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「2035年までに中国と台湾を陸続きにする」異例の3期目に入った習近平が抱くおそろしい野望の中身

プレジデントオンライン / 2022年11月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean824

3期目をスタートした習近平国家主席の「台湾侵攻」はあるのか。ジャーナリストの福島香織さんは「2027年説を唱える人が多い。周氏の3期目の任期や台湾総統選、中国の交通ネットワーク計画など、さまざまな材料がそろうためだ」という――。

※本稿は、福島香織『台湾に何が起きているのか』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■目下に噂される「台湾統一2027年説」

台湾統一のリミットについては目下、2027年説をいう人が多い。

2021年3月9日、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が米上院軍事委員会の公聴会で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と証言した。続いて、次期インド太平洋司令官候補のジョン・アキリーノ太平洋艦隊司令(当時)も上院の公聴会で「中国の台湾侵攻は大多数の人たちが考えているより間近に迫っている」と述べた。

この2027年というのは、習近平が2022年秋の党大会で総書記と中央軍事委員会主席の座を継続した場合(注)の第3期目の任期が終わるタイミングであり、同時に解放軍建軍100周年という節目にあたる。そして、もし2024年の台湾総統選で民進党候補が総統になったとしたら、その2期目をかけた2028年の台湾総統選の前年ということになる。

注:2022年10月に3期目をスタートさせた。

■習近平は鄧小平を超える「レジェンド」をなし得たい

習近平は2022年秋の党大会を何とか乗り越え、3期目を続投してもその権力基盤は揺らいでおり、それを強固にするためには習近平としてのレジェンドを作らねばならない。それこそ鄧小平もなしえなかった台湾統一がいちばん有効だ。台湾が大人しく中国に併合されるとは思えないので、その際には軍事的衝突は避けられない。米軍としては最悪のシナリオに備えよ、としてこの6年以内、すなわち2027年の数字を出したのだろう。

さらに、人民大学国際関係学院の金燦栄教授が『日本経済新聞』(2022年1月31日付)の単独インタビューで、「2022年秋の共産党大会が終われば、武力統一のシナリオが現実味を増す。解放軍の建軍から100年となる27年までに武力統一に動く可能性は非常に高い」と語っている。

このインタビューで金燦栄は「中国は1週間以内に台湾を武力統一できる能力をすでに有している」と主張し、「解放軍は海岸線から1000カイリ(約1800km)以内ならば、相手が米軍であっても打ち負かせる」「台湾有事に日本は絶対に介入すべきではない。この問題で米国はすでに中国に勝つことはできない。日本が介入するなら中国は日本も叩かざるをえない。新しい変化が起きていることに気づくべきだ」などと語っている。

■2035年までに台湾と中国を陸続きにするという計画

金燦栄は習近平政権になってからは、タカ派の発言が妙に目立つ御用学者になっており、あまりその発言は鵜呑みにはできない、と評されている。その主張には、学者としての冷静さ、客観性を欠くことがままある。ただ一ついえるのは、習近平の内心を忖度(そんたく)することにかけては一流であり、彼の意見は習近平の考えていること、願っていることを比較的忠実に反映していると思われている。

2027年説を補強する材料としては、「国家総合立体交通ネットワーク計画綱要」がある。2021年2月24日に党中央と国務院が合同で発表したもので、2035年までに、便利でスムーズ、経済的で効率的、エコ集約型、スマートで先進的、安全で信頼できる国家総合立体交通網を完成させるという目標を打ち出している。

具体的には「全国123移動交通圏」(都市エリア1時間通勤、都市群2時間到達、全国主要都市3時間カバー)と「世界123速達物流圏」(国内翌日配達、周辺諸国2日以内配達、世界の主要都市3日以内配達)という二つの壮大な計画がぶち上げられているが、この「全国123移動交通圏」計画で特筆すべきは、全国主要大都市の中に台北が含まれており、2035年までに福建省の福州と台北が高速鉄道と高速道路で直に結ばれていることになっている。

