最高幹部の保身のために一般党員をスパイする…日本共産党の裏部隊「第二事務」の存在を告発する
プレジデントオンライン / 2022年11月2日 13時15分
※本稿は、篠原常一郎『日本共産党 噂の真相』(育鵬社)の一部を再編集したものです。
■反逆予備軍を監視する裏部隊
純粋な正義感や良心を持って日本共産党に入党した党員は、「党上級機関の要請」によって末端の党機関の職員になったり、候補者を経て地方議員になったりします。
そうして党の中のヒエラルキーを登るにつれ、最高幹部周辺から漏れてくる不可解な事実に疑問を感じるようになります。
しかし多くの場合、「上級の指導に無条件に従う」との民主集中制の規律を順守する立場をとり、そうした疑問を自分の中で押し殺してしまい、“合理化”するのです。
それでも、党中央委員会や都道府県委員会の最高幹部たちと直接触れあう部署の任務につくと、幹部の不合理な行動や非人間的な振る舞い、あるいは組織私物化の横暴の姿を目のあたりにするようになります。
そうすると、よほど卑屈な人間でない限り(現実には最高幹部たちに取り入り、保身に走る党本部職員も少なくないのですが)、心中に不満がふつふつと沸いてくることになります。
これが幹部と異なる意見の具申や表明につながることがままあるのですが、そうなるとその党職員は「反逆予備軍」として“札付き”となり、要監視対象とされてしまいます。
そして、この監視任務を担う組織機構が日本共産党中央委員会には形成されているのです。
これが、党幹部と施設の「防衛」を任務とする部門=「第二事務」と、その他の民間会社の形をとった警備部門や尾行調査部門です。
■本来の任務は「党最高指導部のボディガード」
こうした裏部隊は、かつては日本共産党が公表している組織体制図の中には示されていませんでした。
第二事務は、「権力に通じたスパイ分子や腐敗分子を摘発する」という名目で、党本部職員や幹部、はては地方党組織の党員たちまで尾行、盗聴、身辺調査するなど、集団での監視を行っていました。
第二事務の本来の任務は、党最高指導部(現在は空席の中央委員会議長、委員長、副委員長、書記局長クラスまで)のボディガードであり、右翼テロなどからこれら幹部の身体を守ることです。
そのため、第二事務の要員たちは、選挙などでの地方遊説の際、最高幹部の立ち回り先の警察当局と警備についての打ち合わせを行ったり、当該地方の共産党組織や議員たちとも接触を持ったりします。
したがって、こうした「幹防」(幹部防衛要員のこと)を常勤任務にしている党本部職員がいることは、少し長く共産党員として活動していれば、気づくことになります。
■異論を唱える党員を監視
元『赤旗』記者のI氏は、私にこう語りました。
「除名された党員と長く付き合いがあったのですが、いま思うとその人が中央委員会に対して異論を唱え、意見書などを出し始めたころから、私の周囲に変な人たちが現れ始めていました。
通勤電車の中でも、駅と家の間の行き来でも、いつも同じ人物が2人くらいで付かず離れずについてくるのです。すれ違いざまにカバンからフラッシュをたかれたこともあります。顔写真を撮られたのだと思います」
この内容を、党本部を退職したK氏に詳しく話したところ、次のような解説をしてくれました。
「問違いなく第二事務の連中ですね。彼らは日常的に党本部勤務員を中心とした党員の監視を行っています。
中央委員会の方針に異論を唱えたり、飲酒や異性関係で悪い噂のあったりする党員の生活を監視し、問題をつかんで上級に報告するのです。
問題があっても、すぐには摘発しません。“泳がせ”ておいて、党員同士の付き合いとか人物連関図を把握し、いざというときは皆連座させて除名、除籍、権利停止など軽重をつけた処分をし、“有害党員”の追放と組織引き締めを図るのです」
私は、自分自身の体験や見聞と共に多くの日本共産党関係者、特に党本部の元職や現職の職員、地方議員、都道府県以下の党機関職員の協力により得た情報を紹介しています。
しかし、こと第二事務をはじめとする裏部隊の内実は、きわめて微妙であり、かつ告発にはかなり危険が伴います。
仮名を用いたとしても紹介する証言はなるべく生に近い形で掲載してきましたが、裏部隊については情報源が特定されると危険です。
そこで、あえて証言についても当事者を特定できない形にするため、複数の人物の証言を一つにまとめるなどの加工を行っていることをあらかじめ読者にお断りしておきます。
■「裏仕事」のシステム
第二事務は、党本部建物内に部屋を持っています。
基本的には、党最高幹部用の車を運行する自動車部と日常的に協力し、書記局の指導下に幹部の行動日程に合わせた「幹防」派遣の調整や、「防衛情勢」(遊説先などでの右翼団体の動向や、警察による警備状況のこと。警察無線の傍受も行っていますが、これは違法行為です)を調査・把握する活動をしています。
また、実際に遊説先などで幹部が妨害を受けた際にそれを排除するなどでトラブルが生じたり、捜査・司法当局との調整が必要になったりした場合のために、法対部(党本部の法律対策部門で、弁護士も配置されています)と密接に連携しています。
しかし、“裏仕事”については、独自のシステムを掌握し、また形の上で党の外部に置かれた組織(法人)とも連携し、時には人事交流までして隠密調査を行います。
先のK氏が解説します。
「党本部第二事務は、外向きの顔として会社も持っています。
