「秋になると無性に寂しくなる…」季節性のメンタル不調を吹き飛ばす産業医の神アドバイス
プレジデントオンライン / 2022年11月1日 14時15分
■秋になると心身の不調を訴える社員たち
実は私の医師としてのキャリアは外科医からでした。外科専門医の資格も取得しましたが、大学院在学中に産業医という仕事に出会い、かれこれもう10年以上、産業医をしています。そのため10年以上続くクライアントもおり、時々しか面談に来ないけれど、もう10年近く知っている社員さんたちもいます。
そのような中で、(ほぼ)毎年、秋になると心身の調子を崩しかけて面談に来る社員について、今日はお話しさせていただきます。
■夜寝ても日中も眠い…やる気が出ない男性社員のAさん
男性社員Aさんは、彼がまだ30代の頃からほぼ毎年秋に数回面談にやってきます。そして現在、彼は40代後半です。面談している間にお子様も高校生になり、彼との面談で、私は自分の産業医としての職務の長さを実感しています。
Aさんにとって秋は、どうも気分が優れない、ひどい落ち込みではないが、仕事や週末のテニスにやる気が出ない時期のようです。秋は涼しくなって眠りやすいが、なぜか日中も眠くて元気が湧いてこない、食欲は変わらない(ある)ので、体は問題ないと思うとのこと。普段から医者には行かない、薬は飲まないことをモットーにしているので、睡眠薬などは飲みたくないけれど、どうにかしたいと産業医面談に初めてきたのは10年以上前でした。この前の年、秋のこの不調を放置したら冬になり調子がもっと悪くなったため、どうにかしないとと思ったとのことでした。
Aさんは経理の仕事を長年やっており、月末や四半期ごとの忙しさはあるけれど、特に仕事にストレスと思うほどのネガティブに感じるものはなく、同僚たちにも恵まれているようでした。プライベートでは、子供は成長とともに一緒に遊ぶことはなくなり、今は週末のテニスと奥様との晩酌がささやかな楽しみとのことでした。
「特にストレスもないし、趣味もしています。先生の本に書いてあることを気にかけていますが、秋から冬は調子が悪いのです」が面談に来られる時のAさんの口癖です。
実は私のクライアントには、このように毎年秋から冬の時期に調子を崩し産業医面談に来る人は他にもいます。いずれも、仕事ができないというほどの不調ではありませんが、「いつも(他の時期)と違う自分のようだ」とおっしゃってきます。
■孤独を感じて眠れない…女性社員のBさん
Bさんは40代後半の独身女性社員です。コロナ前は、寒くなってくるとなぜか、夜寝るときに無性に寂しく悲しくなり、上手に眠れないと訴え、秋頃になると定期的に面談に来ていました。Bさんも、職歴は長く特に仕事や職場の人間関係にストレス原因はなく、プライベートも“普通”、ただし、パートナーはいないとのことでした。
近年のBさんは、コロナ禍1年目の面談では、在宅勤務と外出自粛のため誰にも会わず一人家にいると特に孤独を感じて無性に悲しくなり、寝入りにくいとおっしゃっていましたが、昨年ペットを買い、今は在宅勤務の方がペットと遊ぶ時間もあり楽しいとおっしゃっています。その後は寂しさや睡眠の問題はないようでした。
このように、特別にストレス原因がなくとも、気分が落ち込んだり、寂しくなったり、睡眠に影響が出たりする人もいます。私は、産業医として話を聞くのみなので、診断はしませんが、このような人たちの原因の根底には、季節性やスキンシップの低下などがあると考えます。
■日光にあたるとハッピーホルモンが出る
実は、冬場にメンタルヘルス不調を訴える人が増えるのは、医学的にはよく知られ、季節性情動障害(Seasonal Affective Disorder:SAD)と呼ばれています。秋から冬にかけて気分の落ち込み等の症状が出現するも、特段に原因となるストレスはなく、ほとんどの人は、春になると自然に元気になります。その原因は秋から冬の日照時間の低下で日光に当たる時間が減ることとされています。
人体は日光に当たると、セロトニンという脳の神経伝達物質が合成されます。うつ病の人の脳内はセロトニン不足の状態であることが知られており、近年の抗うつ薬の多くは、セロトニンの合成を促したり、分解を阻害する作用の薬です。セロトニンは別名ハッピーホルモンと呼ばれ、気持ちが明るくなるなど、精神面に好影響を与えるホルモンで、人の気分に密接に関わっているのです。このセロトニンが不足すると、気分の落ち込みや疲労感、意欲低下など、うつ症状が出現すると言われています。
