25話連続でTwitter世界トレンド1位…「鎌倉殿の13人」が世界一バズるドラマとなった理由
プレジデントオンライン / 2022年11月6日 13時15分
■ツイッタートレンド世界一になる異例の大河ドラマ
日曜夜は、できるだけ予定を入れないようになった。なぜなら家で大河ドラマを観たいから。
12月の最終回を目前にして2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がSNSで話題沸騰中である。
実は視聴率でみると、最新回第41話(10月30日放送)は11.3%と、はっきり言ってそこまで高くない数字だった。しかしSNSという指標でみると、10月末現在、25話連続でツイッター世界トレンド1位に輝いている。この盛り上がりは大河ドラマとして異例だ。
視聴率は普通なのに、なぜSNSではものすごくバズっているのか? なぜ私は『鎌倉殿の13人』にハマっているのか? 『鎌倉殿の13人』には、なぜそんなにインターネットを湧かせる力があるのか? そんな『鎌倉殿の13人』の魅力を3つに分けて解説したい。
■大河には似つかわしくないダークヒーローが主人公
① 時流に合った、残酷な見せ場の多さ
大河ドラマというと、どんなイメージを持たれるだろうか。
朗々としたオープニングから始まり、武士たちの志を描きつつ、日曜夜にお茶の間みんなで楽しめる、一家団欒のための物語。そんな印象が強いのではないか。
だからこそ大河ドラマの主役は、日本人がみんな知っている歴史上の著名人であることが多い。坂本龍馬、織田信長、西郷隆盛、平清盛、渋沢栄一……。時にはマイナーだと言われる人物が主役になることもあるが、基本的に大河ドラマは「みんなのヒーロー」が物語を牽引する。
しかし『鎌倉殿の13人』は真逆だ。これまでの大河ドラマのイメージを覆す人物を主役に据える。主人公の名は、北条義時。歴史の教科書を思い出しても、誰だっけ? と首をかしげてしまう。「北条政子の弟で、源頼朝の側近で、北条泰時の父」と、周辺人物のほうが有名な人物である。
しかもその経歴だけ見ると、まごうことなく日本のダークヒーロー。実は鎌倉時代とは、御家人同士の仲たがいと殺害の歴史だ。そのなかで生き残って権力を手にしたのが北条義時なのだから、「仲間を殺してのし上がった人物」と言っても差し支えない。日曜夜に見るには、あまりに非道徳的な主人公ではないか。
しかしそんな残酷な御家人同士の殺し合いを、三谷幸喜は残酷なまま、魅力的に描いている。
■韓国発の人気コンテンツと同じフォーマット
そもそもコロナ禍以降に流行したエンタメといえば、『イカゲーム』などのサバイバルドラマ、『梨泰院クラス』などの主人公のし上がり物語、あるいは『Nizi Project』『Produce101』などのアイドルオーディション番組だ。
これらのすべてにおいて、「誰が生き残るか」「どう勝ち上がるか」を視聴者が楽しむ、という特性がある。実は『鎌倉殿の13人』もフォーマットとしては、サバイバルドラマやオーディション番組と同じなのだ。
最初は主人公と一緒に闘っていた、たくさんの御家人たち。彼らがどのように生き残り、そしていったいいつ死ぬのか。視聴者はまるでサバイバルドラマやオーディション番組に熱狂する時と同じように「このキャラクターはどこまで生き残るんだろう」と手に汗を握る。
![暗く霧が立ち込める中、太刀を構える武士のシルエット](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/7/1200wm/img_a718a053a0894ce59ce0a7a1dae8bd37234459.jpg)
しかも『鎌倉殿の13人』は必ずキャラクターたちを「魅力的に見せてから」作中で死なせている。彼らの見せ場は、どれも見事としか言いようがない名場面たちだった。
上総介の最期、義経や頼朝の最期、善児の最期、畠山の最期、和田の最期。どのキャラクターをとってみても、私たち視聴者はキャラクターを好きになってから別れを経験している。しかもそれが一人や二人ではない。物語の中で延々とサバイバルドラマが続くのだ。これがSNSで毎週阿鼻(あび)叫喚が生まれているわけである。
■誰も知らない時代を逆手に取った三谷幸喜
② 鎌倉時代という先の読めない舞台設定
さらに『鎌倉殿の13人』がサバイバルドラマとして機能するのは、視聴者が鎌倉時代の歴史にあまり詳しくないことを逆手に取った結果だ。
たとえば戦国時代や幕末の物語は、何度も主人公を変えて大河ドラマで描かれている。視聴者もなんとなくどのように江戸幕府が倒幕されるのか、漠然と知っている。
しかし鎌倉時代は、これまであまり大河ドラマになっていない。平家討伐までは、平清盛や源義経といったヒーローがいるから描かれていた。が、源頼朝が鎌倉幕府を打ち立ててから、北条泰時が御成敗式目を出すまでのおよそ100年間。意外と私たちは、どのような経緯で歴史が動いたのか、知らないのだ。これといった特筆すべきヒーローが少ないので、物語にしづらかったのだろう。
しかし『鎌倉殿の13人』はその状況を逆手に取る。三谷幸喜は大河ドラマ『新選組!』や『真田丸』で、史実を基にした群像劇を描いてきたキャリアがある。歴史劇でありながら群像劇でもある――そのような「三谷幸喜大河ドラマ」の性格が、鎌倉時代の物語にぴたりと合っている。だからこそ、群像劇として描かれる鎌倉時代の物語は、視聴者の目には新鮮なサバイバルドラマとして映る。
