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自己啓発本を読んでもやる気がドンドン削られる…優秀な社員を次々と腐らせる「ダメな職場」の共通点

プレジデントオンライン / 2022年11月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SilviaJansen

仕事のやる気が出ないのは、自分のせいなのだろうか。400以上の企業や官公庁に組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「仕事の生産性を高められるかは職場で決まる。日本人が前向きに働けない背景には、『上司は絶対に正しい』という思い込みがある」という――。

■「仕事の成果=自己責任」という論調は破綻している

――沢渡さんはこのほど、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)を上梓されました。なぜ「職場が9割」なのでしょう?

沢渡あまね『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)
沢渡あまね『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)

【沢渡】まずは、日本が好景気に沸いた時代を生きた団塊・バブル世代を見回してください。仕事ができる人、できない人、さまざまかと思いますが、「自分たちより何倍も能力が高い」ほどではないはずです。この時点で、安易に仕事の成果を自己責任に結びつける論調には破綻があります。環境や時代、人間関係、ビジネススタイルなど、自分以外の要素が非常に重要です。

また、書店にはさまざまなビジネススキルや思考法を紹介するビジネス書がたくさんあります。たしかに、個人的にそうしたスキルを身に付けることは生産性の向上に役立ちますが、どんな高性能なエンジンを積んだスーパーカーも燃料がなければ走らないように、モチベーションや前向きに仕事に取り組める環境があってこそ、その効果は発揮されます。

だからこそ、「仕事は職場が9割」です。

「上司は絶対に正しい」「数字が出ないのはお前のせい」といった思い込みやプレッシャーで窒息するような職場で、「モチベーションを高めろ」「生産性を上げろ」と言われても無理があります。逆に、今は成果が出ない人も、職場という環境が変われば、モチベーションが上がり、潜在能力が開花する可能性があります。自分で自分を諦めるのは、非常にもったいない。

■みんな「上司と部下」を上下関係だと勘違いしている

――なるほど。やる気を失わせる職場のストレスとしてもっとも大きなものは「人間関係」でしょうか。

【沢渡】私は職場の人間関係には、ある悪しき“思い込み”が蔓延していると感じています。それは、上司と部下に「上下関係」があるとの思い込みです。

「上司と部下」とは、極めて特殊な人間関係です。それは、「相手を選べない」ことに起因します。私たちは、誰が上司になるのかを選択できません。例えば、学生時代は学校の中で誰と親しくするか、どんな部活に入るかなどは自分で決められるし、大学生ならどの教授の授業を受けるか選べますが、職場ではよく分からない誰かが勝手に上司になります。当然、ソリが合わなかったり、価値観が異なったりする上司もいます。

ただ、そうであっても本来は「上司は部下を指導、管理する」「部下は上司の下で仕事に取り組む」との役割がそれぞれ会社から与えられているだけで、同じ働き手同士、フラットな関係に過ぎません。

にもかかわらず、「上司と部下」を「師匠と弟子」のような上下関係と勘違いする“思い込み”が蔓延している。これは、とても不健全な状態です。

■師匠と弟子はメリットとデメリットの天秤が整っているが…

――雇用主でもない誰かが勝手に「自分に従え」と言ってくる。冷静に考えると、おかしな状況です。

【沢渡】師匠が弟子に対して優位にある「師匠と弟子」の関係と「上司と部下」の関係では、決定的に異なる点があります。それは、「弟子は師匠を選べる」点です。まず最初に「この人の弟子になりたい」との尊敬の念や主体的な意思があって、はじめて師匠の門を叩くわけです。勝手に誰かが自分の師匠にはなりません。

そして、自分が選んだ師匠の下で厳しい修業に耐えてスキルを磨けば、「○○さんの弟子」として業界で一目置かれたり、のれん分けという形でブランドを手にしたりできます。上下関係はありますが、その分、キャリアにおけるメリットとデメリットの天秤が整っています。

一方、上司はまったく異なります。自分で選んだわけでもなく、尊敬できない人が上司になる可能性もあり、パワハラや理不尽に耐えても、何のキャリアにもつながらないリスクがあります。後で、「あの時、こうしておけばよかった」と後悔しても、上司が責任を取ってはくれません。特に変化が激しい今の時代は上司が正解を持っているとは限りませんから、思考停止で「上司は正しい」と従っていると、ただただ自分のキャリアが無駄になる危険性すらあります。

■対価が約束されない時代の「人間関係の軸」とは

――なぜ、上司が師匠であるかのような勘違いが蔓延してしまったのでしょう?

