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絶好調のロイホで不動の1位商品…「オニオングラタンスープ」がたった6分でアツアツが出てくるワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月28日 18時15分

ロイヤルホストのオニオングラタンスープ - 画像提供=ロイヤルHD

ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」が好調だ。今年上半期は、売上高、来客数、客単価すべてで昨年を上回った。そんな中で人気商品「オニオングラタンスープ」が、コロナ禍を経て、注文数がさらに増えているという。以前からある定番メニューがなぜ、今人気なのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。

■売上、来客、客単価で昨年を上回っているロイヤルホスト

一時は目立った「コロナ禍で飲食店の経営が厳しい」という報道も、最近はブランドによって明暗が分かれている。

たとえば、北は北海道から南は沖縄県まで、全国で221店(2022年9月末現在)を展開するファミリーレストラン「ロイヤルホスト」の場合、2022年の既存店売り上げ実績は、ずっと好調だ。

今年1月~6月の上半期は「売上高121.7%・来客数119.0%・客単価102.3%」(いずれも既存店前年比)で、最新9月の実績(確定値)も同「売上高134.8%・来客数131.8%・客単価102.3%」となっている。コロナ禍ゆえ、数字は前年同月の外出自粛状況にも左右されるが、すべての項目で前年を上回っているのが興味深い。

愛用者からは“ロイホ”と呼ばれて親しまれる同店で、販売数1位を誇るのが「オニオングラタンスープ」だ。本来ならサイドメニューである商品の人気が、なぜ高いのか。

ブランドの最高責任者に取材しながら考えてみた。

■オニグラは注文後、約6分で提供される

「2022年のオニオングラタンスープの注文数は、コロナ前の2019年比で155%(1店舗あたり1日平均)、2021年比で131%と好調です(2022年は1~9月出品数、2019年と2021年は1~12月出品数)。セットメニューで注文される際、他のスープでなく、こちらを選ばれるケースも目立ちます」

「ロイヤルホスト」や「天丼てんや」を運営するロイヤルフードサービスの生田直己社長はこう話す。生田氏は現在、親会社のロイヤルホールディングス(HD)執行役員で外食事業担当。ロイヤルグループ外食事業全般の責任も担う。

「オニオングラタンスープは発売以来、基本、製法は変えていません。原材料のタマネギを淡路島産から北海道産に変えるなど、農作物ゆえ産地を調整したりしましたが、製法は変えていない。店での提供も、お客さまの利便性を考えて器を小さくした程度で、同じようなやり方です」

過去には複数の店の店長を務め、現場責任者時代は「ロイヤルホストの大阪での存在感を高めた存在」だと聞く。社内では“オニグラ”と呼ぶ、同商品への思い入れも深いようだ。

「レストランですから、ファストフードのような『商品によっては1分以内に提供』ともいわれるクイック提供はしませんが、お客さまがご注文されて、初めの1品は15分以内に提供するのが社内ルール。特に最初に召し上がられることが多いオニオングラタンスープは、約6分で提供するよう心がけています」

■一晩以上煮込んだスープを使用

福岡県発祥のロイヤルホストが「オニオングラタンスープ」を提供するようになったのは、1986(昭和61)年と聞いていたが、前年の1985年にはメニューにあった(当時480円)。いずれにせよ発売して40年近くたつ。その作り方も教えてもらった。

「福岡市にある直営のセントラルキッチン(CK)での仕込みから始まります。主な材料は牛バラのミンチ、香味野菜のタマネギやセロリ、ニンジンなど。夕方から仕込んで一晩煮込みます。調理作業では卵白も用います。灰汁(あく)を吸収してくれる効果もあるからです。このようにレストランでシェフが行う作業と同じやり方で仕込んでいます。ここで作られたコンソメスープにじっくり炒めたオニオンをあわせてパックにして冷凍し、各店舗に運ばれます」

CKでの仕込みの様子
画像提供=ロイヤルHD
CKでの仕込みの様子
画像提供=ロイヤルHD
CKでの仕込みの様子 - 画像提供=ロイヤルHD

以前、筆者も同社のCKを視察したことがあるが、巨大な寸胴鍋などが並び、スケール感も際立っていた。ここで作られた製品はパックにつめて冷凍して、各店舗に運ばれる。

「店舗ではパックを湯煎して、ご注文が入ってからキャセロール(厚手の鍋)に入れ、クルトンやチーズを入れてオーブンで焼きます。チーズはグリュイエールチーズを用いますが、この乗せ方も工夫しています」

こうして提供されるオニオングラタンスープにはご馳走感もあるのだろう。コロナ前に比べて「外食への特別感が増した」といわれるご時世、来店客がセットメニューで、他のスープに比べて価格は上がる同商品を選ぶ気持ちもわかる気がする。

ロイヤルフードサービスの生田直己社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
ロイヤルフードサービスの生田直己社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■サイドメニューではなく「主役」

実は、ロイヤルグループが初めて「オニオングラタンスープ」を提供したのは、1953年11月に福岡市で開業したフレンチレストラン「ロイヤル中洲本店」(現レストラン「花の木」。1989年に大濠公園内に移転)だ。この商品を有名にしたのは、1954年のことだった。

