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「歳をとったら丸くなる」は科学的には間違い…老化研究の専門家が語る"性格と寿命"の残酷な関係性

プレジデントオンライン / 2022年11月7日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kimberrywood

性格と健康にはどのような関係があるのか。大阪大学の佐藤眞一名誉教授は「性格は大きく分けて5つの要素で成り立っているが、そのなかでも『神経症性』という要素が強い人はストレスと抱えやすい死亡率が高まる傾向にある。一方で『誠実性』という要素が強い人は、死亡率が低いことが報告されている」という――。(第1回)

※本稿は、佐藤眞一『あなたのまわりの「高齢さん」の本』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。

■なぜ高齢者は「都合の良いこと」ばかりを記憶しているのか

自分に都合のいいことばかり話す高齢さんが多いようです。そこには記憶の仕組みと老化がかかわっています。加齢は記憶の仕組みや行動にどう影響するのかを見ていきましょう。

高齢さんは無意識のうちに、自分にとって都合のよい情報を選んで記憶する傾向があります。例えば、「日曜日に息子の家族が訪ねてきて嬉しかった」「先週、趣味のコーラスのお仲間と会食をした」など、高齢さんに近況を尋ねると、よかったことだけを限定して話している印象はありませんか?

実際に起きた出来事は楽しかったことだけではなく、仮に「息子の家族が来たときに、孫のしつけのことを注意したら気まずくなった」「会食の日は電車を間違えて遅刻した」こともあったとして、高齢さんはこうしたネガティブな話はしません。わざと話さないのではなく、覚えていないからです。

この傾向は年齢に関係なくみられるようですが、若い世代はネガティブなことにも目が向き、高齢さんはポジティブなことに目が向きやすいといわれています。なぜかというと、若い世代はこれからの人生を生き抜くために、危険や恐れなどのネガティブな情報を集め、それに耐える力をつけようとしているからです。

その反面、高齢さんは、人生でネガティブなことも経験してきたので、少なくなった記憶の容量をポジティブなことに充てようとしていると思われます。年を取ると心身が衰えたり親しい人を亡くしたりすることで、ストレスになる出来事が増えていきます。残りの人生を幸福に生きるため、ポジティブで気持ちが前向きになる情報を重視したいのです。

■加齢による影響を受けやすい「エピソード記憶」

高齢さんの昔話を聞いていると、辛い思い出話よりも、よい思い出話のほうがほとんどです。それはなぜでしょうか。高齢さんは昔話を思い出すときに、自分の「記憶」を頼りに話します。記憶にはさまざまな種類があります。「記憶の分類」の図を見ながら説明しましょう。

記憶の分類
出所=『あなたのまわりの「高齢さん」の本』より

人間の記憶は覚えていられる時間の長さによって感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3つに分けられます。感覚記憶とは、「今、見ているものを写真のように覚えている」といった視覚、聴覚、触覚などの感覚器官に一瞬だけ存在する記憶です。

感覚記憶の中でも印象的なものだけが、脳の海馬に短期記憶として、時間でいうと数秒から数十秒ほど保存されます。短期記憶のうち、何度も思い出されたり、ほかの記憶と関連づけられたりするものは脳に定着します。これらは長期記憶となり数分から一生にわたって記憶されます。また、長期記憶は内容で分類でき、顕在(けんざい)記憶と潜在(せんざい)記憶に分けられます。

顕在記憶は、人の名前や昔の経験のように言葉で表現できる記憶で、意味記憶とエピソード記憶があります。潜在記憶は自転車に乗ることや泳ぐことなど、体で覚えていて言葉で表現できない記憶で、条件づけや手続き記憶、プライミングがあります。顕在記憶と潜在記憶の中で、加齢による影響を受けやすいのは、エピソード記憶です。

エピソード記憶はいつ、どこでという時間や場所などの情報を含んだその人の体験の記憶。例えば「車の鍵を置いた場所を忘れた」「昨日の夕食に何を食べたか思い出せない」などという物忘れは、エピソード記憶の低下が原因で起こります。

■なぜ若いころのことはよく覚えているのか

高齢さんは最近の出来事は忘れても、若いころのことはよく覚えています。特に10代後半から30代前半ぐらいのころを思い出し、よく家族や友だちに話して聞かせます。

その時期は進学や就職、結婚、出産など、強い感情を伴ったことが起こりやすい時期。エピソード記憶の中でも、人生に影響するような重要な記憶になっているからです。昔の記憶の内容は常に脳内で更新されていきます。そして、辛い出来事もよい思い出に再構築されるため、昔の思い出話は素晴らしい出来事ばかりになるのです。

