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退職理由1位が「夫の転勤についていく」…女性社員の不本意退職に悩むカゴメが導入した解決法

プレジデントオンライン / 2022年11月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

女性が辞めてしまう職場にはどんな問題があるのか。カゴメでは、女性社員が配偶者の転勤で退職するケースに頭を悩ませていたが、ある制度を設けて解決したという。カゴメ最高人事責任者の有沢正人さんに法政大学大学院の石山恒貴教授が聞いた――。

※本稿は、有沢正人、石山恒貴『カゴメの人事改革 戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』(中央経済社)の一部を再編集したものです。

■「女性活躍」とは、ダイバーシティの一側面でしかない

【有沢】私が入社した当初、274人の課長のうち女性は4人、92人の部長のうち女性は2人でした。

【石山】具体的にどんな取り組みをしたのですか。

【有沢】女性活躍だからといって、単純に昇進の数合わせをするようなことをしてはいけないと考えました。正直、当時社内では旧来の固定観念で活躍できていないところがありました。そしてグローバル職務等級制度の導入とともに、そこを打破する必要がありました。そこで、女性の活躍を積極的に支援しているメーカーにご協力いただき、経営者育成の研修に、当社の社員を男性2人、女性3人、参加させてもらいました。

【石山】社外の人との研修ですか。どうでしたか。

【有沢】女性3人が覚醒しました。もともと優秀な3人でしたが。研修後1週間ほどして、その3人が私のところにやってきて、「私たち、今まで何をやっていたのだろうと思いました。

しかしそもそもダイバーシティとは、異なった価値観の人たちが議論することにより健全なコンフリクトを起こすことだと考えます。したがって、あくまで女性活躍はその一側面でしかありません。

■人材の同質性は会社を滅ぼす

【有沢】多様な社員がより能力を発揮し活躍するために、労働にかかる制約を取り払うことで働きやすい環境をつくっています。そのためには、制度や仕組みなどの「ハード面」を整備するだけでなく、社員同士が異なる価値観を理解・尊重し合う風土づくりのような「ソフト面」にも同時に着手しています。

高機能のスマートフォンがあってもアプリがなければ意味がないように、逆にアプリがあってもハードがないと動かないように、ハードとソフトの両方が揃って初めてそれらは機能します。

【石山】いろんな価値観を持った人が集まりそうですね。

【有沢】当時のトップには同質性は会社を滅ぼすと申し上げました。しかし逆に多様な人材が集まると、カゴメのDNAが失われるのではと心配する声もありました。

【石山】カゴメらしい人材を採用することが、組織のDNAの継承だと思っているんですね。

【有沢】はい、その逆で、同質的ではないさまざまな価値観の人材が集まることで、カゴメらしさが輝くのです。

■日本の単身赴任は「社員への罰なのか?」

【有沢】例えば、転勤の人事制度改革では、家族が一緒に暮らすことを大切に考えました。私がこの考えに至ったのは、欧米出張における会食がきっかけでした。

会食中の何気ない会話で、現地のローカルのCEOや管理職に日本の単身赴任の仕組みについて話をしたことがあります。日本では転勤をきっかけに、父親や母親が家族と離れて異なる地域で一人暮らしをすること、数カ月に一度だけ家族の待つ自宅に帰ることはよくあることだ、などと話しました。すると現地法人のメンバーは驚いた顔をして私にこう言いました。「それは何かの罰なのか?」「その社員は何か罪を犯したのか?」

欧米では、少なくとも子どもが高校を卒業するまでは、家族一緒に暮らすことが当たり前です。会社の施策で家族がはなればなれになることは異常だ、と言われました。そう言われて私は、たしかにそうだな、と思いました。

カゴメにおける人事制度改革は、カゴメが価値創造し続けるために、そして社員が能力を発揮して活躍し続けられる会社であるために策定しました。その背景には、こうしたエピソードを含む私のこれまでの経験がありました。以下に、具体的な制度をご紹介します。

■「配偶者の転勤退職」を防ぐために

【有沢】女性の退職理由で最も多いのが配偶者の転勤です。まだまだカゴメで働きたいという希望があるならば、その理由で会社をやめてしまうのは、本人にとっても会社にとっても損失です。これを会社の仕組みでサポートできないかと考え、導入したのが「地域カード」です

【図表1】地域カードの仕組み
出典=『カゴメの人事改革 戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』

地域カードには2つのオプションがあります。1つは、留まりたい地域に留まることができるオプション、いわゆる転勤回避制度です。

もう1つは、希望勤務地へ転勤できるオプションです。2回まで利用することができ、1度利用すれば3年間有効です。つまり、3年間×2回=6年間は、自分の希望する勤務地で働くことができるわけです。

全社員が対象ですから、工場勤務の方も利用できます。社員が地域カードを行使すれば、原則としてその権利が尊重されます。ただし、理由は必ず確認します。配偶者の転勤が一番多い理由で地域カードを活用している社員もたくさんいます。

社員に単身赴任をさせないためにこの制度を導入しましたが、カゴメとしては転勤そのものを廃止するつもりはありません。なぜならば転勤は、その後の人生に影響を与えるような新しい出会いのチャンスにもなり得るからです。また、地域カード導入前には東京や大阪に希望が集中するのではという懸念事項が役員から挙がりましたが、それは杞憂(きゆう)に終わりました。

