「市民マラソンに出るための費用は10万円超」10年前との比較で判明した"セレブスポーツ"の全真相
プレジデントオンライン / 2022年11月3日 11時15分
■再開されたマラソン大会にもはや“庶民”は出れないのか
スポーツの秋、真っ青な空の下での運動は本当に気持ちがいい。そのなかでもランニングをする人が増えているようだ。
笹川スポーツ財団が全国18歳以上を対象にした2020年調査で、ジョギング・ランニング実施率(年1回以上)は10.2%、推計実施人口1055万人。1992年の調査(隔年)開始以来、過去最高になったという。
コロナ禍でリモートワークが増えたこともあり、運動不足の解消や気分転換に気軽にできるランニング習慣化されてきたと推測できる。
一方で、再開しつつあるマラソン大会は“気軽”に参加できなくなっている。参加費が高騰しているだけでなく、出場に当たってさまざまな制限が課せられているからだ。
今年の秋冬には数年ぶりにマラソン大会に参加する方もいるだろう。だが、ランニング界の“常識”は大きく変わっているので注意してほしい。
■出場コストは10万円超、これがランニング界の“新常識”
10年前と比較して、現在のランニングシーンはどう変わったのか。
最新ウエアに身を包み、マラソン大会に出場すると仮定しよう。ザックリ以下の金額がかかる(※記載している商品の価格はすべて税込み)。なんと、シューズとウエア類だけで10万円オーバーだ。
・ソックス=約2000円
・ロングタイツ=約2万円
・Tシャツ=約4000円
・GPSウォッチ=約5万円
合計約10万6000円
まずはシューズの進化が大きい。ナイキが2017年にカーボンプレート搭載の厚底シューズを登場させると、タイムが大幅短縮。他社も高性能シューズを続々と発売している。
その結果、シューズの価格が急上昇。10年前は上位モデルでも1万5000円ほどだったが、現在は3万円前後になっている。
各ブランドの最高峰モデルは次の通り。アディダスの『アディオス PRO 3』は2万6400円、アシックスの『METASPEED SKY+』とプーマの『ファストアール ニトロ エリート ファイアーグロー』は2万7500円、ミズノの『ウエーブデュエルPRO』は2万9700円。ナイキの『エア ズーム アルファフライ ネクスト% 2』なら3万1900円だ。
シューズほどの劇的進化はないが、ソックスとロングタイツも機能性がアップしている。ソックスでいうと、靴下専業メーカーであるタビオの『レーシング ラン ナノグリップ 五本指』は2200円。アーチ(土踏まず部分)が崩れないようにサポートしており、グリップ性も高い。
ロングタイツは市民ランナーに根強い人気を誇るCW-Xの最高峰モデルは2万900円。独自のテーピング原理を応用して、腰から脚までをフルガード。筋肉の疲労を軽減してくれる。Tシャツは速乾性素材のもので4000円ほどだ。
それからウオッチ。タイム計測がメインのスポーツウオッチは1万~2万円だが、近年はGPSウオッチが普及している。ガーミンのシリアスランナー向け最高峰モデル『Forerunner 955』は7万4800円、チャレンジランナー向けの『Forerunner 255」は4万9800円。スントの軽量GPSウオッチ『5 PEAK』は4万3890円だ。それからアップルウォッチの最新セルラーモデル『Series 8』は7万9800円になる。いずれも距離やペースだけでなく、心拍数も測定できる。
他にロングタイツと重ね着するための短パン(約4000円)、寒い日はアームウォーマー(約2000円/着圧タイプなら約6000円)、手袋(約2000円)、ネックウォーマー(約2000円)。それから日差し対策のキャップ(約3000円)とサングラス(約1万円)もあった方がいい場合がある。スマホを持参するならランニングポーチ(約2000円)も必要だ。
アイテムにこだわれば、シューズとウエア類だけで15万円近くになるだろう。シューズやウオッチは高価なものでなく自分が持っている安価なもので十分だが、それでも、せっかくの晴れの舞台だ。出場コストに数万円はかかるに違いない。マラソンはいつの間にか“セレブ感”あふれるスポーツになっているのだ。さらに忘れてはいけないのが、大会参加費だが、こちらも驚くほど高騰している。
■東京マラソンの参加費は倍以上の2万3300円に値上げ
