いちばんのオススメは音読だが…声の出せない環境でも定着率を高められる"脳科学的な記憶術"
プレジデントオンライン / 2022年11月5日 11時15分
※本稿は、加藤俊徳『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■視覚よりも聴覚情報のほうが記憶しやすい
視覚系優位派、聴覚系優位派、どちらに属しているかにかかわらず、聴覚を働かせる習慣を持つことは、脳全体を活性化させる上でとても重要です。なぜなら、聴覚は視覚よりも記憶に直結し、記憶の一時保管庫である海馬にアクセスしやすいという特性があるからです。
こと記憶に関しては、視覚系に頼るよりも、聴覚系に頼ったほうが有利な面があることは確かなのです。高齢になって耳が遠くなると、記憶力も同時に下がっていってしまうのは、聴覚系の働きが弱くなり、海馬へのアクセスがスムーズではなくなってしまうから。それくらい、耳から入ってくる情報は脳の働きを左右するものなのです。
聴覚を働かせることのメリットは、聴覚系だけではなく他の脳番地も一気に働かせることができる点です。たとえば、普段の何気ないおしゃべり。円滑なコミュニケーションのためには、よく聞いて(聴覚系)、理解して(理解系)、自分の伝えたいことをまとめて(伝達系)、話す(運動系)という流れによって、複数の脳番地が一気に働いています。これを活かした勉強法の一つが、音読です。
■音読することによって脳が活性化し、記憶しやすくなる
黙読の際には視覚系脳番地がメインで働いています。これが声に出すことによって、視覚系の他に、伝達系と運動系が働き、自分の声を聞くことによって聴覚系も働きます。働く脳番地が多いほど、自家発電的に頭がよくなるのは前述した通り。難しいテキストも、声に出して読むことで頭の中が整理されて、理解できるという経験をした人も多いと思いますが、その現象が起こるのも、音読によって脳全体が活性化したためと考えれば納得がいきます。
また、英単語なども黙読よりも声に出したほうが覚えやすいです。ただ、先ほどもお伝えしたように、視覚系が優位な方は、書きながら声に出して読む、書いたものをじっくり目で追いながら声に出して覚えることを試してみてください。
■「読んだ内容を誰かに説明する」と意識するだけでも効果的
音読は複数の脳番地を同時に働かせることができ、記憶の定着にプラスに働くということはすでにお伝えしました。しかし、いつでも音読ができる環境にいるとは限りません。忙しいビジネスパーソンにとって、電車での移動中やカフェでの休憩中は絶好の勉強タイムでしょうが、声を出すのは憚られます。そんなときに活躍するのが伝達系脳番地です。
人の目がある場所で、今読んでいる本の内容を強く記憶に残したいときには、「この後、読んだ内容を別の誰かに説明する」という前提をつくって読んでみましょう。あるいは、「会社に着いたら今読んだ本の内容をパワーポイントでまとめる」としてもかまいません。
こう意識するだけで、伝達系脳番地が脳番地全体の監視役となり、通常時より脳番地がしっかりと働くようになります。そして実際に、電車を降りてから、カフェを出てから、「この本で言いたかったのはこういうこと」「本の感想を伝えるとしたら、こう言おう」などと自分なりの考えをまとめます。
これによって、思考系、理解系の脳番地が働きます。さらに、自宅に着いてから、このときに考えたことをブログに書いたり、ツイッターでつぶやいたりして、そこで文字として書き起こしたものを誰かに話しかけるように声に出して読んでみましょう。
我が家では、息子が学校でその日勉強したことの内容を私に伝えることを習慣にしていましたが、これを始めるようになってから息子の成績が右肩上がりに上昇しはじめました。人に説明できてこそ真に理解したと言えるというのは本当です。
■寝る前にオーディオブックやラジオで学習するのもオススメ
聴覚は、朝一番に活動を始めて、1日の最後、眠る直前まで活動を続けます。ベッドに入って目を瞑れば視覚から入ってくる情報は遮断できますが、耳から入ってくる音を遮ることは不可能です。この脳番地の働き方を活用して、夜、眠る直前の時間を活かした勉強法をご紹介しましょう。
日中、どうしても勉強をする時間がとれなかった。働いていれば、そんな日もあるでしょう。しかし、「あぁ、今日は何もできなかったな……」とネガティブな感情を抱えたままベッドに入るのはよくありません。せめて音読だけでもして眠りにつきたいところですが、それをやる気力も湧いてこない日は、オーディオブックやラジオなど、耳から学べるツールを使ってみましょう。
オーディオブックやラジオは、電車や車での移動中などの隙間時間にも活用できますし、忙しい大人にとってとても便利なツール。しかも、前述したように聴覚系脳番地は記憶系脳番地に対してアピール上手です。視覚系が優位な人も同様に、脳番地の働きを強化する脳トレだと思って、オーディオブックやラジオによる学習を取り入れてみましょう。
後述しますが、人の記憶は眠っている間に整理されて定着します。この脳の特性からしても、眠る前に耳から情報を取り入れる聴覚を活かした勉強法はおすすめです。
