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「ちょっと待ってくださいね」「ごめんなさい」…アプリの言葉遣いが妙にフランクなサラダ専門店の問題提起

プレジデントオンライン / 2022年11月9日 15時15分

宮野浩史社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

東京を中心に19店舗を構えるサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」は、注文の多くを専用アプリから受け付けている。このアプリの言葉遣いは妙にフランクだ。たとえば「少々お待ちください」は「ちょっと待ってくださいね」、「申し訳ございません」は「ごめんなさい」。店頭でもこうした言葉遣いを徹底しているという。CRISPの宮野浩史CEOにその狙いを聞いた――。(聞き手・構成=フリーライター・東川亮)

■日本にはサラダ専門店がなかった

――サラダ専門店という業態を始めた経緯を教えてください。

CRISP宮野浩史CEO:私が住んでいたアメリカでは、2000年ごろから大都市圏を中心にサラダ専門店をコーヒーショップと同じくらい街中でよく見かけるようになりました。帰国後、日本ではこうした業態が全くないことに気づき、海外の方や海外在住経験のある日本の方などに喜んでいただけそうだと思ったことから、「CRISP SALAD WORKS(以下クリスプ)」を運営する株式会社CRISPを2014年に創業しました。現在は東京、大阪、横浜に計19店舗(2022年11月現在)を出店しています。

左から「チキン・タコボウル(税込1295円)」、「カル・メックス(税込1367円)」、「ヒップスター(税込1495円)」
写真提供=CRISP
左から「チキン・タコボウル(税込1295円)」、「カル・メックス(税込1367円)」、「ヒップスター(税込1495円)」 - 写真提供=CRISP

■アプリの接客言葉が独特な理由

――クリスプは注文を専用アプリからも受け付けていますが、その言葉遣いがとても独特ですよね。普通なら「少々お待ちください」とするところが、「ちょっと待ってくださいね!」となっています。

CRISPのヘルプページにある注意書き。「品質に問題」という項目について「注文どおりの商品を提供できずに本当にごめんなさい。。」としている。

われわれは「熱狂的なファンを作ること」を第一のミッションに掲げており、その目標達成の手段として、店頭でもアプリ上でも「親友のお母さんと話しているような接客」を意識しています。

アイドルでもバンドでもいいのですが、好きで何回もライブに足を運んでいる人は「ファン」であって、「リピーター」とは言いませんよね。それは、その人が応援しているから。われわれは、お店のサラダはもちろん、接客やコンセプトを含めたCRISP SALAD WORKSを応援してくれる人を作りたい、増やしたいと考えて、お客様とコミュニケーションを取っていきたいと思っています。

熱狂的なファンを作るためには、こちら側が歩み寄らないとお客さんも胸を開かないと思います。カスタマーサポートセンターみたいなコミュニケーションをしていたら、ファンは増やせない。そのため、堅苦しい丁寧すぎる接客ではなく、親しみはあるけれど礼儀もあるギリギリの接客を心がけています。

■接客コンセプトは「親友のお母さんと話している感じ」

――具体的にはどんな文言を使っているのですか。

新たにアプリをインストールしてくれたお客様に注文方法を説明するときには「自宅でもオフィスでも思いついた時にいつでもスマホからあなただけのサラダを自由自在に注文できちゃいます」、注文されたサラダを調理中の時には「おいしくなーれ。あなたが注文してくれたサラダを心をこめて調理しています!」としています。

それは実際の接客でも同じで、例えば店頭で一つサラダが欠品した時に「大変申し訳ございません」と言うのではなく「ごめんなさい」と言います。「ごめん」だと軽すぎますが、「申し訳ございません」だと壁があるので、その中間といった感じです。

自分好みのサラダをカスタムするための豊富なトッピング
写真提供=CRISP
自分好みのサラダをカスタムするための豊富なトッピング - 写真提供=CRISP

実は、「親友のお母さん」という言葉自体は後付けです。お客さまとの関係性を非常に重視する中で、親し過ぎず画一的過ぎない、友達のお母さんとしゃべっているくらいの距離感がいいよね、ということで今のコンセプトに至りました。熱狂的なファンを作るためのコミュニケーションが店頭であって、それを言語化・デジタル化した結果、一つ明確な基準が生まれたという感じです。

