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値上げ地獄でも「増税」を押し付ける…日本人をますます貧乏にする岸田政権の危うさ

プレジデントオンライン / 2022年11月9日 9時15分

閣議に臨む岸田文雄首相=2022年11月1日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

日本の経済はこれからどうなるのか。経済アナリストの森永康平さんは「今後岸田政権は金融と財政の両方を引き締める可能性がある。家計が苦しむ中、減税どころか増税に走れば、日本は亡国への道を歩みかねない」という――。

■岸田政権は「苦境にあえぐ国民」を助ける気があるのか

スマホを眺めていると国内ニュースでは「値上げ」と「円安」の話題ばかりだ。

海外ニュースでは中国の習近平政権が異例の3期目に突入し、いよいよ台湾有事の危機がより鮮明になったという。

ロシアによるウクライナ侵攻は泥沼化し、年末に向けて新型コロナウイルスの第8波に備えよというニュースも流れている。

これらのニュースに目を通すだけでも、日本国民がいま苦境にあえぎ、かつさまざまな外部の脅威にさらされていると容易に想像できる。だが、果たして日本政府は支援策を考えているのだろうか。

不況下で物価だけが上昇するのが「スタグフレーション」だ。筆者は1年以上前から、そのスタグフレーションの状況下で、日本政府が金融と財政の両方を引き締める可能性があると警鐘を鳴らしてきたが、どうやらこの予測が当たってしまいそうである。

■「デフレに慣れた家計」を物価高が襲う

エネルギー価格の高騰や円安を背景に、国内でも物価上昇が続いている。

日本銀行が発表した9月の消費者物価指数の刈込平均値は前年同月比+2.0%となり、データをさかのぼれる2001年以降で初めて2%台に乗った。

刈込平均値とは、ウエートを加味した品目ごとの上昇率分布で上下10%を機械的に除いた平均値で、極端に価格が変動した品目や一時的に大きく変動した品目を除いている。

そのため、物価動向の基調をみるのに適した経済指標といえる。

また、総務省が発表した9月の消費者物価指数において、生活必需品にあたる基礎的支出項目の伸び率をみると、前年同月比+4.5%と高い伸び率を維持している。

【図表】消費者物価指数(前年同月比)の推移

欧米では消費者物価指数が前年同月比で10%近く上昇しているが、それに比べれば、依然として日本のインフレ率は低く抑えられている。

しかし、長きにわたるデフレに慣れてしまった日本の家計にとって、足元の物価上昇は数字以上に大きな打撃となっているだろう。

■賃金が上がらず、国民は節約に走る

極論だが、物価が上昇しても、賃金がそれ以上に伸びていれば、家計の観点ではさほど問題にならない。

だが、賃金が伸びなければ、国民はさらに節約して消費を抑えるしかない。そうなれば企業はコストカットをしながらも薄利多売に走り、日本は再びデフレスパイラルに突入しかねない。

厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によれば、8月の季節調整済賃金指数は前年同月比-1.8%と、5カ月連続の下落となった。

残念ながら、賃金上昇率は物価上昇率に追い付いていないのが現状だ。

【図表】季節調整済賃金指数(前年同月比)の推移

国民は節約に走り、消費が落ち込んでいるのだろうか。

総務省が発表した8月の家計調査をみてみると、季節調整済実質消費支出は前年同月比+5.1%と、高い伸びを示している。

【図表】消費者物価指数(前年同月比)の推移季節調整済実質消費支出(前年同月比)の推移

■「日本の消費は強い」はウソ

この数字をもって、「日本の消費は強い」とする報道もある。

だが、それは間違いである。これはいわゆる「統計マジック」である。

昨年8月には広い地域で「まん延防止等重点措置」が発出され、消費が抑制されていた。

前述の伸び率は前年同月比なので、「まん防」だった昨年8月と、何も発出されていない今年8月との比較では、数字が実態以上に開くのは当たりまえだ。

現に、同指標を前月(今年7月)と比較すると-1.7%であり、消費支出は2カ月連続で「マイナス」となっている。

「消費が強い」とする一部報道がいかにミスリーディングかがわかるだろう。

■「コロナ前の水準を回復」はミスリード

このような「ミスリード報道」が多発している。

2022年4~6月期の実質GDPが「コロナ前の水準を回復した」という報道を目にした方も多いだろうが、これもミスリードだ。

コロナ前を「2019年10~12月期」と定義すれば、この報道は間違いではない。

しかし、2019年10~12月期は、2019年10月の消費増税でGDPが大きく落ち込んだタイミングである。

消費増税前の2019年7~9月期と比較すると、日本の実質GDPはまだ大きく落ち込んでおり、景気が正常化したとはとても言えない。

このようなミスリードを信じて、「コロナはもう終わった」と支援の手を緩めれば、多くの企業が倒産に追い込まれ、多くの人々が職を失うだろう。

【図表】実質GDP(実額)の推移

■世論・支持率には敏感な「ワイドショー政権」

政府はどのような支援を考えているのか。

現在、電気料金の負担を緩和する支援制度などを盛り込んだ「総合経済対策」がようやく固まり、事業規模で72兆円、財政支出ベースで39兆円と金額だけをみれば相応の金額が提示された。GDPを4.6%押し上げる効果が期待されるという。

