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マッサージは根本的な解決にはならない…整形外科医が「肩こりでも受診をためらわないで」と訴えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年10月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

肩こりを治すにはどうすればいいのか。整形外科医で東京医科大学の遠藤健司准教授は「肩や首の筋肉をマッサージしても一時的に痛みが和らぐだけで根本的な解決にはならない。上半身の動きの要となる肩甲骨まわりをほぐす体操が有効で、自律神経を整えることにもつながる」という――。

※本稿は、遠藤健司『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■自律神経の乱れは肩こり、首こりに関係している

だるい、やる気が出ない、イライラ、過食、寝つきが悪く眠りが浅い、頭が痛い、眼精(がんせい)疲労、めまい、耳鳴り、冷え……。一つひとつは「不調」で片づけることができたとしても、それらが慢性化して深刻になれば、免疫機能の低下やうつ症状にも繋がります。

仕事にも支障をきたすくらいつらくて病院に行って検査をしても、これといった異常は見当たらず、仕方がないからビタミン剤や市販薬でとりあえずその場をしのぐ。そんな病名のつかない不調に共通するのが「自律神経の乱れ」です。

自律神経は、内臓を始めとする各組織の反応に関わる神経で、背骨まわりに集中しています。

アクセルにたとえられる「交感神経」とブレーキにたとえられる「副交感神経」の2種類で成り立っていて、この二つの神経はそれぞれバランスをとりながら、内臓や組織の働きをコントロールしているのです。自律神経が乱れて、どちらか一方が過剰に刺激されたり、極端に優位になったりしてバランスを崩すと、心と体の思わぬところに不具合が生じる、というわけです。でも自律神経の乱れは、検査や数値では測ることができません。

なぜ、整形外科医である私が自律神経のアンバランスに目を向けるのか。

意外に思うかもしれませんが、実は、自律神経の乱れには、脳に近い首こり、肩こりが関連しているのです。上半身を支えている背骨のまわりには自律神経があるというのがその理由です。

肩こりと精神的ストレスの合併を調べたテストでは、両者はかなり高いレベルで一致することが証明されています。

肩こりがない人で精神的ストレスを感じている人の割合は10%程度ですが、軽い肩こりがある人では55%、重度の肩こりがある人では90%を超えています。この結果からはどちらが先に発症したかはわかりませんが、にわとりと卵のような関係と言えるのではないでしょうか。

精神的ストレスの合併
出典=『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』より

■ストレスを感じると痛みを強く感じる

肩こりが普通の筋肉痛と違うのは、自律神経障害が大きく関与しているということ。この現象は腰痛にはあまり見られません。

まず注目したいのは、精神的ストレスが蓄積すると、実際の痛みの状態よりもさらに首や肩の不快感、違和感が強くなってしまう疼痛(とうつう)感作。脳が過敏に反応してしまうので、本来2の痛みが8にも9にも感じられてしまうのです。

精神的ストレスにさらされると、交感神経が過度に刺激され筋肉の緊張が強くなってしまうので、首の後ろや肩のまわりの痛み・こりとなって現れるケースもあります。

■落ち込んだ姿勢が肩こり・首こりにつながる

そしてもう一つ気を付けたいのは、ストレスと姿勢の相関関係です。

プレッシャーを受けたりつらいことが続いたりすると、どうしても伏し目がちになり、顔が下を向きやすくなりますよね。その結果、背中が丸くなり、僧帽筋に負担がかかり、肩こりを起こしやすくなる、という物理的な原因もあなどれないのです。

逆に、首から自律神経に悪影響を及ぼしてしまうケースもあります。

スマホ、パソコンの長時間使用やストレスで背中が丸くなって肩甲骨の動きが悪くなり僧帽筋が固まると、首の筋肉が緊張します。

首の筋肉というのは、重力を感知して体のバランスを整える「前庭神経」がある脳幹(のうかん)に繋がっています。脳幹というのは、三叉神経や目の神経を司つかさどる自律神経の大本(おおもと)です。つまり首がこるということが自律神経の乱れに直結しているのです。

頭蓋骨と首の筋肉の関係
イラスト=さかもとすみよ
頭蓋骨と首の筋肉の関係 - イラスト=さかもとすみよ

また肩こり、首こりというのは、めまいや頭痛、目の痛みにも関係しています。

体が斜めになっても、脳はまっすぐの状態を保てるのは前庭神経の働きのおかげです。この神経があるから私たちは転ばないでいられるし、三半規管の調整もしていられる、いわば「バランス感覚の司令塔」のような存在です。肩や首の痛みは、その前庭神経にも作用してしまうので、めまいや頭痛、目の痛みに発展してしまうのです。

首の筋肉が異常に緊張し、それが前庭神経に影響するというのは、自律神経にとっては思った以上に深刻なことなのです。

■肩こり解消の鍵は肩甲骨

そんな肩こり、首こりの仕組みを解明する鍵が、肩甲骨にあるのです。慢性的に肩こりに悩んでいる方は、いいと言われた“もの”や“こと”を試し、マッサージや整体に通い、長い間試行錯誤されて、体質だからと諦めてしまっている場合も多いでしょう。

でも、正しくセルフケアをすれば、かなり高い確率でこりを軽減できると私はあえて断言します。

肩や首だけを刺激しても一時的に楽になった気がするだけ。狙うべきターゲットは、肩や首を支える肩甲骨なのです。

生活習慣の改善や運動習慣で肩甲骨まわりが柔軟になり、スムーズに動けば、上半身の血流が促され、肩や首が楽に動き、自律神経も整いやすくなります。そして自律神経のバランスが安定すると、首や肩もほぐれやすいという相互作用も。頭や心を含めた上半身の自由度の鍵を握っているのは、肩甲骨なのです。

