クルマなら都心から1時間だが…築24年の千葉県の一戸建てが「空き家」として放置される根本原因
プレジデントオンライン / 2022年11月6日 11時15分
■各地に残された「夢のマイホーム」の悲惨な光景
千葉県山武市横田の分譲地を取材で訪れた。藪の中に埋もれつつある空き家があった。よく見ると、竹藪の隣の区画にもう1棟、別の家屋の外壁らしきものが見える。
事前に航空写真で位置を確認していたのだが、それではわからないほど、空き家が濃い藪に飲み込まれていた奇妙な光景だった。
帰宅後、空き家の登記情報を取得して調べてみた。
築年は平成6年(1994年)となっている。築28年だ。まだ充分使用できる築年の家屋のはずだ。竹は生育の早い植物とはいえ、まっとうに住居として使用されていた期間は20年にも満たないのではないだろうか。
空き家は見慣れていたつもりだったが、あらためて当地の分譲地の荒廃ぶりに驚かされる。本来、財産であり、人生の目標でもあったはずのマイホームの無惨な光景は、まさに場当たり的な乱開発の象徴のように思われた。
成田市名古屋にある空き家は、かつては売りに出されていたこともあるらしく、敷地内には今も「売物件」の看板が転がったまま放置されていた。
現在この家屋は、壁の一部が崩落し、コンクリート敷の駐車場にまで雑木が生育している。2階の屋根ほどまでに達した雑木の背丈が、放置されてからの長い年月をうかがわせる。希望価格で売れないまま時間ばかりが経過し、いつしか管理する意欲も失ってしまったのだろうか。
■空き家総数848万戸の衝撃
「空き家問題」が取り沙汰されるようになって久しい。
特に2018年の総務省統計局「土地統計調査」で明らかになった空き家総数848万9千戸という数値は、大きな衝撃を持って受け止められた。
「空き家」の判定基準は曖昧で、建物の見た目の印象だけで判断していて集計方法が粗雑である、との指摘もある。
近年、古い郊外住宅地は高齢者の世帯が多く、健康面や体力の問題から満足に家屋周辺や庭周りの管理ができなくなっている場合もある。雑草が無造作に生い茂っていたり、玄関周りが散らかっているからと言って、それだけで空き家だと断定できない住居も多い。
実際に筆者も、以前あるYouTubeチャンネルの番組に解説者として出演し、その中で、成田市内の限界ニュータウンを訪れた。雑草が繁茂し、駐車場に朽ちた廃車が置かれたままになっている家屋の前で解説した。
筆者はその家を「空き家」と明言し、番組スタッフも空き家のひとつとして案内していた。しかし後に、その家屋の近隣住民の方より、その家は居住者がいるという指摘を受けた。映像は使われなかったので事なきを得たが、迂闊な決めつけは出来ないものだと肝を冷やしたものだ。
それ以降はトラブル防止のために、自身の記事や配信でも、家屋を外見だけから「空き家」と断定することは極力避けるようにしている。
■築年数が浅すぎる限界分譲地の空き家
多くの地方部では人口減が続き、住宅需要の増大は見込めない。よって今後は家あまりの状態に陥るのはほぼ確実である。
千葉県北東部の限界ニュータウンや限界分譲地でも、空き家を見かける機会は頻繁にある。立地条件は地方の農村部とあまり変わらないので何ら不思議な話ではない。
しかし千葉の限界分譲地の空き家は、他の地方部ではあまり見られない大きな特色がある。そもそも開発の経緯から、こうした限界分譲地に建てられている家屋の大半はバブル期以降、つまり1980年代末以降に建築されたものが多い。
空き家になっている家屋もまた、同年代の建築物である。つまり他地域の空き家と比較して、放置されるには築年が浅すぎるのだ。一般的に、「空き家」と認識されている家屋の多くは、どんなに新しくても築40年はゆうに超えている老朽家屋ではないだろうか。
ところが、今回訪問・撮影を行った空き家については、すべて最新の登記情報を取得し内容を確認しているが、もっとも築年が浅いものは、八街市四木にある平成10年(1998年)築の家屋であった。
平成初期に建築された空き家は珍しくないものの、さすがに新しすぎる。これは果たして本当に空き家なのかと、自宅に戻った後も念入りに写真を精査したほどだ。
築後24年ということは、新築の住宅ローンの返済期間として一般的な30年(あるいは35年)も経過しないうちに、住居としての役目を終えたことになる。
この空き家のある八街市四木は、自動車を利用すれば都心から1時間ほどの距離であるが、最寄り駅である八街駅からは約7km強ほど離れた立地で、路線バスは1日数本のみ。周辺には、かろうじてコンビニエンスストアが1軒あるのみで、商業施設は皆無であり、自家用車がなければ生活が困難な立地である。
■売却されず空き家になっている理由
これは一見して奇妙な光景である。
