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「YouTubeだけでいい」はごくわずか…視聴者のテレビ離れが進んでも、芸能人のテレビ離れは進まないワケ

プレジデントオンライン / 2022年11月6日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TARIK KIZILKAYA

芸能人のYouTubeチャンネル開設が相次いでいる。テレビ業界はこうした動きをどうみているのか。コラムニストの木村隆志さんは「かつてはYouTubeを嫌うテレビマンもいたが、いまでは好ましい動きとするテレビマンが多い。YouTubeとテレビは互いを補完する関係になりつつある」という――。

■芸能人のYouTube進出でテレビに起きた変化

爆笑問題が公式YouTubeチャンネル「爆笑問題のコント テレビの話」を開設したことが業界内で噂になった。このクラスの大物芸人がYouTubeに進出することは希少な上に、その内容は得意の十八番ではなくコント。しかも所属事務所・タイタンの後輩たちに加えて社長で太田光の妻・太田光代も出演者に名を連ねていた。

まもなく開設から2カ月になるが、チャンネル登録者数は約6.6万人。各動画の再生数は4~5万回程度に留まり、「爆笑問題ほどの売れっ子芸人でも簡単にはいかない」というYouTubeの難しさが浮き彫りになった。

画像=「YouTubeチャンネル 爆笑問題のコント テレビの話」より

コロナ禍に突入したころから芸能人のYouTube進出が一気に進んだが、当時から約2年半が過ぎた今、配信頻度を減らす人や、撤退を表明する人も現れるなど、彼らを取り巻く状況は大きく変わっている。

今回、編集部から芸能人のYouTube進出に関して、「それが当たり前になるのは、テレビ業界にとって好ましいのか、好ましくないのか」「テレビの企画に変化はあるのか」「芸能人のYouTube進出で番組は面白くなるのか、テレビ離れが進むのか」というお題をもらった。業界の事情や、芸能人とテレビマンたちの本音を踏まえながら、これらのお題を掘り下げていく。

■テレビマンたちの本音

まず「芸能人のYouTubeが当たり前になるのは、テレビ業界にとって好ましいのか、好ましくないのか」について。

当初は「好ましくないもの」と感じるテレビマンが少なくなかったが、現在では「むしろ好ましい」とみなす人が増えた。

その理由は、「テレビ番組と芸能人のYouTube動画は、内容が棲み分けされている」「動画のトーク、趣味、特技、キャラクターなどを生かしたテレビ番組の企画を立てられる」「YouTubeのチャンネル登録者を番組に呼び込める」「テレビではできないことをやっているから芸能人にとってのガス抜きになる」など多岐にわたる。

もちろんYouTube動画は、「どのコンテンツを見るか」という選択肢の点でテレビ番組のライバルだが、「芸能人のチャンネルに関しては、それぞれにない魅力を補完し合う関係になり得る」とポジティブにとらえるテレビマンの声をしばしば聞く。

また、芸能人のYouTubeは、「スマホやタブレットなどでネット中心の生活を送る人々をテレビに連れてくる」というテレビマンの課題に対する1つの手段。YouTubeを「アクティブなファンがどれだけいるか」というファン数の可視化をする材料として見ているのだ。

■企画自体に変化はない

次に「芸能人のYouTubeによって、テレビの企画に変化はあるのか」について。

最近では「YouTubeがもとになった企画をバラエティで見かける」なんて声も聞くが、これはまだレアケース。もともとYouTubeはテレビの企画をベースにしたものが多く、現時点では、その関係性に大きな変化はない。特に芸能人のYouTubeチャンネルは「テレビではできないことをやる」というケースが多いだけに、テレビ番組への影響はほとんどないと言っていいだろう。

このところ民放各局は、「テレビが長い歴史の中で培ってきた制作のノウハウ、スキル、アーカイブを生かした番組をどう生み出していくか」に注力している。たとえば、昭和・平成の膨大なアーカイブ映像を生かした企画、さまざまな業界のプロフェッショナルやマニアたちとのコネクションを生かした企画は、その最たるところ。「YouTubeでは見られないスケールや掘り下げ方を見せて人々を引きつけよう」と考えているのだ。

テレビ番組がYouTubeを参考にしているのは、構成や編集の手法。「楽曲のイントロすら待てない」「ドラマを倍速で見る」など人々がせっかちになる中、長尺の映像を作り続けてきたテレビは、短尺のYouTube動画ならではの構成や編集を採り入れはじめている。

