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「政治家はいずれネコやゴキブリに置き換えられる」イェール大学助教授・成田悠輔の"政治家不要論"

プレジデントオンライン / 2022年10月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SB新書)――。

■イントロダクション

近年、世界中のさまざまな論者が、資本主義や民主主義の限界、危機、衰退などを主張している。

民主主義については、グローバル化や情報化などによって社会の仕組みが大きく変わったにもかかわらず、政治システムが旧態依然としたままだという指摘がよくみられる。では、何をどのように変えればよいのだろうか。

テレビやネットメディアで注目される若手研究者・事業者である著者による本書は、選挙制度に基礎を置く現代の民主主義が「劣化」してきていることを検証し、それに代わる、より正確に民主主義の理念を具現化する仕組みとして「無意識民主主義」という大胆な提案を行っている。

無意識民主主義とは、選挙結果だけでなく、インターネットや監視カメラが捉える会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクションなどの匿名データを収集し、そこに現れる「民意データ」を、アルゴリズムで解析し、政策や意思決定に結びつける、というものだ。これが実現すれば、政策は自動で無意識的に実行されるものになり、意思決定者としての政治家は不要になるという。

著者は、イェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表。専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。

A.はじめに断言したいこと
B.要約
C.はじめに言い訳しておきたいこと
1.故障
2.闘争
3.逃走
4.構想
おわりに:異常を普通に

■今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明が必要

民主主義が、重症である。ネットを使って草の根グローバル民主主義の夢を実現するはずだった中東の多国民主化運動「アラブの春」は一瞬だけ火花を散らして挫折した。むしろネットが拡散する煽動やフェイクニュースや陰謀論が選挙を侵食。北南米や欧州でギャグのような暴言を連発するポピュリスト政治家が増殖した。

必要なのは、民主主義を瀕死に追いやった今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明である。民主主義の理念をより正確に余すところなく具現化する制度の発明と言ってもいい。

まずは想像してほしい。そして誰も選挙に行かなくなった。そんな選挙なしの世界でなお、民主主義は可能だろうか? ただの空想ではない。80年に75%だった衆院選の投票率は右肩下がり、17年には54%にまで衰えている。参院選にいたっては、19年の投票率が48%と半数を下回ってさえいる。有権者の過半数が国政選挙への参加を放棄しているわけだ。民主主義が、そして政治が選挙と運命共同体であるなら、民主主義もまた老衰の真っ只中ということになる。

いや、違う。選挙なしの民主主義は可能だし、実は望ましい。そう言いたい。選挙なしの民主主義の形として提案したいのは「無意識民主主義」だ。センサー民主主義やデータ民主主義、そしてアルゴリズム民主主義と言ってもいい。これは数十年をかけて22世紀に向けた時間軸で取り組む運動だ。

■会議や街中、家の中に溢れるあらゆる「民意データ」を集める

民主主義とはデータの変換である。民主主義とはつまるところ、みんなの民意を表す何らかのデータを入力し、何らかの社会的意思決定を出力する何らかのルール・装置であるという視点だ。

データ変換としての民主主義の一番わかりやすい例はもちろん選挙だ。選挙は、ある意味でただのデータ集計である。政治家や政党のような選択のための単位や記号を人工的に作り、並んだ記号のうちのどれが好きかを各投票者が投票する。その投票情報が多数決のような何かの固定ルールで集計され、誰が勝つか、どの政党が政権を握るかが決まる。投票データを入力して、そのデータによって「どの政治家が当選するか」「どの政党が政権を握るか」を決めて出力する粗いルールやアルゴリズムが動いている。

だが、立候補した少数の政治家・政党の中から好みの一つを選んだだけの投票データは、投票者の意思のほんの一部しか反映していない貧しいデータなことは誰の目にも明らかだろう。民主主義が用いるデータの質や量、そしてデータ処理の方法にはいくらでも改良の余地がある。

民主主義的意思決定というデータ変換における「入力側」と「出力側」を質量ともにドカッと押し拡げることができる。まずやるべきは、データをもっと解像度高く、色々な角度から取ることだ。現代では、選挙だけに頼らずとも、人々の意思や価値観、欲求に関するデータが日々湧き出ている。

日本で選挙に関する統計や報道を見ると、粗い集計情報しか出てこないことが多い。各政党・候補者が何議席を取ったといった情報だ。だが、選挙で投票した人は色々な属性を備えていて、過去にどういう経緯を辿ってその選挙に来たかという来歴情報をまとっている。たとえば、何歳の人で、性別は何で、家族構成がどんな感じなのかといった情報もあれば、有権者の行動とその背後の思考と感情をより解像度高く紐解ける。

成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SB新書)
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SB新書)

