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アリババ株、テンセント株も軒並み暴落…「習近平一強体制」が中国に未曽有の大不況をもたらす理由

プレジデントオンライン / 2022年10月31日 9時15分

中国共産党第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)が23日、北京の人民大会堂で開かれた。習近平氏が会議を主宰し、中央委員会総書記に選出された後に重要演説を行った。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■バブル対策には触れず、ゼロコロナ政策の成果を強調

10月16日から22日まで、5年に1度の中国共産党大会が開催された。今回の大会で、習近平総書記(国家主席)の3期続投が確定した。最高指導部の顔ぶれなどを見ても、習体制は予想以上に堅固になった印象だ。ただ、中国の経済運営に焦点を当てると、不動産バブルの後始末やゼロコロナ政策など深刻な問題ある。

本来であれば、共産党政権は何をさておいても不良債権処理を進め、潜在成長率の向上に集中すべきところだ。しかし、活動報告ではそうした考えが示されなかった。むしろ、習氏は、経済成長を低下させた要因の一つである“ゼロコロナ政策”の成果を強調した。今後、政治優先の政策運営はより鮮明になるだろう。

また、情報統制に関連したIT関連分野への締め付けは強まりそうだ。習政権の体制強化優先の政策運営の弊害は大きくなると懸念される。それによって、海外投資家は債券を中心に投資資金を中国から外に逃避することを考えるだろう。資金流出の増加は経済にマイナスの影響を与え、個人消費、雇用の創出は一段と鈍化する恐れが増す。

その結果、中国経済の期待成長率は一段と低下するだろう。中国経済はまさに曲がり角を曲がったとみられる。

■経済成長よりも支配体制強化を優先させている

党大会を終えた10月24日、中国本土と香港の金融市場では、チャイナ・リスクを削減しようとする投資家が相次いだ。前営業日から上海総合指数は約2%下落し、香港のハンセン指数は6%超下落した。中でも重要なのが、IT先端銘柄の大幅な下落だ。

香港に上場するテンセント株は約11%下落した。ハイテク関連銘柄で構成するハンセンテック指数は約10%下落した。ニューヨーク時間、バイドゥとアリババの株価(米預託証券ADRの価格)はともに12%超下落して引けた。海外投資家を中心に、共産党政権があらゆる手段を講じて情報統制を強化するとの懸念は、一段と高まっている。

党大会ではっきりしたことは、これまでにまして習氏への権力集中が明確になったことだ。活動報告の内容を確認すると、習氏は経済成長よりも、自らの支配体制強化により多くのエネルギーを振り向け始めている。

その一つとして、習氏は「高い次元の社会主義経済システム構築が不可欠」と発言した。習政権は党の計画と指導が市場原理やアニマルスピリットを上回るとの考えに、より傾斜していると解釈できる。一つのシナリオとして次のような展開が想定される。

■中国IT関連銘柄を売る海外投資家が続出

“BAT”をはじめ民間IT企業に対する締め付けはさらに強化されるだろう。特に、SNSを通して共産党に不満を持つ人がつながり、党指導部に対する批判が増えることは食い止めなければならない。そのために、人海戦術に加えて人工知能などを活用したネット監視体制は強化されるだろう。

共同富裕推進のためにも、共産党政権はIT分野など高い成長を実現した民間企業への規制を強化する可能性が高い。そうした懸念上昇から、党大会後は中国のIT関連銘柄を売却する海外投資家が増えた。5月、中国国内ではIT先端企業に対する締め付けが部分的に緩められるとの見方が増えた。それによって、一時、株価が下支えされる場面もあった。しかし、実態は逆の方向に向かっている。党による統制は、さらに強化されつつある。

■不動産バブルの後始末は急務のはずだが…

党大会後、中国経済の改革に向けた動きはこれまで以上に停滞する可能性が高まった。その一つとして、不動産バブルの後始末の本質的な解決法が示されなかったことは大きい。2020年8月、共産党政権は不動産融資規制である“3つのレッドライン”を導入した。

