医者は「なぜ薬で病気が治るのか」はよくわかっていない…私が「健康主義とは下品でバカなこと」と考える理由
プレジデントオンライン / 2022年11月11日 14時15分
※本稿は、大脇幸志郎『運動・減塩はいますぐやめるに限る!』(さくら舎)の一部を再編集したものです。
■医者にはなにも説明できない
医者は下品です。医学は下品です。健康について考えることそのものが、下品でバカなことです。
ですから、病気について、あるいは体について、説明を求めることも、下品でバカなことです。
いまの世の中では、健康を神とし、医者を神官とする奇抜な宗教がはびこっています。
教徒たちはあらゆることを健康の神話に回収しようとします。
新しいものを見れば「体にいい」か「体に悪い」かに振り分け、人の行動を脳とかゲノムで説明しようとし、体に起こることはなんでも医学の言葉で説明しようとします。
あげくの果てには、「雨の日に腰がジーンとしてくるので、痛み止めを使うほどではないのですが大丈夫でしょうか」というわけのわからない相談が医者に持ってこられます。
医者にはなにも説明できません。医者は生理学者ではありませんから、そもそも人体のしくみをよく知っているわけでもありません。教科書に載せられるていどの少数のパターンに病名をつけて、診断とか治療に関係するところをつまみ食いして知っているだけです。
治療できないものは説明してもムダですから、知りません。
「説明する努力をしない」という意味ではなく、本当に知りません。わかりません。
わたしもよく「わかりません」というのですが、認めてもらえず、しつこく説明を求められることがあります。そんなときはでたらめをいってごまかすしかありません。
幸か不幸か、どんなでたらめをいっても、バレる気遣いはありません。だれも正解を知らないことですから。
それでもウソの自白をするまで拷問(ごうもん)されるのはなんとも気分が悪いものです。
しかし、わけのわからない相談を持ってきた人ほど、そんなでたらめのお話にコロッとだまされて、満足して帰っていったりもします。
つまりその人はもともとべつに困っていないけれども神の呼び声が聞こえたと思ったので、治してもらいにではなく、お告げを聞きに来たわけです。
■「自然食」はまったく自然ではない
人体はよくできています。よくできていますから、医者に説明などしてもらわなくても、勝手にうまいことやってくれます。
あまりによくできているので、どういうしくみでそんなことができるのか、医者にもよくわかりません。
こういう話をすると早合点して、「人体には神秘的なパワーが宿っているから自然に還(かえ)らなければならないのだな」などと考える人が出てくるのですが、その考えは露骨(ろこつ)に矛盾しています。
医者にもコントロールできない神秘のパワーを、「自然に還る」という名のお医者さんごっこでコントロールできるはずがありません。
コントロールできるなら神秘でもなんでもないでしょう。
じっさい、自然の名のもとにおこなわれる体操だのセラピーだの自然食といったものは、ぜんぜん自然ではありません。
自然に還りたかったらサバンナにでも行って、ライオンに襲われれば土に還れるのですが。
自然という宣伝文句をつけた最新技術の産品は、人工的な印象を与えないように、より高度な技術でお化粧しているのかもしれません。
■「東洋医学を見直そう」は時代遅れ
同じように、「西洋医学にはわからないことがあるから東洋医学を見直そう」といって鍼(はり)だの薬草だのをありがたがる向きもありますが、これは少なくとも50年ほど時代遅れの考えです。
たしかに鍼で腰痛は軽くなりますし、麻黄湯(まおうとう)はインフルエンザによく処方されます。
そうした効果には西洋の医者たちがとっくの昔に飛びついてせっせと研究し、拾えるものは西洋医学の体系に取り込んでしまっています。
欧米のクリニックで鍼を打っているところはたくさんあります。漢方薬の成分についての研究も進んでいます。
数多くの漢方薬に甘草(かんぞう)という生薬(しょうやく)が含まれているのですが、甘草の有効成分のグリチルリチン酸は、もともと人体が作っているステロイドホルモンと似た作用を持っています。
つまり漢方薬の効果はステロイドの効果だったのです。
その関係がわかったことも、東洋医学を取り込む試みの成果です。
■「効かない治療」が続けられるワケ
西洋とか東洋とかとは関係なく、医学全体が、わからないことだらけのなかで、なんとなく効いていそうなものは続け、効いてなさそうなものはやめるという繰り返しによって成り立っています。
この「効いていそうなものは続け、効いてなさそうなものはやめる」というルールを小難しく「エビデンスに基づく医学」といい換えるのが最近のトレンドですが、べつに変わったことではありません。
たんに1980年代までの医学にはあまりに「効いていなくても続ける」ことが多かったので、見直しをしようという運動が一時盛り上がっただけです。
いまでも効かない治療はあちこちで続けられています。
なぜ効かないのかはあとでわかることもありますが、たいていはぼんやりしたままです。
「こんな理由で効かないんじゃないか」と想像することはいくらでもできますが、それを生理学的に証明するのは難しいうえに、新しい治療の発明に結びついたのでなければ、医師がいちいち知っていても意味がありません。
医師は学者ではないのです。あなたはどうですか?
■テレビを捨てよう
テレビはぜんぶおまかせメニューですから、だいじなところは短く圧縮され、画面はあっというまにどうでもいいTシャツのたたみ方に切り替わります。
問題はそういう余計な情報が単に時間のムダになるだけでなく、本当に必要なことから注意をそらしてしまうことです。
テレビを捨てる最大の理由は、情報の質が低いからではなく、情報だからです。
情報は減らすものです。ひとりの生活のために本当に欠かせない情報はごくわずかです。使えない情報はあればあるほど、ほかの情報を忘れさせ、混乱させ、判断のじゃまをします。
たまに情報不足で失敗すると、もっと情報を集めようと思ってしまうものですが、そういう安直な反応こそ考えが足りません。
わたしは天気予報をほとんど見ません。どこに行くにも折りたたみ傘を持ち歩いているからです。都内の打ち合わせに出かけるのに電車の時刻を正確に覚えて出ることもありません。いつも早めに出るからです。
どの店で買物をするとポイントがつくとか、どの店でおまけがもらえるかといった情報をいくら集めても、大局を変えるほどの差にはなりません。
そんな細かい違いを知る必要はないし、知っていることがむしろ害になります。
「ちょっと視界が悪いな」と思うくらいに情報を絞り込み、そのぶん浮いたお金と時間を何かあったときのために残しておけばいいのです。
テレビを捨てましょう。
■この本も捨てるべき
だいたいこの本だって同じことをしています。「情報を減らせ」といいつつ、この本自体が情報です。ですから、この本も捨てたほうがよいのです。忘れたほうがよいのです。
かんじんなのは、読者がこれまでどれほど多くの情報に振り回されて自分を見失ってきたかを思い出し、判断に迷ったらテレビやあやしい本ではなく自分の胸に相談するようになることです。
わたし自身も、テレビを捨てろ捨てろといいながら、捨てていません。妻の楽しみを奪わないことのほうがだいじだからです。何を優先し、何を目的とするかを自分で決めようというのがわたしの主張なのです。
そして、それはいちど伝わってしまえばわざわざ思い出す必要もなくなるものなのです。
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医師
1983年、大阪府に生まれる。東京大学医学部卒業。出版社勤務、医療情報サイトのニュース編集長を経て医師となる。首都圏のクリニックで高齢者の訪問診療業務に携わっている。著書には『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』、訳書にはペトルシュクラバーネク著『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(以上、生活の医療社)、ヴィナイヤク・プラサード著『悪いがん治療 誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(晶文社)がある。
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(医師 大脇 幸志郎)
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