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所要時間は新幹線の半分なのに…リニア中央新幹線が完成しても東京―名古屋間は「のぞみで十分」と言えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年11月17日 9時15分

なぜ新幹線は直通運転しないのか(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/tapanuth

リニア中央新幹線が2027年に品川駅―名古屋駅間で開業する予定だ。開業後、新幹線はどうなるのか。鉄道アナリストの鐵坊主さんは「リニアのホームは地下深くにできるため乗り換えに時間がかかる。所要時間40分、乗り換えを10分ずつと考えると、『のぞみ』との差は約30分に縮まる。品川―名古屋間の乗客の多くは、乗り換えを嫌い、「のぞみ」で十分と考えるだろう」という――。

※本稿は、鐵坊主『鉄道会社 データが警告する未来図』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。

■東京駅の東海道新幹線14・15番ホームはなぜ弧を描いているのか

JR東京駅にはさまざまな新幹線が発着している。だが、JR東海の東海道新幹線と、東北新幹線などJR東日本の新幹線は直通していない。

同じ新幹線であり、直通すれば便利だと思われるが、なぜ直通していないのだろうか。

実は、東北新幹線と上越新幹線が建設される際、東海道新幹線とつなげる計画があった。その名残りは現在の東海道新幹線の14番線、15番線ホームの形状に見ることができる。

東海道新幹線の16番線から19番線ホームが直線的であるのに対し、14番線、15番線ホームは、東北新幹線のホームに沿うように、弧を描いている。

なぜそうなっているかというと、東海道新幹線の開業後に、東北新幹線との接続を考慮されて建設されたことが、その理由である。

当時、東海道新幹線の利用者数が増え続けていた。1975(昭和50)年には山陽新幹線が博多まで開通し、東京駅の2面4線ホームでは対応できなくなった。

そのため、東北新幹線との接続用の14番線、15番線ホームは、東海道新幹線用のホームとして、暫定(ざんてい)的に利用されることになった。

その後、東海道新幹線の利用者がさらに増加し、トラブルによるダイヤの混乱も増えた。また、東北・上越新幹線と直通した場合、雪による遅延が、東海道新幹線にも波及することが懸念された。

そのため、東海道新幹線と東北・上越新幹線は別系統とし、臨時列車のために14番線のみを直通可能な構造とする、という計画に縮小されるに至った。

■国鉄民営化で立ち消えになった「新幹線の直通運転」

1982(昭和57)年、大宮駅を暫定の起点として東北・上越新幹線が開通。その利用者数が予想を大きく上回ると、国鉄内では、仙台―名古屋間のように東京をまたぐ需要を検討、再び東北・上越新幹線と東海道新幹線の直通計画が持ち上がった。

しかしながら、都内・埼玉県内の沿線住民による反対運動で、東北・上越新幹線の東京延伸工事が大幅に遅れる。9年を費やし、ようやく東京駅まで開通したのは1991(平成3)年だった。

この9年という時間が状況を大きく変えてしまう。1987(昭和62)年4月1日に、国鉄分割民営化が行われる。東海道新幹線はJR東海、東北・上越新幹線はJR東日本がそれぞれ継承したが、別会社となったことで、新幹線直通についてのそれぞれの考え方の違いが表面化することになる。

JR東日本は、東北・上越新幹線の東京乗り入れに先立ち、14番線の共用、直通列車の運行および、同一ホーム乗り換えによる利便性維持を提案。また、14番線について、東北新幹線の予算で建設されたホームであるとして、その使用権を主張した。

一方、JR東海は、列車運行システムや車両などの違い、直通列車の運転のための線路容量不足、直通需要の低さなどを理由に、直通運転には否定的な考えを示した。また、国鉄から継承した東京駅の新幹線設備すべての所有権を主張した。

JR東海とJR東日本の話し合いは結論が出ず、その後、運輸省(現・国土交通省)を交えて協議した結果、1996(平成8)年、正式に直通運転は中止になった。

JR東海とJR東日本の話し合いは結論が出なかった(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/y-studio
JR東海とJR東日本の話し合いは結論が出なかった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/y-studio

東北・上越新幹線ホームについては、当初1面2線で営業されていたが、長野新幹線開業でスペースが必要となり、中央線のホームを高架化。他のホームを中央線寄りにずらすことでスペースを捻出(ねんしゅつ)し、2面4線を確保して現在に至っている。

このような理由で直通は行なわれていないが、東海道新幹線と東北・上越新幹線が直通する可能性は、将来的にもまったく考えられないのだろうか。

むしろ、筆者はリニア中央新幹線が開通することでその可能性が高まると考えている。

■リニア中央新幹線が開通しても「のぞみ」のほうが便利

では、リニア中央新幹線が開通するとどうなるのか?

