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「すっぴん顔が見るに堪えない」はアウトなのか…弁護士が解説する「誹謗中傷コメント」のボーダーライン

プレジデントオンライン / 2022年11月3日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jrwasserman

YouTubeで悪質なコメントを見つけたときはどうすればいいか。弁護士の河瀬季さんは「YouTubeは差別を扇動するコメントや、悪意のある攻撃と判断できるコメントを削除対象と定めている。名誉毀損に当たるコメントは放置せず、報告ツールや削除依頼ウェブフォームを使って削除を求めるのがいい」という――。

※本稿は、河瀬季『IT弁護士さん、YouTubeの法律と規約について教えてください』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

■誹謗中傷コメントは名誉毀損に当たるのか

美容系YouTuberケイコさんからの質問です。

Q 物申す系YouTuberのBさんが、美容系チャンネルの動画を配信していたAさんに対して、半年ほど前から絡み始めました。だんだんエスカレートして、名指しで誹謗(ひぼう)中傷する動画を配信し始め、ネット上で悪口コメントを煽り始めたそうです。

私の動画のコメントに、「こんなことになっているみたいですよ。ひどいですね」と書き込んだ人がいて、私もつい調子を合わせて、「ホントですよね。ひどいなあと思います」と返事してしまったのです。

Bさんはおそらく自分が非難されたと思ったのか、それ以後、私に「そんな田舎顔して化粧法を教えるなんて生意気だ」などとコメントし始めました。そのうちに一緒になって悪意のあるコメントをする人が現れ、困っています。こうしたコメントは名誉毀損(きそん)にはならないのでしょうか?

A 名誉毀損は、不特定または多数の人に対して、個人または法人の社会的評価を低下させる具体的事実(証拠等をもって、その存否を決することが可能な事項)を指摘した場合に成立します。

また、個人の感想ではなく、他人の社会的評価を低下させる表現であるのなら、それが事実の摘示か意見ないし論評であるかを問わず名誉毀損が成立することになります。

すっぴん顔が見るに堪えないというのは個人的感想であり、具体的な事実の摘示とは言えず、名誉毀損が成立する可能性は低いですが、ひどい悪口を繰り返したり、執拗(しつよう)に罵声を浴びせ攻撃したりといった場合には、名誉感情を侵害するとして、侮辱罪を問える可能性があります。

YouTubeに誹謗中傷する悪口コメントが書き込まれた場合には、YouTubeに対してコメントの削除を要求するという方法がありますよ。

■YouTubeが定める削除対象コメント

Q どういう場合に、コメントの削除を要求できるのでしょうか?

A YouTubeの利用規約上削除されるべきものとして定められているか否かを確認する必要があります。

YouTubeの「コミュニティ ガイドライン」においては、以下に該当するコメントが削除の対象として定められています。

・ヌードや性的なコンテンツ
・有害で危険なコンテンツ
・不快なコンテンツ(ヘイトスピーチ)
・暴力的で生々しいコンテンツ
・嫌がらせやネットいじめ
・スパム、誤解を招くメタデータ、詐欺
・脅迫
・著作権侵害
・プライバシー侵害
・なりすまし
・子供の安全を脅かすもの

誹謗中傷のコメントについて問題となりやすいのは、上記のうち「不快なコンテンツ」と「嫌がらせやネットいじめ」となります。

■人種や性別に対する「悪意のある攻撃」はNG

「不快なコンテンツ」について、YouTubeの「コミュニティ ガイドライン」は以下のように説明しています。

人種、民族、宗教、障がい、性別、年齢、国籍、従軍経験、社会階級、性的指向、性同一性に基づく個人または集団に対する暴力行為を助長または許容するコンテンツ、またはこうした特性に基づく差別を扇動するコンテンツ

例えば、「○○人は出ていけ!」などというコメントは、人種差別を扇動するコメントと言え、「不快なコンテンツ」に該当することになり、削除を求めることができますし、「女のくせに~」と書き込むようなら、性別に基づく差別を扇動するので該当すると主張できる可能性があります。

