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雪だるま式に納骨堂が破綻するリスク…寺に擦り寄りボロ儲け企む葬儀・仏具・石材業・外資系金融業の罠

プレジデントオンライン / 2022年10月29日 11時15分

「御霊堂」HPより

ロッカー式の納骨堂を運営する札幌の宗教法人が破綻した。都市部ではこの10年で大型納骨堂が次々にできている。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「納骨堂の実質の経営は宗教法人から名義を借りた大手の葬儀社・仏具販売など。東京では巨大ビル型納骨堂も多数でき、外資系金融業も経営に参画している。破綻したり競売にかけられたりすれば、遺骨回収ができなくなる恐れもある」と警鐘を鳴らす――。

■都市部に続々できている「納骨堂」ビジネスの危うさ

北海道札幌市の宗教法人が運営する納骨堂が経営破綻し、混乱が続いている。

これまで「墓」や「納骨堂」の経営は、永続性が担保できる宗教法人に認可されてきた。しかし、実際には宗教法人ですら破綻することがありうることを証明した形となった。

多死社会や「墓じまいブーム」をにらんで、都市部ではこの10年ほどで大型納骨堂の建立が相次いでいる。だが、早くも経営が行き詰まってきているところがでてきている。納骨堂が閉鎖されれば、支払った利用料金が戻ってこなくなるだけでなく、最悪は遺骨を回収できなくなることが想定される。都市型巨大納骨堂というリスクを解説する。

経営破綻したのは、札幌駅からほど近い元町(東区)にある室内型納骨堂「御霊堂元町」。運営主体は「宗教法人白鳳寺」だ。同法人によれば「赤字経営を続けた結果、資金不足に陥っていた」という。2021年11月には借金の返済ができなくなり、納骨堂が競売にかけられ、不動産会社が落札した。差し押さえの後も、白鳳寺の代表は納骨堂を売り続けていたという。それが事実であれば、詐欺まがいの行為であり、許されることではない。

このニュースが10月下旬に報じられると、利用者は永代供養料などの返金や遺骨の返還を求めて押し寄せる騒ぎになった。現在でも、混乱は収まっておらず、不動産会社側は引き渡し期限を1カ月延長。11月21日までに、明け渡しを求めている。しかし、それまでに、すべての遺骨の返還はできるはずもない。海外や遠方に居住する人や、施設に入居している人は取りに行くことはできないし、送り届けられても困惑するだけだ。

こういうことは言いたくはないが、なかには「わざと」遺骨を取りにいかない人もいるはずだ。墓地埋葬法上は遺骨を受け取れば、自宅に安置するか、改めて墓地や納骨堂を契約するしかない。新たに数10万円から100万円以上のコストが生じることになる。海洋散骨する場合も、結局はコストがかかる。

同納骨堂は2012年に開業した。いわゆる「ロッカー式納骨堂」といわれているタイプのものだ。室内にコインロッカーのように扉のついた納骨壇があり、そこに骨壷を収める形態だ。

同納骨堂の最低価格はおよそ30cm角の、シンプルな個人用で30万円+年間管理費6000円。遺骨4柱まで入れて、仏壇のようなしつらいのタイプは70万~+年間管理費1万2000円。最も高額は9柱まで入れることができるものは250万円+年間管理費1万2000円となっている。

開業10年で1500基の販売数にたいして、773基(販売率52%)が売れていた。納骨堂内には北海道内外からの遺骨が1000柱ほど入っているという。

同納骨堂では、6億8000万円の売り上げがあり、年間800万円近くの管理費収入があったという。さらに契約数に伴って、葬儀や法事の布施などが入ってきていたことになる。773軒の檀家から想定される布施の年額は1000万円以上とみられる。

しかし、この宗教法人代表が釈明するには「開業してずっと赤字だった」という。納骨堂の元の建物は専門学校を利用して、納骨堂にしている。建物の改修費や納骨壇の設置費用などの初期投資はあったにせよ、一から土地を取得して納骨堂のビルを新築したわけではない。納骨堂経営が赤字であったというのは、どういう収支であったのか、役員報酬などを含めて、きちんと開示すべきだ。