年を取るにつれて、人の名前や物の名前などがなかなか思い出せないケースが増えていきます。「あのドラマに出てきた俳優、誰だったかな。ほら、背が高くて……」というようなことがよく起こります。同様に、物事を記憶する能力も衰えていきます。

物事を記憶して思い出すことは「記銘(きめい)→保持(ほじ)→想起(そうき)」という3段階のプロセスで表せます。目や耳などの感覚器官から入ってきた情報に意味づけるのが記銘、脳の中で短期記憶を長期記憶に変換して蓄えるのが保持、蓄積された記憶の中から必要なものを探し出すのが想起です。

この3段階のプロセスのうち、加齢によって衰えやすいのは「記銘」と「想起」。年を取ると視覚などの感覚機能が鈍くなるので、感覚器官から得られる情報量が減少します。脳の機能も衰えて情報を記銘する能力も低下。そうした理由で記憶できる情報量が減ってしまいます。

■記憶力が低下しても、補助するものを使えれば問題はない

また、顔は思い浮かぶのに名前がすぐに出て来ないのは、想起の能力が低下していることが原因。何かの拍子に「あ、あれは佐藤さんだった」と急に思い出すことがあります。それは、記憶そのものは消えずに脳に保持されているからです。

「保持」はいったん記憶したことを記憶し続ける能力ですが、認知症などの病気の場合を除けば、年を取っても衰えないといわれています。高齢さんは記憶力が低下していますが、生活に不便を感じることは少ないようです。また大事な約束を忘れることもありません。それはどうしてかというと、高齢さんは記憶力の衰えを自覚し、忘れないようにメモしたり、手帳に書いたりして自分で気をつけているためです。

例えば、高齢さんと若年者に「次の会議では、今日配布した資料とハサミを持ってきてください」と伝えたとします。そうすると若年者のほうが、会議に関係なさそうなハサミを忘れることが多いのです。高齢さんは自分の記憶力に頼らず、大切なことはメモを取ったりして記憶を補助するため、忘れにくいのだと考えられます。

ペンで紙に何かを書き留める年配の男性
写真=iStock.com/urbazon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbazon

■性格は大きく分けると5つの要素で構成されている

年を取ると性格は変わるの? 変わるとすると、どういうふうに変わるの? 年を取ることで変わるものと変わらないもの、寿命や健康に影響する性格を考えていきます。

私たちは普段から人の行動や考え方について、「人格」や「性格」という言葉を使っています。しかし、人の人格や性格は千差万別で、定義しようとすると曖昧になるのも事実。人格や性格が影響を受けるのは、遺伝的なものなのか、それともその人が育った環境や習慣から来るものなのか、または文化的な背景や時代の影響によるものなのかを見極めることは難しいかもしれません。

心理学者や精神科の医師などは、以前から性格を分類する方法について研究してきました。性格にはあるまとまった傾向があることがわかっていて、それはいくつかのグループに分けることができます。現代の心理学では性格を分ける方法として、オレゴン大学の心理学者ルイス・ゴールドバーグが提唱している「ビッグ・ファイブ(5因子モデル)」(図表2)が主流になっています。

5因子のそれぞれの特性
出所=『あなたのまわりの「高齢さん」の本』より

これは、性格とは5つの重要な因子によって形成されるという考え方。5因子には、1神経症性・2外向性・3開放性・4協調性・5誠実性があります。その人がどの因子の影響を強く受けているか、弱く受けているかで、性格の傾向が決まるというものです。

■「神経症性」が高い人は死亡率が高まる可能性がある

例えば、まわりにいる人の中で、人間関係が円滑な人を思い浮かべたとき、その人は「外向性」の特徴を持っているかもしれません。また、感情的に過敏な神経質な人を思い浮かべたとき、「神経症性」の特徴を持っていたりするのではないでしょうか。

これは、あくまでもその人の持つ性格の一面と捉えられます。そして、誰もが性格において、この5因子を持っているといってもいいでしょう。つまり5因子の中の、どの因子が性格に強く影響を与えているかによって、その人の性格が決まるのです。

