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35歳を過ぎたら油断してはいけない…「心臓病死亡リスクが17%上がる」最悪の習慣

プレジデントオンライン / 2022年10月28日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

長時間労働が心身に悪影響を与えることは広く知られるようになっている。産業医の池井佑丞さんは「労働時間が長くなるほど、心臓病の死亡リスクや脳卒中の発症リスクが上昇するという研究結果が出ている。労働時間を減らすだけでなく、終業から次の始業までの間隔を空けることも重要」という――。

■長時間労働と脳卒中、心筋梗塞の深い関係

長時間労働と健康については、たびたび社会問題として取り上げられてきたこともあり、長時間労働がよくないことはもはや常識となっています。国の施策でも働き方改革などがうたわれ、長時間労働の削減やワークライフバランスの促進が重視されるようになっています。

法的にも、社会的な流れに呼応するかたちで、時間外労働の上限規制が設けられました。労働基準法で、大企業は2019年より、中小企業は2020年より、時間外労働の上限規制が罰則付きで規定されています。同法では時間外労働の上限基準は原則45時間とされています。一般的に、2時間程度の残業を毎日おこなっている場合に月45時間の時間外労働に達する計算となります。

社会的な流れを受け長時間労働は減少傾向ではありますが、なくならないのも事実です。厚生労働省の統計では、30代、40代男性の約10%が、月末1週間の就業時間が60時間を超えていることがわかりました(令和3年版「過労死等防止対策白書 1労働時間等の状況」厚生労働省)。

長時間労働が健康上問題となることを漠然と知っていても、具体的にどのような疾患につながるかまではイメージできていない方も多いのではないでしょうか。そこで、長時間労働と健康障害との関係について具体的にご紹介します。

はじめに、長時間労働との関連が深い病態を確認しておきます。厚生労働省による労災認定基準で認められている具体的な病名を以下に列挙します。

対象の疾病
脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、大動脈解離、重篤な心不全

これらは「脳血管疾患(脳卒中)」や「虚血性心疾患」などと呼ばれる病気で、脳および心臓の疾患の総称と考えてください。これらの発症と過度な仕事との関連が認定された場合には、労災補償の対象となることが労災認定基準に明示されています。

■脳疾患や心臓疾患につながる動脈硬化

では、長時間労働が脳・心臓疾患の危険度を高めるのはなぜでしょうか。長時間労働による健康障害を考える際に押さえておきたいポイントは、「動脈硬化」です。実は、現在生活習慣病と言われている病気のほとんどが、動脈硬化と関連があるとも言われています。

動脈は心臓から全身へ血液を送り届ける役目をもつ血管で、通常は弾性がありますが、動脈硬化では文字通り動脈が硬くなります。血管内にプラークと呼ばれる塊がたまり、血管が狭くなるのも特徴です。こうして脳へつながる血管、心臓へつながる血管の流れが悪くなり、やがて疾患として発症するのです。

以上を踏まえ、長時間労働の観点から分析された調査結果を挙げて健康障害との関連をご説明いたします。

■残業で増える「悪玉コレステロール」

日本において労働時間の長さと検査値との関連を調査した結果、1週間の労働時間が長くなるほど、LDLコレステロール値が高くなっていました(*)。特に週の労働時間が50時間を超えると、優位に高い結果となっています。一般的に週50時間の労働は、1日あたりの時間外労働2時間程度なので、労働基準法が月の時間外労働の上限を45時間とすることに矛盾はないものと考えられます。

(*)"Objective and subjective working hours and their roles on workers’ health among Japanese employees" Ochiai et al, Industrial Health 2020, 58, 265–275

LDLコレステロールは脂質の一種で一般的に「悪玉コレステロール」と呼ばれています。生活習慣病の指標のひとつであり、健康診断で異常を指摘される方が非常に多い項目です。血中に溶け込み全身を巡りますが、増え過ぎると血管に沈着し動脈硬化の原因となります。なお、脂質は健康維持に欠かせない栄養素です。とり過ぎはもちろんですが、全くとらないことも健康を損ねることも併せてお伝えしておきます。

■心臓病や脳卒中のリスクが上昇

こちらは世界規模の分析となりますが、WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)の研究で、週の労働時間が55時間を超えると、虚血性心疾患で死亡するリスクが17%高くなること、脳卒中の発症リスクについても35%高くなることが示されています(ILO駐日事務所 プレスリリース「長時間労働が心臓病と脳卒中による死亡者を増加させる可能性をILOとWHOが指摘」)。この研究では、週55時間以上の長時間労働により、推計で74万5000人が死亡した(2016年)ことも指摘されており、これらを根拠にWHO、ILOは長時間労働を減らすことを要請しています。