■知的生産性を高めるために運動は欠かせない
運動系脳番地は、すべての脳番地のエネルギー源であることが知られています。
人間はお母さんのお腹の中にいるときから手を握ったり指しゃぶりをしたりして、運動系脳番地を働かせる準備をしています。そして、誕生してすぐに泣き、手足を動かし、脳の機能を発展させていきます。運動系が働くから視覚系と聴覚系も働くし、視覚&聴覚によるインプットがあってはじめて、アウトプットも成立します。つまり、運動系は脳全体を回すトリガーであり、運動をしないと頭が悪くなってしまうのです。
脳全体が回らないと脳の情報処理能力も低下します。脳の中で情報をイメージする際に働く言語操作にも運動系が関わっているため、クリエイティブな能力も削がれていきます。運動の中で私がおすすめするのは、ウォーキングです。デスクワークが中心の人なら、1日の中で合計60分を目安に歩きましょう。これで、脳の健康維持が期待できます。
より活発に脳を働かせて知的生産性を高めたい場合には合計80~90分くらい歩く時間を作るようにするのがいいでしょう。仕事中に身体を動かす機会があるようであれば、それとは別に30~40分歩くようにします。
歩く時間帯によって、ウォーキング中の脳番地の使い方をコントロールするのもおすすめです。仕事終わりで脳の疲労を感じているようなときは、なるべく人混みや店が立ち並ぶ通りは避けて目に入ってくる情報量を減らし、ボーッとしながら歩くことで脳の疲れを癒やします。
歩くことが健康維持につながるのはもちろんのこと、適度な疲れを感じることで睡眠の質が高まることも、脳にとってはとても重要なファクターです。私は、毎朝1時間歩くことを習慣にしています。運動系脳番地を積極的に動かすことで、脳番地のエネルギーはアップし、頭をよくするのですから、歩くことを軽視せず、毎日の習慣として取り入れていきましょう。
■寝る1時間前にスマホをいじると記憶が定着しにくくなる
よく知られているように、眠りには浅い眠りの「レム睡眠」と深い眠りの「ノンレム睡眠」があり、これを1セットとして一晩に何度か繰り返しています。
人の脳は眠っている間にも活動し、浅い眠りの「レム睡眠」のときに記憶を再生・整理し、深い眠りの「ノンレム睡眠」時に長期記憶を形成するとされています。レム睡眠とノンレム睡眠が交互に訪れるような睡眠のリズムが整っていないと、人は賢くなれないのです。この睡眠のシステムを利用して、眠る前に頭の整理をすることで、より記憶は定着しやすくなります。
毎日、寝る1時間くらい前に、覚えたいことを振り返って、整理してみます。これだけでも記憶系を働かせることができておすすめですが、さらに一歩踏み込んで、これはしっかり記憶しておきたいという内容について、復習するようにします。声に出すことで聴覚系脳番地を働かせ、海馬に「これは重要だから覚えておいてね」というメッセージを送り、寝ている間に記憶に定着しやすい状況を作っておくのです。
ここで注意したいのは、記憶に定着させたいことを復習したら、他の情報をなるべく入れないようにすることです。脳には、より最新の情報を上書きするような仕組みがあります。なので、ベッドに入ってからスマホをいじったりしてしまうと記憶の撹乱が起きて、覚えておきたかったことの定着率を下げてしまうのです。
1日の終わりに今日を振り返ったらさっさと寝る。これが記憶力を高める寝る前の勉強法です。
■最低でも7時間以上の睡眠を確保したほうがいい
また、脳番地を働かせるという観点からも眠りは重要です。日中の脳は、神経細胞やグリア細胞(神経細胞以外の細胞の総称)などの活動で埋め尽くされ、疲労物質などが溜まりやすい構造になっています。
ノンレム睡眠時は脳内のごみ処理も行われるため、疲労物資が排出されやすい環境です。認知症にも関わるアミロイドβやタウタンパクの排出にも深く関わっているため、しっかり眠ることが脳の健康には欠かせません。生体リズムの観点からは、22時には眠るのが望ましいのですが、ビジネスパーソンにとっては少し難しいと思うので、できれば23時、遅くとも日付が変わる前に眠ることを心がけましょう。
ちなみに、アメリカの睡眠財団では26~64歳の推奨睡眠時間を7~9時間としています。しっかり7時間以上の睡眠を確保することも大人の勉強法には必須です。
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脳内科医
医学博士。加藤プラチナクリニック院長、「脳の学校」代表、昭和大学客員教授。『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き 「選ばれた才能」を120%生かす方法』など著書多数。
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(脳内科医 加藤 俊徳)
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