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高熱で寝込む妻に「ちょっと体だけ貸して…」仲良し夫婦が一夜にしてセックスレスになった"夫の暴言"

プレジデントオンライン / 2022年11月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

夫婦はなぜ、セックスレスになるのか。生殖医療専門医で、日本性科学学会認定セックス・セラピストとしても活動する今井伸さんは「日本にはセックスレスの夫婦がたくさんいますが、男性側の道徳観、倫理観の欠如が原因になっていることも多い。円満な性生活を送っていたはずの仲良し夫婦がある日の夫の言動をきっかけに突然セックスレスに陥った事例があります」という──。(第2回/全2回)

■男性が原因の性トラブルを避ける3カ条

僕は現在、泌尿器科、生殖医療の専門医として日々、性機能に悩みを抱えた患者さんたちと向き合っています。診察室にはさまざまな症状や訴えを持つ10代から80代の男性たちがやってきます。

僕が重要なこととしてお話しする内容は、全世代、ほぼ共通しています。大きくまとめると、次の3つです。

①男性器には正しい扱い方がある
②気持ちよく射精できるようになることが重要である
③陰茎を使ううえでは、自他を守るために高い道徳観、倫理観が必須である

これさえ守っておけば、性について取り返しのつかないトラブルは起こりにくくなります。

■「射精道」のすすめ

①と②は、男性器の病気や射精障害、勃起(ぼっき)障害の予防につながる大切なスキルです。そして、③については、生涯を通して自分やパートナーの心と体を守るために大前提で備えておくべきモラルです。

ところが、これらを知識として仕入れる機会はほぼなく、学校で行われている性教育も十分なモノとは言えない現状があります。

「男は勝手に覚えるもの」と、家庭でも教育現場でも放置されているために、本来は、知識があれば避けられるトラブルを抱えることになった男性が、僕の診察室へ日々やってきます。

そのため、僕は男性のために必要な性知識と行動規範を「射精道」という理念としてまとめ、生涯にわたって健全な性生活を送るための性教育活動を始めました。

■性倫理の欠如がセックスレス、セクハラ、性犯罪の遠因に

なかでも昨今、急速に増加しているセックスレスについては、③に挙げた、男性が持つべき性倫理の欠如が大きな影響となって表れていると感じることがあります。

毎日のように報道される著名人のセクハラ問題や、性犯罪のニュースは、その最たるものでしょう。

そこまでの大問題に至らなくても、ごく普通の夫婦や恋人同士の間でも、この性倫理の欠如によって、長年のセックスレスへの引き金を引いてしまうことがあるので要注意です。

■女性の不満が出るわ出るわ…

たとえば、中高年の性生活の調査をするとよく耳にするのが次のような相談です。

「日常生活で会話もほとんどなく、目を合わせない日さえある。手をつなぐことやキスも当然ありません。それなのに、夜になるとベッドにゴソゴソと入ってくる……」といった、女性たちの不満です。

付き合いが長い関係になるほど、こうしたケースは多くなっていきます。

「夫婦なんだから、いまさらいちいち口説くなんてめんどう」「夫の欲求に応じるのは妻として当然の勤め」と考える人も少なくありません。

しかし、そうした認識を持ったままセックスを行うと、何が起こるのか……? 僕が所属する日本性科学会のセックスカウンセラーが相談を受けた、夫婦の例を見ていきましょう。

■仲良し夫婦が一夜にしてセックスレスに

そのご夫婦は、数年前まで仲睦まじく、何の問題もなかったといいます。ところがあるときから突然、妻が夫からのセックスの求めにまったく応じられなくなった、というのです。

夫の側は、「なぜ妻が自分を拒否するようになったのか、まったく心当たりがない」──というご相談でした。

そこで、カウンセラーがその女性へ丁寧に聞き取りを行ったところ、数年前にあった、たった一度のセックスがきっかけであることがわかったのです。

ある日、女性が熱を出して寝込んでいたところ、夫がベッドに入ってきて、「ちょっと体だけ貸して」と一方的に挿入してきたのだそうです。そのとき、女性は熱のために抵抗することもできず、あきらめて、されるがままにしたといいます。

