学校のベルマーク活動はいよいよ衰退の時…下火になるほど"圧力"が増す背景に専業主婦のやるせない思い
プレジデントオンライン / 2022年11月2日 8時15分
■いよいよ見直し迫られるベルマーク活動
「ベルマーク活動」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。昭和の母親たちが教室に集い、お茶を飲みながらおしゃべりを楽しむノスタルジックな風景だろうか。平成や令和の母親たちが「20人で半日も作業したのに、たったの3000円!」と憤る、あるいは欠席した母親を別の母親が糾弾する、おどろおどろしい風景だろうか。
過去繰り返し多くの議論を巻き起こしてきたベルマーク活動が、今、いよいよ見直しの時を迎えている。一昨年の春、コロナ禍でPTA活動がストップして以来、これまで続けてきた活動の絞り込みを進めるPTAが全国的に増えているからだ。筆者はこの10年弱、多くのPTAを取材してきたが、ここ1、2年でPTA活動縮小の流れは明らかに加速したと感じる。
最近は、「学校への寄付」を目的とするにしては非効率が過ぎると判断して、ベルマーク活動を廃止するPTAも増えている一方、あくまで「保護者同士の交流の場」として考え、参加強制をやめて「やりたい人だけ」でベルマーク活動を継続するPTAも一部に出てきている。これは、どちらが正しいのだろうか?
答えを出す前に、ベルマーク活動のこれまでを振り返っておきたい。かつてなぜ、ベルマーク活動は日本中のPTAに受け入れられたのか、そしてそれがなぜ強制され、嫌われるものへと変わっていったのか。ベルマークをめぐる状況の変化は、この国の母親たちが置かれた状況の変化でもある。
■ベルマークが専業主婦に歓迎されたワケ
「ベルマーク活動」が始まったのは1960年、高度経済成長期の只中だ。冷蔵庫や洗濯機など、家事負担を軽減する製品が多くの世帯に普及し、主婦、母親たちに時間の余裕が生まれた時代でもある。
母親たちは、交流の場を求めた。社会進出を認められず家庭におさまった、けれど本当はいろいろなことをやりたかった女性たちにとって、おしゃべりは数少ない楽しみの一つだったかもしれない。PTAは、当時の多数派だった専業主婦のニーズに応える側面をもっていた。
だが、ただ学校に集まってお茶を飲んでおしゃべりをするだけではバツが悪い。場所を提供してくれる学校に対しても、家で目を光らせている姑に対しても、油を売っていると思われないよう、何かしらの「エクスキューズ」が求められた。
そこへ登場したのがベルマークだった。ベルマーク活動は、おしゃべりをしながら作業することで、自校に寄付する備品をゲットし、僻地の学校を支援できる。これを掲げれば、平日日中、堂々と学校に集まりやすくなる。
かくしてベルマークは昭和の時代の母親たちに歓迎され、全国のPTAに広まったものと考えられる。
■保護者の交流ニーズは下火に
だが時代が移るとともに、女性たちの状況は変わっていった。専業主婦は減少し、パートや正社員として働く母親たちが増えていく。
専業主婦の状況も変わり、かつてのように時間に余裕のある人は少なくなった。いまの専業主婦は、多子世帯の人や、障害のある子、介護が必要な親、看病が必要な配偶者の世話をする人など、無償ながら負担の大きいケア労働を担う人が大半だ。
一方、働く母親たちの状況も変わっていった。かつて仕事をもつ母親は「子どもがかわいそう」などと後ろ指を指されたものだが、そんな非難も徐々に薄れていった。世間の価値観は急激に変わり、いまや子どもがいても仕事を続けることが奨励されるようになった。
そして母親たちは、時間を失った。女性たちは外で働くことを奨励される一方で、「これまで通り」に家事や育児、ケア労働をこなすことも求められているからだ。
そのため「学校での交流」というニーズは下火になった。「おしゃべりはしたいけれど、もうそこに時間を割く余裕がない」という人もいるし、保護者同士の交流自体を求めない人も増えた。
今は母親たちも職場で人と接するし、SNSなどネットで気の合う友人を見つけることもできる。この時代、保護者同士の交流を求める人が昔より減ったのは、当然のことだろう。母親たちが家に押し込められ孤立していた昔のほうが特殊な状況だったともいえる。
いまの母親たちの状況は、父親たちのそれと区別する必要がもうあまりない。むしろ、家事や育児を父親より多く担う分、母親のほうが忙しい家庭も多いのだ。
■ニーズが下火になるほど、活動は義務化の方向へ
ところが、こうして母親たちの状況が変化する一方、ベルマーク活動は「義務化」していった。ふつうに考えれば、おしゃべりのニーズが下がればベルマーク活動も下火になりそうなものだが、現実には逆で「必ず参加すべき」という圧を強めていったのだ。
