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なぜ東京五輪は「日本の黒歴史」となったのか…組織委アドバイザーが反省をこめて振り返る3大ポイント

プレジデントオンライン / 2022年10月28日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

東京五輪をめぐっては、組織委員会の元理事が収賄容疑で逮捕されるなど、さまざまな不祥事が起きた。組織委アドバイザーを務めた澤邊芳明さんは「公共事業に関わる人のリテラシーに問題があった。日本が主催する国際イベントとして、2025年には大阪万博が控えている。今回の失敗を繰り返してはいけない」という――。

■汚職事件に発展するとは思っていなかった

僕はアドバイザーという立場で東京オリ・パラのお手伝いをさせていただきました。もちろん無報酬です。

拙著『ポジティブスイッチ』(小学館)には、「大会が1年延期になって我が社は数億円の損害を出した」と書きましたが、それはただ、当初予定されていた、五輪期間中の企業パビリオンの計画が全部飛んでしまったからです。僕たちはそのデジタル演出の仕事をお受けしていました。もちろんこれは企業との契約で、組織委員会としての関与といったものではありません。

東京2020オリンピック・パラリンピックは、新国立競技場の設計案変更、エンブレムの盗用、コロナ禍による延期、開会直前の関係者の辞任・解任ラッシュ……と史上まれに見る難産となりました。

また、大会から1年が経った今年8月には組織委員会の元理事が収賄容疑で逮捕されるという前代未聞の事件にも発展しました。

東京五輪・パラリンピック組織委員会理事の高橋治之氏(=2020年3月30日、東京都内)
写真=AFP/時事通信フォト
東京五輪・パラリンピック組織委員会理事の高橋治之氏(=2020年3月30日、東京都内) - 写真=AFP/時事通信フォト

汚職疑惑に関しては、スポンサー関連で出てくるとは正直、まったく思っていませんでした。スポンサー契約を仲介して中間マージンを受け取るのは通常のスポーツイベント等ではふつうにあることです。

ただ、組織委員会の理事がそれをやってしまうと話は別です。理事は「みなし公務員」で、公務員と同等の立場になり、贈収賄罪の対象になってしまいます。(逮捕された)高橋元理事は悪いと知っていてやったのではなく、ただ知らなかっただけだったのかもしれません。

だけ、と言っても、自分たちの常識が国家事業レベルでもまかり通ってしまうと考える認識の甘さこそが大問題です。

■リテラシーが昭和のまま残ってしまっている

僕は一連の不祥事はこうした公共事業に関わる人や公の立場にある人のリテラシーの問題だと考えています。

単純に言うと、洗練されていない。準備期間中から相次いだ、失言問題なんかもそうでしょう。ジェンダー意識をはじめとして、リテラシーが昭和のまま残ってしまっている気がします。

僕は中枢にいたわけではないので細かい部分までは分かりませんが、意思決定のプロセスが、中途半端に民主的で中途半端に密室的で、「船頭多くして船山に上る」の状態になっていた印象は否めません。

いっそ思いっ切り透明化をはかるか、それか強烈なリーダーシップを持つ人物がぐいぐい引っ張ってゆくか、どっちつかずになるよりはどちらかに振り切った方がよいでしょう。

あと、これは一経営者として痛感したことですが、財政的に余裕の少ない国がやるべきイベントではないですね。オリンピックを景気のバネにするのは、いまの日本のフェーズでは無理があったのではないでしょうか。

■辛口採点のオリ、のびしろの多いパラ 

オリンピックというイベントはものすごい肥大化しています。創立者クーベルタンが提唱したアマチュアスポーツの祭典という理念よりも、商業的な面の非常に強い興行になっています。

興行となると、熱心なファンを獲得している大型イベントが、いまの時代他にもたくさんありますね。サッカーやラグビーのW杯もあるし、eスポーツもあります。その中でも最大規模のイベントとして、オリンピックにかかる期待値はどうしても高くなります。

もちろん今回の大会でも、ごく当たり前のスポーツの楽しみは感じられたし、選手たちも活躍できたし、スケートボードやサーフィンなどの新競技も盛り上がりました。そこはよかったと思いますが、逆に言うと、興行としての楽しみだけで、社会に訴えるものは特になかったなと僕は思います。

一方、パラリンピックはまだまだ寄せられる期待値が低い。ハードルが低いから、仮にイベントとしてどちらも同程度の完成度だったとしても、オリンピックはいまいちで、パラリンピックは大成功だ、と評価してもらえるのでしょう。

■ボッチャの認知度が20倍になった

加えて、パラリンピックは大会を通じて多様性と共生を呼びかけるといった、社会への問題提起や課題解決の役割を担っています。そういったポジティブスイッチはオリンピックには少なくなっていますね。これは東京大会に限った話ではありませんが。

よく、レガシー(遺産)という言葉が聞かれます。この大会のレガシーはなんだったのか、と。

パラリンピックはわかりやすくて、ボッチャ(注:澤邊氏は日本ボッチャ協会の代表理事でもある)の場合、2014年の調査で国民の3パーセントにしか知られてなかったのが、いまは60%近くにまで認知が広まっています。障害のある方が活躍できると示せたし、大会後もスポンサーが減っておらず、引き続きご支援いただけています。

