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「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」野田元首相の追悼演説にキャンキャン吠えるだけの野党が学ぶべきこと

プレジデントオンライン / 2022年10月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rike

10月25日、衆院本会議で立憲民主党・野田佳彦元首相による安倍晋三元首相への追悼演説に称賛の声が相次いでいる。コミュニケーション戦略研究家の岡本純子さんは「野田さんのスピーチの中にある、敵に塩を送る潔さや言葉の使い方には、敵対する相手とも建設的で前向きな議論を進めるためのヒントが詰まっている」という――。

■国民をウルウルさせた野田佳彦元首相の追悼演説の秘密

立憲民主党の野田佳彦元首相による、安倍晋三元首相への追悼演説が「心を打つ」と話題を呼んだ。かつての「仇敵」に対する惜しみない敬意や情感のこもった内容だったが、この演説が多くの人に響いた理由は何だったのか。

その「敵に塩を送る」潔さや「言葉の力」の使い方は、政治家、特に野党のコミュニケーション戦略のあり方に示唆を与えるものだった。野田氏の演説から、建設的で前向きな議論を進めるためのヒントを探ってみよう。

菅義偉前首相の弔辞が、恋慕の情のこもったラブレターだったとすれば、野田元首相の追悼演説は、妬みや競争心を抱えつつも、切磋琢磨を重ね、研鑽し合った因縁の好敵手への追慕の状であった。

話し上手として知られる野田氏だが、この演説の魅力の大きな理由は彼の優れた記憶力に基づく徹底した描写力・写実性だ。安倍氏との邂逅の場面など、数々のシーンを生々しく、交わした言葉もそのままに再現した。

■巌流島の宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いのよう

初登院の日、国会議事堂の正面玄関には、あなたの周りを取り囲む、ひときわ大きな人垣ができていたのを鮮明に覚えています。

そこには、フラッシュの閃光を浴びながら、インタビューに答えるあなたの姿がありました。

私には、その輝きがただ、まぶしく見えるばかりでした。

スポットライトを浴びる政界のプリンスと、辛酸をなめながらも、千葉の県議会議員から国会議員になりあがった男の対比。そこで感じただろう、チリチリとしたかすかな妬みが行間には垣間見える。

最も鮮烈な印象を残すのは、平成二十四年十一月十四日の党首討論でした。

私は、議員定数と議員歳費の削減を条件に、衆議院の解散期日を明言しました。

あなたの少し驚いたような表情。

その後の丁々発止。

それら一瞬一瞬を決して忘れることができません。

それらは、与党と野党第一党の党首同士が、互いの持てるものすべてを賭けた、火花散らす真剣勝負であったからです。

この演説が聞く人にスリルや興奮を覚えさせるのは、永遠のライバルの出会いから別れまでが、一つのストーリーとして美しく紡ぎ出されているからだ。それは、まるで、安倍氏の地元であった山口県の下関市にある巌流島で行われたと言われる、宮本武蔵と佐々木小次郎の歴史的な対決のようだ。

あなたは、いつの時も、手強い論敵でした。

いや、私にとっては、仇のような政敵でした。

攻守を代えて、第九十六代内閣総理大臣に返り咲いたあなたとの主戦場は、本会議場や予算委員会の第一委員室でした。

少しでも隙を見せれば、容赦なく切りつけられる。

張り詰めた緊張感。

激しくぶつかり合う言葉と言葉。

それは、一対一の「果たし合い」の場でした。

少年口論
写真=iStock.com/Tom Kelley Archive
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tom Kelley Archive

二人の剣豪のにらみ合い、緊張感、真剣勝負の様子が手に汗握るように伝わってくる。剣をペンに(言葉に)置き換え、戦いを生々しく描写する野田氏の筆致はまさに、手練れの剣客のものそのものだ。

