「理想は20時就寝」不登校や糖尿病のリスクが高まる…睡眠学の専門家が"夜型の子供"を本気で心配するワケ
プレジデントオンライン / 2022年10月30日 11時15分
※本稿は、木田哲生、三池輝久『親子の「どうしても起きられない」をなくす本』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■人は本来であればどの程度の睡眠が必要なのか
入眠が深夜になりやすい現代人は、平日の睡眠がどうしても不足しがちです。では、本来であればどれくらい眠るのが望ましいのでしょうか。年齢ごとに解説していきます。
ヒトが生まれてから生後1カ月までを、新生児期と呼びます。新生児は、睡眠と覚醒を3〜4時間ごとに繰り返す「超日リズム」のなかで生きています。昼夜の区別が明確ではなく、1日中眠りを中心として過ごします。1日の睡眠時間は13〜16時間程度です。
生後2カ月を過ぎ乳幼児期に入ると少しずつ夜にまとまって眠るようになり、5〜6時間睡眠が持続するようになります。生後3〜4カ月では8〜9時間、6カ月では個人差はあるものの8〜11時間、ほぼ夜を通して眠りが持続するようになります。幼児期から小学校低学年の子どもは、乳幼児期とほぼ変わりなく、9〜11時間程度の睡眠が必要です。
小学4年生では若干短くなって9時間半くらいの睡眠でも良いとされています。小学校高学年になると少しずつ必要な睡眠時間も短くなってきます。小学5年生では9〜10時間程度になります。中学校に入学すると、小学校との生活の変化についていけず、不適応を起こし不登校やいじめが発生しやすくなる時期、いわゆる中1ギャップが待っています。
これは中学入学後の生活環境の急激な変化にともない、平均睡眠時間が30分以上短くなる現象が関係していると考えられています。この急激な生活の変化に脳機能がついていけないのは仕方がないかもしれません。しかし、お子さん一人ひとりが自分で意識できるように、対応を考えるべきでしょう。
■平日夜の睡眠時間が6時間を切る中高生は6割以上
では、具体的に「どれくらい眠るか」を考えていきましょう。一般には、起こされずに自然に目覚めることができる睡眠時間を考えればいいですよ。休日の朝、目覚ましや家族に頼らず、自然に目覚めたときの睡眠時間が、お子さんが必要としている夜間基本睡眠時間(Nighttime basic sleep duration=NBSD)に近いのです。
図表1にある推奨されている睡眠時間と、お子さんのNBSDを比較してみてください。「平日はなかなか起きることができないのに、休日は早起きして好きなことをしている」というお子さんは、そのままの睡眠時間をNBSDとして考えることはできません。
そのような睡眠が続いている場合は、平日の朝6時に起こされずに目覚めるには何時に眠れば良いかを、前日早めに入眠することで探してみてください。そこではじめてお子さんの適切な入眠時刻がわかります。最近の熊本県のとある市のデータによると、平日夜の睡眠時間が6時間を切る中高生は60パーセント以上いると報告されています。
■小学生は20時に寝て6時に起きるのが健康的
ここまでのお話をまとめ、お子さんたちが学校生活を生き抜くためのありかたについて、ここでは考えてみたいと思います。提案するのは、次の3つの生活スタイルです。
①早寝・早起きスタイル
文部科学省が推奨する「早寝・早起き・朝ごはん」運動のような、昔からの伝統的な生活スタイルです。まず、入眠と起床のスケジュールを考えます。どの年齢にもかかわらず、学校生活を送るお子さんの起床時刻は、朝6時台がおすすめです。
理由は、比較的ゆとりをもって7時頃に朝食をとれること、小学生では7時15分から30分頃の集団登校に参加し、8時頃に始まるクラス会や授業にも参加しやすいからです。全国的にも、多くの人びとの朝の起床時刻は6時台だと報告されています。つまり、日本社会が、朝6時台の起床を求めているとわかります。
そうすると入眠時刻は、個人が必要とするNBSDにより決まります。5歳頃までに短く、最終的にはなくなっていく昼寝による変化はあるものの、NBSDは9歳頃まで変化が生じません。NBSDの平均が10時間程度である幼児期〜小学校低学年のお子さんの場合、朝6時台の起床を守るために適切な入眠時刻は平均して20時台であることがわかります。