ベルマーク活動だけではない。ここ20~30年ほどの間に、PTAは母親たちへの強制を加速した。「仕事を休んでも必ず参加しろ」「休むなら代役を出せ」など、本人の意向を無視して活動を強いるのがある種「当たり前」になり、かつて求められた「交流の場」としての役割は忘れられ、PTAはむしろ母親同士のわだかまりを生む場となっていった。
■「ズルい」という感情が生んだ「ノルマ」
なぜ、そんなことになったのか。おそらく家に取り残された母親たちの、働く母親たちに対する複雑な感情も要因だったろう。「自分は専業主婦だから、PTAを断れない」と思い詰め、役員を引き受けた母親たちが抱いた、やるせない思い。人は誰でも、自分が我慢したことを我慢しない人(特に同じ属性の)をみると腹が立ち、「ズルい」と言って攻撃したくなる。
彼女たちも本当は、外に出て働きたい気持ちがあっただろう。でもそれはあきらめざるを得なかったから、PTAやベルマークの活動を休んで仕事にいく母親たちを「ズルい」と感じ、「必ずやれ」と縛りを強化していった、そんな面も大きかったはずだ。
あえて書かずにきたが、筆者も取材のなかで、あるいは自身のPTA体験のなかで、いわゆる「専業主婦とワーママの対立」を幾度となく見てきた。フリーランスながらフルタイムで働いてきたので、ワーママたちの気持ちもよくわかるのだが、一方で妊娠により退職せざるを得なかった経験もあるので、一部の専業主婦の人たちが抱く鬱屈も共感できるところがあった。
かつて母親たちにもてはやされたベルマーク活動は、こんなふうにして罰則のような「ノルマ」と化し、多くの母親たちから嫌われる存在になっていったものと思う。
■これからのベルマーク活動
では、PTAのベルマーク活動は、これからどうするべきなのか。
「やりたい人だけ」で続けるというのも、一つの考え方だろう。今は忙しい世帯が多いが、「保護者同士で交流したい」というニーズが全くなくなったわけではない。仕事の有無にかかわらず、なんとか時間を捻出してでも活動に関わりたい、保護者同士で話をしたい人はいる。やりたくない人を無理に巻き込みさえしなければ、それはそれでいいはずだ。
あるいはもう、PTAに求められる役割がかつてとは違うことを前提に、ベルマーク活動をやめるのもアリだろう。
コーラスにせよママさんバレーにせよベルマークにせよ、「やりたい人がいる」活動を何でもかんでもPTAでやる必要はない。全部やっていたらとてもキリがなく、パンクしてしまう。いまはベルマーク活動が始まった六十数年前と異なり、NPOなど自主的な活動を立ち上げることも容易い。学校を超え、保護者同士の交流の場を設けて、そこでベルマーク活動をしたっていいだろう。
■PTA代行サービスまで登場するありさま
ところが現実には、本末転倒した方向に進む例をよく見かける。メルカリをのぞけば、いまだに「ベルマーク(仕分け済)」が売買されているし、最近ではPTA活動を業者がビジネスとして代行するサービスも注目を集める。これらは一体、何をめざしているのか。
もしそれが「学校の寄付のため」だとしたら、ベルマーク活動よりさらに非効率だし、「保護者の交流のため」だとしたら、もはやまったく意味不明だ。活動を続けるために活動している状態でしかない。それならもう、やめたほうがいい。
母親たちの状況は、かつてとは大きく異なる。専業主婦の存在を前提に広まったベルマーク活動も、PTAも、変わらざるを得ないのではないか。
いま、PTAに求められるのはどんなことなのか。あるいは、保護者と学校に必要なのはどんなことか。それを実現するためには、何が必要なのか。ベルマークうんぬんよりもっと根っこのところから、私たちは考えなければならなさそうだ。
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ノンフィクションライター、編集者
1971 年生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。PTAなどの保護者組織や、多様な形の家族について取材、執筆。著書は『ルポ 定形外家族』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』(晶文社)、『ブラック校則』(東洋館出版社)など。東洋経済オンラインで「おとなたちには、わからない。」、「月刊 教職研修」で「学校と保護者のこれからを探す旅」を連載。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。
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(ノンフィクションライター、編集者 大塚 玲子)
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