合同警備株式会社で、『赤旗』編集局の入っている印刷会社のビル(党本部と線路をはさんで北側にある。不破氏が党職員を集めて“講演”する講堂もあります)や印刷所、それに党に近しい会社(新日本出版社やその関連会社)に警備員を派遣しています。
第二事務の要員は、しばしば本部勤務員からこの警備会社に出向し、武術の訓練を会社の研修として受けることもあります」
■「武道の達人」をリクルート
第二事務の要員は、空手や柔道の有段者が多いのですが、武術の研修は、東京・練馬区にあるI道場が長年にわたり実施拠点になってきました(現在は閉鎖)。
「I道場の元の道場主は亡くなってしまったのですが、柔道の達人で、熱烈な共産党員でした。
元参議院議員の緒方靖夫党副委員長も党国際部にいたとき、不破氏が外遊する際に通訳兼ボディガードを務めるために、この道場で柔道の稽古をつけてもらっていました。
道場の一角には、第二事務の要員たちが柔道や空手の研修会を開いた際の記念写真や、演歌とか軍歌の替え歌として作った『幹部防衛任務の歌』が何種類も紙で貼り出されてあります。近所の人が見て、怪訝な顔をしていたそうですよ」(K氏)
武術を磨きながら“軍歌”を歌い、「幹防」の任務にあたる彼らは、いったいどんな人間なのでしょうか。K氏は語ります。
「学生時代に武道の有段者になった党員で、党機関専従になった者からリクルートすることが多かったみたいです。
しかし、中のメンバーに聞いてみると、『女性や金銭絡みで問題を起こして行き先のなくなった党専従もかなりいる』とのことでした。
第二事務は、年齢的には50歳前後までしかできないことになっているので、いわば“禊”ですね。党の最高幹部に身を挺して尽くして、最後は希望の部署に配置してもらって定年を迎えるのがほとんどだそうです。
地方の地区委員会の委員長とか、都道府県委員会の職員とかですね。地方議員になった人もいます」
他のソースからの話では、第二事務にリクルートされた党員は数週間にわたる合宿で「党幹部防衛は革命の至上課題」といったテーマに関して膨大なテキストを基にみっちり講義され、グループ討論も行うそうです。
日々の運動や集団生活訓練でメンバーの相互連帯を深めながら、きっちりと“洗脳”されるのです。
こうした「幹防」活動を軸にした第二事務については、宮本顕治が自分についた「幹防」メンバーをよく可愛がり、能力があると見ると幹部に取り立てたと言いますから、おそらく宮本が党の最高権力者の座についた1960年代前半からシステムとして定着したのではないかと推測しています。
■特権的な生活を守るために利用していた
共産党というシステムでは、「お前はスパイだ」という名目で、論争相手や将来的に幹部の地位を脅かす可能性の高い同志を次々に排除してきた過去には、枚挙にいとまがありません。
戦前の宮本顕治らによる死者を出した「スパイ査問」事件や、1930年代のスターリン時代のソ連での大粛清(ロシア革命以来の党幹部や赤軍司令官が「外国のスパイ」などの嫌疑で逮捕され、多くが処刑されたほか、獄死しました。逮捕は市民レベルまで広がり、数百万人が犠牲になりました)がその例です。
政権にまったく接近できたことのない小さな日本共産党ですら(イタリアやフランス、スペインの共産党は与党になったことがあります)、不破(哲三)氏のように最高幹部は民主集中制の「上意下達」的な組織の不明朗さの上に乗っかり、特権的な生活を享受できます(これは40年近く党最高幹部の座に君臨した宮本顕治も同様でした)。
この座から追い落とされることが、実は共産党の最高幹部にとっての最も大きな不安の種なのです。
そこで党最高幹部は、自己保身のための組織体制を構築し、歴史的にそれが継承されてきました。
かつては、不破氏にしても宮本にしても、党最高幹部の地位につくとまず、補佐役(副委員長など)に自分のいいなりとなって下部に対して“睨み”の利く人物を登用します。
宮本の場合は、北朝鮮拉致問題で活躍した元共産党国会議員秘書の兵本達吉氏を査問した故小林栄三氏です。
不破氏の場合では浜野忠夫氏を従えています。
この小林氏や副委員長(当時)の浜野氏こそが、日本共産党の裏部隊を統括し、党本部職員や不破氏と自分以外の幹部を含む党員を監視するシステムを動かす責任者の地位についてきたのです。
結局、党員監視の人権抑圧システムは、民主集中制と表裏一体の全体主義的指向の随伴物として、日本共産党に根付いたものなのです。
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ジャーナリスト、軍事・政治評論家
1960年生まれ。立教大学文学部教育学科卒業。公立小学校の非常勤教員を経て、日本共産党専従に。筆坂秀世参議院議員の公設秘書を務めた他、民主党政権期は同党衆議院議員の政策秘書を務めた。著書に『日本共産党 噂の真相』(育鵬社)、『ノモンハンの真実』(筆名・古是三春、光人社NF文庫)、『いますぐ読みたい 日本共産党の謎』(徳間書店)、『なぜ彼らは北朝鮮の「チュチェ思想」に従うのか』(岩田温氏との共著、育鵬社)。YouTubeで「古是三春チャンネル」を開局中。
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(ジャーナリスト、軍事・政治評論家 篠原 常一郎)
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