また、日光を浴びると、人は体内でビタミンDが作られます。ビタミンDは、カルシウムの吸収を促進するだけでなく、人の免疫機能を調整・維持します。このため、ビタミンDの欠乏もまた、季節性うつ病と関連しているといわれています。
■スキンシップは愛情ホルモンを出す
次に、スキンシップの低下は、愛情ホルモンとも言われるオキシトシンと関係があり、その不足により、寂しい、悲しい、不安、落ち込みなどの感情が増加し続ける場合があります。このようなネガティブな感情が続くことにより、人によっては結果として上手に眠れないなどの身体的な症状を引き起こし、健康状態に影響を及ぼすこともあるのです。
では、どのようにすれば、セロトニンやオキシトシンを増加させることができるのでしょうか。
残念ながら、2つの物質とも、タンパク質やミネラルのように食事と共に摂取すれば増やすことができるわけではありません。共に、栄養バランスの取れた十分な食事が必要なのは、言うまでもありませんが、両者を増やすために実際にできることを2つ挙げます。
■セロトニンとオキシトシンを増やす2つの方法
1つめとしてセロトニン増加のためには、まずは日光を浴びることが大切です。朝起きたら、15分程度でいいのでまずは窓際で日光浴をしましょう。そして、会社に行くときは、なるべく地下道を通らず、地上を歩き、日光を浴びましょう。お昼休みも、ビルの中で過ごすのではなく、ビルの外に出ることを心がけ、日光を浴びましょう。反対に、夜はちゃんと暗くして寝るようにしましょう。
寒さや日焼けが気になる方は、ぜひ、光療法照明とググってみてください。実際に医学的エビデンスに裏打ちされたこの目的のための照明器具が販売されています(実際の使用はお医者さんと相談の上でお願いします)。
セロトニンは、リズム運動や有酸素運動でも合成が促進されると言われています。ですので、ウオーキングやジョギング、エアロビクスなどを日常生活に取り入れると、よりいいと思います。
2つめとしてオキシトシン増加のためには、人とのスキンシップを図ることが大切です。そのためには、マッサージに通ってみる、もしくは、家族や友人に自らがマッサージをする、などはいかがでしょうか。人にマッサージをすることが照れくさい場合は、アロマオイルなどを使ったハンドマッサージをお勧めします。ぜひ、ご家族や友人にやってみてください。感謝され喜ばれると思います。
マッサージには抵抗があるという方もできることがあります。近年は、スキンシップがなくても、人と一緒に食事をしたり遊んだり、電話で話したりして、お話しをするなどでもオキシトシンの分泌は増加すると言われています。ぜひ、人と接する機会を増やしてみてください。
■人と接するのが苦手ならペットや抱き枕がおすすめ
肌に触れるという行為の方が効率的にオキシトシンの分泌を促すとも言われていますが、人と接したり直接のスキンシップは苦手という方は、ペットとたわむれるという方法もあります。先のBさんは、ペットを飼うことで無意識のうちに、スキンシップを図るようになり、毎年の症状がなくなったのではないかと推測されます。ペットがいない人・飼えない人は、抱き枕などはいかがでしょうか。ただし産業医の保証は有りませんが。
不安やストレスにしなやかに対処して、自分の精神的健康を保つことはとても大切なことです。しかし、このように、明らかなストレスがなくても、調子を崩してしまうことがあります。今日の話が、少しでも皆様のウェルビーイングにお役に立てば光栄です。
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医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト
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(医師 武神 健之)
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