なぜなら、少なくとも千葉県内においては、築30年前後の住宅であれば中古住宅として普通に流通しているからだ。利便性に劣る限界分譲地でも同様だ。もちろん価格が所有者を満足させるものであるかどうかは別だ。
近年では外国籍の購入者も珍しくない。空き家が外国人労働者の共同宿舎として利用されることもあるため、総じて中古住宅の取引は活発だ。むしろ投資に適した価格帯の物件が少なくなっている印象すらある。
このような事情から、リフォームして利用できる程度のコンディションであれば、仲介業者が取り扱ってくれる。むしろ、そんな空き家が放置されているその同じエリアで、業者や不動産投資家が中古物件の出物を待ち構えている。それにもかかわらず、一方では、ただ荒れるに任せているような空き家は増え続けている。
この倒錯した状況は、分譲地の調査を始めた当初からの疑問であった。そのため筆者は以前から、家探しを行う傍ら、築年の浅い家屋が空き家となってしまう原因を探ろうと、たびたび空き家の登記事項証明書を取得してきた。登記情報のみでその理由を突き止めるのは難しいが、空き家放置に至るいくつかの傾向は読み取ることができる。
■所有者は所在不明のケースがほとんど
登記事項証明書には所有者の住所が記載されているが、その現住所が空き家の所在地で登記されたまま変更されていないケースが目立つ。
転居時に、住民票は移動させても、所有する土地家屋の住所変更の登記を行う人は少なく(登記費用も必要になるので売買時に一括して行う人が多い)、これが民間レベルで空き家や空き地の所有者を追跡することが困難になっている一因でもある。
転居理由として考えられる事例はいくつかあるが、もっともよく聞く話は、居住者が高齢化、あるいは健康不良などにより、介護施設や親族などの居宅に身を寄せているケースだ。
特に認知症などを患ってしまった場合、相続も発生していないので親族が勝手に家の処分を行うことも出来ず、これは空き家放置に至る典型でもある。
抵当権が抹消されていない家も典型例のひとつで、築30年未満の家屋に関しては、住宅ローンが完済されておらず、売るに売れない状態のものもあると思われる。90年代の住宅ローンの金利は今よりもずっと高く、物件の価格相場も今とは大きく異なるため、今日の中古物件価格の相場では完済が難しい場合もあるはずだ。
■無理のある宅地開発の産物
これらの限界分譲地の空き家を見るたびに、もったいない、という当たり前の感想とともに、つくづくこうした住宅地の持続性のなさを痛感させられる。
限界分譲地は農村部の限界集落とは異なり、宅地造成されたのは、多くがせいぜい50年ほど前。もともと70年代半ばころまでに投機目的で分譲された土地が、しばらく塩漬けにされ、80年代のバブル期の地価高騰時にようやく実需が発生し始めたところが多い。
農村部の限界集落や衰退した地方都市の市街地のように、人口減や経済の後退によって空き家が発生したわけではなく、最初から無理のある宅地開発が行われ、早々に破綻した産物だ。市場から退場せざるをえない空き家が発生するのはむしろ必然であった。
無理があったのは開発だけではない。利便性を度外視したような投機型分譲地に住宅を取得した人の多くは、高額の住宅ローンに耐えうるだけの経済的余力を持ち合わせていない。
2010年、千葉県においては、戸建物件の競売件数が全国1位の2398件に達したが(千葉地裁管轄・全国では6035件)、その中でも特に集中していたのが、八街市・山武市・富里市などの千葉県北東部、成田空港周辺の自治体であった(朝日新聞2010年8月14日朝刊)。いずれも限界分譲地が多く、筆者が調査を続けている自治体である。
限界分譲地はその地価の安さから、バブル期以降、高騰した都市部の住宅市場から置き去りにされた人のための廉価な住宅市場という位置づけがなされてきたが、価格の安さばかりを訴求力にした住宅販売というものは、やはり何かしらの歪みを生むものなのだろう。
今回の記事で紹介している空き家は、いずれも筆者が限界分譲地の調査を始めた約5年前にすでに空き家となっていたものばかりだ。
せっかく新築家屋を購入しても、まもなく手放さざるをえない事態は、僻地の限界分譲地でなくても起こりうる。しかし住宅ローンの返済期間内に、藪や蔦に埋もれ、ときには敷地が竹林と化してしまうような空き家は、他地域でもよく見られる光景なのだろうか。
■タダでも住みたい人はいない…
昨今は、多くの自治体が「空き家バンク」を開設し、空き家の流通を促す試みが行われている。そうした自治体の空き家バンクでは、築30年に満たない「空き家」はめずらしい。そもそも築30年に満たない程度の築年数の「空き家」であれば、わざわざ行政の施策に頼らずとも、買い手がみつかるはずだ。
しかし、安価な「売家」が多数流通している限界分譲地においては、そうはならない。一見すればまだ使えるように見える空き家でも、なにかの不運が重なれば途端に見向きもされなくなり、早々に市場から脱落してしまう。
