日本共産党の財政基盤が揺らいでいる…収入の約8割を占める「しんぶん赤旗」の部数ガタ落ちという危機
プレジデントオンライン / 2022年11月3日 9時15分
※本稿は、篠原常一郎『日本共産党 噂の真相』(育鵬社)の一部を再編集したものです。
■日刊『しんぶん赤旗』は20万部弱で赤字体質
『赤旗』は政党機関紙としては圧倒的な部数を誇る日刊紙で、他に日曜版もあります。
1997年に『しんぶん赤旗』に改題しました。
2019年8月28日付『赤旗』に、「『しんぶん赤旗』と党の財政を守るために」と題した岩井鐵也・財務・業務委員会責任者の声明が掲載され、日刊紙と日曜版の読者数が100万を割り、「重大な事態」で、「この後退が『しんぶん赤旗』発行の危機をまねいている」と指摘したことが話題となりました。
日刊『赤旗』は20万部弱。全国紙としては採算割れで、月々数千万円以上の赤字が出ています。党員は毎日の『赤旗』を読んで党の方針を知るタテマエですが、党員が約28万人と言われているので、3分の1の党員が日刊紙を読んでいないということになります。
■「もう視力が追いつかない」
これは党員の高齢化(それにともなう貧困化)と、入党のハードルを下げたことの二つがマイナス要因になっています。
「もう視力が追いつかないから、日刊の方は勘弁して」と私が党専従だったときに高齢者党員からよく言われました。
少ない年金やアルバイト暮らしですから、月数千円以上の購読費用はつらいでしょう。
あとは「ともかく党員を増やせ」と上級から尻を叩かれて、地方議員が苦し紛れに自分がお世話した人を入党させるからです。
入った方は議員の後援会員になったくらいにしか感じていない。だから、「支持しているんだから、そんなに高くて難しい新聞、読まなくてもいいじゃないか」となってしまうわけです。
■日曜版の収益でカバー
「活字離れ」で一般の新聞も部数が低迷している折、『赤旗』の部数が減るのは世の流れとして仕方ないと思います。
一方の『赤旗』日曜版は発行数が80万部前後で、今でも日本で最大部数の週刊紙です。日刊の赤字を日曜版の収益でカバーして帳尻を合わせていますが、『赤旗』全体の収益は長期的にはガタ落ちです。
立て直し策として考えられるのは、日刊『赤旗』の休刊です。
日刊『赤旗』は全国いくつかの印刷所で作られ、毎朝、宅配体制を維持するためにトラック輸送網が敷かれていて、そのために党傘下の輸送会社や用紙会社まで運営されているほどです。
とてつもない人員資材が投入されても、20万前後の部数の収入ではとても賄いきれません。
■3割程度の党員が党費を納めていない
2009年のはじめごろ、外向きに「共産党員が増えている」と宣伝されているウラで、日本共産党の最高幹部のひとりが都道府県委員会の財政責任者を集めた会議でこんな趣旨の話をしました。
「ある党員を大きく拡大した党組織(県委員会)は、党費の納入率が6割前後で低迷している。『赤旗』を読んでいない党員の数も多い……。
一方、党員を増やしながら実態のない党員を整理して減らした別の党組織は、党費が7割前後となっている。――どちらも問題だ」
つまり、新しく党員がたくさん入党し、党員の数が増えている党組織では、「党費の納入」を4割の党員が守らなかったということです。
党費の納入は党員の資格要件の大事な柱ですから、名簿に載っている人の6割しか党員として十分な資格を満たしていないわけです。
また、こういった連絡の取れない人や活動をしない“幽霊党員”の党籍を整理し、新たな入党者を迎えても、3割程度の党員が党費を納めていないのです。
■日本共産党の基盤が揺らいでいる
これは何を意味するのでしょうか。
日本共産党に入ると、党員は次の義務を負うことになります。
②『赤旗』を購読すること。
③党の組織に所属し、活動すること。
いろいろ細かい決まりごとがあるのですが、党員になってやるべきこと、つまり「義務」の大枠はこの3つの項目で表せます。
ところが困ったことに、1番目と2番目の項目がだんだんとおろそかになってきているのです。
党費を納めることは、政治活動を営む党にとってもちろん重要な事柄です。また、購読料を払って党の機関紙である『赤旗』を読むことは、財政的に党を支えると同時に、党の方針や考え方を党員が学ぶ重要な機会ですから、共産党員であることの原点にかかわる問題です。党の方針を知らずに活動はできません。
その党費を納めない党員が3~4割もいて、さらに日々の活動の指針となる『赤旗』を読まない人もたくさんいるとなると、党の基盤を揺るがす大問題です。
■党員が『赤旗』を読まなくなっている
党員の義務とされる大事な三つの柱のうち二つが曖昧になっていたら、義務を果たそうとする気概が党の全体から失われていくことになるのは必然です。
私は党専従になって以来、国会議員秘書に就いていた時代までいろいろな地方の党組織に選挙応援で派遣され、各地の党員の方々と触れ合いました。
1990年代後半から派遣された先で驚いたのは、日刊の『赤旗』はおろか、一般向けの啓蒙(けいもう)宣伝紙として位置づけている週刊の『赤旗』日曜版も読んでいない党員が、地方ではけっこう多かったことです。