しかし、昨年も55兆7000億円の補正予算を組み、GDPを5.6%程度押し上げるとしたが、実際はそうなっていないことを見れば明らかなように、今回ももくろみ通りにはいかないだろう。

消費者物価指数を1.2%以上引き下げる効果があると試算される物価高騰対策には期待が高まるが、予算の中に組み込まれている「新しい資本主義」を実現するために「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX」の4分野における大胆な投資などは、実際に何にいくら投資されるかも分かっておらず、またこれらは直接家計を支援するものでもない。

しかも、最もシンプルかつ、効果も大きいと考えられる「消費減税」は、検討もされていないのが現状である。

そろそろ国民は怒りをあらわにすべき時に来ているとも思うが、国民はまだ政府の手のひらの上で転がされ、本当の問題から目をそらされている。

岸田政権は「ワイドショー政権」(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Grafissimo
岸田政権は「ワイドショー政権」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Grafissimo

なぜか。冒頭で述べたように、連日「値上げ」のニュースが報道されているが、その原因は「円安」とされている。そして、その円安は日本銀行の金融緩和のせいだとされている。

このような論理構成で報道が繰り返されていれば、「日本銀行の金融政策が元凶」だと誤解する国民がいても不思議ではない。

実際、毎日新聞による10月の世論調査では、「日銀の金融緩和政策について、どう思いますか」との問いに、「見直すべきだ」という回答が55%と過半数を超えている。

そもそも、世論を意識して金融政策を変更すること自体あってはならないと考えるが、岸田政権という世論・支持率に敏感な「ワイドショー政権」においては、そうした「あってはならないこと」が平然と断行される可能性が高い。

幸い、黒田総裁は金融緩和の維持を粘り強く主張しているが、その任期は来年4月8日まで。後任人事次第では、スタグフレーション下にもかかわらず、金融緩和を解除し利上げするというシナリオも十分考えられる。

■増税のほか、医療費・年金負担増が国民を襲う

国民を救うどころか、「国民窮乏策」が現在進行形で進められている。

消費減税を検討すらしないだけでなく、さらなる増税が議論されている。

政府税制調査会やGX実行会議において、「消費税の引き上げ」「EV(電気自動車)に対する走行距離に応じた課税」「炭素税」など、さまざまな増税が検討されている。

物価高の影響で家計の消費が弱いのは前述の通りだが、高齢者は今年6月から年金支給額を減らされている。その上10月からは後期高齢者の医療費負担も増えている。

「国民窮乏策」はまだまだある。

厚生労働省は2025年の次期年金制度改正に向けた議論を始めている。制度改正案の1つとして、納付年数を現状の40年から45年へ延長すること、厚生年金の適用対象を拡大することを検討していると報じられている。

若年層の将来不安の1つに年金があるわけだが、年金財政が厳しい理由として、よく2つの理由が挙げられる。

1つ目は少子高齢化の進展、2つ目はデフレが続き、寿命の延びや働き手の減少に合わせて給付額を抑える「マクロ経済スライド」が想定通りに発動しなかったというものだ。

だが、少子高齢化やデフレは20年以上前からの課題である。政府が無策のまま放置してきたツケが回ってきたにすぎない。

■政府の無策がまねく「亡国への道」

「一事が万事」という言葉があるが、こうした政府の無策こそ、日本経済をダメにした元凶ではないだろうか。

中国では習近平政権が異例の3期目に突入することが確定したが、新体制をみていくと、かなり独裁色の強い人事になったことが分かる。

党大会における活動報告や決議された文書をすべて原文で読んだが、どうやら台湾侵攻の可能性は高まったと考えてよさそうだ。

昨年、米国のインド太平洋軍のデービッドソン前司令官が「2027年までに中国による台湾侵攻の脅威が顕在化する可能性がある」と指摘したことは記憶に新しい。

しかもこの10月には、米国の海軍制服組トップのマイケル・ギルデイ作戦部長が「中国による台湾侵攻が今年中か来年中にも起きる可能性を排除できない」と、前倒しで警告している。

デービッドソンが指摘した「2027年」は、習近平政権の3期目が終了する年であり、人民解放軍の創立100周年というタイミングでもある。

また、2024年には台湾の総統選、米国大統領選がある。

中国が台湾独立派とみなす民進党が勝利を収め、対中強硬派が多い共和党が米国大統領選で勝つことになれば、2024年以降、中国は台湾侵攻をやりづらくなるだろう。

そう考えると、「台湾侵攻は今年中または来年中」と指摘するギルデイの指摘は、必ずしも不安をあおるだけのものとは言えない。

日本政府は差し迫った有事にどうやって国民を守るのだろうか。

現在、防衛費の引き上げが議論されているが、その財源として「つなぎ国債」からの「所得増税」や、「防衛納税」といった謎の概念が飛び出ている。

有事に国民を守るため、国民をますます窮乏させるのは本末転倒ではないのか。

政府はいま一度、国民の生命と安全を守るという国家の基本に立ち返り、目先の対策と、中長期的な戦略を打ち出す必要があるのではなかろうか。

それができなければ、亡国への道を歩むことになりかねない。

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森永 康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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(株式会社マネネCEO、経済アナリスト 森永 康平)

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