また、「嫌がらせやネットいじめ」について、YouTubeの「コミュニティ ガイドライン」は「嫌がらせ的な動画やコメントをYouTubeに投稿することは許可されません。嫌がらせ行為が悪意のある攻撃にまで発展した場合は、ご報告いただければ削除することができます」と説明しています。

「解説がヘタだ」「この女は化粧法がわかっていない」程度のコメントであれば削除の対象となる可能性は低いのですが、「すっぴん顔が見るに堪えない」とか、「こんな田舎顔して化粧法を教えるなんて生意気だ」などは「悪意のある攻撃」であり、「多少の不愉快さを感じる程度」を超えていると言えます。

■だれでも簡単に「報告」することができる

削除を求める最も簡単な方法として、各コメントの報告機能を利用するやり方もあります。

・問題となるコメントにカーソルを置いて右上に三つの点が並んだマークを表示させる。
・右上のマークをクリックして表示される「報告」をクリックする。
・削除を求める理由をYouTubeの「コミュニティ ガイドライン」に照らし合わせて選択して「報告」をクリックする。

という手順で、コメントの削除を求めることができます。

PCの画面に表示されたYouTubeのページ
写真=iStock.com/scyther5
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scyther5

ただし、多くの誹謗中傷コメントがされている場合などは、すべてについてコメントから報告することは大変なので、YouTube内の「報告ツール」を使用してガイドライン違反のコメントについて報告する方がよいでしょう。

まとめ
社会的評価を低下させる表現は名誉毀損になる。
コメントの削除依頼はYouTubeの報告機能や「報告ツール」を使おう。

■事実に基づかない攻撃は放置しない

Q 誹謗中傷の問題がまだ収まらず、困っています。Bさんという「物申す系YouTuber」が私のコメント欄に悪口を書き込み、やがて、自分の動画内で、私が○○社のステマを行なっていると言い始めました。どう対応すればいいのでしょうか?

A 悪口はひとまず置いておくとしても、ステマだという攻撃は、放置してはおけませんね。これは、名誉毀損を問える可能性があります。

すでにお話ししましたが、もう一度YouTubeの対応を見てみましょう。

「YouTubeヘルプ」へ行き、「YouTubeのポリシー」から「法律に関するポリシー」へ進むと、「名誉毀損」の項があり、「名誉毀損に関する法律は国によって異なりますが、他の人物や会社の評判を傷つけるようなコンテンツは通常これに該当します。名誉毀損の定義は世界中で異なりますが、一般的には、他者の評判を傷つけたり、他者の孤立や疎外を招いたりする事実とは異なる言動のこと」とあります。

ここだけを見ると、「事実とは異なる言動」である場合にしか名誉毀損とならないような書き方ですが、そのあとに、「YouTubeでは名誉毀損を理由とするブロックの手続きをする際に、その地域の法律的な側面も考慮します」とありますので、日本においては、日本の刑法第230条1項に従うというスタンスであることがわかります。

■トラブルの相手に直接連絡するのは逆効果

Q その後、相手ユーザーに直接連絡することを勧める記載がありました。そうする方がいいのでしょうか?

A 著作権の場合、気づかずに侵害してしまっている場合もあるかもしれません。肖像権の場合はその可能性はもっと大きいかもしれません。しかし、名誉を毀損するようなコメントを書き込んだり、動画をアップロードしたりする人が、名誉を毀損していることに気づいていないということはあまり考えられません。直接連絡しても削除を快諾してもらえることはなく、むしろ反発され、逆効果となる場合が多いと考えていいでしょう。

それに、「有害なコンテンツの削除を快諾する」ような人間なら、最初から他人を誹謗中傷したりしないでしょうし、「文句言うなんて生意気だ」と逆切れし、エスカレートするかもしれません。