■SNSでドラマの感想がつぶやかれるワケ
私たちは、毎週『鎌倉殿の13人』を観ながら、「ここからどうやって父を倒すに至るのだろう?」「いったい義時はどこまで悪くなってしまうのだろう?」と新鮮にハラハラできる。
それは細かい史実を視聴者があまり知らないからではないだろうか。毎週、視聴者たちが「今週はどんなことが起きるのだろう?」とハラハラしつつテレビに向かう。それは予定調和の多い大河ドラマのなかではかなり珍しい現象だろう。
SNSと非・予定調和は相性がいい。私たちは、予想していなかったことが起きると、「ねえ聞いてよ!」と驚きの感情を共有したくなる。驚きは、ひとりで抱えておくのがもったいなくなる。だから毎週「こんな面白いことがあったんだよ」と『鎌倉殿の13人』の感想をSNSに書きたくなってしまうのだ。
■これが“あの”小栗旬なのか
③ 豪華な役者たちの「新しい魅力」を引き出す当て書き
大河ドラマといえば、豪華な俳優陣がいつも話題になる。『鎌倉殿の13人』も例に漏れず、メインキャストには小栗旬や小池栄子、坂口健太郎や大泉洋などの有名俳優が名を連ねる。しかし『鎌倉殿の13人』の魅力は、すでにお茶の間でよく知られている俳優たちの、新しい魅力を引き出している点にある。
たとえば主人公の義時を演じる小栗旬は、かなり個人的な意見になるが、私の中では『花より男子』や『クローズZERO』や『リッチマン、プアウーマン』などのギラギラしたイメージが強かった。つまり「生まれた時から主人公!」と言いたくなるような、そこにいるだけでスポットライトを浴びている役の印象があったのだ。
![2017年12月5日、富士通のスマートフォン「arrows」の新商品・新CM発表会に出席した俳優の小栗旬さん(東京都)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/5/1200wm/img_7562f962ef5164165c258cb0356f2680502621.jpg)
しかし、『鎌倉殿の13人』で彼が演じる義時は、常に父親や兄や親友や上司(源頼朝)に囲まれて、さまざまな人間関係を調整しようとする役。いわば「中間管理職の哀愁」とでも評したくなるような、真面目な調整役のキャラクター。
そんな義時の役が、彼はものすごく似合っていたのである。私は「これがあの小栗旬さん?」と驚いた。大河ドラマの主役だけど、彼の演じる後ろ姿は、中小企業で苦労しつつ真面目に働いていそうな会社員のようだったからだ。
物語が後半になるにつれ、義時はどんどんダークヒーローと化してゆく。鎌倉時代の陰惨な政治状況も相まって、まるでマフィアの親分のような影を背負ってゆく。
SNSでは「これがあのかわいかった義時だなんて、信じられない、いつのまに変わってしまったんだ」とたくさん嘆かれていたが、義時の変貌ぶりはそれほどまでに視聴者の心をつかんだ。いつのまにか哀しきダークヒーローになってしまった義時の姿に、それはそれで「これがあの小栗旬さん?」と言いたくなってしまうのだ。
ほかにも、サイコパスとして描かれた源義経を演じた菅田将暉、40代の役者たちと同年代の好青年武士である畠山重忠を演じた中川大志、殺し屋というオリジナルキャラクターを演じた梶原善、悪女ではなく家族を想うユーモラスな女性として登場している北条政子演じる小池栄子など、挙げればきりがないほどに有名俳優たちが新しい魅力を発揮している。
三谷幸喜は大河ドラマでも当て書きをすることで有名だが、『鎌倉殿の13人』はまさにその当て書きが、例外なくどのキャラクターもぴたりとはまっているのだ。丁寧に人間味をもって描かれたキャラクターたちは、私たちの心に残り、そして演じた俳優たちの人気を上げていることだろう。
■みんなが知らない大河ドラマを描き出した
「みんなが想像する大河ドラマ」「みんなが想像する歴史」「みんなが想像するいつもの俳優たちのキャラクター」ではないからこそ、『鎌倉殿の13人』は、いつも私たちの意表を突く。
そして「今週もなんて面白いんだ!」と私たちを感動させてくれる。そんな傑作を毎週見せてもらってる身としては、「これだけ大河ドラマの歴史が長いからこそ、歴代のどの作品よりも面白い大河ドラマを作ろう」という声がきこえてきそうな、製作スタッフの努力に対して、敬意と感謝の気持ちしか湧いてこない。
丁寧に描かれたキャラクターたちの紡ぎ出す、残酷で陰惨なサバイバルゲームは、今年の日曜夜の私たちの心を捉えて離さない。
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書評家・文筆家
1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)、『副作用あります⁉ 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)などがある。
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(書評家・文筆家 三宅 香帆)
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