つまり2035年までに、台湾は名実ともに中国の一部になっており、台湾海峡に大橋、あるいは海底トンネルがかけられている、ということになる。

■香港―マカオ間の橋は台湾海峡の実験だった

福州と台北の距離は122kmで、この距離の海峡大橋を建設するとなると、どのくらいの時間がかかるのか。香港珠海マカオ大橋は全長55kmで2009年12月に着工し、2018年2月に完成、およそ8年かけて建設された。この大橋自体、台湾海峡に橋をかけるという野望のための実験的建設であったので、香港珠海マカオ大橋よりは工期が短いであろうといわれている。

香港・珠海・マカオを結ぶ大型海上自動車道である港珠澳大橋
写真=iStock.com/GuangyongLiu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GuangyongLiu

台湾海峡の中間線から向こう側の方面の部分だけなら、6〜7年かかるとすれば、35年までに台北福州大橋(トンネル)の完成、開通を実現するなら、遅くとも2028年には着工しなくてはならない。着工前に最短でも1年の準備期間を設け、水紋、地質調査などが必要だとすると2027年が台湾統一のリミットだ、ということになる。

■システム変更に伴って米陸軍が一時弱体化する

もう一つ、2027年が懸念される理由は、米国の軍事力の問題だ。 

2021年3月16日に公表された米陸軍参謀総長文書「米陸軍マルチドメイン変革」という情報文書では、「米陸軍が、継続的な大規模戦闘作戦(LSCO)において敵対者を支配するための近代化と準備を整える時期として、2035年を目標点に定めた。2028年は我々の中間点であり、将来に関する我々の仮定を包括的に再評価し、それに応じて投資を調整する」とあり、2028年までにマルチドメイン作戦対応の部隊(MDO-capable Force)に変革を行うことが打ち出されている。

この変革のために、システム、装備の入れ替えに伴う一時的な米陸軍の弱体化が2024〜2027年と見られており、その米陸軍の一時的弱体化を狙って中国が軍事アクションを起こすのではないか、という懸念があるという。

■2028年の台湾総統選で統一の是非が争点になる可能性

台湾有事が起きる可能性について、2027年説ではなく、2028年以降説を唱える人もいる。これは、英国の経済ビジネス・リサーチ・センター(CEBR)が2020年12月、中国が当初予測よりも5年早い2028年までに、アメリカを抜いて世界最大の経済大国になるとの予測を発表したのが一つの根拠だ。

2028年に中国が米国を超える超経済大国になっていたら、台湾世論も、台湾は自ら選んで中国に統一されるべきだ、という意見と、台湾という国家として国際社会の承認を得ていくべきだとする意見の対立がより拮抗(きっこう)し、2028年台湾総統選の争点になる可能性がある。

福島香織『台湾に何が起きているのか』(PHP新書)
福島香織『台湾に何が起きているのか』(PHP新書)

中国としては、とりあえず2028年に選ばれた総統が親中派か台湾派かを見極めたうえでアクションをとるであろう、という考え方だ。仮に、2028年の台湾総統が国民党で中国共産党の平和統一を望めば、中国も武力統一論を引っ込めざるをえないし、おそらくは国際社会もこれに抵抗できない。

ただ私は、中国が2028年に米国を超える経済大国になる場合、すでに習近平政権でもなく、もう少し開明的な指導部によって再度、改革開放路線と多極外交に舵を切っているのではないか、と思う。そうなれば中台統一も、もっと長期的ビジョンで進めようとするだろう。少なくとも、今の毛沢東回帰路線の習近平体制で、台湾世論が自ら望んで中国と統合されたいと心の底から思う状況はちょっと想像できないのである。

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福島 香織(ふくしま・かおり)
フリージャーナリスト
1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社に入社。上海・復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。著書に『ウイグル・香港を殺すもの』(ワニブックスPLUS新書)、『習近平最後の戦い』(徳間書店)、『ウイグル人に何が起きているのか』(PHP新書)など多数がある。

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(フリージャーナリスト 福島 香織)

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