この計算によると、NBSDが9時間の場合の適切な入眠時刻は21時台、8時間では22時台と設定できます。「友達が6時間しか寝ていないから自分も6時間で」というのは、自分自身の健康を守ることにはなりません。お子さんが自主的に決めることも大切です。
■生活リズムのずれが気になる場合は、処方薬に頼るのもアリ
②週に数回の早寝日をつくるスタイル
休日の前を中心に週に1〜2日、できる限り早い時刻に寝てしまう生活方法です。たとえば、入眠時刻は23時半〜24時と遅めですが、平日の起床時刻は6時頃、休日の起床時刻はつねに9〜10時頃で、平日と休日の起床時刻に3〜4時間のずれが生じているお子さんの場合、ずれを休日前の早寝で解消するという方法です。つまり、休日前の入眠時刻を20時頃にして、休日も朝6時頃に起きるということです。
休日の起床時間にずれが生じないので、社会的時差ぼけをつくらずに済み、心身の健康維持に役立ちます。ただし、この方法は幼少期のお子さんは比較的成功するのですが、すでに体内時計が大きくずれている大きなお子さんだとむずかしいことがあります。
この場合は専門医と相談し、生活リズム調整剤ともいえるメラトニン(=メラトベル)の処方を受ける方法がおすすめです。ごく自然な眠りが得られ、生活のずれを修正してくれます。「薬に頼るのは嫌だ」と考える保護者がいるかもしれませんが、薬の副作用などよりも、むしろ社会的時差ぼけが命を縮める危険性が高いのです。
■10分程度の昼寝はパフォーマンスを向上させる
③昼寝導入スタイル
先ほど概日リズムと、新生児には超日リズムがあることを解説しました。これら人がもつ体内時計のリズムは、実はもう1つあります。
ヒトはもともと、サーカ・セメディアンリズム(半日リズム)という、超日リズムの1つとも考えられている12~15時台にあらわれるリズムに従い、昼寝をとる習慣をもつ生物でした。世界中を探しても、昼寝をしない民族はいないと言われているのです。
しかし、何事にも効率を求める現代人は、いつの間にか「ティータイム」などと称してカフェインを含むコーヒーや紅茶、緑茶で眠気を紛らわせる習慣をつくりました。近年では、昼寝の効果は見直されてきています。
福岡県立明善高校では、睡眠研究の第一人者であり、久留米大学医学部神経精神医学講座の内村直尚教授の指導のもとで、10分程度の昼寝を導入したところ、多くの生徒の学業・部活ともに成績が上がったそうです。ちなみに、長い昼寝は逆効果だということもわかっています。この10分前後の昼寝を各家庭や各校にとりいれてはいかがでしょうか。近年、保育・幼稚園などでもこの昼寝を導入している園があり、子どもたちの情緒の安定など効果が報告されています。
■朝型と夜型の人はなにが違うのか
ヒトは地球上での生き方として「暗くなったら眠り、明るくなったら覚醒し、活動を開始する」生活リズムを選んでこれまで生き残ってきました。そのため、早寝早起き型の生活がヒトの心身の健康には適していると言われています。一般的には「朝型の人」「夜型の人」などというように、1日のなかでもっとも活動的になる時間帯は人によって異なります。これをクロノタイプといいます。
いくつかの分類がありますが、基本的には「ヒバリ型(朝型)」と「フクロウ型(夜型)」に分けられます。これまでの研究報告から、クロノタイプとは概日リズムそのものと考えることができます。
体内時計の指揮者的役割をもつホルモンであるメラトニンの分泌開始時間と日常の就床・入眠時刻、覚醒時間がお互いに関連していることから、いわば夕方から夜中にかけてのメラトニン分泌がスムースな人は早めに眠気が訪れて入眠できるので、ヒバリ型になるといえます。夜更かしで光を浴び続けることでメラトニン分泌が後ろにずれてしまう人は、眠気がなかなかあらわれず、寝つきも遅くなるのでフクロウ型と呼ばれる状態となるのです。
■クロノタイプは変化するが、夜型が朝型になるのは難しい