2007年に東京マラソンが始まる前の国内レースはフルマラソンが5000円前後、ハーフマラソンは3000~4000円というのが一般的だった。しかし、初開催された同大会の参加費は1万円。これは衝撃だった。それでも抽選倍率は3.1倍で、その後も抽選倍率は右肩上がりで上昇。第7回大会(2013年)以降は10倍を超える“プレミアチケット”となった。
東京マラソンの大成功で、各地に定員1万人を超える大型マラソンが続々と誕生。いつしかフルマラソンの参加費は1万円が相場になった。
しばらくは“1万円時代”が続いたが、2013年のボストンマラソンで爆弾テロが勃発して風向きが変わる。警備を強化したことで費用が増加。東京マラソンは2020年大会の参加費を前年までの1万800円(2015~2019年)から一気に1万6200円に引き上げたのだ(※それでも抽選倍率はさほど落ちず、一般エントリーは11.1倍だった)。
そこにコロナ禍が直撃。東京マラソンは2020年大会の一般の部が中止になり、2021年大会は2度延期して、2022年3月に開催された(2022年大会は中止)。そして2023年大会の参加費はというと、2万3300円。10年前の倍以上になっているのだ(※ただし、参加費のなかには事前検査費用も含まれており、検査を実施しない場合は一部を返金することになっている)。
また出場者はコロナ以前と比べて、さまざまな制限が課せられている。まずはスマートフォンが必須となる。主催者指定の体調管理アプリをダウンロードして、レース10日前から体温、体調チェックを記載しなければならない。それからゼッケン引き換え(ランナー受付)は事前予約制で、主催者指定の検査も受けることになる。そこで「陽性」と判定されれば出場できない(※検査費用などを差し引いた額が返金され、来年以降の大会に抽選なしで出場できる)。
大会当日も検温が実施され、手荷物預かりは有償(1000円)となる。今年の大会では3グループが10~15分おきに走り出すウェーブスタート方式が採用され、出走1分前までマスクを着用。走行時は不要だが、マスクは走行時も携帯した。給水は手を消毒してから受け取るなどの感染対策も実施された。
参加費の高騰は東京マラソンだけではない。8月に3年ぶりに開催された北海道マラソンは2019年の1万1000円から今年は1万6500円にアップ。多くの大会がコロナ前と比べて、4000~5000円ほど金額を上げている。とはいえ、値上げ分はPCR検査代が中心だ。
そのなかで10月16日に開催された東京レガシーハーフマラソンの参加費は2万700円。国立競技場がスタート・ゴールとはいえ、ハーフでこの料金はちょっと驚いた。それでも重要と供給のバランスが取れていれば問題ないだろう。
■大阪がまさかの定員割れ、マラソンを走るなら今だ!
東京マラソンは2023年大会の参加申込人数を発表していないが、おそらくかなり下がっているはずだ。これは世界的な流れで、海外のメジャーレースもエントリー数がコロナ前から減少しているという。
国内の地方大会(一般の部)をチェックしてみると、11月13日の福岡マラソンは2018年の抽選倍率は3.87倍だったが今回は1.94倍、来年2月に3年ぶりの開催が予定されている熊本城マラソンは過去最低の1.3倍。何より筆者を驚かせたのが来年2月開催の大阪マラソンだ。2011年の開催以来4~5倍の抽選倍率を誇ってきたが、今回はまさかの“定員割れ”で2次募集が行われた。
なお大阪マラソンの参加費は中止になった2020年大会が1万4000円で、今回が1万7200円。東京マラソンほどの値上がりはしていないが、「倹約家」が多い地域性が影響しているのかもしれない。
マラソンはセレブのスポーツ、お金持ちのスポーツになりつつあるが、ポジティブに考えれば、大会に出場するなら今が絶好のチャンスだ。倍率が高ければ、多くのレースに出場できる。いずれ大会に出たくても出られない時代が再びやってくるはずだから。
シューズやウオッチは高価なものでなくても、自分が気に入っているもので十分。せっかく走るのなら、とことんレースを楽しんでいただきたい。
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スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
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