なによりも、競技の魅力が広く伝わったのが大きいですね。これは東京大会後の話ですが、競技会場に観戦に行くと、特別支援学校に通う重度障害者の子どもたちが、めちゃめちゃいきいきとボッチャやってるんです。その子たちは去年のテレビ中継で日本選手が活躍するのを見てカッコいいと思ったみたいで。すっかりアスリートの目つきになってるのを見て、僕も感動しちゃいました。

競技人口も増えています。健常者の間でも、です。「重度障碍者はスポーツなんかできない」とか「健常者はパラスポーツなんかやらない」といった固定観念をくつがえす“心のバリアフリー”が進みました。これは大きなレガシーだと思います。

■国家の“パンとサーカス”にはそれなりの意味がある

いっぽうオリンピックでなにが残ったのでしょうか。

コロナ禍という前例のない状況で、各国の選手団を安全にお迎えし、無観客とはいえ無事に開催できたことは海外の方にも高く評価されました。

スカイツリーには、オリンピックを前に「東京2020」の文字が点灯された
写真=iStock.com/Joel Papalini
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Joel Papalini

けれどもそれは、たまたまコロナ禍に見舞われたからそうなった、という話です。それよりも僕は、どんな学びを引き出すかが東京大会の真のレガシーになりうると考えています。今後日本は、オリンピックのような国を挙げてのイベントをどうこなしてゆくのか、考えてみましょう。

日本が今後一切オリンピックや万博をやらない国になる、という選択肢もゼロではないと思います。

ただ僕としては、国家による「パンとサーカス」にはそれなりの意味があると思っています。オリンピックのようなイベントは「サーカス」に当たります。一発逆転の切り札、みたいに過度な期待を寄せて招致に動くのはリスキーですが、景気へのカンフル剤という面では、効果的な場合はあるでしょう。

■万博に向けて3つの提言

いま僕が心配してるのは3年後に予定されている大阪・関西万博です。オリンピックなら、やることはだいたい決まっているし、日本が強い競技も数多くあるので、開催すれば一定の盛り上がりは得られます。しかし万博となると、やること、できることの自由度が格段に高い。

来場者の方にさまざまな展示を楽しんでいただいた上で、ひとつのコンセプトにつらぬかれた、統一感のある体験を提供できればベストなのですが、はたしてどうなることか。そもそもまだ万博を開催することを知らない人も少なくない状況で、これから開催地はもちろん、全国的な盛り上がりが望まれます。

万博を成功させるために必要だと思うことは3点あります。

1点目は、元気のいいベンチャー企業を巻き込んで、昭和色を払拭してゆくことです。次代のジャパニーズカルチャーを担うベンチャー企業を世界に向けてプレゼンできなくては、万博の成功はありません。

ちなみに今度の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。このテーマにふさわしい展示が見せられるベンチャーは日本にもたくさんあるでしょう。

万博で一堂に会したそれらのベンチャーが、展示終了後も競い合い、連携し合ってシュンペーターのいう「新結合」を生み出す。個人的にはそれくらいの展開を望んでいます。逆に、旧財閥系の企業やお堅い大企業のパビリオンが立ち並ぶようだったら、日本の停滞感を来場者に印象付けるだけになってしまう恐れがあります。

■東京五輪の本当のレガシーとは

2点目に、世界に名の通った方々を、もっと国を挙げて支援してゆく必要があると思います。外国のお客さんが、日本と言えばこの人だ、と思うような方々です。あるいはまだ無名だけど、間違いなく世界に通用するぞ、という逸材を全力で探す“万博オーディション”をやるのもありでしょう。

ところが日本は、国内向けの、ドメスティックな戦略はあっても、グローバルな視点がいまだに欠けているように思えます。たとえば韓国のエンタメ・コンテンツと比較するとその差は歴然ですね。その点が懸念材料ですが、逆にこの機会に「日本の見せ方」を新たに学んでゆけばよいのではないでしょうか。

3点目はこれと関連して、万博を見に来るインバウンド(外国人観光客)に長居してもらうための観光戦略です。日本には、あまり知られていないけれどもよいところがたくさんあります。コロナ禍で外国旅行できなくなった僕たち日本人も気づきましたよね。いっそ日本全国が万博会場だ、というくらいのスケールで、外国人の来場者に日本中を旅してもらう。グローバルな観光立国に向けて脱皮をとげるチャンスととらえることもできるのではないでしょうか。

東京オリンピックは、長い目で見ると膿を出し切るいいタイミングになったのではないでしょうか。オリンピックと同じことを万博で繰り返してはいけません。まだ3年ありますから、次の世代がどんどん参加して、世界に誇れる万博をみんなで作るぞという機運を盛り上げてゆきたいです。東京五輪がそのためのスプリングボードになれば、それこそレガシーになると思います。

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澤邊 芳明(さわべ・よしあき)
ワントゥーテン代表取締役社長
1973年生まれ。24歳でワントゥーテンを創業。市川海老蔵丈が主演を務め最先端のリアルタイム映像演出でライブ配信した「Earth & Human」by 1→10を成功させるなど、XRとAIに強みを持つワントゥーテンを率いて、エンターテインメントによる地方創生や社会課題解決を推進している。

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(ワントゥーテン代表取締役社長 澤邊 芳明)

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