この心無いセックスで女性は深く傷ついてしまい、それ以来、夫に対して心も体も閉ざしてしまった……ということでした。

■とっさの場面で表れる深層意識

この話を聞くと、多くの人はこの夫に対して「さぞかしひどい人格なのだろう」と思うことでしょう。しかし、実際にはその男性は、見た目も立ち居振る舞いもごく普通で、問題なく会社勤めをしている世間的に見れば“常識人”なのです。

本人も、そのセックスで妻を傷つけようという意図はありませんでした。それどころか、傷つけていたことに気がつくこともなかったのです。

「夫婦ですから、セックスはいつもしていること。何の問題があったのかわかりません」というのが、夫の言い分でした。

体調不良の妻を相手にセックスをしようとする行為自体はもちろんのこと、それ以上に、「ちょっと体だけ貸して」という意識が妻を大きく傷つけてしまった。にもかかわらず、夫には自覚がまったくない。

ここに根深い問題があると僕は考えています。

■こんなに違う「セックスに対するモチベーション」

なぜ、妻であるこの女性が深く傷ついたのか?

多くの方は察しがつくとは思いますが、答え合わせとして、男女それぞれのセックスに対するモチベーションが分かる次のデータを見てみましょう。

一般社団法人日本家族計画が行った調査「ジャパン・セックスサーベイ2020」によると、「あなたがセックスをする目的はなんですか?」という質問に対し、男性の回答のトップは「性的な快楽のため」でしたが、女性の回答は「愛情を表現するため」「ふれあい(コミュニケーション)のため」が目立ちました。

男女平等のコンセプト
写真=iStock.com/Eoneren
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eoneren

つまり、男性のセックスのモチベーションが多くの場合で「性欲の解消」にあるのに対して、女性は「愛情」が動機になっています。そのため、女性が自分に対して愛情を示さない相手からのセックスの誘いに応じられないのは、無理もないことなのです。

■女性は心が閉じ、体も閉じる

先ほどの妻からすれば、弱っている自分にかまうことなく挿入をしてくる行為は、妻にとって「愛情の表現」から程遠いものでした。そのために、心がまずは閉じ、それに伴って体も閉じてしまいました。

しかし、夫が自らの性欲を後回しにて弱っている自分をいたわり、大切に扱ってくれたとしたら、どうでしょう。妻は回復した後で、「愛情の表現」としてのセックスを喜んで受け入れたことでしょう。

この夫婦のケースは極端な例かもしれません。

しかし、それ以外の夫婦のケースでも、「日ごろは『太ったな』とか『老けてきた』とか言うくせに、セックスだけは求めてくる」「行為が終わるとすぐに背中を向けて寝る」「自分が満足したら、こちらのことはおかまいなしに終わりにする」などといった話を女性の側からはよく聞かされます。

そして、そのどれもが、女性が「愛情の表現」をしたいと思えなくなる原因となっています。

■男性が学ぶべき「求愛の12段階」

女性たちの心の動きは「動物の性行動」として、ごく自然なことです。

イギリスの動物行動学者であるデズモンド・モリスは、「すべての動物の求愛パターンは典型的なプロセスとして組み立てられている」と指摘しています。そして、人間が異性と関係性を深めていくプロセスを、次のような「求愛の12段階」として表しました。

■デズモンド・モリスの「求愛の12段階」

第1段階 目から体
第2段階 目から目
第3段階 声から声
第4段階 手から手
第5段階 腕から肩
第6段階 腕から腰
第7段階 口から口(キス)
第8段階 手から頭
第9段階 手から体
第10段階 口から胸
第11段階 手から性器
第12段階 性器から性器(セックス)

先のような「会話もスキンシップもないのにセックスだけは求めてくる」というのは、この第1段階から第11段階までの求愛行動をすべてはしょって、いきなり12段階へ突入しようとしている……というわけです。

これでは、女性たちが生理的、本能的に受け入れられないのも無理はありません。

女性にとっては、日常的に交わす視線や言葉、手を握る、肩に触れるといった軽いスキンシップまでもが、セックスに至るまでの求愛の儀式、いわば前戯に含まれているということです。