クロノタイプは、素質として人生の早い時期に形成される可能性があると考えられています。従って乳児期早期からの入眠習慣が推奨されているのです。夜更かしをしなければ、眠りの時間の訪れを全身に伝えるメラトニンの分泌は夕方に始まりますから、夜更かしをして光を浴び続けることは入眠時刻のずれにつながり、フクロウ型になっていきます。
一方で、人生の初期にほぼ得られたクロノタイプが、個人の生活様式にともなって変化する可能性も示唆されています。ヒバリ型の素質をもって生まれても、10代頃まで日常的な夜更かし生活が続くと、フクロウ型に移行するというのです。逆の移行もありますが、フクロウ型からヒバリ型への移行のほうがむずかしいことがわかっています。
これは本来ヒトの概日体内時計の長さが24時間よりも少し長い(約24時間11分)ために、睡眠時間は遅くなりやすく、早くなりにくい素質をもつからです。
文部科学省は「早寝・早起き・朝ごはん」運動を続けてきました。朝ごはんを毎朝食べているお子さんと、週に1日だけ食べないお子さんでは、後者の学業成績が統計的に劣ります。朝食をまったく食べないお子さんは、明らかにほぼすべての科目で成績が上がりにくいことがわかっています。
そこで、朝ごはんをしっかり食べようという運動が起こりましたが、朝食をとるには朝の時間のゆとりがなくてはなりません。フクロウ型のお子さんは、食べる時間を惜しんでも寝ていたいのでしょう。食欲がわかないからと、朝食をとらない子どもが多くいます。
フクロウ型の生活は、子どもの心や体にさまざまな悪影響を及ぼすことは、ここまでも説明してきました。具体的に、どういった影響があるのか、ここでは解説していきたいと思います。
■一流のアスリートは10時間以上の睡眠時間を確保している
①子どもの発達などにかんする影響
世界で活躍している一流のスポーツ選手は、トレーニングだけを積んでいるのではありません。彼らの多くは、眠りをしっかりとるよう心掛けています。たとえば、サッカーのクリスティアーノ・ロナウド選手、本田圭佑選手、長谷部誠選手、ゴルフの石川遼選手らは10時間睡眠を確保していますし、テニスのロジャー・フェデラー選手は12時間睡眠が必要だといっています。
ニュージーランドの大学生たちの研究や、アメリカの大学のバスケットボール選手などの調査研究では、睡眠時間は8時間以上必要だという結果が報告されています。フクロウ型で慢性的な睡眠不足をもつ場合は、生活習慣にともなう慢性的睡眠不足症候群と呼ばれ、日中の眠気、不注意が生じるために学業成績が伸びず、部活中に怪我をしやすいことや、交通事故に巻き込まれやすいことが報告されています。
それだけではなく、睡眠不足が続くと、物忘れなど記憶の障害のほか、ものごとの判断や推測・理解、計算・学習能力、思考能力、言語能力などを含む認知機能の低下、つまり脳の高次機能に問題が生じるようになります。このような認知機能の障害は、子どもたちの学習意欲を損なわせて、学業やスポーツにも影響をもたらします。生活の質そのものを下げてしまうため、②で説明するような学校への行き渋り、最終的には不登校が起こります。
■極端な「遅寝・遅起き」は生活習慣ではなく睡眠障害
②子どもの心にかんする影響
不登校状態について、「我が子は絶対にならない」「ウチの子は大丈夫」などと考えていませんか? でもそれは、フクロウ型の生活が身についているお子さんの、すぐ隣にあるものなのです。
フクロウ型の若者たちには、抑うつ症状や不安症状、節度を保った行動の困難性などの心理結果が多く報告されています。また、慢性の睡眠不足が「うつ」の原因・背景であることは精神医学では常識となっています。フクロウ型の生活が続くと、睡眠不足とその蓄積のせいで最終的に「遅寝・遅起き状態」が生じ、学校生活に適応できなくなってしまいます。この「遅寝・遅起き」の生活時間帯のずれは「睡眠・覚醒相後退障害」と呼ばれる立派な1つの睡眠障害です。
実は、これこそが不登校の実際の原因であることが、日本だけではなく国際的にも知られるようになってきました。フクロウ型の生活にともなう社会的時差ぼけ状態や、さらに進行して睡眠・覚醒相後退障害が起こると、登校そのものがむずかしくなります。不登校状態に至るまでは、「遅寝・早起き」にともなう長期間の睡眠不足生活を送っているので、脳機能はかなりのダメージを受けており、認知機能をはじめ生命維持機能が疲れ果てていることも少なくありません。