■「ファンの人が見て面白ければそれでいい」

3つ目の「芸能人のYouTube進出で番組は面白くなるのか、それともテレビ離れが進むのか」について。

これは前述したように、テレビ番組と芸能人のYouTubeは、内容がかぶるより補完関係になるケースのほうが多いため、視聴者に「違いがあってどちらも面白い」と思わせることが可能。もちろん、視聴者のニーズをとらえ、クオリティーを上げていくことが前提だが、これまでのノウハウとスキルがあれば決して無理な話ではないはずだ。

また、多くの芸能人たちにとってテレビは決してモチベーションの上がらない仕事ではなく、今なお「できるだけやりたい」という人が圧倒的に多い。コロナ禍に入って多くの芸能人が主に収入増や安定化を狙ってYouTubeに進出したが、収益をあげている人ですら、それを続けていくことは難しいという認識がある。

「テレビに出て安定したお金を得たい」「ファン層を広げるためにはテレビに出続けたほうがいい」などの考えからテレビへのモチベーションは下がらず、「YouTubeだけをしていればいい」と考えている芸能人は、ごくわずかと言い切っていいだろう。

さらにこのところYouTubeを「稼ぐため」ではなく、「ファンサービス」や「やりたいことをやるため」と割り切った芸能人も増えている。実際、爆笑問題の太田光も、「好きなことやくだらないことをやっていきたい」「テレビ番組でこういうことをはじめると『数字が悪い』と終わらされちゃう」などとコメントしていた。

これは裏を返せば、「ファンだけが『面白い』と思うものでいい」「自分がやりたいことなら『面白い』と思われなくても仕方ない」ということ。これらの傾向から、「視聴者ではなく、自分や特定のファンを優先させた芸能人のYouTubeよりテレビが面白くない」ということは考えづらい。

この考え方はYouTubeに進出した放送作家や演出家などのスタッフも同様。彼らにとってもYouTubeは稼げる可能性のあるものであり、やりたいことがやれるものでもある。「テレビへのモチベーションが下がってクオリティーが落ち、面白くなくなるか」と言えば、その心配はまだ少ないだろう。

■テレビ離れが起きていないと考えるワケ

ネット記事ではテレビ離れに言及する記事も散見されるが、一概にそうとは言えない。

今年4月の記事(「TVerは使えない」は期待の裏返し…テレビはまだまだ「オワコン」ではないと私が考えるワケ)にも書いたように、テレビ番組の配信再生数が急増していること、SNSの書き込みもネット記事もテレビ番組関連がトップレベルであることなどを踏まえると、イメージほどテレビ離れは起きていないのではないか。

■再生回数を荒稼ぎする2つのジャンル

現在、芸能人のYouTubeで再生数を最も稼いでいるのはジャニーズ勢だろう。『ジャにのちゃんねる』『Snow Man』『SixTONES』『なにわ男子』『ジャニーズWEST』『ジャニーズJr.チャンネル』など層が厚く、着実にファンを囲い込む形で再生数を伸ばしている。

画像=「YouTubeチャンネル ジャにのちゃんねる」より

同様に再生数を稼いでいるもう1つの勢力は芸人たち。テレビでの露出が減った『エガちゃんねる』(江頭2:50)、『貴ちゃんねるず』(とんねるず・石橋貴明)らから、テレビの売れっ子である『かまいたちチャンネル』『しもふりチューブ』(霜降り明星)『チョコレートプラネットチャンネル』まで、年齢も芸風も動画の内容も幅広い。

テレビ業界で指標として重視されているのはチャンネル登録者数ではなく、最近の再生数。1年10カ月前に活動休止し、動画配信が2年止まっている嵐は、326万人の登録者がいるため登録者数ランキングの上位にいる。そのことからも、登録者数は大きな意味を持たないことがわかるはずだ。

■対YouTubeにおけるテレビの最大の課題

民放各局としては、現在動画が見られている芸能人を優先的に起用した上で、そのYouTubeチャンネルを差し置いて選んでもらえる番組を作らなければいけない。

「推し」という文化が広がる中、広い世間の人々に向けたマスなコンテンツが、狭いファンの人々に向けたコアなコンテンツに勝って選ばれることは、かつてより難しくなってきている。それこそがテレビの“対YouTube”における最大の課題なのかもしれない。

また、「YouTubeと連動させた番組をどう生み出していくか」も課題の1つ。各番組でYouTubeチャンネルを作り、積極的に配信されるようになってひさしいが、効果的な連動ができているのは主にドラマであり、バラエティや情報番組はまだまだ少ない。

芸能人のYouTubeチャンネルとの連動も含め、さらなる試行錯誤が必要だろう。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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