これは他の工業製品に例えると、高価な製品は故障品であろうと、修理されて中古品として粘り強く市場に流通する一方で、廉価品の故障品は、たとえ新しくとも中古市場では値がつかず、修理もされないまま廃棄されてしまう現象に似ているかもしれない。
かつて千葉県北東部は、全国一の競売件数を発生させながら、いまだに競売にすら掛けられていない空き家が、いたるところにある。立地の悪さだけでなく、開発の経緯や購入者の動機においても、少なくない限界分譲地は「終の棲家」としての役割を全うできるような「商品」ではなかったということになる。
■家主不在の空き家は朽ち果てるまで放置される
空き家の存在が直ちに崩落や事故に結びつくわけではない。現在は居住者がいないだけで、やがて地域の不動産市場で流通するであろう家屋を、十把一絡げに「空き家」と呼んでいいものかという疑問はある。
しかし、今は築年数が浅いから空き家でも比較的程度がよく見えるだけで、このまま放置が続けば、やがては一般的な「空き家」同様、腐朽や崩落が始まるはずだ。空き家の放置がもたらすリスクはすでに広く語られているが、単なる景観や治安上の問題だけでなく、周辺住民に実害をもたらす例もある。
市当局からの度重なる指導によって現在はすでに解体されているが、八街市内に以前、半壊状態のまま放置されていた賃貸アパートの残骸があり、筆者はその模様を定期的にブログなどで報告し続けていた。
すでに壁も剥がれ落ち、いつ倒壊してもおかしくないアパートは、崩落が始まった頃から、強風で飛散した屋根瓦が近隣住民の自家用車を破損させるなどしていた。所有者自身がこうした損害に対処する余力がなく、10年以上にわたって放置された。
画像を見ただけでは信じられないかもしれないが、このアパートは1988年の建築物である。2010年代前半の時点で、すでに外廊下の崩落が始まっていたので、まともに賃貸物件として利用されていた期間はせいぜい10数年程度しかない。
結局その半壊アパートは、瓦礫が道路に散乱するまで崩落が進み、テレビ局が取り上げてようやく解体された。
築年数に見合わない管理状態にある空き家は、総じて所有者自身に解決能力が失われているケースが少なくない。放置が続く限り、同様の事態は今後も発生するであろう。
■売りっぱなしのビジネスモデルは今も続いている
高度成長期からバブル期にかけて、地価の暴騰が続いていた。一般庶民が家を購入する場合、悪条件をも甘受しなくてはならなかった。
当時の状況を考えれば仕方ない話だが、注意しなければならないのは、更地の分譲地が投機の対象となった時代が終わった今も、需要に特化した場当たり的な宅地開発が続いていることだ。
地方の小都市で行われている宅地分譲の多くは、今も中小の分譲会社による小規模開発の繰り返しである。立地の選定こそ現代の需要に応えているとは言え、小規模ゆえに虫食い上の造成になりがちで、地元自治体も、そうした場当たり的な開発を抑制できるほどの開発計画や予算は持ち合わせていない。
公共交通網も衰退した今、現代の分譲住宅地は、かつての高度成長期の投機型分譲地と比較すれば、立地条件は格段に良くなっている。基本的には実需に対応した分譲地のため、敷地面積や接道においても、実際の宅地利用のうえでも申し分はない水準に仕上げられている。
その一方で、もともと水田地帯であったところに進出してきた大型ロードサイド店舗の近隣に開発されている宅地も多いため、ゲリラ豪雨や台風などの襲来時に、しばしばそのような低地の新興住宅地が冠水被害に見舞われる光景も目にするようになってきた。
時代は変わっても、住宅地としての持続性を考慮していない「売りっぱなし」のビジネスモデルは、今なお続けられているのが現実である。
今後さらに加速する人口減の中、次世代に継ぐどころか、世代交代のタイミングを見届けることも出来ないまま退場する物件は、今後も出てくるのではないか。人の住む住宅地に不吉な予言はしたくないが、今も開発が進められている宅地を見ていると、そう危惧せざるを得ない。
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ブロガー
1981年静岡市生まれ。千葉県横芝光町在住。「URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-」管理人。「楽待不動産投資新聞」にコラムを連載中。9月に初の著書『限界ニュータウン 荒廃する超郊外分譲地』(太郎次郎社エディタス)を出版予定。
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(ブロガー 吉川 祐介)
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