■業務時間を「5時から22時の間」で自由に決められる

【有沢】カゴメでは、スーパーフレックス勤務制度とテレワーク勤務制度を活用することで、社員が働く場所と時間を柔軟に選択することができます。これは、コロナ禍前から導入していました。ただし、工場勤務の社員はこれらの制度を行使することができませんので、特別な休暇制度や一時金制度を設けて生産部門の方に報いるような制度を設けています。これは製造業の宿命であり、今後の課題です。

スーパーフレックス勤務制度は、2017年に時差勤務制度を導入した後、2019年よりコアタイムを廃止して本格導入しました。5時から22時の間で始業・終業時間を社員が自由に決めることが可能です。テレワーク勤務制度は、2018年に在宅勤務制度を導入した後、2019年より情報セキュリティポリシーの遵守を条件に自宅以外の場所でも業務遂行が可能になりました。

■結果的に総労働時間も短縮された

【有沢】また社員はスケジューラーに業務の詳細な予定と時間を書き込むようになりました。

ちなみに、スケジューラーには仕事以外の予定も書き込むこともOKです。これは、空いた時間は自分のための時間であることを示すためです。もちろん、書きたくない人は書かなくても良いのです。ちなみにプライベートな予定を書いても構わないので、書き込まれたプライベートの予定をきっかけに社員同士のコミュニケーションも円滑になっています。

オフィスで働く若いビジネスパーソン
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

これらの制度も、導入前はさまざまな懸念事項が挙げられました。そのため社員に事前アンケートを取り、出勤しなければできない仕事を挙げてもらいましたが、ほとんどなかったため実行に踏み切りました。

コロナ禍となりさらに、やらなくても良い仕事がたくさんあることに気づきました。スーパーフレックスとテレワークを組み合わせることにより、働き方の柔軟性は極限で高まりました。制度導入の主目的ではありませんでしたが、結果的に、総労働時間も短縮されました。

■管理職に興味のない人にもキャリアアップの機会を作る

【有沢】会社員の「キャリアアップ」には、これまで管理職になるという道しか用意されていませんでした。しかし、管理職に興味のない人はどうすれば良いのでしょうか。たとえばカゴメの場合は、研究職や、トマトを始めとした野菜の品種改良を行うブリーダーという職種がありますが、それらの職種に従事する人にはそもそもマネジメントに強い興味がない方もいます。

カゴメでは、スペシャリストもジェネラリストも対等な関係性で働ける制度として、専門職コースを作りました。

【図表2】専門職コース
出典=『カゴメの人事改革 戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』
有沢正人、石山恒貴『カゴメの人事改革 戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』(中央経済社)
有沢正人、石山恒貴『カゴメの人事改革 戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』(中央経済社)

管理職コースの部長と、専門職コースのシニアスペシャリストは同等の職務等級となります。ここでいうスペシャリストとは、単純に得意分野に特化することを指すわけではありません。研究職であればその分野の第一人者となるような研究者であることが求められますし、資格保持者であれば自らの市場価値を示す必要があります。

たとえば、ブリーダーのような特殊な職業の場合は、企業価値を高めたり、ノウハウを伝承したりする能力が求められます。

どの道を選択しても、ペイ・フォー・パフォーマンスの考えに基づき、社員の市場価値に対して適正な報酬を支払うという考え方は同じです。また、いずれのコースに進むかについては、もちろん個人の選択ですから、会社から指示はしません。

■キャリア自律を求めるなら働き方の選択肢を増やすべき

カゴメがこれらの生き方改革の先に見据えるものは、会社と社員の対等な関係づくりです。キャリア自律を謳いながら、会社が社員に対し意に沿わない異動や転勤をさせたり、社員のプライベートに配慮せず働く場所や時間を固定したり、副業を禁止したりするのでは矛盾が生じます。

会社は多様な「働き方のオプション」を社員に提示し、社員は自らの必要性に応じてそれらを選択・活用します。ハードとソフトが円滑に機能することで、社員ひとりひとりが自分のキャリアを自分で決めることが当たり前になってきます。

【図表3】生き方改革の先に
出典=『カゴメの人事改革 戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』

こうした環境の中で社員は仕事を通じて会社に価値を提供し、適正な報酬を受け取ります。これにより、本当の意味で会社と個人は対等な関係となり、顧客への価値提供をともに目指すパートナーになれると考えます。

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有沢 正人(ありさわ・まさと)
カゴメ常務執行役員CHO(最高人事責任者)
慶應義塾大学商学部卒業後、1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。銀行派遣にて米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年に日系精密機器メーカーのHOYA株式会社に入社。2008年、AIU保険会社に人事担当執行役員として入社。2012年1月、カゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメの人事面におけるグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。執行役員人事部長、執行役員CHOを経て2018年4月、常務執行役員CHO(最高人事責任者)。

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石山 恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院教授
一橋大学社会学部卒業。産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了。博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。主な受賞として、経営行動科学学会優秀研究賞(JAASアワード)、人材育成学会論文賞、HRアワード(書籍部門)入賞など。著書に、『日本企業のタレントマネジメント』(中央経済社)、『時間と場所を選ばないパラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、『越境学習入門』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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(カゴメ常務執行役員CHO(最高人事責任者) 有沢 正人、法政大学大学院教授 石山 恒貴)

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