■「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」

緊迫の戦闘シーンから一転、話は戦いの後へと展開する。

解散総選挙に敗れ敗軍の将となった私は、皇居で、あなたの親任式に、前総理として立ち会いました。

同じ党内での引継であれば談笑が絶えないであろう控え室は、勝者と敗者の二人だけが同室となれば、シーンと静まりかえって、気まずい沈黙だけが支配します。

その重苦しい雰囲気を最初に変えようとしたのは、安倍さんの方でした。

あなたは私のすぐ隣に歩み寄り、「お疲れ様でした」と明るい声で話しかけてこられたのです。

「野田さんは安定感がありましたよ」「あの『ねじれ国会』でよく頑張り抜きましたね」「自分は五年で返り咲きました。あなたにも、いずれそういう日がやって来ますよ」温かい言葉を次々と口にしながら、総選挙の敗北に打ちのめされたままの私をひたすらに慰め、励まそうとしてくれるのです。

その場は、あたかも、傷ついた人を癒やすカウンセリングルームのようでした。

「あなたは議場では『闘う政治家』でしたが、国会を離れ、ひとたび兜を脱ぐと、心優しい気遣いの人でもありました」と評した安倍氏のソフトな側面を、具体的なエピソードで浮かび上がらせるなど、全編を安倍氏への惜しみない賛辞と敬意で彩った。

家で一緒に座っている息子と高齢の父親の背面図。息子は父親の世話をし、肩に手を置き、慰め、慰めます。家族の愛、絆、ケアと自信
写真=iStock.com/AsiaVision
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AsiaVision

そしてクライマックスが、

再びこの議場で、あなたと、言葉と言葉、魂と魂をぶつけ合い、火花散るような真剣勝負を戦いたかった。

勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん。

というセリフだ。

悪しざまに、野次を入れ、「悪夢の民主党」などとあげつらった安倍氏の過去はすっぱりと水に流し、自らの失言の過ちを素直に謝罪、堂々と負けを認める。野田氏のこんな「武士道」的な潔さに惹かれた人は少なくなかったろう。

「宿敵に塩を送った」野田氏の器の大きさを感じさせたわけだが、この彼の手法は、これからの日本の政治のコミュニケーションのあり方について、大きな示唆を含んでいるように感じる。野田氏は、演説後のテレビ出演で、「政党間の対立が激しく、それが国民の分断につながってしまう。時には一致点を見出す合意形成のための努力をもっとしなければいけないのではと思う」と語っている。

■キャンキャン吠える野党が野田元首相に学ぶべきこと

世論が分断し、両極化していく中で、「合意形成のための努力」が必要である、と訴えているのだ。実際に、「感情的になり、重箱の隅をつつくようになんにでも反対する」「キャンキャンと子犬のように吠える」といったイメージが持たれがちな野党にとって、野田氏の尊厳あるコミュニケーション戦法は今後の一つの指針になるのではないだろうか。

国会議事堂
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

日本同様に分断が進むアメリカでは、いかにして、政治的分裂を減らすことができるかについての研究が進められている。この9月に、『Nature Human Behavior』誌に掲載されたノースカロライナ大学などが行った研究論文によれば、共和党員と民主党員はお互いに対する悪意や敵意を50%から300%も過大評価していることが分かった。つまり、お互い、「相手が自分を憎んでいる、嫌っているだろう」と実態以上に思いがちである、ということだ。

人は、相手が自分を嫌いだろう、敵意を持っているだろうと感じれば、同じように反感を持ってしまう。実際に、両党のリーダーが温かい交流をしている姿を見せることで、支持者や議員の相手の党に対する反感が有意に減少することが確認された。だからこそ、まずは「こぶしを上げるのではなく、手を差し伸べよう」というのが、この論文の主旨だ。

そのためには、

●感情的にならない
●共通点を浮き彫りにし、共感を形成すること
●対話のスキルを構築する
●事実だけではなく、ストーリーを語る

といったお互いのコミュニケーションの努力が欠かせない。

「言論の力を頼りに、不完全かもしれない民主主義を、少しでも、よりよきものへと鍛え続けていくしかない」という野田氏が本当に打ち出したかったのは、与野党問わず、言葉によって、建設的な対話をする努力をしていくべきだ、というメッセージなのではないだろうか。

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岡本 純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師
「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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(コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師 岡本 純子)

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