■肩甲骨は上半身における「骨盤」の役割

さて、骨盤が人間の土台、という話はどこかで耳にしたことがあると思います。

では肩甲骨はどうかというと、四足動物にとっては人間の骨盤と同様の働きがあります。歩くため、動くための土台となり、体重を支える前足(腕)をコントロールする重要な存在で、たくさん走る、速く走るために、肩甲骨を大きく動かす必要があるのです。

これを二足歩行の人間に置き換えると、肩甲骨が全身の土台、とまでは言えませんが、上半身の動きをコントロールする司令塔的な役割を担っていることになります。肩甲骨の動きがいい人は手が自由に大きく動き、肩甲骨の動きが悪い人は手が上がりにくい理由がわかると思います。

動物繋がりでもう一つ。人間同様鎖骨がある動物は、猿、猫、熊、リス、鳥、こうもりなど。鎖骨がないのは、ライオン、犬、馬、象、アライグマなど。鎖骨がない動物は、肩甲骨が胸郭にがっしり固定されています。両者にはどんな違いがあるかわかりますか?

腕を器用に使え、木に登れるかどうか、です。

写真=iStock.com/オランウータン
写真=iStock.com/undefined undefined
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/undefined undefined

鎖骨と肩甲骨の関係は、腕を上に伸ばした時に、肩甲骨があまり前にこないように、鎖骨がつっかい棒になっているわけです。前後の動きだけで速く走るためなら鎖骨はいりませんが、腕が360度の動きをするためには、鎖骨がないと安定しません。鎖骨というブレーキがあるおかげで、肩甲骨を360度自由に動かせる。だから腕を器用に使う動物には鎖骨があるのです。私たち人間も、腕を自由自在に操りたいのであれば、肩甲骨にフォーカスすることが必要なのです。

■もうひとつの重要組織「ファシア」

もうひとつ、一般の人にはほとんど知られていないけれど、体の動きや痛みに直接関係し、整形外科視点ではとても重要な組織について触れておきます。それがラテン語で包帯、包むものを意味する「ファシア(筋膜)」です。

矢印の部分がファシア(写真は鶏肉)。 写真=『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』より
矢印の部分がファシア(写真は鶏肉)。(写真=『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』より)

全身に張り巡らされ、臓器や骨、血管などを包むごく薄い半透明の膜まくで、筋肉を取り巻く筋膜もファシアの一部。主にコラーゲンと水分でできています。鶏肉を調理している時に透明の薄皮のようなものを見たことがありませんか? それこそファシアです。みかんの皮を剥むいた時に皮と実の間にある、白い筋状の線せんい維と薄い膜を合わせた部分もファシアにあたります。2020年にノルウェーで発表された筋肉痛の研究では、ファシアの中に痛みを感じるセンサーがある、ということもわかりました。

筋肉や臓器を取り巻くファシアが三次元的に動くため、私たちはスムーズに体を動かせます。しかしファシアが硬くなると筋肉や臓器に癒着してしまい、体を動かしにくくなり、痛みも発生。ファシアは動かさないと硬くなり、動かすと柔らかくなる性質を持っています。運動不足だったり、長時間同じ姿勢でデスクワークをしたり、寝返りを打たずに寝続けたりすると、ファシアが硬くなり、筋肉の動きにくさや痛みが発生。また、ファシアが癒着していると菱形筋(りようけいきん)と僧帽筋(そうぼうきん)が連動し、よい姿勢をとりづらくなります。

慢性的な肩こりで腕が上がらない場合は、筋肉と脂肪を取り巻くファシアの動きが悪いことも原因の一つ。このファシアがほぐれて動きやすくなると、筋肉の動きもなめらかになります。お風呂に入って温めると楽になる時は、ファシア由来の肩こりの可能性が高い、と言えるでしょう。ちなみに、マスクを長時間つけていると耳の後ろを圧迫され、ファシアの動きも悪くなる、という興味深い報告もされています。

■肩甲骨とファシアにアプローチする「肩甲骨はがし」

肩甲骨とファシアの両方にアプローチできるのが、私が提唱する「肩甲骨はがし」です(次ページ参照)。

遠藤健司『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)
遠藤健司『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)

背中に貼り付いた肩甲骨をベリッとはがし、内転、外転、挙上、下制、上方回旋、下方回旋の6つの動きをスムーズにすることで、肩甲骨に関わる17個の筋肉の柔軟性を高めます。

毎日続けることで肩と首のこりが解消し、上半身のむくみ、頭痛、目の痛み、めまい、倦怠感やプチうつまで、さまざまな不調も楽に。

大事なのは短くてもいいのでこまめにやることです。長い時間をかけて、一日1回やるより、1回あたり1分以内でいいので、何度もやる習慣を目指してください。

ベッドの上でも、テレビを見ながらでも、デスクワークの途中でもできるので、最低でも、朝・昼・寝る前の一日3回を習慣にしましょう。

■毎日こまめに何回もやろう

基本の肩甲骨はがし体操

イラスト=さかもとすみよ
基本の肩甲骨はがし体操 - イラスト=さかもとすみよ

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遠藤 健司(えんどう・けんじ)
東京医科大学整形外科准教授
日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。東京医科大学整形外科大学院修了後、米ロックフェラー大学、東京医科大学整形外科医長等を経て2018年より現職。著書に『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)、共著に『本当は怖い肩こり』(祥伝社新書)など。

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(東京医科大学整形外科准教授 遠藤 健司)

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