民意のデータ化は、選挙という伝統行事を飛び出して街中の声にも及ぶだろう。コミュニケーション可視化システム「Transparent」(Audio Metaverse社)に、音声感情解析具「Empath」(Empath社)を融合した装置は、会議室内の意見や声の盛り上がりを記録し可視化する。ハイラブル社も、オンライン会議における各参加者の発言回数や量などをデータ化して見える化してくれる。MITのデブ・ロイが自らの家族を実験台にした「Human Speechome Project」は、家の中の家族の声と体の動きを無数のマイクとカメラから多点常時観測し、多重時空間動画として蓄積する。

さらに、監視カメラ・マイクが捉える政治家や政策への賞賛や嘲笑、悪口……サービス提供者のもとにデータとして記録されているそういったデータだって、民意の現れである。その民意データを匿名化した上で社会的意思決定になぜ使ってはいけないのかと素朴に考えると、実はあまり深い理由はない気がしてくる。

世の中に存在している、そしてこれからの社会に存在するであろう、私たちが一体どんな政府や政策を望んでいるのかということを語ってくれる情報すべてを汲み取ってしまおう。

■政策を決定するアルゴリズムをオープンソースで開発

会議・街中などから染み出した民意データにはもちろん歪みがある。だが、選挙での投票もまた、十分に歪んでいる。テレビやSNSに垂れ流される政治家の作り込まれた言葉遣いや表情に誘導されていることを示す様々な証拠があるからだ。私たちにできるのは、選挙やTwitterや監視カメラのような個々のチャンネル・センサーへの過度の依存を避け、無数のチャンネルにちょっとずつ依存することで、特定の方向に歪みすぎるのを避けることだけだ。

選挙の街宣演説
写真=iStock.com/imacoconut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

ヒントをくれるのが機械学習・人工知能・統計学の伝統だ。こういった分野では、入力情報Xから情報Yを正確に予測することが求められる。画像検索エンジンを作るためには、Xが写真画像のピクセルデータだったときに「その画像中にネコが含まれているか」などといったYを予測・判断することが目標になる。

XからYをうまく予測・判断してくれるアルゴリズムを作るためによく使われるトリックがある。まずXからYを予測するアルゴリズムをたくさん作る。そしてそれらアルゴリズム群の加重平均をとって最終的な予測アルゴリズムとする方法だ。アルゴリズムたちの平均を取るので平均化と呼ばれたり、アルゴリズムたちの集合を考えるのでアンサンブル学習と呼ばれたりする。

Xが民意データ、Yがとるべき政策とすると、民主主義の課題はXからYを決める適切なデータ変換ルール・アルゴリズムを作り出すことになる。直接は見えない民意Xを様々なセンサーから読み取ってその平均やアンサンブルを取る。アンサンブルの上に芽吹くのが、無意識民主主義である。

一般意思が練り込まれた非構造データを食べて意思決定するのが無意識民主主義アルゴリズムだ。このアルゴリズムのデザインもデータによって行われる。人々の民意データに加え、GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングといった成果指標を組み合わせた目的関数を最適化するようにアルゴリズムが作られる。

無意識民主主義アルゴリズムの学習・推定と自動実行のプロセスは公開されている必要がある。オープンソース的な開発コミュニティが検証・更新を行い、ブロックチェーンに基づく自律分散型組織(DAO)で動く。

■「政治家」は生身の人間でなくてもいい

無意識民主主義は、生身の人間の政治家を不要にする構想でもある。現在間接代議民主主義で政治家が担っている役割は主に二つある。(1)政策的な指針を決定し行政機構を使って実行する「調整者・実行者としての政治家」、(2)政治・立法の顔になって熱狂や非難を引き受け世論のガス抜きをする「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」である。

私は「調整者・実行者としての政治家」は、ソフトウェアやアルゴリズムに置き換えられ自動化されていくと思っている。そして「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」はネコやゴキブリ、VTuberやバーチャル・インフルエンサーのような仮想人に置き換えられていくと読んでいる。

ネコ
写真=iStock.com/suemack
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/suemack

■コメントby SERENDIP

著者は本書冒頭に差し込まれた「はじめに言い訳しておきたいこと」の中で、自身は政治や政治学、政治史に関して素人だが、その素人感覚と、研究者として培った推論力や分析力、政治家の言葉や表情から得たインスピレーションなどを混ぜ合わせてどんな跳躍やアイデアが出るかの「実験」だと言っている。確かに無意識民主主義は、発想の方向としてはユニークであり、民主主義の本質をあぶり出すものといえるかもしれない。実現の可能性となると、これを誰が主導して改革していくかが大きな問題となるのではないだろうか。

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