現状、東海道新幹線「のぞみ」の品川駅から名古屋駅までの所要時間は約1時間30分である。それに対し、リニア中央新幹線の品川駅から名古屋駅の所要時間は約40分と見込まれている。

一見すると、両者の所要時間の差は大きい。だが、品川駅と名古屋駅のリニア新幹線用ホームは、地下深くに設置される予定である。そのため、リニア新幹線への乗り換えに必要な時間を、品川駅と名古屋駅それぞれで約10分ずつと考えると、実質的な所要時間は約1時間。「のぞみ」との差は約30分に縮まる。

そのため、リニア中央新幹線が開通した場合でも、品川―名古屋間の乗客の多くは、乗り換えを嫌い、通常の「のぞみ」で十分と考えるだろう。

品川―名古屋間のリニア移動は心理的なハードルが高い(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/filadendron
品川―名古屋間のリニア移動は心理的なハードルが高い(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/filadendron

また、東京駅から新大阪駅へ移動する場合を考えると、リニア中央新幹線に乗るには品川駅で乗り換えが必要になるので、在来線に乗り換える必要がある。そのため、リニアではなく、通常の「のぞみ」で東京駅から新大阪駅へ向かう乗客も多いと考えられる。

こうした問題が考えられるため、JR東海では、東海道新幹線の停車駅を増やし、リニアの優位性を際立たせることで、東海道新幹線とリニアの棲み分けを図ると考えられる。

しかし、それでも品川―名古屋間のリニア移動は、乗客にとって心理的なハードルが高いのではないだろうか。リニアは新大阪まで開通しないと、その実力をフルに発揮することは難しいと思われる。

■ターミナルを東京駅から品川駅に移すリスク

次に、東京駅と品川駅の間で利用者数に大きな差があることも、JR東海にとって不利な条件である。

品川駅は東京第2のターミナルとして、多くの利用者がいると思われがちだ。だが、2019(平成31/令和元)年度の数字を見ると、利用者数はそれほど多くはない。東京駅の1日の利用者数が約9万8000人であるのに対し、品川駅は約3万6000人にとどまる。

じつは品川駅の利用者数は新大阪駅、名古屋駅はもちろんのこと、京都駅よりも少ない。

リニア中央新幹線が開通したとしても、それまで東京駅から新幹線に乗車していたユーザーすべてが、品川駅からリニアに乗ってくれるわけではない。多少時間が遅くなっても乗り慣れた「のぞみ」に乗るかもしれないし、羽田―伊丹間のフライト利用に流れるかもしれないのだ。

リニア中央新幹線の開業によって、東京駅から品川駅へターミナルを移すことになる。だが、ターミナルを移すことで、JR東海にとって利用者の取りこぼしが発生するリスクが生まれるわけだ。

■新幹線直通運転のメリット

JR東海が、このリスクを回避する方法の1つが、新幹線直通である。

東海道新幹線と東北・上越新幹線が直通することで、東北・北関東から品川・名古屋・新大阪方面へ乗り換えなしでのアクセスが可能となる。

品川から先はリニア中央新幹線を利用する、というユーザーもいると思われるが、その場合も東北・上越新幹線がそのまま品川駅まで直通していれば、リニアのためにわざわざ東京駅で在来線に乗り換える必要がなくなる。

つまり、新幹線の直通運転によって、東北・北関東方面のユーザーをリニア中央新幹線に取り込むことができるのだ。

しかも、リニア中央新幹線の乗客が、品川駅で東北・上越新幹線へ乗り換えることが可能になる。これは、JR東日本にとってもメリットとなる。

品川駅でのリニアと東北・上越新幹線の乗り換えを抜きにしても、新幹線が直通すれば、新横浜駅や品川駅から、JR東日本が管轄する北関東・東北エリアへ、新幹線でのアクセスが可能になる。これは、JR東日本にとって大きな商圏拡大である。

鐵坊主『鉄道会社 データが警告する未来図』(KAWADE夢新書)
鐵坊主『鉄道会社 データが警告する未来図』(KAWADE夢新書)

このように、直通運転はJR東海とJR東日本の両社にメリットがある。

もちろん新幹線の直通運転には課題も多い。同じ新幹線でも、同じなのは線路幅だけといっていいほど、違いが多い。しかし、こうした違いは、両社の経営の方向性ひとつでクリア可能だ。

商圏拡大のメリットが、こうしたシステムの違いなどのデメリットを上回れば、企業として直通運転を検討するきっかけになり得る。

もし、東京駅で新幹線が直通すれば、札幌駅から鹿児島中央駅まで1日で行けるような列車が運行されるかもしれない、という妄想を一鉄道ファンとして付け加えておきたい(※北海道新幹線の新函館北斗―札幌間は2030年度末開業予定)

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鐵坊主(てつぼうず)
鉄道解説系YouTuber&鉄道アナリスト
1968年生まれ。2020年11月にYouTubeチャンネルを開設。鉄道を中心とする日本の地域交通のあり方について鋭い視点で分析・解説し、人気を集めている。

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(鉄道解説系YouTuber&鉄道アナリスト 鐵坊主)

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