■夫婦間でもその都度合意は必須

また、具合の悪い妻の合意なくセックスをした男性のように、「いまさらセックスをするのにいちいち許可を取る必要なんてない」という思い込みも、大間違いです。長年連れ添った夫婦であっても、その都度の合意は絶対に必要です。

最近では性的なDVや家庭内レイプが問題になるケースもあります。夫婦の間には「性交渉を求める権利」はありますが、意思に反して無理やり性交に及んだ場合には、当然ながら夫婦間でも強制性交等罪は成立します。

「そんな大げさな!」と思うかもしれませんが、先の夫婦のように、元々は仲が良かった関係性に取り返しのつかないヒビを入れてしまうことにもつながりかねません。

■イギリスの警察署の「性的同意啓蒙のための動画」

また、相手が途中で「もうやめて」と嫌がったり、痛がったりしているのに「あとちょっとだから」と最後まで行為を続けたり、相手が満足していないのに自分だけ射精して終わり……というのも、よく聞く女性たちの不満話です。

今井伸『射精道』(光文社新書)
今井伸『射精道』(光文社新書)

これらも「愛情の表現」とは程遠い、厳に慎むべき利己的な行為といえるでしょう。

このごく当たり前に備えておくべき道徳観がピンとこない、よくわからない……という性欲に振り回されてしまっている男性は少なくありません。そんな人に、ぜひおすすめしたい動画があります。

イギリスの警察署がYouTubeに投稿した、性的同意啓蒙(けいもう)のための動画<Tea and Consen(同意それはお茶と同じ)>です。

セックスの誘いを、相手にお茶をすすめたときの状況と重ね合わせて、同意についてのセンスが学べるようにまとめられている秀作です。

■「セックス」を「お茶」に置き換えて考える

お茶をすすめたとき、相手が「ええ、ぜひ」といったが、後から「やっぱりいらない」といわれた。

昨日は喜んでお茶を飲んだから、今日も当然飲むと思っていたら「今日はいらない」と断られた。

お茶を飲むといっていたのに、いざ飲む段階になったら相手が寝てしまった。

そんなときでも、怒ったり、無理やりお茶を口に流し込んだりするようなことはしませんね。この動画では、同意についてさまざまなシーンを提示しながら、腹落ちできるように解説されています。

セックスも同じです。いつも同意していたとしても、今日は気分ではないかもしれないし、体調が悪いのかもしれません。

それでも、「そんなのはおかしい!」と怒ったり、「君には要求を受け入れる義務がある!」などと無理強いしたりすることはありません。それはたいへん理不尽な行為であることが、お茶にたとえるとはっきりとわかります。

■「愛情表現」か「暴力行為」かはあなた次第…

快楽をセックスのモチベーションにすることは、けっして悪いことではありません。男性にとって、最高に気持ちのいいセックスは、QOL(人生の質)を大きく底上げするものであり、男性機能を健全に維持することにもつながります。

ただし、その快楽はパートナーと共有することが理想です。

すべての男性が備えている陰茎は、その構造的にセックスの際には相手の体の中に押し入ることになります。すなわち、それを望まない相手にとっては、体に危害を加えられる恐ろしい凶器となります。

そのため、一方的に自分の欲求のままにそのやり方やタイミングをゴリ押しすれば、凶悪な暴力行為となってしまうことを忘れてはいけません。

■パートナーと最高の快楽を共有するために

反対に、愛情表現としてのセックスができたときは、陰茎は最高のコミュニケーションの道具となります。男女双方、最高に気持ちの良い快楽を共有することができます。

日常的に、言葉やスキンシップを欠かさずに愛情表現を示すこと。
お茶をすすめるのと同じように、その都度、相手の合意を確かめること。

これを男性が持つべき性倫理の基本的な姿勢とすれば、愛するパートナーと最高の快楽を共有できるようになることでしょう。

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今井 伸(いまい・しん)
聖隷浜松病院リプロダクションセンター長
1971年島根県生まれ。聖隷浜松病院総合性治療科部長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)、『中高年のための性生活の知恵』(アチーブメント出版)、監修に『シニア世代の愛と性セックス』(平原社)など。

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(聖隷浜松病院リプロダクションセンター長 今井 伸)

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