【沢渡】30年前の景気が良かった時代は、年功序列、終身雇用の下で、上司のマネをしていれば、ある程度、似たようなキャリアを描けたからです。部下も、まるで弟子のごとく上司に付き従っていれば、ポジションを引き上げてもらえる可能性がありました。職場の中で、メリットとデメリットの天秤が整っていたわけです。

今、「自分たちの時代は上司の理不尽に耐えて頑張るのが当然だった」などと言っている年配者がいるとすれば、その人は昇進や退職金など、私たちよりも多くの対価を、その言葉の裏で手にしているはずです。

――今は対価も約束されていないのに、上下関係だけが残ってしまっている……。それはストレスがたまりますね。

【沢渡】先進的な職場では、「上司と部下は上下関係ではなくフラットなチームメイト」との意識や組織変革が進んでいます。ただ、まだまだ上下関係が根強い職場もあるでしょう。だからこそ、私たちは人間関係の軸を「尊敬」に移していったほうがいい。

■「心の師匠」は他部署でも社外の人でもいい

【沢渡】「ジョブ・クラフティング」という言葉があります。すべての人が、職人(クラフトマン)として仕事やキャリアに向き合う考え方です。会社に所属していても、自分を職人として捉える。すると、人間関係の軸はおのずと「尊敬できるかどうか?」となります。

師匠と弟子のようなディープな関係でなくとも、「この人のこの仕事のやり方は好きだな」「この人のこの技術はすごいな」といったライトな感覚でいい。この尊敬を軸にすると、社歴や雇用形態、年齢などは関係なくなります。年下でも尊敬できる人はいるし、年上でも尊敬できない人はいます。狭い職場の価値観から脱して、尊敬を軸に人間関係を再構築すれば、仕事にもっと前向きに取り組めるのではないでしょうか。

この「心の師匠」といえる存在が、もし身近な上司であれば、とても幸運です。しかし、残念ながらそうでなかった時、視野を広げれば、もっと上の上司や別の部署の人間、さらには同業他社や他業種に尊敬できる人が見つかるかもしれません。そうすれば、「あの人ならこんな時にこうしたはず」と、自分で考えながら仕事に向き合えるようになります。

オフィスで働くビジネスマン
写真=iStock.com/Paul Bradbury
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Paul Bradbury

■「この人、いいな」と思える職場に身を置くこと

――私も新人の頃、たまたまやりとりしたある企業の秘書の方のメールが素晴らしくて、文面をマネしながらビジネスメールの作法を覚えていきました。

【沢渡】「この人、いいな」と思える瞬間が増えるほど、モチベーションも生産性も自然に上がっていきます。逆に、尊敬できる人が周囲にいなければ、1人の力だけで前向きになるのはとても難しい。その意味で、やはり「仕事は職場が9割」です。

尊敬を軸に人間関係を再構築すれば、仮に尊敬できない人と関わらなければいけなくなった時、「別にこの人のようになりたいわけじゃないし」とドライに割り切れるようにもなります。人の評価や価値観はさまざまなので、上司からダメ出しされても、別の人は認めてくれる、といったケースは往々にして起こります。たまたま上司になったよく分からない誰かに判断の軸をあずけるのは、ストレスであり危険です。

尊敬できる人がいる、ロールモデルがいる職場に身を置くこと、またはそうした存在を積極的に見つけていくこと。職場を職人としての成長の場と捉えれば、人間関係のストレスもだいぶ軽減されるのではないでしょうか。

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沢渡 あまね(さわたり・あまね)
作家/ワークスタイル&組織開発専門家
1975年生まれ。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/浜松ワークスタイルLab所長/国内大手企業人事部門顧問ほか。「組織変革Lab」主宰、DX白書2023有識者委員など。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『問題地図』シリーズ(技術評論社)をはじめ、『新時代を生き抜く越境思考』(同社)、『職場の科学』(文藝春秋)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)など著書多数。

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(作家/ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡 あまね)

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