下した状態」とも言えます。認知機能とは、「物事を認識し理解して判断する総合的な機能」です。自転車に乗れるようになるためのいちばんたしかな方法は、自転車に乗ることです。認知機能を維持するための有効な方法は、認知する機会を多く持ち続けることでしょう。

「外に出ること」は、認知症を予防する効果があると言われています。なぜなら、外に出ると屋内よりも認知する機会が増えるからです。たとえば、①「車が来た」と認識し、②「このまま歩いては危ない」と理解して、③「立ち止まる」と判断する。まさに【認知=認識→理解→判断】です。だから認知症を予防したければ、家の中で脳トレをするよりも外に出なさいというわけです。一理ある気がします。

原川大介『わたしが、認知症になったら』(BOW BOOKS)
原川大介『わたしが、認知症になったら』(BOW BOOKS)

そういう意味では、現代社会は、認知症になる可能性が高まる社会だと言えます。自動化やAIの活用などにより、日常生活において、人が物事を認知する機会は減っているからです。たとえば、トイレに入ると自動的に便座が上がり、用を済ますと勝手に洗浄されるものもあります。

以前であれば、酔っぱらって帰った夜中でも、①トイレに入ったが「便座が上がっていない」と認識し、②「このまま用を足したら、便座に尿が付き、あとで娘に叱られる」と理解して、③「便座を上げてから用を足し、レバーをひねって水を流して、叱られないために、また便座を元に戻しておこう」と判断する必要がありました。「あえて先進技術を取り入れずに、昔ながらの不便な生活をすることが、認知症を予防する」なんてこともあるかもしれません。

一方、就労年齢の高齢化は、認知症予防の観点からもプラスの効果が期待できます。仕事は【認知=認識→理解→判断】の連続だからです。

■認知症で辛い思いをすることの予防法

また、認知症自体の予防だけではなく、「認知症になったときに辛い思いをすること」を予防する視点も必要です。たとえば、「自分が認知症になっても、妻に優しくしてもらえるように、いまから妻に優しくしておく」とか「認知症になって自分の希望を伝えられなくなったときに備えて、自分の希望を書いておく」などです。

そういえば、地域住民に向けた認知症講座で、「認知症予防のためには、①身体を動かすこと、②心が動き感動すること、③頭を使うことが有効です」とお伝えしたところ、「じゃあ恋をすればいいんだね。恋をすれば頭も心も腰(身体)も動くから!」とハツラツと言った女性がいました。この方は、つい先日、認知症と診断されたばかりだということでした。隣にいた家族は照れ臭そうでしたが、本人を咎めはせず、会場は温かな笑いに包まれました。

この方は、認知症は防げませんでしたが、認知症になったときに辛い思いをすることの予防は、成功したと言えそうです。

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原川 大介(はらかわ・だいすけ)
介護士
1984年生まれ、静岡県焼津市出身。2004年より、社会福祉法人東益津福祉会で14年間、その後、有限会社長者の森で3年間、介護士、生活相談員、ケアマネジャーなどとして、認知症を持つ御本人と御家族への介護・支援に従事。認知症介護実践研修の指導者として、主に家族支援の講師を担い、毎年多くの介護士を育成。現在は、個人事業主として、介護事業の経営実務と運営支援を業とする。著書に『わたしが、認知症になったら』(BOW BOOKS)がある。

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(介護士 原川 大介)

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