■葬儀社や石材店などが困窮する住職に擦り寄ってくる

実はこうした不透明な納骨堂経営が、近年横行しているのだ。

一般的なスキームはこうだ。寺院と近い、葬儀社や石材店などの周辺産業の民間業者が、伽藍修繕などの巨費を必要としている住職に擦り寄ってくる。そして、伽藍の修繕費を、無宗教式の永代供養納骨堂ビジネスで賄える、などと提案してくる。

勝利のための祈り
写真=iStock.com/junxxx
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/junxxx

民間業者が単体で納骨堂をつくればよい話だが、実は先述のように霊園や納骨堂事業の認可は、行政以外ではほぼ宗教法人にしか与えられていない。したがって、宗教法人の名義を借りて納骨堂を運営するのだ。そして民間業者の資本で納骨堂が建設される。そのため、納骨堂の永代使用料の売上げのほとんどは業者が手にし、宗教法人にはほとんど入らないことが多い。

一見、宗教法人にメリットがないように思えるがそうではない。永代使用料収入は入らない替わりに、契約数にともなって、葬儀や法事の布施が入る。建設費などの初期投資が不要で、かつ、布施収入が増える可能性を秘めているわけだから、伽藍修繕などを控えている寺院にとってはリスクの少ない事業のように思え、納骨堂経営話は「渡りに船」というわけだ。

が、しかし、そこに大きな落とし穴が隠されている。

あくまでも、事業の名義上の契約者は宗教法人なのだ。納骨堂建設や融資も、宗教法人名義でしか進められない。仮に納骨堂がオープンしても思うように売れなかったり、あるいは民間業者の経営が傾いたりした場合に、納骨堂ビジネスから撤退。すると、全ての責任は名義を貸した宗教法人にのしかかることになる。

こうしたスキームで、多くの宗教法人が利用されているのだ。しかし、納骨堂のニーズを読むのは非常に難しい。結局は、札幌の御霊堂元町のようにずさんな経営で破綻したり、破綻寸前状態になったりする納骨堂はかなりある。ちなみに、宗教法人の「名義貸し」は違法である。

■都内に巨大ビル型納骨堂が30棟、外資系金融会社も参画

現在、東京都内には「自動搬送式納骨堂」と呼ばれるタイプの巨大ビル型納骨堂が30棟ほどあるといわれている。自動搬送式納骨堂とは、ICカードをかざせば納骨カロートが自動的に運ばれてきて、参拝ブースでお参りができるハイテク納骨堂だ。

待ち合いロビーなどもシティホテルを思わせるようなしつらい。その分、ロッカー式納骨堂に比べて、割高ではある。「主要ターミナルからも近く至便で、買い物ついでに、仕事帰りの墓参りもできるハイテク納骨堂」が、“売り文句”だ。

多死社会や改葬ブームを背景にして10年ほど前から、大手葬儀会社や大手仏具・石材販売会社は寺院とタイアップして、この自動搬送式納骨堂事業に乗り出してきた。近年では、外資系金融会社も納骨堂事業に参入していた。1棟あたり、数千基から1万基以上の規模感である。札幌の納骨堂とは比較にならない納骨数だ。1棟あたりの建設費は数十億円に上る。

最初はよかった。だが、数年もすれば納骨堂の供給過多になり、需要が追いつかなくなってきて、民間企業の経営を圧迫してきた。地方都市の自動搬送式納骨堂では破綻事例も出てきている。

仮に都内の巨大自動搬送式納骨堂が破綻したり、競売にかけられたりした場合は、札幌の事例とは比べものにならないほどの混乱が生じるだろう。アナログのロッカー式納骨堂とは違い、自動搬送式納骨堂はコンピューター制御であり、通電が止まり、システムが動かなくなれば遺骨の取り出しは難しくなる。

「自動搬送式納骨堂神話」が崩壊すれば、不安心理が増大して顧客離れが進み、雪だるま式に納骨堂が破綻していく危険性もある。札幌の納骨堂破綻が、その呼び水にならないことを願うばかりだ。

同時に消費者も、安易な形で始められた民間業者と宗教法人の納骨堂ビジネスには、深い闇とリスクを抱えていることを知っておくべきだろう。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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