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「箱根駅伝王者・青学大の原晋監督の上をいく」立教大を半世紀ぶり本戦出場させた監督の型破りな指導法

プレジデントオンライン / 2022年10月28日 11時15分

立教大学、池袋キャンパス、本館(モリス館)(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

立教大学が55年ぶりに箱根駅伝に戻ってきた。多くの大学が起用するケニア人留学生は1人もおらず、予選会突破のセオリーを無視する戦略だったが、見事、難関を突破した。チームを率いたのは世界選手権にも出場し、現在も5000mで13分台の走力を維持する37歳の上野裕一郎監督。スポーツライターの酒井政人さんは「その指導力は箱根駅伝王者・青学大の原晋監督の上をいくかもしれません。人気ブランド校の箱根復帰は今後の学生駅伝の勢力図を大きく変える可能性がある」という――。

■青学大・原晋監督以上の“スピード通過”

誰が予想しただろう。“主役”に躍り出たのは立教大だった。2023年正月の箱根駅伝出場をかけた予選会(出場枠10校)が10月15日、開かれた。下馬評を覆しての総合6位。チームを率いる上野裕一郎駅伝監督(37)も「通過するとしたら9番、10番の瀬戸際だと思ったので、うれしいを超えてびっくりしましたね」という“サプライズ通過”だった。

箱根駅伝の予選会は毎秋開催される。その年の正月の本戦で総合成績(往路復路)が10位以内に入った大学はシード権(翌年の出場権)を得るが、11位以下は予選からの出発になる。今回、10校枠をもぎ取るため43校がしのぎをけずった(各校10~12人の選手が同時にハーフマラソンを走り、各校上位10人の合計タイムで争われる)。

立教大はかつて箱根駅伝常連校だった。88年前の1934年の第15回大会に初出場して以降、27回の出場を誇る。しかし、半世紀以上も正月の晴れ舞台に立っていない。

TBS系「サンデーモーニング」でMCを務める関口宏は、「わたくしの母校でございます。55年も何しとったんですかね」とぼやいていたが、今回の立教大は控え目に言ってもすごかった。いかに“価値”があるのか。2つの視点から説明したい。

立教大は創立150周年を迎える2024年の箱根駅伝に出場するプロジェクトを2018年に立ち上げ、同年12月にベルリン世界陸上5000m代表の上野裕一郎駅伝監督が就任した。上野監督の経歴は後述するが、これまでどんな指導をしてきたのか。

本格強化1年目の2019年はスカウティングに注力して、箱根駅伝予選会は2020年が28位。2021年は16位に浮上すると、チームは5km通過時でトップに立つインパクトを残している。

当時・就任3年目だった上野監督は、「目標にしていた15位には届かなかったんですけど、『自分たちの力でどこまでできるか試しなさい』という話のなかで、前半から積極的に走ってくれました。最終的には持たなかったですけど、来年につながるレースができたと思います」と話していた。

そして2022年秋、いよいよ前年までの“経験”が生きることになる。

「最初から前の方に出るのが作戦でした。箱根駅伝はキロ3分が最低ライン。そこを意識するために『15km45分』という目標を設定したんです。コンディションが良くなく、全体的にタイムが出ていないなかで(通過タイムは)良かった。選手たちが努力してくれたからこその今日の順位なのかなと思います」(上野監督)

立教大は5kmを4位、10kmを3位、15kmを5位で通過。前年と異なり、終盤も快調に歩を進めた。そして1年前倒しで“目標”を達成した。

立教大の55年ぶり箱根復帰は、2022年箱根駅伝総合優勝の王者・青山学院大の33年ぶり(2008年の予選会で本選出場獲得)を抜いて、最長期間でのカムバックだ。なお上野監督が就任して4年目での快挙になる。箱根駅伝を6度も制している名将・原晋監督(55)ですら、予選会の通過は就任5年目のこと(※第85回記念大会で通常より3枠多かった)。立教大・上野監督は青学大・原監督を超える“スピード通過”だった。

しかも、当時と箱根駅伝予選会の事情は異なる。立教大の通過には、もうひとつのすごさが隠されている。

■予選会のセオリーを覆しての6位通過

箱根駅伝予選会は年々、留学生の参戦が増えている。昨季は伝統校といえる大東文化大と専修大が、今季は前回予選会14位の上武大、同15位の城西大、2018~2020年に僅差で落選した麗澤大などがケニア人留学生を初採用。5年前の予選会は9人だった留学生の出走は昨年が12人、今年は15人まで増加している。なお青学大が33年ぶりの箱根復帰を決めた2008年の予選会に留学生は出場していない。

ケニア人パワーは巨大だ。昨年は駿河台大が予選会を初めて突破。専大も2年連続出場を死守している。今年は大東大が4年ぶりの復帰をトップ通過で飾ると、城西大も3位で突破した。さらに麗澤大も前年の28位から14位まで急上昇している。その一方で、留学生のいない神奈川大と中央学大が“イス取りゲーム”からはじき出された。