■わずかな年金暮らしでお金がまわらない
この背景には、党員の高齢化がいっそう進んできたことと、不景気や地方の過疎化による生活環境の悪化があるようです。
地方に応援で派遣される党専従を「オルグ」といいます。
一般的に「オルグ」とは労働組合や政治団体を組織したり、加入を促す活動、またはその活動をしている人のことを指し、主に左翼的な活動の場合に対して使われます。
ただし、この場合の「オルグ」は語源のオルガナイザー(organizer)に近い、“組織をまとめ上げる係”というくらいの意味です。
私もオルグとして地方に派遣されたとき、党費を納めない党員の訪問とともに、「未購読党員」というジャンルに分類した『赤旗』を読んでいない党員のところを訪ねて、購読を呼びかける活動をさせられたことがあります。
でも、『赤旗』をとっていない党員は、
「もうアルバイト仕事もできず、わずかな年金だけで暮らすようになって、月々数百円をどうひねり出すかという状態なんです。『赤旗』にまでお金がまわらない」
「もう高齢で、新聞活字なんか読むことができない」
などと、こちらとしてはどうにもならない理由を述べて弁明される方がほとんどでした。こんな理由を言われたら、二の句を継げません。
「そうですか。では、できることで協力してくださいね」と言って、辞去するしかありませんでした。
生活に困窮している党員については、党費の減免制度があります。
だから若い人でも党費を減額したり、免除されたりしている人もいます。もちろんこういう場合、日刊で月2000円、日曜版でも月800円の購読料を払えないことが多いことは想像に難くないでしょう。
しかし、これではかつて「鉄の規律」と言われた共産党の組織と活動が裾野から崩れていくことにつながります。
■共産党の収入の約8割は『赤旗』
毎年9月には、各政治団体から所管の省庁に提出された政治資金収支報告の概要が、官報などで公表されます。原本の方の縦覧も同時に開示され、総務省に赴けば誰でも閲覧することが可能です。
“財界からビタ一文ももらわない”と自画自賛してきた日本共産党中央委員会が総務省(2000年度以前は自治省)に提出してきた年度ごとの政治資金収支報告書を紐解くと、同党の財政が明らかになります。
『赤旗』事業は党の財政収入の8割を占めると言われています。2020年分の政治資金収支報告によると、機関紙誌・書籍等事業収入は、173億8413万円と収入の81.5%を占めます。党費収入は5億4907万円で収入の2.6%、寄付が9億2512万円で同4.3%ですので、圧倒的です。
■「チビた鉛筆を長く使う」節約キャンペーンが手足をしばる
『しんぶん赤旗』編集局の元幹部、G氏はこう述べます。
「かつて、『赤旗』は“タブーなき真実の報道”を標榜し、政財界のスクープ記事をいくつも連発して、評価を得ていたものでした。記者もやる気にあふれていたのです。
ところが最近は、不破氏やごく一部の幹部を祭り上げる“提灯記事”のようなものの掲載が増え、“しんぶん”としての魅力が大幅に減ってしまいました。
いまや“節約運動”のかけ声の下、取材や出張経費の削減が記者の手足をしばり、若い記者などは編集局でコンピューターによるネット検索で仕入れた情報で記事を書いている始末です。
こんな状況では、いくら上からハッパをかけても、『赤旗』読者を増やしていくことなどできないでしょう。一般商業紙ですら“新聞離れ”で苦しんでいるのですからね」
“節約運動”とは、ここ十数年以上にわたり党本部内で取り組まれている経費節約キャンペーンで、本部職員や役員からなる「節約委員会」がコストカッターとして運動を煽っています。
各部局から、「節約のためにどんな工夫をしたか」について月間報告を提出させ、それに基づいて「節約ニュース」を発行します。
これは本部職員全員に配布されていますが、内容は「チビた鉛筆をどのように長く使うか」「出張時に割得キップをどのように使ったか」など些細なものが多く、党本部関係者からは「『節約委員会』と『節約ニュース』をなくすことが最大の節約になる」と囁かれています。
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ジャーナリスト、軍事・政治評論家
1960年生まれ。立教大学文学部教育学科卒業。公立小学校の非常勤教員を経て、日本共産党専従に。筆坂秀世参議院議員の公設秘書を務めた他、民主党政権期は同党衆議院議員の政策秘書を務めた。著書に『日本共産党 噂の真相』(育鵬社)、『ノモンハンの真実』(筆名・古是三春、光人社NF文庫)、『いますぐ読みたい 日本共産党の謎』(徳間書店)、『なぜ彼らは北朝鮮の「チュチェ思想」に従うのか』(岩田温氏との共著、育鵬社)。YouTubeで「古是三春チャンネル」を開局中。
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(ジャーナリスト、軍事・政治評論家 篠原 常一郎)
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