また、安静時の血圧に優位差のない30代、40代、50代の健常男性を被験者として長時間労働を模擬的に検証した実験では、被験者の年代が上がるのに比例して収縮期血圧が優位に高くなりました。高血圧は脳・心臓疾患の危険因子であるため、つまりは年齢が上がるほど長時間労働による脳・心臓疾患の発症リスクが高まると考えられ、より注意が必要です。

ただし若いからといって油断はできません。厚生労働省の統計では脳卒中は30歳から、虚血性心疾患は35歳から割合は少ないながらも患者数が増え始めることもわかっていますので、同様に長時間労働を避ける必要があります(図表1-2-4 脳血管疾患患者数の状況 図表1-2-7 虚血性心疾患患者数の状況「平成30年版厚生労働白書-障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に」厚生労働省)。

動脈硬化のイメージ画像
写真=iStock.com/Rasi Bhadramani
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rasi Bhadramani

■メンタルヘルスも悪化する

さらに、メンタルヘルスとの関連も無視できません。精神障害による労災請求件数は年々増加傾向にあり、メンタルヘルスの問題は社会問題化しているといえます(令和3年度「過労死等の労災補償状況 精神障害に関する事案の労災補償状況」厚生労働省)。月の時間外労働時間と抑うつ傾向の有無を調べた研究では、時間外労働が増えるほど抑うつ傾向得点が高くなり、メンタルヘルスが悪化していることがわかります(島悟「過重労働とメンタルヘルス」)。月の時間外労働時間と幸福度を調べた結果では、時間外労働30時間を超えてくると平均を下回ったそうです(株式会社パーソル総合研究所「職場の残業発生メカニズム──残業習慣の「組織学習」を解除せよ」)。

ただ、この研究では時間外労働時間が60時間を越えると幸福度が微増することも示されており、長時間労働の状況にやりがいを感じている層が一定数いることも指摘されています。ですが、長時間労働がフィジカル面でリスクとなることは明らかです。疾患の発症までには至らなくとも、出勤はしていても十分なパフォーマンスを発揮できていない事態(プレゼンティズム)にも陥りやすいです。

総合的にみて、過剰な長時間労働を減らすことが、より心身の健康には大切であると考えます。また、従業員の抱える健康上の問題と長時間労働との関連が認められる場合、企業側は適切な対処をしなかったとして安全配慮義務違反に問われるリスクもあります。

■終業から次の始業までの間を空ける

「勤務間インターバル」という言葉をご存じでしょうか。勤務間インターバルとは、終業から次の始業までの間隔(時間)を指します。国の推奨では、最低でも9時間以上のインターバル確保が必要とされています。労災認定の基準にも用いられていますが、厚生労働省によると勤務間インターバル制度を導入している企業は、令和3年度(2021年度)の調査で4.6%ほどだそうです。

日本国内での調査では、勤務間インターバルが短いほど睡眠時間が少なくなり、睡眠の質も落ちる結果が出ています。余暇時間についても同様で、勤務間インターバルが短いほど余暇に充てられる時間が短くなりました(Ikeda et al, J Occup Health 2018)。

睡眠の重要性については読者のみなさんもよくご存じかと思いますので、ここでは余暇時間の重要性についてお伝えしたいと思います。

■体を休める休養、気分転換する休養の両方が必要

一言に余暇と言っても、余暇時間の使い方には2種類あると言えます。一つは自宅などでのんびり過ごすこと(消極的休養)で、もう一つは活動的に過ごすこと(積極的休養)です。前者は肉体的な疲れを癒やすことが主な目的で、後者は気分転換や心の充実に充てるものになります。消極的休養の代表は睡眠で、運動や趣味を活動的に実施することが積極的休養に該当します。

これらをどちらかに偏らず両者バランスよくとることが、心のみならず身体の健康にも必須なのですが、長時間労働の方は余暇時間を犠牲にするので、このバランスが崩れてしまいがちです。特に積極的休養が犠牲になるケースが多く、メンタル面の不調につながったり、フィジカル面では身体活動量が減り動脈硬化をはじめとした生活習慣病を助長したりする要因となるのです。

長時間労働というと、勤務時間の長さにフォーカスされ、いかに勤務時間を減らすかという考え方になりがちだと思いますが、少し視点を変えてみることをおすすめします。十分な余暇時間の確保を念頭におき、勤務間インターバル時間を十分に確保した上で、勤務できる時間を逆算するような考え方ができるとよいでしょう。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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