「MLB(大リーグ)ニューヨーク・ヤンキースのスターだったジョー・ディマジオ選手、映画スターのマリリン・モンロー夫妻が新婚旅行で来日。福岡も訪問し、ロイヤル中洲本店でディナーを楽しまれました。その時にマリリン・モンローさんは、ご提供したオニオングラタンスープがとても気に入られたそうです」

地元大手紙の西日本新聞が撮影した当時の写真には、モンローの手元にオニオングラタンスープがあるのがわかる。まだ多くの庶民には縁遠かったスープを、セレブがいち早く評価していたようだ。

メニューにはモンロー来店時の写真が使用されている
撮影=プレジデントオンライン編集部
メニューにはモンロー来店時の写真が使用されている - 撮影=プレジデントオンライン編集部

現在も「花の木」ではお店でコンソメスープをひいてオニオングラタンスープを作り、提供しているが、1971年に福岡県北九州市で1号店がオープンした「ロイヤルホスト」が1980年代に提供すると、多くの人が味わい、人気に火がついた。

ちなみに現在、店舗数が多いのは東京都(52店)、福岡県(26店)、大阪府(23店)、神奈川県(21店)の順になっている。そんな「ロイヤルホスト」にとって「オニオングラタンスープ」はどんな役割なのか?

「今や主役のような存在です。先日、ロイヤルホスト宝塚店で食事をしましたが、近くのテーブルのお客さまが、最初にオニオングラタンスープを頼まれ、それを中心に食事をされていました。芝居でいえば幕開けで、いきなり主役が出てくるような立場になっています」

■冷食の「フレンチオニオンスープ」との違い

ところで近年、ロイヤルグループは冷凍ミール「ロイヤルデリ」にも力を注ぐ。

「ご家庭でもレストラン品質の味をお楽しみいただける」を掲げ、たとえば「コスモドリア」や「黒毛和牛と黒豚のハンバーグ 洋食ドミグラスソース」など、50種類以上のメニューで訴求。消費者は、店舗やECで購入した商品を電子レンジや湯煎などで温めて食べる。

コロナ禍で在宅時間増の流れにも乗って成長しており、ロイヤルデリからは「フレンチオニオンスープ」という商品もある。“ロイホのオニグラ”とはどう違うのか?

「姉妹商品のような存在です。フレンチオニオンスープは冷凍のまま商品を開けずに、沸騰したお湯に入れて約5分間温めます。湯煎後、取り出した袋を軽く振り、全体をなじませた後、器に移し替えれば出来上がりです。

ロイヤルデリは出来上がりから逆算して商品設計を細かく行っており、料理の味の総責任者である西田光洋(商品本部・首席料理長)を中心に試行錯誤しながら仕上げたのです」

家庭で再現する場合、材料を切って炒め、煮込み続けるなど手間も時間もかかるスープを「時短」で再現できるのが魅力なのだ。ちなみにロイヤルデリはロイホ各店でも買えるが、「ロイヤルホストの冷凍食品ではなく、ロイヤルグループの冷凍食品」だという。

■ロイホは「コックが腕をふるうレストラン」

ロイヤルホストの話に戻ろう。同ブランドの特徴として、これまで言われてきたのは「コックが腕をふるうレストラン」だった。競合との差別化の視点で、その真意を聞いてみた。

「社内でも『ロイヤルホストはどうあるべきか』の議論の中で、コックの存在が出てきました。では、『そもそもコックとは何だろう?』の視点で議論を深め、現在こう考えています」

(1)素材の味を組み合わせて商品設計をする人
(2)セントラルキッチンで、均質化・安定化の視点で製造する人
(3)各店舗の現場で、味を再現する人

(1)は商品開発、(2)は安定生産、(3)は店舗での提供、に携わる人だという。

さらに「これまで“店でひと手間”を掲げてきましたが、改めて考えると各店舗で行うのは“出来立て”――。オニオングラタンスープもそうですが、プロの調理人が行う出来立ての味こそが、ロイヤルホストの特徴です」と、生田氏は説明する。

■非日常の象徴としての「オニグラ」

かつて、外食各店に商品供給を行い、自社グループで飲食店を運営する大手企業の経営者に「外食の魅力とは何か?」を尋ねたことがある。その答えは次の内容だった。

「家庭では出せない味と雰囲気だと思います。たとえば寿司は、材料を揃えれば各家庭でもできますが、お寿司屋さんでプロの職人が握る味、店内の設(しつら)えなどは再現できません」

コロナ禍で、外食が日常の延長線上から「非日常感」が強くなった今、この言葉を思い出す。ロイヤルホストの場合「オニオングラタンスープ」が象徴するのではないか。

「地域の方に愛される店を、ロイヤルホストは目指してきました。コロナ禍になって、その大切さを再認識しています。これからも忘れずに歩んでいきたいですね」(生田氏)

世相や状況によって、飲食への意識がどんどん変わるご時世、「気分転換の食事」や「少し奮発したい時」に選ばれるかどうかで、外食ブランドの行く末も変わっていく。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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