実際、クリスプを利用するお客様のおよそ3割が、週に1回以上のペースでご来店されています。そのような頻度で利用される飲食店はほとんどないと思いますし、熱狂的なファンを作れているという手応えは非常に強く感じています。

■優れた飲食店に必要な3つの要素

――「熱狂的なファン」を作るようなギリギリの接客を、19店舗で展開しているのは驚きです。なぜそこまで踏み込んだやり方を採っているのですか。

私は、優れた飲食店には3つの要素が必要だと思っています。それは「料理」「箱」「接客」です。

「料理」は文字通り提供する食事ですが、今はレシピを調べればいくらでもいいものが出てきますし、その中には世界的なシェフが公開しているようなものもあります。つまり、料理はおいしくて当たり前であり、前提なんですね。

「箱」は業態やブランドイメージ、店舗の雰囲気といったものなのですが、こちらもインターネットで調べればいくらでもオシャレなお店が検索できて、簡単にまねすることができます。つまり、「料理」と「箱」についてはテクノロジーの進化によって現在では差別化が非常に難しいということです。

そうしたことを考えると、差別化できるとしたら、やはり「人」の部分しかないと思うんです。実はこれは昔から飲食店では知らず知らずに意識されてきていたことなんです。

店内で笑顔を見せる宮野浩史社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
店内で笑顔を見せる宮野浩史社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

たとえば地元の居酒屋さんに行った時、なじみの大将やママさんが「遅くまでお疲れさん、今日は大変だったみたいだね。最初の1杯はおごるからゆっくりしていってよ」みたいに接してくれたら、すごく居心地がいいし、また来たくなると思うんですよ。そういう食べ物や飲み物以外の部分が、飲食店ではすごく大きな要素になっていると思います。

今までは、そうした個人店特有のパーソナルな接客や体験は、チェーン店では体験できないと思われてきました。ですが、それもテクノロジーを活用することで可能だと思いますし、クリスプでは、その実現を目指したシステム構築を行っています。

■「熱狂的なファン」を可視化する

――具体的には、どのような形になるのでしょうか。

クリスプでは、注文をすべてアプリで受け付けることで、一人ひとりのお客様が過去にどこのお店でどんなものを頼んだのか、トッピングはなんなのか、どのくらいのペースで来店しているのか、といったデータを可視化することができます。そうすると、たとえば働き始めたばかりのスタッフが常連さんに対して「100回以上も来られているんですね、すごいです! 僕は入ったばかりなので、これからよろしくお願いします」なんていう接客ができるようになります。

それはお客様にとっても気持ちがいいでしょうし、そうした今までは人によるところが大きかった部分が、今ではテクノロジーによって実現できるようになっています。

注文はすべてスマートフォンの専用アプリや店頭のタブレット端末で行う
撮影=プレジデントオンライン編集部
注文の多くはスマートフォンの専用アプリや店頭のタブレット端末で行う - 撮影=プレジデントオンライン編集部

また、アプリを使ってビッグデータを集めていくことによって、「熱狂的なファン」が今どのくらいいるのかを可視化できるのも、われわれのサービスにとっては大きなポイントになっています。

■「名物店員」をより正しく評価する

――「人」による接客については、どのような指導をされているのでしょうか。

いわゆる「接客マニュアル」みたいなものはありません。われわれの考え方をトレーニングの中で伝えていくようにしています。そこで大事にしているのは「余分な行動をしよう」ということ。「それをしなくてもサラダは売れるけれど、それをした方が気持ちいいよね」という行動を実践していくことです。

たとえば「トッピングはこれがおいしいですよ」と一声かける。一昔前は早く正しく同じものを作るのがファストフードのニーズとしてありましたが、その究極は機械による大量生産であって、人間はいらなくなってしまいます。じゃあ、そこでいかにCRISP SALAD WORKSのファンを作っていくかを考えた時に、より一人ひとりが個性を出せるような接客が重要だと思っています。

店内で笑顔を見せる宮野浩史社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
店内で笑顔を見せる宮野浩史社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