■名誉毀損を申し立てる際の注意点

Q それではYouTubeへ名誉毀損の申し立てを行なう手続きについて手順を教えてください。

A YouTubeへ名誉毀損申し立てを行なうには、「削除依頼ウェブフォーム」を利用します。

・「ヘルプ」で「名誉毀損」を検索し、「名誉毀損の申し立て」をクリックします。
・開いた「名誉毀損の申し立て」の頁で「異議申し立てを行う国」とあるので、「日本」を選択すると、「削除依頼ウェブフォーム」が開きます。
・「氏名」を書き入れ、自動表示されている「メールアドレス」を確認して、「動画のURL」を貼り付けます。

「名誉毀損の申し立てを行うには、申し立ての対象となる箇所を明確に特定する必要があります」とあり、「どのような情報から誹謗中傷の対象を特定しましたか(該当するものすべて)」とあるので、「自分の氏名・自分の画像・自分の声・自分のビジネス名・その他」から選択します。

「動画またはメタデータ内の名誉毀損に該当する文言を正確に入力してください。『動画全体』などの文言は無効です」とありますが、ここは丁寧に書きましょう。担当者も忙しいので、わかりやすく書くことが大切で、慎重に言葉を選んで書く必要があります。

「場所を選択してください(該当するものすべて)」とあり、「動画内・動画のタイトル・動画の説明欄・チャンネルのタイトル、プロフィール、または概要セクション・その他」から選択します。

「この文言がお住まいの国で名誉毀損に該当する理由をご記入ください」とあるので、どの部分がどのような理由で名誉毀損に該当するのかを、日本のどのような法律に抵触しているのか法律の条文をあげて、丁寧に記入する必要があります。最後に記載情報に偽りや不足がないことを誓い、署名、送信すれば終了です。

「不愉快である」とか、「我慢できない」などとせず、刑法第230条1項や最高裁判所判例等をあげ、相手のどの発言がどのように社会的評価を低下させ、名誉毀損に相当するかを冷静に、客観的に記述しなければなりません。

注意しなければならないのは、申し立てはアップロードしたユーザーに通知されること。アップロードしたユーザーに自分の氏名やメールアドレスを開示したくない場合は、その旨を明記することを忘れないようにしてください。

■弁護士からの要請だと削除されるケースも

Q 申し立てをすると、どうなるのでしょうか?

河瀬季『IT弁護士さん、YouTubeの法律と規約について教えてください』(祥伝社)
河瀬季『IT弁護士さん、YouTubeの法律と規約について教えてください』(祥伝社)

A 名誉毀損の申し立てが行なわれると、報告された動画についてYouTubeの側で審査が行なわれ、名誉を毀損する動画であると判断されれば、当該動画は削除されます。

YouTubeへの名誉毀損申し立てをしても、当該動画を削除してもらえない時でも、弁護士からの削除要請なら削除されるケースもありますから、一般論で言えば、この段階で弁護士に相談するという選択もあります。

こうした申し立てを行なっても削除請求が認められなかった場合、あるいは動画をアップロードしたユーザーの法的責任を追及したい時は、法的手続きを利用する必要があります。

まとめ
誹謗中傷は名誉毀損を問える時がある。
申し立てをすれば、動画が削除される可能性がある。

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河瀬 季(かわせ・とき)
モノリス法律事務所代表弁護士
ITエンジニア、IT企業経営を経て、東京大学大学院法学政治学研究科を修了し、弁護士資格を取得。東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士を務める他、YouTuber、VTuberなど多くの動画クリエイターらをクライアントに持つ。イースター株式会社代表取締役、oVice株式会社監査役、株式会社TOKIUM最高法務責任者。JAPAN MENSA会員。著書にNHK土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」の原案となった『デジタル・タトゥー』(自由国民社)、『ITエンジニアのやさしい法律Q&A』(技術評論社)など。モノリス法律事務所YouTubeチャンネル「YouTuberが並ぶ法律相談所」を運営。

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(モノリス法律事務所代表弁護士 河瀬 季)

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