この性格こそが人生において、その人の健康や長寿に関連しているのではないか、ともいわれています。例えば「神経症性」が高い人は、対人関係でストレスを感じやすく、物事に対して過敏に反応すると考えられています。それが心身の健康に影響して病気を発症させ、死亡率を高めるとの見方があります。

また、「誠実性」は健康に関する行動と関連があることがわかっています。高齢さんは、さまざまな病気を発症するリスクを抱えます。例えばII型糖尿病は、味の濃い食事や運動不足など、長年の悪い生活習慣が原因となることが多い病気です。血糖値が上昇して動脈硬化に発展し、脳卒中や心筋梗塞などの命に関わる怖い病気を引き起こす可能性もあります。

しかし「誠実性」が高い人は、バランスのよい食事を取り、定期的に運動をするなどの体によい生活をして、病気の原因となるような行動を避ける傾向があります。そのため死亡率が低いことが報告されています。このように人の寿命の長さと性格は個人の感情や行動、意志などと深く関わっています。

特に「神経症性」の高い人は、不安やストレスを抱え込まないで毎日ポジティブな志向をもつことが長寿の秘訣です。それが難しいときは、まわりの人にサポートしてもらいながら不安を軽減させれば、病気や死亡のリスクを抑えられるでしょう。

疲労動揺中年配の女性は、痛みを和らげようとして鼻の緊張や頭痛を感じて鼻橋をマッサージし、悲しい上級成熟した女性は、問題を考えて疲れたうつ病を疲れ果てた
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■年を取ったら性格は変わるのか

高齢さんの性格について、まわりの人たちに「年を取って性格が丸くなったね」と言われる人がいる一方で、「頑固になったんじゃない?」と思われる人もいるようです。年を取ることで性格は変わるのでしょうか。

ひとつの例を挙げてみます。高校の同級生の女性AさんとBさんの2人が、50年ぶりのクラス会で再会しました。Aさんは昔からおとなしい性格でした。一方のBさんは社交的で活発な性格。いつもクラスの中心にいました。AさんにはBさんが輝いて見えていたのです。

Bさんは高校のクラス会に、スポーツジムで知り合ったという20代の男性Cさんを連れて来ていました。Aさんは「若い男性を連れて来るなんて、Bさんの活発な性格は昔と変わらないのね。それに比べて私はおとなしいままだ」と心の中で思っていました。そのときCさんの声が聞こえてきました。

「僕よりも50歳近く年上の人たちは、やっぱりBさんと同じように落ち着いているんですね。僕もいずれは、こういうふうになれるのかな?」

それを聞いたAさんは「Bさんが落ち着いて見えるなんて、本当にそう思っているの?私よりもずっと活発なのに」と驚きました。さて、50年前と比較してBさんの性格は変わったのか、変わっていないのか、どちらなのでしょうか。

■性格は変化することはあっても、大きく変わることはない

AさんとCさんの感想は矛盾しているように思えますが、それは加齢によって生じる性格の変化を別々の視点から見ているからです。

佐藤眞一『あなたのまわりの「高齢さん」の本』(主婦と生活社)
佐藤眞一『あなたのまわりの「高齢さん」の本』(主婦と生活社)

Aさんが「Bさんは50年前と変わらない」と思ったのは、同年代の人たちの中にいるBさんの性格が、相対的に変わっていないということ。同級生のAさんとBさんを比べて、Bさんのほうが活発だということは昔も今も変わっていないのです。また、Cさんが「50年近く年を重ねると落ち着いた性格になる」と思ったのは、若い年代の人と比べて、Bさんは落ち着いていると感じたことを示しています。

これらのことから、性格は加齢によって変化していきますが、その変化の仕方はどの人も同じような経過をたどるため、年齢を重ねても性格に大きな変化はあまり見られないと考えられています。

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佐藤 眞一(さとう・しんいち)
大阪大学名誉教授
1956年東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻単位取得満期退学。博士(医学)。財団法人東京都老人総合研究所研究員、明治学院大学文学部助教授、同心理学部教授などを経て大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学研究分野教授。2022年に定年退職。現在、社会福祉法人大阪府社会福祉事業団特別顧問。主な著書に『心理老年学と臨床死生学』(編著、ミネルヴァ書房)、『よくわかる高齢者心理学』(共編著、ミネルヴァ書房)、『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』(光文社新書)、『マンガ認知症』(共著、ちくま新書)、『あなたのまわりの「高齢さん」の本』(主婦と生活社)などがある。

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(大阪大学名誉教授 佐藤 眞一)

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