中央学院大・川崎勇二監督は、「新たな大学がどんどんどん強化していますし、予選会の戦い方も変わってきているなと感じました」とこぼしていた。

今回、15人出走したケニア人選手が個人成績で上位7位を占めた。箱根予選会の突破には留学生の“貯金”が欠かせない状況になりつつあるだけに、日本人だけで55年ぶりの本戦出場を決めた立教大の価値は極めて高い。

上野監督は学生時代、ケニア人留学生と真っ向勝負を演じてきた。立教大に留学生はいないが、ケニア人留学生の存在を強く感じている。

「ケニア人留学生は各チームに良い存在意義をもたらしていると思うんですけど、立教大学はそこにフォーカスせず、一人ひとりの個の力。全体のチーム力で突破したんじゃないでしょうか。突出した選手がいませんので、チームトップのタイムだった國安(広人)を筆頭にチーム12番の後藤(謙昌)までしっかり走ってくれたことに感謝したいです」

給水所で水をとる選手の手元
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

また箱根駅伝予選会は走力だけでなく、独自のテクニックが必要とされてきた部分がある。各校10~12人が一斉スタートするため、近年は「集団走」(チーム内で数人のグループを作り、集団でレースを進める)で“確実性”を高める戦略がスタンダードになっていた。今回もエースを欠いた日本体育大が見事な集団走を行い、75年連続出場を決めている。

一方、立教大は個々が自分たちの判断でハーフマラソンを駆け抜けた。留学生不在で、集団走もしない。近年の予選会突破セオリーを無視するかたちで、難関を突破したことになる。上野監督の“こだわり”が感じられる部分だろう。

■「スピードキング」と呼ばれた男

筆者が、上野裕一郎を初めて取材したのは、もう20年前のことになる。

2002年12月、丸刈り頭に眼鏡姿が印象的だった17歳は佐久長聖高校の全国高校駅伝1区を託された。開会式の後、翌日のレースについて話を聞いた記憶がある。

その約3カ月後。長野県まで出かけて、上野と1学年下の佐藤悠基(現SGホールディングス)を取材した。上野は高校から本格的に競技を始めた選手。入部時に、「マラソンで世界記録を出すのが目標です!」と先輩たちにあいさつするほどのビッグマウスだった。

一方で走りのスケールもビッグだった。高3時は5000mの高校記録を目指して、ケニア人留学生や実業団の選手にも果敢にチャレンジした。目標タイムには届かなかったが、13分台を連発。12月には10000mで28分27秒39の高校記録(当時)を樹立した。この記録は現在でも高校歴代5位にランクしている。

中央大進学後はトラックと駅伝で活躍して、「スピードキング」と呼ばれた。全日本大学駅伝は4年間で“29人抜き”を披露。箱根駅伝は3年時に3区で9人抜きを演じて、区間賞を獲得している。

実業団(エスビー食品→DeNA)ではトラックを中心に競技を続けて、2009年の日本選手権5000mで優勝。同年のベルリン世界陸上に出場している。

上野は“こだわり”が強く、「負けず嫌い」という印象が強い。箱根駅伝では花の2区ではなく、持ち味のスピードが生かせる3区でエースとしての役割を全うした。実業団時代は他の選手の半分くらいの走行距離でとにかくスピードを磨いてきた。

日当たりのいい海岸をランニング
写真=iStock.com/lzf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lzf

そして立教大監督に就任した上野裕一郎を取材して感じたのはずいぶんと大人になったことだ。まず周囲への感謝の言葉が非常に多い。今回の快挙についても、「私がつかみとったというよりも、学生たち一人ひとりが努力をした結果です」と自分の“手柄”を一切口にしなかった。

「監督は普段から部員に頼ってばかりですから。部員が気持ち良く走ることが一番。選手たちに大人にしてもらっています」と言い切るほどだ。そして上野監督は今でも現役ランナーの顔を持つ。5000mで13分台の走力を維持しており、「日本一速い監督」といわれている。

「監督(という肩書)ですが、自由に走らせてもらっているので、選手に嫌われたら終わりです。選手への言葉のかけ方には気を使っています」

大学駅伝部監督といえば、いかにも体育会体質で部員に対しても上から目線というイメージがあるが、「選手に嫌われない言葉かけ」を強く意識する上野監督は新タイプといっていいかもしれない。

本戦出場決定以降、上野監督が率いる立教大陸上競技部男子駅伝部の“イメージ”は急上昇している。人気ブランド校の箱根復帰は今後の学生駅伝の勢力図を大きく変えるだけのエネルギーを持っている。原監督率いる青学大と立教大は同じ難関私大MARCHであり、同じプロテスタント校。今後、箱根駅伝で二大ミッション系チームの活躍が見られるかもしれない。なぜなら、立教大は来季以降もさらなる有力新人選手の入学が見込まれるからだ。

現役時代はスピードにこだわってきた上野監督がどんなチームを築き上げていくのか。非常に楽しみだ。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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