先ほどお話しした通り、このような認知機能の低下によって不登校が起こりやすくなります。
■睡眠不足による不登校状態は非常に危険
人に会うことさえ面倒になってきて、外出できず、ひきこもりになっていきます。不登校とはひきこもりの原点であり、不登校状態が長期化したものがひきこもりと呼ばれているだけのことで、本質には違いがありません。
慢性の睡眠不足から「遅寝・遅起き状態」が続いた不登校状態では、うつ状態が進行しているため生きているのが億劫になり、なぜ生きているのかさえわからなくなってしまっているお子さんもいます。またフクロウ型は、攻撃性や反社会的行動の問題が顕著である、ともいわれています。
一方、適切な「みんいく」により、フクロウ型の攻撃性は、睡眠の質の低下により引き起こされているという認識をもつことで改善できると考えています。自分自身の睡眠・覚醒リズムのあり方を客観的に見ることが心身の健康に大切です。
■睡眠不足が糖尿病の原因となる可能性も
③子どもの将来にかんする影響
近年、睡眠不足と肥満の関係が明確になってきました。夜更かし生活自体が、睡眠不足に陥りやすいことも手伝って、肥満を呼ぶことも知られてきました。
睡眠不足が食欲増進につながることを示したデータがあり、睡眠時間が短くなると、レプチンという食欲抑制ホルモンの分泌が低下して、グレリンという食欲増進ホルモンの分泌が増えることが示されています。つまり、睡眠時間が短いと食欲に関するホルモンのバランスが乱れて食欲が増進してしまい、肥満につながりやすいと考えられます。
特に夜中に食欲が増進し、朝はまったく食欲がなくなってしまうために、朝食をとれなくなるという悪循環になります。また、急性の睡眠不足において、インスリン感受性の低下はしばしば報告されていて、II型糖尿病の原因とも考えられています。
1997年と2019年に行った、概日リズム睡眠・覚醒障害のある不登校状態の子どもを対象に、糖の代謝のあり方を検討した研究では、25.8パーセントに異常が認められたのです。この研究では、総睡眠時間と2時間後の血糖値に負の関連があることがわかり、睡眠は短すぎても長すぎても問題だと判明しました。つまり、概日リズムが大きくかかわっているのです。
社会的時差ぼけにおいては、II型糖尿病の血糖コントロールに影響を与える可能性がある新しい要因として報告されました。フクロウ型生活そのものが糖代謝に異常をきたしますが、フクロウ型生活にともなう睡眠不足もまた、糖代謝に異常をきたし、糖尿病の原因になることがわかったのです。
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堺市教育委員会指導主事
1983年生まれ。堺市公立中学校保健体育科教諭として勤務中、勤務校で睡眠教育を実践。保護者・学校と連携し、睡眠障害のある不登校児童等を、学校及び社会生活に復帰させた経験を持つ。現在も生徒指導に長く携わり、毎年多くの子どもたちの睡眠を改善している。著書に『睡眠教育(みんいく)のすすめ』(学事出版、2017年)、『「みんいく」ハンドブック』(全3巻、2017年)などがある。
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熊本大学名誉教授
1942年生まれ。小児科医、小児神経科医。熊本大学医学部卒業、熊本大学附属病院長、日本小児神経学会理事長、を経て現職。日本眠育推進協議会理事長。30年以上にわたり子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動に力を注ぐ。著書に『子どもの夜ふかし 脳への脅威』(集英社新書、2014年)、『赤ちゃんと体内時計 胎児期から始まる生活習慣病』(集英社新書、2021年)などがある。
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(堺市教育委員会指導主事 木田 哲生、熊本大学名誉教授 三池 輝久)
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