中国恒大集団(エバーグランデ)や碧桂園控股(カントリー・ガーデン)の資金繰りは急速に悪化した。各社は資産の切り売りによって債務返済や事業運営を行わざるを得なくなった。その結果、不動産バブルは崩壊した。不動産デベロッパーの経営体力は追加的に低下している。資産売却の加速などによって不動産市況の悪化にも拍車がかかっている。

事態の改善には、政府が、債務問題が深刻な企業に公的資金を注入し、不良債権処理を進めることが欠かせない。不動産関連セクターを合計すると中国のGDPの約29%に達するとの試算もある。不動産バブルの後始末は、中国経済の成長率に決定的なインパクトを与えるといっても過言ではない。

それにもかかわらず、党大会で習氏は不動産関連の政策を修正し、不良債権処理を加速する考えは示さなかった。それよりも、党規約には“台湾独立に断固として反対する”と記されたことが注目されている。

■中国から資金がどんどん流出する恐れ

習政権は体制強化のための政策運営をより優先し始めている。その弊害として、不動産バブルの後始末が後ずれする可能性は高まった。バブルの後始末が遅れれば、“羹に懲りてなますを吹く”、というべき過度なリスク回避の心理が経済全体に蔓延する。そうなると、中国経済全体で効率的に付加価値を生み出すことは、これまで以上に難しくなるだろう。

北京CBD夕日
写真=iStock.com/dk1234
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dk1234

一方、鉄鋼や石油化学などの既存分野では、国営・国有企業などの過剰生産能力が追加的に深刻だ。債務問題など中国経済が抱える負の要因の深刻さは、さらに増すだろう。8月まで7カ月連続で、外国人投資家による中国債の保有金額は減少した。債務問題の深刻化などを背景に、今後、債券を中心に資金流出はさらに増える可能性が高い。

■高度経済成長期はついに終焉を迎えた

今後、中国経済の期待成長率は一段と低下せざるを得ないだろう。現在の中国は、輸出、投資に代わる、新しい成長の源泉を確立、強化しなければならない非常に重要な局面を迎えている。1978年の改革開放以降、中国は外資誘致を進めた。沿海部の都市では工業化が進み、農村部から安価かつ大量の労働力が供給された。中国は“世界の工場”としての地位を確立し、輸出主導で高い経済成長を実現した。

リーマンショック後、経済成長の牽引役は輸出から投資にシフトした。内陸部での不動産開発、高速鉄道や高速道路、EV普及のための充電設備の整備などによって高成長が維持された。しかし、インフラ投資需要は飽和している。不動産バブル崩壊により不動産市況が下げ止まる兆しも見られない。

中国の高度経済成長期は終焉を迎えたと考えられる。本来であれば、習政権は体制強化よりも、内需拡大に向けた改革を加速させなければならない。主な取り組みとして、不良債権処理や市場原理の導入加速は欠かせない。それは、ITなど成長期待の高い分野に生産要素を再配分して、新しい需要を、より効率的に創出することを支える。それができれば、膨大な人口を強みに中国が消費大国としての地位を確立する可能性はある。

■“一強体制”強化の代償は大きい

逆に、改革が遅れれば個人消費は伸び悩むだろう。最悪期は脱したもののゼロコロナ政策は中国の消費者心理を急速に悪化させた。債務問題の深刻化懸念などを背景とする資金流出の増加、人民元安の加速によって、予備的動機を強める消費者はさらに増える可能性が高い。個人消費の回復には、かなりの時間がかかると予想される。

中国の景気を支えてきた対米輸出も鈍化している。2022年、中国が5.5%の実質GDP成長率目標を達成することは難しい。債務問題の深刻化、資金流出、アニマルスピリットの押さえつけなどによって、2023年以降の経済成長率に関しても、停滞が懸念される。体制強化の代償として、習体制下、中国経済の期待成長率が低下傾向で推移する恐れは一段と高まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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