また、経営側の課題としては「接客のマネタイズ」、いわゆる「名物店員」みたいな人をより正しく評価する基軸を作らなくてはいけないと感じています。

「この人がいるときは売り上げやリピーター率が伸びる」みたいな人はきちんと時給を上げるなどして評価されるべきですし、テクノロジーを使ってデータ分析していける仕組み作りも進めていく必要があると感じています。そうすることが企業としてはサービスの再現性につながると思いますし、働く人たちもより働きやすい環境やモチベーションの向上につながるではないかと思っています。

■事業者側は「亡霊」を恐れている

――日本では「お客さまは神様です」という言葉が曲解され、中には「お金を払う人がえらい」という態度の人も見かけます。CRISP SALAD WORKSの接客にはこれまで反発などはなかったのでしょうか。

「なれなれしい」などの意見をメールでいただいたこともありますが、それらはみな単発のもので、経営課題として取り組まなければならないほどの反発はほとんどありません。むしろ、好意的な声を多くいただいています。

お客さまの意見を分析する際に重要なのは、それをどんな人が言っているのか、ということです。たとえばクレームがあったとして、それを言っているのが初めて来た人、そんなに来店がない人なのか、あるいは今まで100回以上来てくれた人なのかで、対応は変わりますよね。

これまでは声の大きな人、いろいろ言う人の意見が比較的通りやすい傾向がありました。その1人のために9999人が不満を抱えなければいけないのはおかしいと思います。特に飲食店の場合、ユニークユーザーの識別がほとんど進んでいないところがありましたが、クリスプではそこをロジカルに分析できる基盤があるので、わずかな声でブレるようなことはありません。

それに、そういう意見を言ってくる人はそれほど多くはないんですよね。特に飲食業の場合、そうした「亡霊」と言ってもいいような意見を恐れすぎていると感じています。

宮野浩史社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
宮野浩史社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■価格以上のプレミアムを求めるべきではない

――お客と店舗の関係で言えば、日本の接客は顧客に対してへりくだる風潮があるようにも感じます。

個人的には、日本もずいぶん変わってきていると思います。特に若いお客さまほど「お客さまは神様です」なんて思っていないのではないでしょうか。そもそも、ものを売り買いする立場に上も下もないんですよ。売りたい人がいて、それを欲しい人がいて、お金で交換するだけ。もちろん、そこで特別な接客をすること自体がサービスになることもあるわけですが、それは高級なブランドやホテルなんかがやっているだけの話で、お金を支払う側もそれに見合った対価を支払っています。

売り手と買い手はあくまでも対等であり、商品価格以上のプレミアムを欲しがってはいけない、というだけのシンプルな話なんです。

従来の日本的と言われる接客そのものを否定するつもりはないのですが、やはり日本では事業者側に、過剰なサービスを提供することでクレームを避けようとするといった考えを持っているところがあるように感じます。先ほど「亡霊」という言葉を使いましたが、そこはもう少し考えを改めていってもいいのではないでしょうか。

■さらに熱狂的なファンを増やすために

――今後「熱狂的なファン」をさらに増やすために、どういうことをしていきたいですか。

これまでわれわれは、ファンを作ることに一番フォーカスしてきました。その結果、定着してくださるお客さまの割合もすごく高くなっていて、2回以上来店したことのあるお客さまが売り上げの8割を構成するという状態を毎月作れています。

ただ、これから深く刺さるファンの数をもっと増やしていこうとなったときに、新規の方に知っていただく努力はさらにしていかなければいけないと感じています。やはり、サラダに1000円、1500円を出すということに抵抗を感じる方はまだまだいらっしゃると思います。

宮野浩史社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
宮野浩史社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

食べていただければ喜んでいただけると自信はありますので、まずは一度食べていただき、そこで新しい体験をお客さまに提供していければと思います。

実際、われわれのファンの方を分析していくと、健康に気を配っている20代から40代の方々が中心になっていますが、中には1、2週間に1回のお昼のぜいたくとして、われわれのサラダを選ぶという方もいらっしゃいます。そうした特別な価値を、いかにしてサラダだけでなくブランド全体で創出していけるかが、今後の大事なポイントになってくると思っています。

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宮野 浩史(みやの・ひろし)
CRISP社長兼CEO
1981年、千葉県生まれ。15歳で渡米し、22歳で帰国した後タリーズコーヒージャパンに入社。2014年にカスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」を運営する株式会社CRISPを創業。

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(CRISP社長兼CEO 宮野 浩史 聞き手・構成=フリーライター・東川亮)

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